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相続放棄ができず借金を背負う!「単純承認」とみなされるリスクとは?
2021年12月22日
相続になったら、被相続人(亡くなった人)の残した遺言書や法定相続分に従って、相続人が遺産を分ける――。そういう基礎知識は、どなたもお持ちでしょう。しかし、この「遺産の受け取り方」にはいくつかの方法があり、間違えると意に反して大きな荷物を背負い込む可能性があるのです。特に気をつけるべき「単純承認とみなされる」リスクについて、具体的なケースも挙げながら解説します。
相続には3種類のやり方がある
相続には、「単純承認」「限定承認」そして「相続放棄」の3つの方法があります。原則として相続の開始(被相続人の死亡)を知った時から3ヵ月以内にどれにするのかを選択し、「限定承認」と「相続放棄」の場合には、決められた手続きを行う必要があります(この3ヵ月を相続における「熟慮期間」と言います)。最初に、それぞれのやり方について簡単にみておきましょう。
単純承認とは
相続は「財産を分けるもの」というイメージですが、被相続人に借金などの「マイナスの財産」があった場合には、基本的にそれも引き継がなくてはなりません。このように、プラスもマイナスも、被相続人の残したすべての権利、財産を引き継ぐのが単純承認です。現実には、負の遺産が上回るケースは相対的に少ないですから、多くの相続はこの単純承認で行われています。
単純承認に手続きは不要です。熟慮期間内になんの意思表示(手続き)もしなければ、この方法を選択したとみなされるのですが、実は後述するように、そのことにより大きな問題の発生する場合があります。
限定承認とは
「限定承認」というのは、被相続人の相続財産からマイナスの財産を清算して、財産が余ればそれを引き継ぐ、ということをあらかじめ決めておく方法です。被相続人の債務の弁済は、そのプラスの財産の範囲内で行われるため、相続人に類が及ぶことはなく、余った財産を受け取れる可能性もあります。被相続人に負の遺産がどれくらいあるのかが不明な場合などを想定しています。
ただし、相続人全員が家庭裁判所に申し立てをする必要があるうえ、手続きが煩雑で時間もかかるため、利用するケースは限られています。
相続放棄とは
これに対して、プラスもマイナスもすべての財産を引き継がないのが、相続放棄です。限定承認と違い、個々の相続人が個別に申し立てることが可能なのですが、一度この手続きが完了すると、申し立てを撤回することはできません。
被相続人の残した借金が明らかに財産を上回るような場合には、その負債を背負わされることから逃れられる有効な手立てと言えるでしょう。ただし、手続きが必要なだけでなく、相続開始後に適切な行動を取らないと、単純承認とみなされる(「法定単純承認」と言います)ことがあります。そうなると、相続放棄したくてもできなくなってしまうので、注意が必要なのです。
単純承認とみなされる場合とは
では、どのような場合に単純承認とみなされる可能性があるのでしょうか?
熟慮期間の3ヵ月を経過した
さきほども説明したように、熟慮期間中に何もアクションを起こさなければ、自動的に単純承認を選択したことになります。ただし、財産調査に時間がかかる場合などには、家庭裁判所に対して熟慮期間の伸長を申し立てることができます。
相続財産を処分した
気をつけるべきことは、熟慮期間だけではありません。被相続人の財産を処分する行為(「処分行為」)があれば、その時点でやはり“アウト”。民法には、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」には、「単純承認をしたとみなす」と定められています(第921条)。
しかし、どういう行為が「相続財産の処分」に該当するのかは、法律に明示されているわけではなく、判断が難しい場合もあります。具体的にみていきましょう。
これをしたら、単純承認とみなされる?
