
【相続 後編】生前の「譲渡所得」に要注意 相続税の税務調査で「狙われやすい」ポイントとは
長谷川清太税理士事務所 所長 長谷川清太氏預金のデータも把握されている
長谷川 被相続人の所得は税務署に捕捉されている、という話を前編でしましたが、同時に彼らは、必要に応じて被相続人のみならず、相続人などの預金口座のデータにアクセスできます。税務署には、関係者の口座を金融機関のデータベースに残っている限り、過去にも遡って調べる権限があるんですよ。
――預金に関しても、当局に“丸裸”にされているわけですね。
長谷川 税務調査のときに通帳を隠したりしても、意味はありません。問題は、そういう意図がなかったとしても、相続人が被相続人の預金口座のありかを知るのは、かなり大変なことが多いことです。親が生前にリストを作成してでもしない限り、どこの銀行や郵便局に口座を持っていたのかなんて、子どもはほとんど知らないでしょう。
例えば不動産だったら、定期的に固定資産税のお知らせが届くので、遠隔地に土地を持っていたりしても気づくことができます。しかし、預貯金については、そうはいきません。相続の際に、意外に漏れが生じやすい財産なんですよ。
子どもどころか、以前関わった税務調査では、残された奥さんが旦那さんの口座を知らなかった、という例がいくつかありました。
――そうなんですか。
長谷川 戦前生まれのような方の場合、家のお金をすべて「家長」である旦那さんが管理している例が、けっこうあるのです。奥さんは、旦那さんが死ぬまで生活費をもらっていた。それでも、故人の通帳がすべて見つかれば、問題なしなのですが、家族の知らないところに仕舞われていたりすることもあるわけです。
そのように、相続人の気づかない預貯金が存在したために、すべてを把握している税務署のデータと申告内容にやはり矛盾が生じて、税務調査、追徴課税になるケースは少なくないんですよ。
――申告期限が相続開始から10ヵ月と限られていますから、被相続人が多くの預貯金を残している場合には、大変ですね。
長谷川 正確に知るためには、被相続人の住んでいた近辺の金融機関の支店などに、足を運ぶ必要があります。相続人が高齢だったり、平日に仕事を持っていたりすれば、かなりハードルの高い作業になってしまいます。私たちは、「可能な限り調べてください」というしかないのが、もどかしいところではあるのですが。
――その結果、加算税などのペナルティが課せられるというのは、ちょっと理不尽な感じもします。
調査で「得」することもある
長谷川 ただ、あえていえば、税務調査は悪いことばかりではありません。私が経験した中には、結果的に相続人が喜んだ調査がありました。
――どのような事例でしょうか?
長谷川 お話ししたように、相続人が被相続人の預金口座を洗い出すのには、限界もあります。この相続もそうで、問題ないだろうと思ってした申告に、漏れがあったんですね。税務調査で、被相続人が数十年前に暮らしていた住居の近隣にあった銀行の支店に、500万円を超える定期預金の口座がある、と指摘されたのです。

相続人にしてみれば、「そんなところに」という話です。当然、修正申告を行い、追徴課税になりました。しかし、それでも相続人の手元には、お金が残りました。
――税務署が、相続人の気づかなかった預金口座を見つけてくれたわけですね(笑)。
長谷川 そういうことです(笑)。形のうえでは、税務署はしっかり追徴が取れた、相続人は知らなかった遺産を手にすることができた、というWin-Winの調査になりました。
もちろん、初めから見つけられていれば、それに越したことはないのですけど、最終的には得したわけです。遺産を隠す意図を持っていたり、税理士が申告の内容をミスしていたりしたら論外として、きちんと申告したのであれば、税務調査でしっかり調べてもらうというのは、必ずしもデメリットばかりではないのです。
――そういう認識を持っておくのも、大事だと感じます。
「趣味の道具」も「家財」も評価する
――他に印象に残る調査の事例はありますか?
