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相続税、贈与税にもある税務調査 どこに注意したらいいのか?
公開日:2022年6月24日 更新日:2022年10月26日
「税務調査」と聞くと、会社などの事業に関連して行われるもの、というイメージを持たれる方がいるかもしれませんが、もちろん相続税や贈与税といった個人の申告も対象です。もし、そこで「申告漏れ」などが発覚すると、加算税や延滞税などのペナルティが課せられることになるかもしれません。申告に際して注意すべきポイントをまとめました。
そもそも税務調査とは?
初めに税務調査とはどういうものなのか、概要を説明しておきましょう。日本の国税は、「申告納税」と言って、納税者自らが税金の額を計算し、申告・納税を行います。この申告に、ミスや意図的な「脱税」などがないかを調べるのが、税務調査です。
この税務調査には、「任意調査」と「強制調査」があります。任意調査は、各地の税務署が行うもので、ふつう税務調査と言えばこれを指します。その名の通り、調査に応じるかどうかは納税者の任意で(とはいえ、正当な理由なく拒否すれば罰則の対象になります)、税理士の立ち合いも認められています。
一方、強制調査は、申告内容に多額かつ悪質な脱税行為などが明確に認められる場合に、国税局査察部(マルサ)が実施します。裁判所の令状を持って行われますから、もちろん拒むことなどはできません。
相続税の税務調査で「狙われる」のは?
税務署には銀行口座を調べる権限がある
コロナ禍は、納税者の自宅などを訪れて、対面で聞き取りを行う必要がある税務調査(実地調査)にも影響を与えました。実際、2019事務年度(19年7月~20年6月)の実地調査件数は、前年度に比べ15%ほど減少したのですが、逆に1件当たりの追徴税額は641万円と約13%増加しています。税務当局が、追徴を多く見込める、すなわち申告漏れなどの金額が大きい案件を「決め打ち」した結果だ、とみる専門家もいます。
税務署は、相続が発生した家の資産状況などを入念に調べてから、調査に入ります。彼らには、例えば被相続人(亡くなった人)だけでなく、相続人などを含めた預金口座(金融機関に保管義務のある10年間)を調べる権限が与えられています。申告されていない口座があったり、過去に不自然な資金移動があったりすれば、税務署には「怪しい」と映るでしょう。
相続税の税務調査が入るのはいつ?
相続税の税務調査は、多くの場合申告書を提出してから1~2年後に入る可能性が高いです。実地される時期としては8~12月が多い傾向にあります。
ただし、調査が入る期間は申告期限より5年以内であり、5年を経過するまで相続税に関する書類・資料は保管しておく事をおすすめします。これは相続税の時効(排斥期間)が原則5年と定められているためです。5年を経過すると、税務署が書類に間違いをとしても、追加で納税する法的な義務はありません。
例外として悪質な申告漏れ、脱税行為であるとみなされた場合には、時効が7年に延長されますので注意が必要です。
相続税の税務調査で「狙われる」のは?