法定単純承認に該当する(相続放棄できない)可能性が高い=×
法定単純承認に該当しない可能性が高い=○
- 被相続人の預金口座からお金を下ろし、自分のために使った⇒×
- 被相続人名義の不動産を売却した⇒×
- 被相続人の債権を取り立て、自分のために使った⇒×
「被相続人がお金を貸していた相手に返済を迫る」といった被相続人の権利を代わりに行使する行為自体が、「相続財産の処分」に該当すると解釈されています。 - 相続財産に含まれる株式で、株主として議決権を行使した⇒×
- 遺産分割協議を行った⇒×
遺産分割協議は、「相続人が遺産を分けるために行う話し合い」で、それを行うと「相続の意思あり」として単純承認にみなされる可能性が高いため、注意が必要です。
これらは法定単純承認に該当する代表的な行為ですが、以下のようなケースはどうでしょう?
- 相続財産から被相続人の借金の返済を行った⇒△
原則として、これも処分行為になると考えてください。ただし、返済期限までに支払わなければ遅延損害金が発生するといった場合には、相続財産から弁済を行っても法定単純承認には当たらない、という扱いになることもあります(後述の「保存行為」)。なお、相続人が借金を代わりに返済した場合には、処分行為には当たりません(現実には考えにくいシチュエーションですが)。 - 相続財産から葬祭費用を支払った⇒○
同じ相続財産からの支出でも、常識的に華美でありすぎない葬儀の費用は、処分行為には当たらないとされています。ただし、社会的にみて不相応に高額だと判断される場合や、墓石、仏壇などの購入費用を相続財産から支出した場合には、法定単純承認に当たると判断される恐れがあるので、注意すべきでしょう。 - 相続財産から被相続人の生前の入院費用を支払った⇒×
一方、被相続人の入院費、治療費などの請求があった場合、相続財産をその支払いに充てると、処分行為と認められる可能性が高いと考えてください。 - 被相続人の遺品を「形見分け」として持ち帰った⇒△
経済的価値が(ほとんど)ないとみなされるものや、相続財産のうちわずかなもののみの場合には、法定単純承認に該当しないと判断されるでしょう。逆に言えば、経済的に価値のある、例えば高価な箪笥などをもらえば、処分行為とされる可能性があります
被相続人が生命保険をかけていた場合、保険金の扱いはどうなるのでしょうか? これは、「受取人」が誰なのかによって、結論が変わります。
- 「相続人が受取人」の生命保険金を受け取った⇒○
この保険金は、相続財産には当たりません。受取人固有の財産であり、受け取っても処分行為には該当しないのです。 - 「被相続人が受取人」の解約返戻金を受け取った⇒×
他方、こちらはあくまでも被相続人の財産なので、受け取れば処分行為とされます。
「保存行為」「短期の賃貸」とは
このほか、さきほどの民法の条文には、「保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない(処分行為には該当しない)」という但し書きがあり、具体的にはそれぞれ次のような行為を指すとされています。
- 家屋の修繕
- 腐敗しやすい物の処分
- 返済期限がきた債務の返済
相続財産の価値を現状のまま維持するために必要な行為のことです。
- 樹木の栽植・伐採を目的とする山林=10年
- 上記以外の土地=5年
- 建物=3年
- 動産=6ヵ月
「法に定める期間」は、以下の通りです。
「背信行為」があれば、相続放棄は取り消しに
例えば、被相続人の口座からお金を引き出したのに、相続放棄申述書に「財産はなし」と記載していたり、相続放棄が受理された後に引き出して使ったりすると、単純承認とみなされ、相続放棄は取り消されることになります。
「相続放棄するなら相続財産には手を付けない」「専門家に相談」が鉄則
具体例を示して説明してきましたが、実際には処分行為となるのかどうか、微妙なケースが少なくありません。保存行為にしても、明確な規定があるわけではなく、実際に多くの裁判が提起されています。思い込みによる些細な行為によって単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなってしまった、という事態は避ける必要があります。
相続放棄を考える場合には、まず相続財産には触らないこと。これが大原則です。そのうえで、早めに税理士などの専門家の判断を仰ぐべきでしょう。
まとめ
被相続人の財産を、マイナス分も含めてすべて相続するのが単純承認で、熟慮期間を過ぎたり、処分行為があったりすれば、それを選択したとみなされることになります。明らかに負債が大きいなど相続放棄を考える場合には、相続財産には手を付けず、速やかに専門家に相談するようにしましょう