
【理念経営 後編】“クレド”を活用する会計事務所の代表が語る 「理念経営」のメリット、必要な会社
グロースリンク税理士法人 代表社員 鶴田幸久氏会社の統一性を担保する
――クレドを作成し、それを徹底させていくことには、会社の意図的な努力やエネルギーが必要なのだということが、よくわかりました。そういう努力を図ってでも理念経営を貫くメリットは、どこにあるのでしょうか?
鶴田 最も大きいのは、やはり会社という組織の一貫性、統一性を保つ武器になる、ということです。前編でも述べましたが、組織が大きくなってくると、だんだんトップの目が行き届かなくなってくるわけです。そのときに「こういう考え方でやっていこう」という明文化されたものがあれば、社員教育にしても、お客さまへの対応などに際しても、拠って立つ指標になりますから。
確かにクレドのようなものを作るのは大変です。でも、価値観が共有されずに提供するサービスの品質が落ちた結果、お客さまに謝りに回らなければならなくなったりしたときのことを考えると、そちらのほうがよほどエネルギーが要るのではないでしょうか。
あえて言えば、当社のような税理士事務所の場合は、仕事が属人的になりやすいので、クレドを持つ意味は特に大きいかもしれません。
――それはどういうことでしょう?
鶴田 顧問先の会社、社長に張り付く仕事ですから、同じ事務所から来ているのに担当者によって指導内容が違う、といったことが起こりやすい。みんな専門家だということもあって、管理する側からしても社員が現場でどんな対応をしているのか、把握やコントロールするのも難しい面があるわけです。

そういうときに、「プロなんだから、自由にやっていい」という事務所なのか、できるだけ高品質で均質なサービスが提供できるように組織化されているのか。私がユーザーの立場だったら、後者を選ぶと思います。
――なるほど。そのように、理念経営の意味を顧客の立場になって考えてみるというのも大切ですね。
顧客の質も向上する
――そういう経営スタイルを導入したことによる業績面での効果は、どのように評価されていますか?
鶴田 数値化はなかなか難しいのですが、1つ実感するのは、おかげさまで質のいいお客さまを獲得できている、ということです。当社は、「幸せと利益を両立するいい会社」を増やすことを使命に掲げています。「経営者や社員、顧客の幸せ」と「継続的な利益」の両方を追求しようという考え方なので、例えば「とにかく目先の利益を上げるためのアドバイスが欲しい」というようなニーズには合致しません。結果的に、成長意欲の高いお客さまに選んでいただいている、と思っています。
成長意欲の高いお客さまは、いろいろチャレンジもされるので、我々がグループとして持っている商材も使っていただける、という好循環が生まれました。当然、顧客単価も高く、当社の成長にもつながっています。
――お客さまに対しては、貴社の理念経営をどのようなかたちでアピールしているのでしょう?
鶴田 クレドはホームページなどで公開しています。また、年に1回開く経営計画発表会にお客さまに来てもらったり、あるいは当社主催のセミナーの場でも、いろいろな取り組みについてお話させていただいたりしているんですよ。
あと、理念経営の効果という点で言うと、これは結局自分自身の管理にもつながっているんだということに、やってみて気づきました。自分たちで作って、「これをやる」と宣言して人も集めているわけだから、率先垂範にならざるを得ないのです。
――理念を語るだけでなく、トップ自ら実践する必要があるのですね。
鶴田 自分がサボることは自分で決められますから(笑)、そこそこ事業が安定してきて稼げるようになったら、このへんでいいかな、となるかもしれません。まあ、人にもよるとは思いますが、私の場合はクレドがあるおかげで、常に「まだやることがある」と気持ちを新たにできます。クレドは、経営者をブレないように理念で縛る機能も持っているというわけです。
新卒採用は、失敗しても「遺産」が残る

――ところで、貴社は新卒採用に力を入れているとうかがいました。求人の際にも、クレドの説明をなさるわけですね。
鶴田 はい。実は求人面での訴求効果も、かなりあると思っているんですよ。今の学生は、この会社にどんな価値があるのかとか、仕事のやりがいは、といったことを重視するので、クレドの話をすることで、そこが伝わりやすいのです。
――新卒採用に積極的なのには、理由があるのでしょうか?
