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相続対策としての「資産管理会社」そのメリットと注意点を解説
2022年5月25日
不動産などの高額の資産がある場合、悩ましいのが相続です。講じる対策によって、支払う相続税の額には大きな差が出ます。そんな相続対策の1つに「会社を設立して資産を移す」という方法があります。うまく活用すれば他の方法にはないメリットを享受することが可能なのですが、デメリットもあるため注意が必要です。今回は資産管理会社の活用のメリット・デメリット・注意点をそれぞれ解説します。
「資産管理会社」とは?
オーナー自身の資産管理を目的とした会社
「資産管理会社」とは、その名のとおり不動産や有価証券などの資産を所有している人が、その資産を管理することを目的として設立する会社を言います(「プライベートカンパニー」とも呼ばれます)。設立手続きや基本的な運営は通常の会社と同じですが、営業活動などは行わず、あくまでもオーナー自身の資産管理を目的としています。
わざわざ設立するメリットは?
一般的には、資産管理会社は“節税”を目的に設立されます。例えば、不動産などの資産から個人として利益を得る場合と、資産管理会社を設立して利益を得る場合では、課税される税金が違います。前者の所得税の最高税率は45%で、地方税も合わせると50%を超えます。これに対して後者の法人税の場合、地方税を含めた実効税率は約33%で済むのです。
実はこの資産管理会社は、相続という切り口から見ると、節税以外にも利点がある仕組みです。そのため、初めから相続対策を目的に会社を設立するケースもあります。ただ、誰でも活用できるというものではありません。ざっくり言えば、「多くの不動産を所有し、財産の総額が数億円規模を超える富裕層」向けのスキームと言えるでしょう。
相続対策としての「資産管理会社」設立のメリット
では、どのような仕組みで、どのようなメリットが期待できるのかを見ていきましょう。
「所得の分散」+「財産の蓄積の抑制」で節税できる
資産管理会社を設立して不動産を移せば、先述のように、賃貸収入に課税されるのが所得税→法人税となり、節税効果があります。加えて家族を管理会社の役員にすれば、会社の所得を“役員報酬”という形で家族に支給することが可能になります。このように、所得をオーナー1人から会社や家族に分散させると、トータルの納税額をさらに引き下げることができるのです。付け加えれば、役員報酬は経費として所得から差し引くことができますので、会社にとってもメリットがあります。
他方で、相続という視点から考えると、家族を役員にすることには2つの利点があります。1つは、報酬を支払うことでオーナーへの財産の蓄積が抑えられます。相続税算出のベースとなる相続財産を圧縮し、税額の「高騰」を防ぐことができるのです。
もう1つは、オーナーの生前に資産を分割して家族に渡すことができる、つまり実質的な「贈与」をすることが可能になるという点です。しかも、会社の経費として認められます。もちろん、収入を得た家族は所得税を納めなくてはなりませんが、税率の高い贈与税に比べれば、負担は少なくて済むでしょう。
ただ、注意すべきことが1つあります。家族を役員にする場合には、その実態がなくてはなりません。「名前だけ」と認定された場合には、経費として認められないなどの問題が発生することがあります。
相続は不動産よりも株が有利
不動産を資産管理会社が保有していた場合、相続するのは、不動産そのものではなく被相続人(亡くなった人)が持っていた管理会社の株式です。相続の際には、現金以外の資産はその評価額が相続財産に算入されることになりますが、不動産よりも株式の評価額のほうが低くなる可能性が高いのです。
不動産については、通常、路線価や固定資産税による評価が行われます。一方、未公開株式の評価方法にも数種あるのですが、資産管理会社の場合は「純資産価額方式」が採用されます。不動産の資産管理会社では、同じく路線価や固定資産税がベースになると考えてください。
ただ、株式については、純資産(評価時点における路線価や固定資産税評価額で求めた資産の金額から、借入金などの負債を差し引いた金額)から、含み益(帳簿価額上の評価と評価時点における時価との差額)の法人税相当額(37%)を差し引いて評価額が決まります。要するに、個人所有の不動産よりも法人名義(株式)のほうが、「含み益の37%」分、評価額を下げることができるわけです。
