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相続手続きに広く利用できる「法定相続情報証明制度」をご存知ですか?
2021年10月14日
増え続ける「所有者不明土地」対策を主眼とする民法、不動産登記法の改正法が、2021年4月21日に国会で成立し、相続登記などが義務づけられることになりました。ところで、従来、相続が発生すると、相続登記以外にも銀行口座解約などを行うために、その都度、被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本などを提出する必要がありました。これらの手続きを簡略化できる「法定相続情報証明制度」をご存知でしょうか? 制度の概要や利用の方法などについて、詳しく解説します。
相続で発生する煩雑な手続き
相続登記とは?
相続で不動産を譲り受けた場合には、法務局で不動産の名義変更の手続きを行う必要があります。それが「相続登記」です。現行法では、たとえその手続きを行わなかったとしても、罰則などは設けられていませんが、法改正により、相続人が相続、遺贈(遺言による財産の譲与)による不動産の取得を知ってから3年以内の登記申請が義務化され、違反者には10万円以下の過料が課せられることになりました。2024年度にもスタートする運びになっています。
手続きには戸籍謄本などが要る
とはいえ、普通の不動産取引と違い、相続登記には、被相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本・除籍謄本や住民票を集める、などの作業が必要になります。加えて、被相続人の銀行口座を解約し、現金を引き出すなどの際にも、同じく「戸籍の束」の提出が求められます。
このため相続人は、あらかじめ提出先分の戸籍書類を用意したり、あるいは1ヵ所からの返却を待って次の手続きに移ったり、といった手間や時間のかかる作業を覚悟しなくてはならず、特に被相続人が多数の銀行口座を持っていた場合には、大きな負担になっていました。
法定相続情報証明制度の概要
相続登記にも口座解約にも使える「証明書」
そうした負担を少しでも軽減しようと2017年5月29日にスタートしたのが、「法定相続情報証明制度」です。
制度開始以降、集めた被相続人の戸籍などを持って登記所(法務局)に行くと、「法定相続情報一覧図」という「証明書」を発行してもらえるようになりました。ポイントは、それが多くの金融機関の口座規約手続きなどにも使えること。そのため、手続のたびに「戸籍の束」を用意する必要がなくなったのです。
申請の方法は?
どのように申請するのか、手続について具体的に説明します。
(1)必要書類を収集する手続きに当たって必ず用意する必要のある書類は、以下の通りです。
- ①被相続人の戸除籍謄本 出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本及び除籍謄本が必要になります。
- ②被相続人の住民票の除票
- ③相続人の戸籍謄抄本 相続人全員の現在の戸籍謄本又は抄本を用意します。被相続人が死亡した日以後の証明日のものが必要です。
- ④確認書類の提出 申出人(相続人の代表となって手続を進める人)の氏名・住所を確認することができる公的書類、具体的には「運転免許証のコピー」「マイナンバーカードの表面のコピー」「住民票記載事項証明書(住民票の写しなど)」のうちのいずれか1つを用意します。
そのほか、以下の書類が必要になる場合があります。
- ⑤〈法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合〉は、各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)が必要です。なお、法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載するかどうかは、相続人の任意によるものです。
- ⑥〈委任による代理人が申出の手続をする場合〉は、以下が必要です。
- 委任状
- 親族が代理する場合は、申出人と代理人が親族関係にあることが分かる戸籍謄本(①または③の書類で親族関係が分かる場合は、必要ありません)
- 資格者代理人が代理する場合は、資格者代理人団体所定の身分証明書の写しなど
- ⑦〈②の書類を取得することができない場合〉は、被相続人の戸籍の附票を用意します。
被相続人と、戸籍の記載から判明する法定相続人を一覧にした図を作成します(A4サイズの白い紙に記載)。
(3)申出書に記入し、登記所で申請する申出書に必要事項を記入し、(1)で用意した書類、(2)で作成した法定相続情報一覧図と合わせて登記所で申請を行います。
申請は、以下の地を管轄する登記所のいずれかですることができます。
- 被相続人の本籍地
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
登記官による確認が済むと、「認証文付き法定相続情報一覧図」の写しが交付されます。説明したように、これは被相続人の銀行口座の解約手続きなどにも利用することができます。なお、提出した戸除籍謄本などは、返却されます。
申出や一覧図の写し交付は、郵送でもできます。一覧図の写しの郵送を希望する場合は、返信用の封筒及び郵便切手を同封するようにしてください。また、一覧図の写しは、相続手続に必要な通数を交付してもらうことができます。
法定相続情報証明制度のメリット・デメリット
この制度は、確実な相続登記を促す目的でできたものですから、利用する側には、説明した手続きの簡素化の他にも、「使いやすさ」が意識されています。他方、デメリットもないわけではありません。
メリット
(1)手数料がかからない法定相続情報一覧図の交付には手数料がかかりません。戸除籍謄本類の発行に、最高で1通750円かかるのに比べると、大きな負担軽減になります。
(2)5年間は何度でも再交付してもらえる申請されたデータは5年間保管され、この間は何度でも再交付してもらうことができます。
(3)相続税の申告にも使える相続税の申告をする場合にも戸籍謄本などの添付が必要ですが、この法定相続情報一覧図でもOKになりました。
(4)書類を登記官に確認してもらえる申請で提出した戸籍などは、証明書の交付前に、登記官が不足や誤りがないことを確認します。銀行の窓口で書類の不備を指摘され手続をやり直す、といった問題がなくなるのは、大きなメリットと言えるでしょう。
(5)専門家に代理を頼むことができる戸籍の収集や一覧図の作成も含め、申請手続は、資格者代理人(弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士)に依頼することができます。
デメリット
(1)即日交付とはいかない地域や申請のタイミングにもよりますが、証明書の交付には、申請後およそ1~2週間の時間をみておく必要があるでしょう。
(2)戸籍の収集自体は必要である相続手続きで大変なのは、実は戸籍の収集です。特に被相続人の戸籍が複雑だったりすると、途切れなく集めるのに骨が折れることもあるのですが、この制度を使っても、その部分が簡素化されるわけではありません。手続き箇所が少ない場合には、制度を使う意味は小さくなります。
(3)オールマイティーではない金融機関によっては、従来通りの書類提出を求めるところもあるようです。事前にこの制度が利用できるのかどうかを確かめてから、申請を行うのが合理的です。
まとめ
相続登記だけでなく、被相続人の銀行口座の解約などにも利用できる「法定相続情報証明制度」が始まっています。説明したように、多くのメリットがありますが、戸籍の収集や「一覧図」の作成にミスがあれば、使うことができません。相続税の申告なども含めて、税理士などの専門家の活用も検討してみてはいかがでしょうか。