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財産管理を家族に託す「家族信託」とは?メリットとデメリット、注意点を解説
2022年4月27日
例えば親が認知症になると、その預金口座が凍結されて、子どもが親のためにお金を下ろそうと思ってもできなくなることがあります。そうした困った事態に備える「家族信託」をご存知でしょうか?上手に使えば相続対策にもなるこの仕組みについて、メリットや注意点も含めて解説します。
家族信託の仕組み
「信託」の種類を知ろう
「投資信託」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
「信託」とは、簡単に言えば、他者に自分の財産を委ね、管理・運用・処分を任せて、そこから得た収益などを受け取る仕組みのことです。
今回説明する「家族信託」は、財産を守るために信頼できる人に財産管理を依頼する「民事信託」の代表的なもので、“信頼できる人”が家族の場合をいいます。
一方で、家族以外、例えば信託銀行などの金融機関に管理・運用などを任せるのを「商事信託」と呼びます。
商事信託は、大きな財産をプロに委ねられるという安心感がありますが、継続的なコストが発生します。逆に、家族信託(民事信託)ならば外部に支払う費用は発生しません。第3者の手が入ることなく、家族や親族だけで財産を守っていくことができるメリットがあります。
家族信託の登場人物は「委託者」「受託者」「受益者」の3者
あらためて定義すると、家族信託とは「自分が財産管理をできなくなったときなどに備えて、あらかじめ子どもなどの家族にその管理・処分などができる権利を与えておく制度」を言います。生前にも相続でも活用することができます。
家族信託の利用に当たっては、次の3者で契約を結ぶことになります。
①委託者:財産を託す人(財産を受託者に渡し、管理・処分などを任せる)
②受託者:財産を託される人(信託契約に従って、任された信託財産を管理する)
③受益者:財産の利益を得る人(信託財産の管理・処分などによる利益を受け取る)
この場合、①委託者自身が③受益者となることもできます。例えば、①と③が親、②が子どもというパターンが、実際の家族信託では多く用いられています。
家族信託は親にも子にも“使える”仕組み
認知症対策として関心が高まる
近年、この家族信託に対する関心が高まっている背景には、高齢化に伴う認知症の増加があります。
先ほど説明した「親が①委託者と③受益者、子が②受託者」という形の信託契約を結んでおけば、仮に①委託者である親が認知症になっても、②受託者の子どもは、管理を委託された財産から③受益者の親に生活費などを支出することができます。手持ちの資金は、子どもが渡す範囲に限定されるため、高額の詐欺被害に遭うようなリスクも減らせます。契約の内容に従って、子どもが家を売却したりすることもできるのです。
同じような仕組みに、成年後見制度(任意後見)があります(※)。ただ、この制度による財産管理の委任は、実際に親が認知症などになるまで行えません。金額の大きな財産の処分は家庭裁判所の許可を得る必要があるなどの制約もあります。一方で家族信託は、すぐに財産管理を委任でき、契約に従ってその運用や処分もできますから、より使い勝手がいいと言えるでしょう。
※成年後見制度:精神上の障害により、判断能力の十分でない人が不利益を被らないよう、家庭裁判所が選任する成年後見人が、財産管理や身上監護を行う制度。家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見制度」と、本人との契約により後見人が選ばれる「任意後見制度」の2種類がある。
「残された子ども」の対策にもなる
反対に、自分が亡くなった後の子どもが心配な場合もあります。例えば、知的障害のある子どもでは、いくら財産を残しても、うまく使って生活していける保障はありません。
そうしたケースでは、信頼できる親族などを受託者とし、子どもが受益者になる家族信託が組めれば、問題を解決できる可能性があるでしょう。その子どもが亡くなったら、受託者に残りの財産を渡す…といったことまで、委託者である親が生前に指定することができます。
家族信託の他のメリットは?
このほか、家族信託には次のようなメリットがあります。
柔軟な財産管理が許される
家族信託では、契約に盛り込めば、例えば受託者が信託財産を運用して利益を上げることも可能です(受益者は別にいます)。相続税対策を講じることもできます。
本人の資産の維持を目的とするさきほどの成年後見制度では、そうした行為は原則として認められません。
遺言書の代わりになる
家族信託では、契約書で「委託者が亡くなった後に財産を受け継ぐ人」を指定することができます。遺産分割に対する委託者(親)の意思を明確に示すことで、きちんとした遺言書を残すのと同様、相続人の争いを防ぐのに有効です。
また、先ほど説明したように、障害を持つ子どもやあるいは認知症の配偶者のために、相続後も信託を継続して、家族の生活や財産を守ることもできます。こうした機能は信託以外にはありません。
先々の相続まで決めることができる
遺言書では、子どもが相続した財産の処分まで「介入」することはできませんが、家族信託ならばそれも可能です。
例えば、父が委託者&受益者となり、子ども以外の親族などを受託者に指定して、先祖代々の家の管理を委託します。父の死後は子どもを受益者にする…と指定しておくと、子どもはその家に住んだり利用したりすることはできても、別に受託者がいるため売却はできません。さらに子どもの死後は、孫を受益者に指定しておく、という信託を組めば、孫の代やそれ以降まで家を残すことが可能になります。
家族信託で注意すべきこととは?