相続そのものが楽になる
個人所有の不動産を相続すると、あらためて登記(名義変更)が必要になり、手続きが煩わしいだけでなく費用も発生します。しかし、資産管理会社が保有する不動産であれば、会社の株式を相続するだけでいいので、スムーズに受け継ぐことができます。
相続の際、不動産は“誰がもらうのか”あるいは“どう分けるのか”をめぐって、トラブルを生みやすいものです。資産管理会社の資産は、株式数としてドライに計算できますので、現物に比べて分割も容易です。「争続」のリスクを軽減できるという点もメリットと言えるでしょう。
相続対策としての「資産管理会社」設立のデメリット
資産家の相続にとって利用価値のある資産管理会社ですが、設立のデメリットやリスクも理解しておきましょう。
会社の設立と運営にコストがかかる
相続対策が目的とはいえ、会社である以上、きちんと設立し経営していかなくてはなりません。それにはしかるべきコストが必要になります。
設立時には、合同会社は約15万円・株式会社の場合は約30万円がかかります。会社を維持するには、経理や税務処理も必要ですので、税理士報酬も発生します。
損失が出てもかかる税金がある
個人と違い、たとえ損失が出ている年であっても、「均等割」という法人住民税が発生します。金額は自治体によりますが、最低でも年間7万円を納めなくてはなりません。
相続税の特例が受けられなくなる
個人所有の土地については、相続の際に「小規模宅地等の特例」を使うことができます。この特例により最大で土地の評価額を80%削減することができるのですが、資産管理会社が保有していると、この評価減は受けられなくなります。
なお、この制度が適用されるのは土地のみです。特例を利用したほうが有利な土地は個人所有のままにして、建物だけを資産管理会社に移す…という方法もあります。
資産管理会社には3つある
実は資産管理会社を利用するには3つの方法があり、不動産の価格や運営にかけられるコスト(エネルギー)などを検討して選択することができます。最後に、これらの方法について簡単に説明します。
1. 不動産所有方式
「不動産所有方式」は、所有する不動産を資産管理会社に売却(管理会社が不動産を所有)する方式です。資産管理会社を使う相続対策では最も多いパターンです。
管理会社が土地と建物を所有する「土地建物所有方式」のほか、建物だけを所有する「建物所有方式」があります。建物所有方式では、土地は引き続きオーナーが所有して管理会社に貸し付けることになります。
この方式では、不動産収益が資産管理会社のものになるため、オーナーの財産の蓄積を抑える効果があります。ただ、不動産の売買価格が世間一般の相場からかけ離れたものである場合は、時価との差額に課税されることがありますので、注意が必要です。
2. 管理会社方式
「管理会社方式」は、オーナーが個人で不動産を所有し、設備の管理などを管理会社に委託する方式です。不動産の売却手続(名義変更)が不要で手軽であるというメリットがあります。
不動産による収益はオーナーのもとに入り、オーナーはその中から資産管理会社に管理費を支払います。このような仕組みで財産の蓄積をある程度抑えることができますが、不動産は引き続きオーナー所有となるため、相続税の節税メリットという点ではあまり有効ではありません。
また、この方式でも、管理費の金額設定には気をつける必要があります。管理会社にできるだけ多くの所得を移転させようとしてあまりに高額にすると、経費として認められない可能性があるためです。
3. サブリース方式
「サブリース方式」は、所有する資産を管理会社に一括で貸し付ける方式です。不動産による収益は資産管理会社のもとに入り、オーナーはそのうち一定割合(通常80%~90%)を賃料として受け取ります。管理会社が空室リスクを負う仕組みになっていて、安定した収入を得られるというメリットがあります。ただし、家族への資産の移転ができないため、やはり相続税の節税効果は限定的と言えるでしょう。
まとめ
相続対策として資産管理会社を設立すれば、家族に段階的に資産を移しながら、相続税を抑えることができます。ただし、会社の運営にはコストがかかり、個人に適用される特例が受けられなくなるといった注意点もありますため、設立には十分な検討と準備が必要です。かえって出費が増えてしまったなどということがないよう、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。