【BPO 前編】顕在化する「経理担当者の業務承継問題」 経理BPOという選択について考える

テントゥーワン税理士法人 代表社員 前田直樹氏
[取材/文責]マネーイズム編集部

ベテランの経理担当者が突然退職し、記帳や給与計算に困ってしまった――。中小企業では、こうしたケースが徐々に目立つようになっている。社長同様、経理担当者も高齢化が進んでいるのが、1つの原因だ。しかし、経理は一時の空白も許されない業務である。後継者の採用もハードルが高いなか、外部に委託する経理BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)への注目が高まっている。今回は、経理をはじめとする業務代行支援サービスに力を入れるテントゥーワン税理士法人の前田直樹代表社員(税理士、中小企業診断士)に、その必要性やメリットなどについて話をうかがった。
記事では、「前編」で経理BPOの市場動向や、提供されるサービスについて、「後編」ではそのメリット・デメリット、活用を検討すべきケースなどを中心にまとめた。

アウトソーシングのニーズの背景にあるもの

――事務所の概要をお聞かせください。

前田(敬称略) 税理士法人を母体に、現在は中小企業診断士、社会保険労務士、司法書士、不動産鑑定士、行政書士で構成するテントゥーワングループとして事業展開しています。お客さまのニーズに沿って、そうしたリソースを多角的かつ複層的にサポートできるのが、我々の強みだと思っています。

メンバーは、グループ全体で約50名。税理士6名のほか、お話ししたような多彩な専門家が在籍しています。クライアントは法人がメインで、特定業種への偏りは特にありません。新大阪事務所(大阪市淀川区)のほか、和歌山、姫路に拠点を置いています。

――貴社は、経理代行支援サービスに力を入れているそうですね。本日は、その分野について、お話をうかがっていきたいと思います。近年、経理代行に対するニーズが高まっていると聞きます。

前田 マクロの視点から申し上げると、経理BPOの市場が拡大基調にあるのは、間違いありません。背景はいろいろあると思うのですが、無視できないのが「経理担当者の業務承継問題」だと感じています。

――業務承継、ですか。

前田 中小企業では、経営者の高齢化に伴って、事業承継をどうするかが課題になっていますよね。まったく同じ問題が、経理担当者にも起こっているのです。社長とともに経理を担ってきた人が、定年を迎える。あるいは体調や家庭の事情などの理由で、突然退職してしまう。その後をどうするのか、という問題です。

これが10年~20年前ならば、そんなに困ることはなかったでしょう。募集をかければ、比較的簡単に人を補充することもできましたから。ところが、今はそうはいきません。運よく採用できたとしても、すぐにベテランと同等の仕事をしろというのは、無理があります。

経理業務は休めない

前田 問題は、だからといって、経理は「いったん休止」というのがあり得ない業務だということです。わかりやすい話をすれば、急に経理担当者が退職届を出し、有休消化に入ってしまったりすると、とたんに困るのが給与計算です。試算表は数ヵ月遅れてもリカバリー可能かもしれませんが、こればかりは、そうはいきません。

――確かにそうですね。

前田 さらに言えば、経理は「経営管理」です。本来、経営者が適切な判断を行うために、客観的なデータや情報を提供する重要な役割を担っているわけです。その機能が停滞すれば、経営そのものにも影響が及ぶことになるでしょう。

――あえてうかがうと、そういうある種の危機について、経営者の方はどの程度認識されていらっしゃるのでしょう?

前田 経理の重要性も、「あの人もけっこう年だけれど、今辞められたら困るな」というのも、わかってはいらっしゃるのだと思います。でも、日々の仕事は忙しいし、やっかいなことは、あまり考えたくない(笑)。そんな感じで先送りされていることも、少なくないのではないでしょうか。

その結果、ある日突然、リスクが現実のものになって、慌てて対応せざるを得なくなる。当社が経理代行支援サービスを本格的にスタートさせたのは、2024年からなのですが、「とにかく給与計算だけ助けてほしい」というような相談も含めて、平均すると月に2~3件くらいは、問い合わせや相談があります。

――かなり多いですね。

前田 今現在の経理BPOというのは、創業間もないような会社の経理を代行するというよりも、ベテランの担当者が抜けた後をフォローする、というパターンがメインなんですね。今後もそういうかたちで市場が膨らんでいくのではないか、と感じています。

まずレガシーシステムを見直す

――では、実際に経理代行サービスを受注した場合、貴社はどのように仕事を進めるのでしょうか?

