
【経営計画 後編】やりたいことを言語化し、数字をつくる 社長がワクワクする経営計画書とは
中小企業経営グループ(株式会社 中小企業経営、税理士法人 中小企業経営) グループCEO 佐奈徹也氏(左)、代表税理士 眞船雄史氏(右)「経営計画通りにやったら成長できた」
――前編では経営計画書の意義などについてお話しいただきましたが、貴事務所のサポートで計画書を作成し、業績アップに結びつけた事例を紹介いただけますか。
佐奈 わかりました。建設業の会社なのですが、社長は最初、「うちはみんな溶接をやっているような会社だし、経営計画書なんていらないよ」とおっしゃっていたのです。
でもご多分に漏れず人手不足に悩んでいたので、「社員を採用するときに、ちゃんと会社のことを説明できるものが必要ではないですか」といった話もしながら作成してもらいました。その結果、当時十数人だった社員数が5年ほどで50~60人規模になりました。
――それはすごいですね。
佐奈 社長の言葉を借りると、「経営計画書に書いたことを毎年やり続けたことが、成長につながった」わけです。経営計画は作ったら終わりではなく、毎年見直したり付け加えたりして更新していきますから、結構大変です。でも、「真剣に幹部と話し合いながら自分自身で作り、社員にも発表したものなので、絶対やらなければならないという自覚が生まれた」とおっしゃっていました。
――自分で考えた計画だというところが、重要なんですね。どのような中身だったのか、差支えのない範囲で教えていただけますか。
佐奈 最初に「社員ファースト」という方針を掲げました。売上などの前に、社員を第一に考えるということです。
そうすると、社長の発想が変わります。例えば、それまでは急に入った下請けの案件を喜んでやっていました。ある程度言い値で交渉できますから利益は取れる。その半面、急ぎの仕事をこなす社員は、残業が増えたりして大変です。それでは「社員ファースト」になりませんから、仕事の仕方は見直しました。
会社の業態自体も転換を図りました。従来メインだった附帯から本体工事の分野に積極的に入っていくようにしたのです。その結果、現場に入る時期の調整など人員のオペレーションがしやすくなり、社員の負担も減りました。
――業態の転換というのは、簡単ではないように感じます。
佐奈 かなり勇気の要ることだったと思います。でも、本当に社員の働きやすい環境を実現するためには、必要でした。経営計画書を作り、自分の掲げた方針を実現するために必要な施策が整理されたことが、行動につながったわけです。
同様に、設備投資や人の採用などについても「やるべきこと」を明確にして取り組み、会社が大きくなっただけではなくて、利益率などの数字も改善しました。今では決算賞与も含めて、年3回賞与を支給できるようになっています。

――人手不足がとりわけ深刻な業界にありながら、社員数がそれだけ増えているというのは、「いい会社」になった証だと思います。
眞船 人の採用に関しては、ただ人数を揃えればいいという話ではないはずです。この点でも、「自社に必要なのはどんな人材か」ということをきちんと定義する必要があるでしょう。そうすることで、より効果的な採用戦略を考えることができるはず。
「手の届く目標」を設定する
――経営計画書を1から作る場合、どのような指導をされるのでしょうか?
佐奈 具体的な計画はお客さまによってさまざまですが、最初に「御社の存在意義、経営理念をもう一度考えてみましょう」という話をします。経営の世界でいわれるMVV(ミッション=果たすべき使命、ビジョン=将来像、バリュー=共有する価値観・行動基準)ですね。2代目、3代目だったら、「創業の理念は何ですか?」「先代からはどんな話を聞いていますか?」とうかがったりもします。
多くの場合、理念はあっても忘れ去られていたり、曖昧だったり。ですからきちんと言葉にして、明確化するようにします。経営の土台になるものがはっきりしなければ、「いい会社」にはなれませんから。
指導と言われましたけど、実際に我々がやるのはヒアリングに近いですね。今のようないろんな問いかけをしながら、何か気づきがあればメモに残してもらう。最初は「箇条書きのメモ」でいいのです。
――一般的な経営計画書のイメージとは違いますね。
佐奈 なにか身構えるようなものではなくて、「そういえば社員同士の挨拶ができていないから、そこを改善してコミュニケーションの活発化を図ろう」から始まっても、ぜんぜんOKなんですよ。
対話を重ねるうちに課題が明らかになって、例えばさきほどの人材採用についての定義を定め方針が決まったら、「採用に関する方針」として加えられていく。そうやって年々厚くなっていくのが、我々の経営計画書です。最初から完璧のものを作りましょうとは絶対に言いません(笑)。
――数字の計画は、どのように作っていくのでしょうか?
