【福祉 後編】福祉事業に専門特化する税理士が「会計」と「税」の問題点、今後の動向について解説

全祐貴税理士事務所 代表 全祐貴氏
[取材/文責]マネーイズム編集部

誤解しがちな消費税

――社会福祉法人の複雑な会計についてお話しいただきましたが、その先に税金の問題があります。福祉事業で注意すべき税の扱いには、どのようなものがありますか?

 特に気をつけるべき点が2つあると感じています。1つは、「消費税」です。2023年10月から、インボイス制度がスタートしましたよね。それを機に、問い合わせが増えているんですよ。

――具体的に問題になるのは、どういう場面なのでしょう?

 社会福祉事業のために国から支給されるお金には、消費税はかかりません。一方、さきほど触れた「就労継続支援」などの事業所では、利用者が商品を作って販売し、売上から工賃を支払うわけですが、このときの売上は消費税の課税対象なんですね。福祉に携わっている人でも、それを知らなかったという人は、けっこう多いです。

――そういう取引は、なんとなく非課税のイメージがあります。

 個人的には、私もそこに消費税をかけなくてもいいだろうと感じるのですが、実際には他の事業同様、年に1,000万円を超える売上があれば、課税事業者なのです。その点が今まで曖昧なまま来たものの、インボイスが始まって不安になり、「大丈夫でしょうか?」と問い合わせてくる方が、多くいらっしゃるわけです。

――実際、「大丈夫」ではなかった例も?

 例えば、全体の事業規模が数億円の法人にもかかわらず、認識不足から今のような収入に対する消費税を、ずっと納めずにいた事例もありました。税務署の指摘を受ける前に期限後申告しましたが。

ちなみに、無申告の時効は通常5年です。申告していなかった5年分の税額+ペナルティの加算税や延滞税となると、支払う金額はかなりのものになります。消費税の場合、課税対象になるということは、年間1,000万円超の売上があったということですから、なおさら高額になりやすいんですよ。

社会福祉法人の場合、福祉に関連する事業で収益を得ても、法人税は課税されません。しかし、このように消費税は課税されるケースがあります。そのことは、しっかり認識しておくべきでしょう。

収益事業の盲点、「携帯基地局」

 注意すべき税の2つ目が、収益事業に課税される「法人税」です。今述べたように、福祉事業は非課税なのですが、そうではない事業を行って利益を得たら、社会福祉法人のような公益法人であっても、法人税を納めなくてはなりません。問題は、「何が収益事業に当たるのか」ということで、この点もよく理解されていないことが多いのです。

――社会福祉法人の収益事業には、実際にはどのようなものが該当するのでしょうか?

 保有している土地の一部を貸す、というパターンが大半ではないでしょうか。典型的なのは月極駐車場ですね。

近年、特に地方で多いのが、携帯の基地局です。アンテナを立てるスペースを貸すわけですが、業者から賃貸料を受け取ったら、立派な収益事業です。そう認識していない法人が、やはり少なくないのです。

アンテナは目立ちますから(笑)、私が無申告の事実を知ったら、「税務署はしっかり見ていますよ」と申し上げて、すぐに対応していただくようにします。ただ、申告が必要だとは思わずに、そのままにされているケースが、かなりあるのではないでしょうか。

――社会福祉法人に対しても、税務調査は普通に行われるのですか?

 はい。調査はランダムに行われていますから、いつ来てもおかしくないと思ってください。

社会福祉法人の場合には、一般の企業に比べて、職員さんなどに対する所得税の源泉徴収が適切に行われているか、という切り口で調査に入ることが多い印象です。

――源泉徴収に問題を抱えているケースが多いのでしょうか?

