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「事故物件」の不動産を相続することになったら?リスクと対処法を解説

「事故物件」の不動産を相続することになったら?リスクと対処法を解説

2022年6月9日

事件・事故による死や自殺、孤独死などが起こった不動産は「事故物件」と呼ばれます。芸能人・芸人やYouTuberがあえてその事故物件に住んでみた…といった企画もある昨今ですが、親族が所有していた事故物件を相続することになった人にとっては冗談では済まされません。親が孤独死した結果、そういう状況に直面することもあり得るでしょう。事故物件の相続には、具体的にどのような問題があるのか、リスクを回避・軽減するために何を考えるべきなのか、まとめてみました。

そもそも事故物件とは?

事故物件の相続について検討する際には、“そもそも事故物件とはどんなものなのか”を正確に理解しておく必要があります。少し詳しくみておきましょう。

法的な定めはない

事故物件は、一般的に「何らかの原因で入居者が亡くなった物件」のことを指します。ただし、法律上では「これが事故物件です」という明確な定義はありません。人の死因はさまざまで、病死、事故死、老衰、あるいは殺人などの事件による場合などがありますが、そうした原因に関わらず「人が亡くなっていたら事故物件」として扱われてきました。

専門的には、事故物件は「心理的瑕疵のある不動産」といいます。「瑕疵(かし)」というのは、”欠陥”を指す法律用語なのですが、この心理的瑕疵は、雨漏りや床が傾いているといった「物理的瑕疵」と違い、目には見えません。感じ方も人それぞれで、「前の居住者が自殺していようが、家賃が安いのなら喜んで借りる」という人だっています。定義するのが難しい理由は、こういった点にあります。 とはいえ、多くの場合、「事故」はネガティブ要因です。心理的瑕疵は、「それを知っていれば、借りたり買ったりしなかった欠陥」と言い換えることができます。

事故物件には「告知義務」がある

ここで問題になるのが「告知義務」です。
不動産業者は、物件に瑕疵がある場合には、賃貸や売買契約の際に借主・買主に対してその事実を告知しなくてはなりません。事故物件に関しても、それを知りながら故意に伝えなかった場合には、宅建業法違反、民法における「契約不適合責任」違反などに問われる可能性があります。

では、どのような場合に告知義務が生じるのでしょうか?これについては、以前は曖昧で、告知期間(居住者が亡くなってから何年間告知するか)についてもバラバラなのが実情でした。こうした状況を改めるのを目的に、昨年10月に国土交通省が、実際の取引実態や判例などを基に、告知についてのガイドラインを公表しました。そこでは、“告知しなくてよい”ケースが3パターン示されています。

  • ① 自然死(老衰、持病による病死など)、日常生活の中での不慮の死(自宅の階段からの転落や、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など)が発生した場合は、告知不要。
  • ② ①の死で特殊清掃(孤独死などが発生した住居において、原状回復のために消臭・消毒や清掃を行うサービス)が行われた場合や、①以外の死(自殺、事件による死、不審死など)が発生した場合には、その後概ね3年が経過したら告知不要。
  • ③ 共用の玄関・エレベーター・廊下・階段などを除く、日常生活で通常使用しない集合住宅の共用部分において、①以外の死が発生した場合や、①の死が発生して特殊清掃などが行われた場合は、告知不要。

「自然死などは告知しなくてよい」「それ以外の事故でも、3年経過したら原則として告知不要」といった指針が示されたことは、不明確だった事故物件の判断基準を提示したという点では一歩前進といえるでしょう。ただし、例えば借主や買主に「人が死んだりしていませんか?」と聞かれた場合には、有無について告知する必要があります。借主などが、心理的瑕疵を重視していることが明らかだからです。

また、これはあくまでもガイドラインであり、この内容に従って告知を行わなかったからといって、業者の民法上の責任が回避されるわけではありません。心理的瑕疵の判断に関しては、ケースバイケースの部分がやはり大きいということです。

詳しくは国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」で確認できます。

事故物件には「相続放棄」という選択もある

事故物件を相続する場合の“税金のリスク”

以上のように、通常とは異なる事情を抱える不動産を相続することになった場合に考えられるリスクは、「経済的な打撃を被る」ことです。ポイントは、2つの税金です。

相続の際、基礎控除額(「3,000万円+600万円×法定相続人の数」)を超える遺産には、相続税が課税されます。事故物件の場合、後述するように不動産の評価額が減額できる可能性はありますが、課税自体が免除されたりするわけではありません。

また、相続した不動産には、毎年固定資産税(+場合によっては都市計画税)という税金がかかってきます。こちらについては、不動産が事故物件であるかどうかは一切考慮されません。

仮に事故物件である賃貸アパートを相続した場合、それが原因で入居者が集まらず、思うように収入が得られないことも考えられます。この場合、2つの税金の出費や維持費などに見合わない物件を相続し、家計のお荷物になるかもしれません。