長谷川 相続税の課税対象になる遺産には、現預金や不動産などの他にも、いろいろあります。例えば、いわゆる「遺品」といわれるものも、財産的な価値が認められるものならば、きちんと申告しなくてはなりません。
生前、書道をたしなんでいた方の相続で、お使いになっていた筆の評価をどうしようか、という点が問題になったことがありました。趣味とはいえ、自宅に専用の「書画部屋」があって、そこに太いのから細いのから、ずらっと並んでいたわけです。
遺族の方にうかがうと、1本40~50万円もする高価なもので、新品ならば合わせて数百万円になりました。でも、「筆の中古品」がどう評価されるのかなどは皆目見当がつきませんから、購入した店で確かめてみると、「1回使ったものには、価値がない」と。そこで、相続財産としては「ゼロ円」評価で申告を行いました。
ただ、このケースでは、相続人の方のご意向もあってそうしましたが、そのようにもともと高値がついていた趣味の品とか、家具やテレビなどの家財道具などには、いくばくかの評価額を乗せて申告する、というのが私の基本的なスタンスです。
――それはなぜですか?
長谷川 そうしたものの評価が難しいのは、税務署も同じです。「ゼロ円評価」になっていたら、「より詳しく調べてみよう」ということにもなるでしょう。
税理士によって考え方は様々だと思いますが、私は申告に関しては、多少保守的に対応するのがいいのではないかと考えているんですよ。相続財産にあった山林の土地だけでなく、立木まで評価して、税務署に「ここまでやる申告書は、あまり見かけません」といわれたこともあります。
――なるほど。それだと税務署の見方も違ってくるかもしれません。
長谷川 もちろん、そうしたものの評価額は「それなり」です。申告したからといって、税金が跳ね上がるようなことはありませんよ。
特に注意が必要な不動産の相続
――税務調査についてお話をうかがってきましたが、先生の経験上、相続で注意すべき点を挙げるとすると、どんなことがありますか?
長谷川 前編でも触れましたけど、不動産を持っていた方が亡くなった場合には、その扱いに万全を期す必要があります。同じ土地でも、地形が複雑だったりして利用に困難が伴えば、それだけ評価額を下げることができます。ただし、それには不動産評価に対する知識、ノウハウが必要なのです。
また、不動産の難しさは、評価額だけではありません。中には、遺産の大半が不動産で、現金などはわずかしかない、といった相続もあります。
――その場合でも、不動産を分けられればいいのですが、そうはいかないケースも多いでしょう。
長谷川 そうした相続で避けなければならないのが、不動産の共有です。分割が難しいのならば、共有名義にして相続すればいいというのは、一見公平でその場では争いも生まないわけですが、後々問題になる可能性が否定できません。
不動産の売却や有効活用には、他の名義人の同意が必要になります。受け継いだ人が亡くなって相続されれば、共有関係はどんどん複雑になっていく、という問題もあります。
ですから、大変でも不動産は相続人の一人が相続し、その代わりに他の相続人に対して現金を支払う、といった方法を考える必要があるわけです。ちなみに、このやり方を代償分割といいます。

――深く考えないで相続を済ませると、将来に禍根を残すことになりかねないわけですね。
長谷川 代償分割では、代償金を必ずしも一括で支払う必要はありません。アパートなどの収益物件ならば、そこから得られる利益も元手に、10年、20年かけて払っていくこともできるでしょう。
ただし、そのためには、当然他の相続人との話し合いが必要になります。いざ相続になってからそれを始めても、なかなかうまくいかないかもしれません。
不動産の分割に限らず、スムーズな相続のためには、生前から対策を講じることが大事になります。問題が生じそうなケースでは、相続に詳しい税理士などの専門家の力も借りながら、早めに準備を進めるべきだと思います。
――本日は、参考になるお話をありがとうございました。最後に、貴事務所の今後の展望、目標について聞かせてください。
長谷川 税理士事務所には、記帳代行や税務申告という仕事が、当然あります。我々は、それを終わったものの会計処理という意味で、「過去会計」と呼んでいます。一方、会社の利益体質をどのように構築していくのかを、限界利益率(※)といった指標を基に表したのが「未来会計」で、そちらにより力点を置いて、お客さまの支援を行っているんですよ。
※限界利益率(%) 「限界利益(売上高-変動費)/売上高×100」で求める。企業の収益性を測る指標となる。
日本の経済を支えているのは、中小企業です。ここがもっと元気になれば、雇用も生まれ、投資もさらに活発化するはず。今後とも、そのためのサポートに全力を尽くしたいと考えています。
――ますますのご発展を期待しています。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
「お客様の満足が私達の満足」をモットーに、中小企業を支える静岡の税理士事務所。相続税対策、事業承継対策、新規事業支援、情報システム化支援を得意とし、経営者のお悩みに幅広く対応。
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