 必ずしもそういうことではなくて、適切に処理されている事業所にも、確認の意味で調査は入ります。ただし、そうやって税務署が調査に来て、帳簿などを調べているうちに、「あれ、この収入は消費税が発生しますよ」とか、「これは収益事業じゃないですか」とか、言葉は悪いのですが“芋づる式”に問題があぶりだされてくることが、けっこうあるわけです。

――なるほど。「源泉」はある意味入口で、そこから深掘りされていくこともあるわけですね。

 そうです。源泉徴収そのものに関していえば、時々指摘されるのが、外部講師の報酬です。事業所では、利用者のためにレクレーションなどをやります。その際、専門のインストラクターなどを呼んで指導してもらうことがあるわけですが、その報酬からは源泉徴収が必要です。し忘れていたら、税務署は見逃してくれません。

さきほど修正申告の話をしましたが、それを自主的にするのではなく、税務調査で申告漏れが見つかった場合には、さらにペナルティが重くなってしまいます。

――「社会福祉事業なのだから」というような感覚を持っていると……。

 そういうこととは関係なく税務調査は行われますし、そこで手加減されたりすることも一切ありません。

確かに本業は大変だし、会計も税務も適切な処理を行うのには、難しいことも多いでしょう。とはいえ、やはり公益事業であることを忘れるわけにはいきません。前段で述べた会計についても、どこに出してもおかしくない貸借対照表や損益計算書を作るのは、「福祉のために、こういうふうにお金を使っています」という証でもあるんですね。そういう自覚は常に持ってほしいと思います。

融資を受けやすくなったNPO法人

――ここまで社会福祉法人の会計、税務の問題についてうかがってきましたが、NPO法人として、こうした活動を行うケースも多いと思います。

 新規に設立されるのは、圧倒的にNPO法人です。理由は単純で、設立しやすいから。社会福祉法人の設立には、行政の「認可」が必要です。そもそも要件が厳格なうえに、最終的な裁量権は行政にあるんですね。これに対して、NPO法人は、原則として基準に則った書類を提出すれば、設立が「認証」されるのです。

――設立のしやすさのほかに、NPO法人をつくるメリットには、どんなものがありますか?

 社会福祉に関わるNPO法人も公益法人ですから、助成金を受けやすくなります。実際に活動を行ううえで、これは非常に大きなメリットだと感じます。

あと、これは「デメリットが解消された」というのが正確だと思うのですが、最近になって、NPO法人に対する民間金融機関の融資のハードルが目に見えて下がりました。以前は対象外だった信用保証協会(※)の保証付融資が、NPO法人に対しても認められるようになったのが大きいと思います。

※信用保証協会 中小企業・小規模事業者が、金融機関から事業資金を調達する際に、保証人となって融資を受けやすくなるようサポートする公的機関。

――融資の環境が改善されているというのは、大きな意味を持ちますね。

 以前は、信用金庫などに融資を申し込んでも、応えてもらうのは至難の業でした。助成金はありがたいのですが、やはり融資を受けられないと、事業を維持させていくのは難しいわけで、それが法人設立のネックにもなっていたんですよ。その問題がかなり解消されたことも、NPO法人の増加を後押ししているのではないでしょうか。

必要になる「行政とのパイプ」

――ただし、「第一種社会福祉事業」などは社会福祉法人でないとできません。NPO法人からそこを目指す人も多いのですか?

 はい。逆にいえば、いきなり社会福祉法人を設立しようと思っても、現状では認可はなかなか下りません。同じ公益団体であるNPO法人で実績を積んでから設立にチャレンジする、というのが“正攻法”といえます。

――社会福祉法人設立が認められるかどうかのポイントは、どのへんにあるのでしょう?

 わかりやすい表現をすれば、どれだけ行政とのパイプが作れるかが決め手になるでしょう。「パイプ」といっても変な意味ではなく、いかに彼らの心証を良くするか、信頼を得られるか、ということです。会計や税務をルールに則って処理しようとしているか、といった点が重要な評価基準になるのは、いうまでもないでしょう。

――わかりました。本日は、福祉事業に関する会計や税の最近の動向も含め、参考になるお話をありがとうございました。最後に貴事務所の今後の目標についてお聞かせください。

 そうですね。個人的には、目の前のお客さまにしっかり向き合って、その期待に全力で応えていきたい、という気持ちです。それが、結果的に将来につながればいいかな、と。

最初にお話ししたように、この分野に特化した事務所は少ないので、“駆け込み寺”的なところもあるのだと思います。そういう意味でも、なくてはならない存在でいられるように、これからも頑張っていきたいですね。

――ますますのご活躍を期待しています。

知的障がいのあるきょうだいと共に育った経験を持ち、税理士の立場から障がい福祉業界に深く寄り添う神戸の税理士事務所。社会福祉法人、NPO法人、障がい福祉事業所を中心に、全国のお客様の専門的かつ細やかなニーズに応える。
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