一方、家族信託という仕組みには、デメリットや注意点もあります。
受託者は誰にする?
このスキームのキーになる人物は、委託者と契約を結んで財産の管理などを任される「受託者」であると言ってもいいかもしれません。委託者から見て“信頼できる人物”であることが前提で、そういう人が見当たらなければ、そもそも成り立ちません。
また例えば、兄弟を持つ親がいるとして、親が次男を受託者に指定したらどうでしょう?親としては最善の策を講じたのかもしれませんが、長男は「自分を信用しないのか」という気持ちになるかもしれません。家族関係はこうした些細なことから争いになることが珍しくありませんので、注意が必要です。
反対に、受託者の適任であるにもかかわらず、財産の管理などを嫌って、辞退される可能性もあります。
財産管理にはリスクもある
先ほどの話に関連しますが、例えば管理を任された親の建物が破損し、他に損害が及んだ場合などには、受託者がその賠償責任を負うことになります。しかも、その期間が長期化することが少なくありません。子どもとしては、そういうリスクをしっかり認識しておくべきでしょう。
親の同意が得られるか
子どもの立場から、親が認知症などになった場合に備えて家族信託を活用したいと考えたとき、ネックになるのが「親の同意」です。
認知症対策として財産を信託すると、財産権はそのままですが、名義は親から子に移ります。そのことに複雑な感情を抱く場合もあるでしょう。また、家族信託は比較的新しい制度で仕組みも中々複雑なため、「よく分からないものはやめておく」ということになりかねません。
節税効果はあまりない
家族信託という制度自体には、節税効果はありません。例えば、信託した不動産は評価額が下がる、といったことはないのです。
先ほど「家族信託をしても相続税対策は可能」と述べましたが、あくまでも任意後見との比較であって、できることは限られます。相続税の節税を優先するのであれば、むしろこうした制度からフリーの状態で遺言書などを活用したほうが、高い効果を期待できるのではないでしょうか。
ちなみに家族信託を行った場合、委託者から受益者に財産が移転したとみなされ、受益者には贈与税が課税されることになります。ただし、親が「委託者であり受益者」である場合には、税金は発生しません。親が亡くなって信託財産(受益権)が相続された場合には、相続した子どもに相続税がかかります。
「遺留分減殺請求」を起こされる可能性がある
先述の通り、家族信託は遺言と同じような法的効力を持ちます。
ところで相続では、相続人に最低受け取れる遺産の割合(遺留分)が認められています。遺言書でこの権利を侵害する遺産分割が行われた、すなわち法で認められた割合よりももらえる遺産が少なかった場合、その相続人は他の相続人に対して「遺留分減殺請求」を起こして、足りない分を「取り戻す」ことができます。
では、家族信託契約によって、この遺留分を侵害する遺産分割が行われた場合は、どうなるのでしょうか? 実は、「分からない」というのが答えです。遺留分減殺請求が可能かどうか、現状では専門家の間で意見が分かれています。ただ、請求を起こされる可能性は大いにあります。揉め事にならないよう、家族信託においても相続人の遺留分には十分留意する必要があるでしょう。
家族信託をするなら専門家のサポートが必須
デメリットも理解したうえで活用すれば、他の制度にはないやり方で財産を引き継ぎ、活用していける家族信託ですが、契約書の作成をはじめとする作業を家族間だけで進めるのは非常に困難です。契約は数十年続くこともありますので、後々問題が起こらないようにするためにも、家族信託に詳しい弁護士や税理士などの専門家に相談すべきでしょう。
まとめ
家族信託は、その名の通り家族で財産を守っていけるメリットがありますが、仕組みは複雑で、比較的新しい制度であることもあって、サポートを頼める専門家もそう多くはないのが現状です。頼れるプロを選ぶために、例えば実績のある税理士紹介会社に依頼してみてはいかがでしょうか。