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相続人がいない「おひとりさま」の遺産はどうなる?生前にできることは?
2022年5月16日
少子化や未婚率の上昇などに伴い、家族のいない「おひとりさま」が増えています。そういう方が相続を迎えると、相続人がいない状態に置かれることになります(「相続人不存在」と言います)。このような場合、遺産はどうなるのでしょうか? 渡したい相手がいる場合に、確実にそれを実行できる方法も併せて解説します。
「相続人不存在」とは?
正確には、相続人不存在は、次のような場合に発生します。
①相続人の資格を持つ親族がいない
民法には、次のような「法定相続人」が定められています。
配偶者は常に相続人+
●第1順位:子どももしくは孫などの直系卑属
●第2順位:両親もしくは祖父母などの直系尊属
●第3順位:兄弟姉妹もしくは甥姪
相続の権利は、第1順位がいない場合には第2順位、それもいなければ第3順位、と移っていきます。しかし、未婚で子どもも兄弟姉妹もいないなど、これに該当する人が元々いない、ないし先に亡くなっていなくなった場合には、「相続人不存在」になります。
ちなみに、子どもが先に亡くなっても、孫がいれば相続人です。同じように、兄弟姉妹の場合は、甥や姪が相続人になります。これを「代襲相続」といい、相続人不存在にはなりません。
②相続人の全てが「相続放棄」をした
被相続人(亡くなった人)に借金などの“負の財産”があった場合、相続人はそれも引き継がなくてはなりません。大きな負債を抱えて亡くなったときなどには、相続人は「相続放棄」の手続きをして、それを回避することが可能です。こうやって相続人全員が相続放棄をすれば、やはり相続人不存在となります。
③相続人の全てが権利を失った
相続したい気持ちがあっても、次のように相続人の資格や権利を失うことがあります。
▼相続欠格:法律上強制的に相続権が剥奪されます。
[当てはまるケース]
・被相続人や他の相続人を故意に死亡させた、または死亡させようとした
・被相続人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更、取消をさせた
など
▼相続人廃除:被相続人の家庭裁判所への申し立て、遺言書への記載で成立します。
[当てはまるケース]
・被相続人を虐待した
・被相続人の財産を不当に処分した
・ギャンブルなどの浪費による多額の借金を被相続人に返済させた
・度重なる非行や反社会勢力への加入
・財産を目的とした婚姻
など
相続人の全員がこれらに該当する場合には、相続人不存在となります。唯一の相続人だった配偶者が財産目当てだったといったことは珍しくない話です。
④相続人が行方不明の場合
例えば唯一の相続人が行方不明であっても、それだけでは相続人不存在とはなりません。探しても見つからない場合には、「不在者財産管理人」を選任して手続きを進めるか、「失踪宣告」を申し立てる必要があるのです。失踪宣告を申し立て、それが受理された場合は、法律上「死亡した」とみなされ、相続人不存在となります。
相続人不存在の場合、遺産の行先はどうなる?
では、本題の「相続人がいない場合に遺産はどうなるのか」について話を進めましょう。
結論をいえば、遺産を引き継ぐ可能性があるのは、
①遺言書で指定された人や団体など(「受遺者」と呼びます)
②特別縁故者
③国庫
の順です。ただし、被相続人に借金などの負債があれば、債権者への支払いが優先されます。
①遺言書で指定された受遺者
そもそも相続の遺産分割においては、被相続人が残した遺言書があれば、そこに書かれていることが優先されます。
極論すれば、相続人以外の人に全財産を渡すこともできるわけです。ただ、その場合でも、相続人には最低限受け取れる割合=「遺留分」は認められています。
そのため、たとえ相続人不存在でも、例えばお世話になった人や団体などに相続してもらう内容の遺言書を書いておけば、その遺志を実現することができます。しかし、自分に借金がある場合には、その債務も受遺者に引き継がれることになりますので、注意が必要です(包括遺贈の場合)。遺言書については後述します。
②特別縁故者
相続人不存在で遺言書もない場合には、被相続人の「内縁の妻(夫)」や、生前介護に携わっていた人などが、遺産の全部もしくは一部を受け取れる可能性があります。このような人を「特別縁故者」といいます。
特別縁故者として認められるかどうかの判断を行うのは家庭裁判所で、以下のような要件が定められています。