鶴田 新卒なら、仕事のやり方も、お話ししてきた理念的なものについても、ゼロから教えて身につけてもらうことができるでしょう。そういうかたちで5年経ったら、めちゃめちゃ戦力になってくれるわけです。もちろん、そこまで育てるのは大変だし、3年経たずに辞めるようなケースも少なくないのですが。
――業種に限らず、新卒を定着させるのも大変な時代です。
鶴田 中小企業の場合は、「新卒は戦力になる前に辞めてしまうから、採用しても意味がない」と思いがちなのではないでしょうか。でも、そこで踏ん張って毎年採用を続けることには、大きな意味があると思うのです。
これも当社の経験を申し上げれば、新卒採用では、そもそも税理士の仕事をよく知らない人たちに、こちらに振り向いてもらわなくてはなりません。そのために、例えば、「若いうちから会社の経営者に直接会って、アドバイスなどができる」といった魅力を訴えていくわけです。そうしたことを通じて、自分たちも自らの仕事の価値を再確認することができます。
新卒を採ろうと思ったら、それなりの待遇も必要です。我々は上場大手企業が競合になってくるので、給与だけでなく、就業規則など労働環境に関するところも、それらとひけを取らないような整備を進める必要がありました。その結果、社内のさまざまな仕組みが、大きく変わったのです。
――新卒採用というイベントを通じて、組織全体がリニューアルした。
鶴田 そういうイメージです。新卒採用に本気で取り組もうと思ったら、たぶん会社は1つ上のステージにいかなくてはなりません。逆に言えば、そういうことでもしないと、なかなか変われないのではないでしょうか。
だから、苦労して採用した人間が辞めても、「成果ゼロ」というとらえ方をするのではなく、会社にとって大きな「遺産」が残った、と考えればいいと思うのです。これもめげずに採用を続けているうちに、人の育て方のノウハウも蓄積されてくるはずです。
理念経営を考えるべきケース
――顧客にクレドの作成についてアドバイスすることは、あるのでしょうか?
鶴田 クレドの作成を直接指導することは、基本的にありません。さきほどお話ししたように、経営計画発表会などで当社のマネジメントなどについて紹介していますから、そうしたことを通じて、理念経営的なものを取り入れている会社は、いくつかあります。
――あえて言えば、どんな会社に必要なのでしょう?
鶴田 事業を自分の目の届く範囲でやっていくという社長は、リーダーシップで引っ張っていけばいいと思うのです。そうではなくて、会社を大きくして、組織として機能させていきたいと考えるならば、何度か申し上げたように、社員が指標にできるような理念や行動指針があったほうが、より成長できるのではないでしょうか。
社長のキャラクターも重要です。先頭に立って旗を振っていくのが苦手なタイプならば、自分の思うところをクレドのようなかたちで明文化して、全体をまとめるツールとして機能させることを考えるのもいいでしょう。
――わかりました。最後に貴社の今後の展望を聞かせてください。
鶴田 数字の上では、10年後に年商100億円を達成し、東海エリアに本社がある会計事務所でナンバーワンになろう、というのが目標です。ただ売上げを伸ばせばいい、というのではありません。税理士業界も受験生が減り、このままでは尻すぼみになってしまう。地域で影響力のある存在になって、もっと魅力ある業界にするための取り組みを先頭に立って推進していきたい、と考えているんですよ。
――目標達成に期待しています。本日はありがとうございました。
「幸せと利益を両立するいい会社を増やす」を使命に掲げ、名古屋・大阪・東京エリアを中心に、経営者・後継者を支える税理士法人。会計だけではなく、相続・事業承継、上場支援、M&A支援、人事労務など、経営者のあらゆる業務をグループ全体で支援する。
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