赤字を垂れ流したりしないようにする有効な手立てが、「売却」です。しかし、そこでも事故物件であることが、大きなマイナスになるのは避けられません。もちろん状況によりますが、相続税の額に満たない“二束三文”で評価されてしまう事例は少なくないのです。

相続放棄すれば「負債」から逃れられる

相続人は、被相続人の“正の財産”だけでなく、借金などの負債があれば、それも引き継がなくてはなりません。不動産の事故物件についても、原則として受け継ぐ義務があるわけですが、「相続放棄」をすれば話は別です。

「相続放棄」は、被相続人の借金などが財産を上回る場合によく講じられる手段で、家庭裁判所に申し立てを行うことで認められます。この手続きによって、相続すれば重荷になる事故物件からも逃れることができるわけです。経済的リスクの回避のほか、例えば、親が自殺した家に住みたくない…といった事情のある時には、検討する価値があるでしょう。

ただし、相続放棄というのは、「相続人でなくなること」を意味します。事故物件だけでなく、他の“正の財産”も一切相続することはできなくなることなどには、注意する必要があります。

相続を決めたら考えるべきこと

相続がメリットになるケース

先述のようなリスクが低い場合には、素直に相続するのがいいでしょう。たとえ事故物件であっても、駅近で利便性が高かったり、人気のエリアにあったりするなど、入居率を確保できる場合もあります。そうした資産価値の高い物件ならば、売却についても有利な条件で話が進められるはずです。

国交省によるガイドラインの設定の背景には、「事故物件告知のハードルを下げ、自然死の多い高齢者が賃貸物件に入居しやすくしよう」という政策的な意図があります。そうした流れもあり、人が亡くなっていても事故物件にならないケースは、以前よりも増えるものと考えられます。その見極めも大切になるでしょう。

相続税は「軽減」される可能性

事故物件の相続を決めた場合、最初のハードルが「相続税」です。相続税は、当然ながら相続財産の金額が少ないほど、安くて済みます。不動産は元々高額なものだけに、その評価額をできるだけ下げることは、相続税対策として大きな意味を持つのです。

事故物件についても、通常の不動産と同じ方法で評価されますが、資産価値が下がる分、評価額も下げられる可能性があります。国税庁は、「地盤に甚だしい凹凸のある宅地」などとともに、「騒音、日照阻害、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められる」宅地については、「利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められるもの」として、評価額を10%減額できるとしています。

不動産活用か売却か

賃貸アパートやマンションを相続した場合には、それを保持して活用するか、あるいは売却するかの二択になります。先述の通り、不動産には固定資産税が課税され、時間が経過するほど建物が傷んで資産価値も下げっていくのが普通です。そのため、この判断も早いに越したことはありません。

賃貸での運用を考える場合には、少なくとも当面は事故物件のハンデを考慮したうえで、利回りなどを検討する必要があります。売却の際にも、やはり通常の不動産に比べ大幅に減額される可能性を織り込んでおくべきでしょう。

売却の際の注意点とは?

売却を選択した場合に注意すべきなのは、やはりさきほどの「告知義務」があることです。業者に対して故意に事故物件である事実を隠して売却した場合、民事上の責任を追及される可能性があるのです。
売却の際には、次のような工夫をすることで、よりスムーズに高く売れる可能性があります。

●リフォーム、リノベーションを行う
繰り返しになりますが、事故物件が敬遠されるのは、主に心理的な理由からです。室内がピカピカに一新されていれば、ネガティブな印象はかなり緩和されるのではないでしょうか。

●更地にする
コストはかかりますが、物件の状況や立地によっては、資産価値を大きく高めることができます。

●仲介ではなく「買取」で売却する
特にスピーディーに処理してしまいたい場合には、不動産業者に仲介を頼むよりも、直接買い取る業者を探すほうが有利です。ワケありの不動産の買取を専門にする業者もありますので、複数の見積もりを取ってみるのも1つの方法です。

事故物件の相続は、専門家に相談を

相続財産に含まれる不動産の評価は、通常でも容易ではありません。先ほど相続税の軽減について説明しましたが、“宅地の利用価値が著しく低下しているかどうか”を最終的に決めるのは「税務署」です。確実に認めてもらうためには、しっかりした根拠が必要になるのです。

そうでなくても、相続は遺産分割をめぐって争いにもなりやすく、事故物件のような特殊な相続財産があればなおさらです。相続放棄すべきか否かも含めて、事故物件を含んだ相続を相続人だけで進めるのには、無理があります。事故物件を相続することになったら、早めに相続に詳しい税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

まとめ

相続財産に事故物件を含む相続になった場合、相続放棄すべきか、相続した場合にはどんな点に注意したらいいのかといった、通常の相続にはない問題に直面します。相続に詳しい専門家のサポートを受け、大きなリスクを背負い込まないようにすることが大切です。

この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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