佐奈 これもあまり「過大」なものにはせずに、当面手が届きそうな目標を考えるのが大切です。例えば、中小企業には借入金に悩んでいるところが多いでしょう。早く無借金状態にしたいのだけれど、まったく展望がみえない。そんなときに、「焦らず10年で完済を目指しませんか」という基準を設けてあげると、意外に「それならできるかも」ということになるのです。
眞船 例えば何かに投資したいと考えたときに、利益と費用の状況を踏まえて逆算すると、これぐらいの売上が必要だというのがわかります。その達成は可能なのか、実現するためにどうしたらいいのか、という検討を行っていくと、「それならできる」がより現実味を帯びてくるんですね。
佐奈 ですから、数値目標は1年ごとに達成可能なものを作成し、中期計画も3年くらいに重きを置きます。ただ会社の状況などによっては、あえて5年後くらいを見据えた、抜本的な目標を考えてもらうこともあります。眞船はよく、「枠を外して考えましょう」という言い方をするのですが。

眞船 そうですね。「経営計画はいいけれど、会社や社員の状況を考えると、なかなか先がみえない」といったケースも少なくありません。そういうときに、「いろんな制約がなかったとしたら、どんな会社にしたいのですか?」という問いかけをするんですよ。「いったん枠を外して、5年後のあるべき姿を描いてみましょう」と。
そういう話をしていくと、「目指す姿を実現するために、制約をどう取り除いていくのか」という方向に、社長の発想が変わってきます。目先のことでいっぱいだった頭の中が整理されて、「やるべきこと」が見えてくるんですね。
佐奈 そうすると、がぜんやる気が出る。目の前の社長がワクワクしているのが伝わってくるんですよ。こちらも楽しくなりますね。
社長の思いを全社に浸透させる
佐奈 さきほどの建設業のお客さまの事例では、社長が自分が掲げた目標なのだから、と必死になったことが成功の要因でした。会社組織としては、もう1つ大きなポイントがあって、その思いを社員まで共有できたことが会社の成長につながりました。
――よくあるのは、計画を作っても社員にとっては「他人事」で、なかなか前者に浸透しないというパターンです。でもこの会社は違ったのですね。
佐奈 ここも一朝一夕でそれができたわけではないのです。「当社の強みはここだ」というポイントを最初は社長が理解し、幹部に語り、役員の共通認識にして、今は各現場の責任者も語れるようになっています。時間をかけて取り組んだ結果、若手社員も含めて会社の考え方を理解する組織になったわけです。
佐奈 ここも一朝一夕でそれができたわけではないのです。「当社の強みはここだ」というポイントを最初は社長が理解し、幹部に語り、役員の共通認識にして、今は班長も語れるようになっている。時間をかけて取り組んだ結果、若手社員も含めて会社の考え方を理解する組織になったわけです。
会社の理念や方針を浸透させていく武器が、それらを言語化した経営計画書でした。みんなが同じことを語れるのは、経営計画書があるからなのです。
眞船 経営計画書は社長と1対1で作っていくのが基本ですが、状況によっては、初めから後継者や幹部などを交えたチームで検討していくこともあるんですよ。作成にかかわった人たちにとっては「自分事」ですから、よりスムーズな浸透が期待できます。
――経営計画書の中身も作成の仕方も、その会社の状況に応じた“オーダーメード”なのですね。本日は、中小企業経営の参考になるお話をありがとうございました。最後に、貴事務所の今後の展望をお聞かせください。
佐奈 我々自身は、「『孫世代』が生きやすい日本社会の実現」というビジョンを掲げていて、そのためには、日本経済を支える中小企業をますます元気にする必要があると考えています。この大目標に向かって、必要に応じて事務所の規模や機能の拡充を図っていきたいですね。
眞船 当グループには役員が5人いるのですが、今佐奈が申し上げたような理念を共有しつつ、それぞれが専門性も生かしてやりたいことを極めていくような会社形態を模索したいというのが私の思いです。外に対しても、思いを同じくする会社や組織と、例えば「地域ホールディングス」のような形で「共創」することができたら素晴らしいのではないでしょうか。そんなことも含めて、みんなで中小企業をサポートするムーブメントを起こしていきたいと思っています。
――これからの取り組みに、大いに期待しています。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
『「孫世代」が生きやすい日本社会の実現』をビジョンに掲げ、事業・人材・地域の持続的発展を見据えた次世代型支援に取り組む専門家集団。これまでに5,000社以上の中小企業の経営を支援、経営計画の作成実績1000件以上、事業承継の実績は500件以上と豊富な経験を持ち、中小企業の成長と安定をサポートする。
URL:https://www.sm-biz.co.jp/