・被相続人と生計を同じくしていた者(内縁関係、事実上の養子など)
・被相続人の療養看護に努めた者(報酬を受け取っていた場合には認められない)
・被相続人と特別の縁故があった者
③最後は国庫に入る
遺言書がなく特別縁故者の申し出もない場合、あるいは特別縁故者が財産の一部を取得した後に余ったものについては、国庫に収められることになります。つまり、「相続人不存在の遺産」の最終的な行き先は、国ということです。
相続人不存在の場合の相続手続き
相続人不存在の遺産を管理する「相続財産管理人」
相続人不存在の場合、周囲の人間が遺産を勝手に処分することは許されません。「相続財産管理人」を選び、その人の下で、以下のように相続の手続きが進められていく必要があります。
(1)相続財産管理人の選任
債権者や特別縁故者などの利害関係者や検察官が、家庭裁判所に相続財産管理人の申し立てを行い、選任されます。選任後に、相続人がいたら申し出るよう、官報に公告されます。
(2)債権者・受遺者に対する弁済・支払い
選任の公告から2ヵ月経過後、今度は債権者や受遺者がいれば申し出るように、官報に公告されます。申し出があれば支払い、清算が行われ、この時点で遺産がなくなったら、そこで手続き終了となります。
(3)相続人の捜索、相続人不存在の確定
債権者・受遺者への公告から2ヵ月経過後、相続財産管理人が家庭裁判所に相続人の捜索を申し立て、家裁は6ヵ月以上の期限を設け、法定相続人がいないか捜索を開始します。それでも見つからない場合には、相続人不存在が確定します。
(4)特別縁故者の認定・分与
この時点で、特別縁故者が「財産分与審判」の申立てを行えるようになります。特別縁故者が遺産の分与を求める場合には、相続人不存在が確定してから3ヵ月以内に申立てる必要があります。認定されれば、分与が行われます。
(5)国庫へ
さきほど説明したように、遺産を受け取るべき人がいない場合、あるいは特別縁故者への分与の後に余ったものについては、国庫に帰属することになります。手続きには時間もお金もかかる
ざっと手続きの流れをみましたが、全て完了させるためには、最低1年くらいの時間がかかります。家庭裁判所を通した厳格な処理が行われるため、例えば特別縁故者が期待したほどの財産分与を受けられなかった、といったことも起こり得ます。
加えて、お金も必要です。相続財産管理人には、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるのが普通で、報酬が発生するのです。財産管理の手間などに応じて家庭裁判所が決定するのですが、月額5万円程度になることもあります。
遺産を分けたいときには、遺言書を書こう
「遺産の目減り」「国庫への帰属」を避ける
お話ししたように、相続財産管理人を選任して進める手続きには、「専門家への報酬などにより遺産が目減りしてしまう」「国庫に収納されるリスクがある」といったデメリットがあります。財産を譲りたい人、例えば特別縁故者に該当するような人がいる場合には、生前に遺言書を作成しておくべきでしょう。NPOなどの団体や地元自治体などに譲ることも可能です。有効な遺言書があれば、基本的に相続財産管理人を立てる必要はありません。
遺言書の作り方にも注意
遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言」や公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言書」、本人が作成し公証役場に持っていく「秘密証書遺言書」の3種類があります。「公正証書遺言書」が最も安全・確実ですが、そのぶんコストや手間もかかります。2020年7月からは、自筆の遺言書を法務局で保管してもらえる制度もスタートしました。それぞれのメリット・デメリットを比較して、作成を検討してみましょう。
また、遺言書に書かれていない遺産があった場合には、その部分について、やはり相続財産管理人を選任する手続が必要になってしまいます。例えば、“ある不動産を誰々に譲る”といった「特定遺贈」ではなく、“財産を1/2ずつ誰と誰に遺贈する”という形の「包括遺贈」であれば、遺言書への記載漏れを防ぐことができます。
ただ、繰り返しになりますが、包括遺贈を受けた受遺者は、相続人と同一の権利義務を持つことになるため、仮に借金があれば、その返済義務も負うことになります。
まとめ
相続人不存在であっても、遺言書で任意の人や団体に遺産を譲ることができます。遺言書がない場合には、相続財産管理人を選任して手続きを進めることになり、受け取る人がいなければ、遺産は国庫に収納されます。