では次に、相続開始と相続税の申告期限、税務調査が入る可能性が高い期間などを具体的に見てみましょう。
(例)相続発生日が2022年9月1日の場合
- ・相続発生日 2022年9月1日
- ・相続税の申告期限 2023年7月2日(相続発生日から10か月後)
- ・税務調査が入る可能性が高い期間:2024年8月~2025年12月
- ・税務調査が入る可能性がある期間:2025年12月~2028年6月
- ・申告期限より5年経過した日:2028年7月3日
- ・申告期限より7年経過した日:2030年7月3日
- ・税務調査が入らない時期:2030年7月4日以降
つまり時効延長のケースを含めると、相続発生から約8年間は税務調査が入る可能性があると言えるでしょう。
相続税の申告で気をつけたいポイント
意図的に被相続人の財産を隠すのは論外ですが、相続や贈与に対する不理解や申告書の記載ミスでも、申告漏れがあれば見逃してはもらえません。特に注意すべきなのは、次のようなケースです。
●名義預金
相続税の申告でよく問題になるのが、これです。例えば、被相続人が子ども名義の銀行口座を開設してお金を積み立てていた場合。子がその事実を知らず、通帳も印鑑も被相続人が管理していたりすれば、それは名義に関わらず「被相続人の財産」とみなされます。反対に、専業主婦である妻が夫の給料を「へそくり」として貯めていた場合も、名義預金に該当する公算大です。通帳の名義は妻でも、実際には夫が稼いだお金=夫の財産だからです。いずれも、相続財産として申告しなくてはなりません。
●相続前3年間の贈与
「相続税対策」としてよく行われるのが、贈与税の基礎控除(非課税枠=年間110万円)を活用した生前贈与です。何年かにわたって基礎控除の範囲内で子どもなどに贈与していけば、その分無税で、相続税の算定基準となる財産を減らすことができるわけです。これを「暦年贈与」と言います。ただし、相続開始前3年間に行われた贈与については、相続財産に戻す形で加算しなくてはなりません(持ち戻し)。つまり、この3年分については、相続税の課税対象になるのです。そのことを知らずに申告すると、追徴される可能性が高くなります。
●相続時精算課税
贈与には、相続人1人につき2,500万円まで非課税で渡せる「相続時精算課税」という仕組みもあります。その名の通り、贈与を受けた分は相続が発生したとき、相続財産に加算して、相続税で「清算」します。ところが、相続税申告の際にそのことを忘れ、申告漏れを指摘されるケースがけっこうあるようです。金額が大きなだけに、追徴額も高額になりがちですから、注意が必要です。
●海外資産
以前は見つかりにくかったとされる、海外に設けた金融機関の口座や有価証券などの海外資産も、捕捉される可能性が高まりました。資産運用の国際化などを踏まえ、税務当局が、各国とCRS情報(共通報告基準に基づく⾮居住者⾦融口座情報)などを活用した連携を強化しているためです。
●死亡保険金
生命保険の死亡保険金には、相続人1人当たり500万円という非課税枠がありますが、これを超えた分は、申告しなくてはなりません。そこまでは調べられないだろう、と思うかもしれませんが、保険会社は税務署に対して支払調書の提出を義務づけられていますから、いくら受け取ったのかは“筒抜け”なのです。
●小規模宅地等の特例
相続する自宅の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」は、相続税の節税策の“切り札”とも言える制度です。ただし、適用を受けるためには、被相続人と同居していた、相続開始前3年間に自分の持ち家に住んでいなかった、といった要件を満たさなくてはなりません。節税になるからと安易に使って、後でやはり高額の追徴課税になってしまったといったことにならないよう、気をつけましょう。贈与税の税務調査のポイント
「無申告」が多い
贈与税は、相続税の「補完税」という位置づけです。もともとは、生前贈与で相続税を免れたりするのを防ぐために導入された税で、税率は相続税よりも「割高」に設定されています。そうした位置づけもあって、税務当局も厳しい視線を向けていると考えてください。
19事務年度には、実地調査1件当たりの追徴税額が231万円となり、対前年度比約28%増となっています。調査の行われた案件のうち85%近くが、初めから申告しない「無申告」でした。隠していた贈与が、バレたわけです。
暦年贈与が規制される?
付け加えておくと、この贈与税のあり方が、税制改正での議論に浮上しています。さきほど基礎控除を活用した贈与について説明しましたが、特に財産額の大きな富裕層は、長い年月をかけて贈与していけば、相続税を大きく削減することが可能になります。
そうした現状は問題だとして、贈与による節税効果を小さくしていく方向で議論が進んでいるもようです。具体的には、3年間という持ち戻し期間を延長する案が浮上しています。
まとめ
「家族間の資金移動なら、見つからないだろう」という考えは禁物。贈与や相続には、税務署の厳しい目が向けられていることを忘れないでください。目をつけられそうなポイントを理解して、申告でミスをしないことも大切です。不明な点は、相続に詳しい税理士に相談しましょう。