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故人の“負の財産”を引き継がないで済む「相続放棄」 こんな場合は「無効」になることも!?
2022年3月31日
相続では、プラスの財産だけでなく、被相続人(亡くなった人)に借金などの“負の財産”があった場合には、それも引き継がなくてはなりません。ただし、明らかに後者が大きな場合には「相続放棄」をして、被相続人に代わって借金を返済するなどのリスクを回避することができます。ところが、ちょっとした不注意で相続放棄ができなくなったり、いったん認められたものが「無効」にされたりすることがありますので、注意が必要です。今回は、相続放棄におけるNG行為を解説します。
相続放棄とは?
プラスもマイナスも放棄する
まず認識していただきたいのは、相続放棄は「自分から相続を断るのだから、さして問題は起こらないだろう」というような簡単な行為ではない、ということです。もちろん他の相続人の了解を得たからといって認められるものでもなく、家庭裁判所に「申述」という手続きを行い、受理される必要があります。
相続放棄をすれば、被相続人の借金などを引き継がなくて済みますが、同時にプラスの財産ももらうことはできなくなります。裁判所に一度受理されると、原則として取り消すことができません。被相続人が借金まみれだと思って相続を放棄したら、後で大量の株券が見つかって実は大きなプラスになっていた…というようなことになっても、“覆水盆に返らず”なのです。
3ヵ月以内に申し立てる必要がある
相続放棄には、「相続の開始を知ったときから3ヵ月まで」という期限が定められています。この期間内に家庭裁判所に申述書を提出しなければ、相続放棄は認められなくなります。
さらに、たとえ3ヵ月以内に正規の手続きを行っても、次に説明するような行為があると、放棄が認められないことがあります。認められた後にそうした行為を行ったり、発覚したりすれば、「無効」とされることもあるのです。そうなると、意に反して被相続人の負債を背負ってしまう結果になりますから、間違いのないようにしなくてはなりません。
相続放棄するならやってはならないこと
問題になる相続財産の「処分」とは?
事前にプラスの財産を取得しておいてから相続を放棄するといった不正を防ぐため、民法には、次のような場合には「相続の意思を示したとみなす=相続放棄は認めない」という規定があります。
・相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
・相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
条文の「相続財産の処分」とは、“捨てる”という狭い意味で使われるのではなく、“その財産の所有者でなければできない幅広い行為”を指します。相続財産である被相続人の預金を引き出して使ったり、自分名義の口座に移したりというのが「アウト」なのは分かりやすいのですが、例えば被相続人が持っていた株式を使い、総会で議決権を行使するような行いも、この「処分」に該当します。
このほか、次のようなケースは「処分」に当たるとされますので、要注意です。
相続放棄が認められない・無効になるケース
・相続財産を隠して自身のものにした
・相続財産を他人に譲渡した
・被相続人が融資していた債務者から借金を取り立てた
・相続財産である賃貸物件の賃料を借主に請求した
・遺産分割協議に参加した
・被相続人の債務を相続財産から弁済した(「処分」とされなかったケースもあります)
・不動産や車など、相続財産の名義変更を行った
・被相続人の身の回りの物を「形見分け」として相続人で分け合った(「処分」とされなかったケースもあります)
・被相続人が払い過ぎていた税金の還付金を受け取った
相続放棄が認められる・無効にならないケース
一方、被相続人が死亡したことで受け取る財産や支払いが発生しても、相続放棄には影響を与えないケースもあります。例えば、相続によるものではなく「相続人が自分固有の権利として受け取る財産」を受領しても、この場合の「処分」には当たらないとされています。
相続放棄が認められる資金のやり取りには、次のようなものがあります。
・相続人が受取人に指定されている生命保険金(死亡保険金)を受け取った
・未支給の年金、遺族年金や死亡一時金を受け取った
・相続人が自分の財産を使って、被相続人の債務を弁済した
・健康保険から支給される埋葬料・葬祭費を受け取った
・被相続人の葬式費用や墓石購入費用を支払った(「適切な範囲」を超える高額な支出の場合は、「処分」とされる可能性があります)
・壊れそうな家屋の修繕、腐敗しそうな物の廃棄、ペットの面倒をみるなどの「相続財産の保存行為」を行った
「被相続人の財産には手をつけない」のが鉄則
繰り返しになりますが、「処分」は幅広い行為を含みます。それだけに“グレー”な部分も存在します。例えば、被相続人の借金を相続財産から支払うことは、上の「保存行為」に当たる(「処分」にはならない)、とされたケースもあるのです。ただし、「返済期限が来たからとりあえず弁済しよう」というような軽い気持ちで支払いを行うと、裁判所に「処分行為」と判断されてしまう危険性もあります。
相続放棄をする可能性があるならば、被相続人の残した財産には手をつけないのが無難です。何かの事情で資金を動かす必要が生じた時や、「保存行為」として認められるかどうかなどの判断に迷う場合には、手をつける前に相続に詳しい税理士などの専門家に相談するようにしてください。
相続放棄の「取り消し」は可能か?
先ほど「相続放棄は原則として取り消せない」と述べましたが、例えば他の相続人から脅されて申述書を書かされたような場合にも、相続ができなくなってしまうのでしょうか? 最後に「相続放棄の取り消し」について説明しておきたいと思います。
法律は、妥当な「取消原因」がある場合には、それを認めるとしています。具体的には、次のようなケースです。
・未成年者が法定代理人(原則として親)の同意を得ないで相続放棄した
・成年被後見人(成年後見人のいる人)本人が相続放棄した
・後見監督人(※2)がいるにもかかわらず、後見監督人の同意を得ずに後見人が相続放棄した
・被保佐人(※3)が保佐人の同意を得ないで相続放棄した
・詐欺や強迫を受けたため相続放棄した
つまり、相続人の意思・判断能力に問題がある場合や、騙されたり脅されたりして相続放棄をした場合には、その取り消しが認められることがあるということです。裏を返すと、それ以外の理由では取り消しは困難です。
※2 任意後見監督人:本人に判断能力がある「任意後見制度」において、任意後見人を監督するために選任される。
※3 被保佐人:法定後見制度において、「判断能力が著しく不十分」の類型に該当する人。
取り消しにも裁判所への申述が必要
相続放棄を取り消す場合には、やはり家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。この「取消権」には期間制限があり、「追認することができるときから6ヵ月間行使しない」か「相続放棄から10年を経過した」のいずれかの場合は消滅します。「追認することができるとき」というのは、相続放棄を取り消さなければならない状況がなくなったときなどを指します。例えば強迫を受けた場合、その状況から抜け出して正しい判断ができるようになった時点が該当するとされています。
まとめ
相続放棄は、被相続人に多額の借金があった場合などの選択肢になります。しかし、相続財産を勝手に「処分」するなどの行為があると、相続放棄が認められないこともありますので、くれぐれも注意しましょう。思わぬ負債を背負わされたりしないためにも、迷ったら相続に詳しい税理士に相談することをお勧めします。