前田 依頼をお受けした会社に入ったときの状況からお話しすると、経理がガチガチのレガシーシステムで運用されているケースが、非常に多いんですよ。例えば、よく目的のわからない中間ファイルがExcelからExcelに手入力で転記されていたり、わざわざ紙資料の数値をExcelに手入力して、税理士に渡して記帳代行を頼んでいたり。これは本当に必要なのか、という作業がずっと繰り返されてきているのです。

そうしたことを生んでいる原因が、経理の属人化です。担当者にお任せで、無駄なことが連綿と行われていても、誰にも何も言われないわけですね。

――少なくない会社の経理が、今現在そうなっているかも。

前田 ですから、我々はまずはそうした作業の必要性を経営者などといっしょに検討し、不要なものはカットするなり、他の方法に置き換えるなりして業務整理を行います。これが一丁目一番地。その結果に基づいて業務フローを再構築したうえで、具体的な業務を引き継ぎ、試算表の作成や給与計算などに支障がないよう、担当者がいたときと同じ状態に復元していくわけです。

大まかに言えばそういう流れになるのですが、その業務フローの再構築に欠かせないのが、クラウドシステムの活用なのです。経理業務を引き継ぐといっても、マンパワー依存では、コスト的にも事務所のリソース的にも無理があります。裏を返せば、クラウドがあったから、こうした経理代行サービスが可能になっているんですよ。

――なるほど。復元といっても、同じ仕組みに戻すのではなく、フローはIT化されるわけですね。

前田 そういうことです。ですから試算表の遅れといった問題は起こらず、経営者はリアルタイムで情報にアクセスできるようになります。

――とはいえ、現実にはBPOを依頼された会社の経理の状況は、それぞれ違うと思います。切り替えはスムーズにいくのでしょうか?

前田 我々が経理BPOを実施する場合に心掛けているのは、その効果と同時に、アウトソーシング後の全体像を可視化して共有することです。変化にはどうしても不安がつきものですから、具体的にどこがどう変わって、会社や従業員にどんなメリットがあるのかを丁寧に説明して、理解を得られるように努めます。

ただ、中には、今のシステム面の話とは別に、引き継いだ後にいろんな後発的な問題が起こるケースもあります。

――例えばどんな問題なのですか?

前田 そもそも、辞めた経理担当者が、必要なすべての情報を伝えているとは限りません。特に自分に都合の悪いことは、隠したままにしていることもあるわけです。引き継いだ後に会計処理の誤りが発覚して、修正申告したこともありました。あるいは、貸借対照表では「ある」ことになっている現金が、金庫には「ない」とか。

――そういうことを考えると、経理のBPOは、一般のコンサル会社よりも税理士事務所に依頼したほうがいい、と感じてしまいます。

前田 理由は不明なのですが、担当者が辞めた後、経理関係のデータがすべて壊れていて、「なんとかなりませんか」という依頼を受けたこともありました。そうなると、さすがに私たちでも、「税務署に事情を話して、指示に従ってください」と言うしかありません。もちろん、レアケースではありますが。

――経理担当のチェンジには、そうしたリスクもありうるということは、理解しておいた方がいいでしょう。

 

「後編」では、経理BPOのメリットや検討に当たっての注意点などについて、さらにお話をうかがいます。

1976年生まれ、和歌山市生まれの税理士・中小企業診断士。2003年に開業、2009年にテントゥーワン税理士法人設立。新大阪に本店、和歌山市と姫路市に支店を構える。約50名で構成するグループ内には、税理士・中小企業診断士のほか、社会保険労務士、不動産鑑定士、司法書士、行政書士などの多彩な専門家が在籍、中小企業経営をシームレスにサポート。経理代行支援(経理BPO)も得意とする。
URL:https://www.1021.co.jp/

こちらもオススメ!