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包括遺贈と特定遺贈の違いとは?それぞれのメリット・デメリットを解説
2022年7月19日
財産を自分の思い通りの分け方で相続させたい、あるいは法定相続人以外の人に譲りたい、という思いを叶えるためには、遺言書を残す必要があります。ところで、その遺言の方法には、「包括遺贈」と「特定遺贈」があるのをご存知でしょうか?意思を確実に実現させるために、知っておきたいその違いと注意点を解説します。
遺贈とは?
相続と遺贈
遺言書により、自分の財産を相続人や相続人以外の人に譲ることを「遺贈」といいます。一般的には、遺贈も相続ととらえられていますが、厳密には(法的には)両者は別のものです。
「相続」は、法定相続人(法に定められた相続人)が、法定相続分(法に定められた相続分)に従って、被相続人(亡くなった人)の財産を受け継ぐことをいいます。相続では、相続人以外は、遺産をもらうことができません。被相続人が遺言書を残さなかった場合には、遺産は原則として、この狭い意味での相続によって分割されることになります。
そのため、相続人に法定相続分とは違う割合で遺産を譲りたい場合や、相続人以外の人(例えば世話になった人など)にも渡したい場合などには、「遺贈」を行う必要があるのです。遺贈によって遺産を受け取る人を「受遺者」と呼びます。
遺贈の種類
遺贈は口頭などではNGで、法的に有効な「遺言書」を残さなくてはなりません。遺言書の書式には、
● 自筆証書遺言(自分で書く)
● 公正証書遺言書(公証役場で公証人に作成・保管してもらう)
● 秘密証書遺言書(本人が作成して公証役場に持っていく)
があります。
一方、内容的には、大別して「包括遺贈」と「特定遺贈」の2つがあることを認識しておくことも重要です。これらは法的な扱いも大きく異なるため、それぞれの特徴をよく理解したうえで選択する必要があります。
包括遺贈とは?
財産の中身を指定せずに遺贈する
それでは、包括遺贈からみていきましょう。包括遺贈とは、遺言書に財産の中身を指定せず、「全財産をAに遺贈する」「遺産の3分の1をBに譲る」といった記載を行う方法です。
後ほど説明する特定遺贈との最も大きな違いは、相続人以外の人がこの包括遺贈を受けた場合、基本的にその立場が相続人と同一になる=相続人と同じ権利義務が与えられることです。そう聞くと受遺者にとって幸運な状況にも思えますが、注意すべき点があります。
負債も受け継ぐことに要注意
相続において、相続人は被相続人の“プラスの財産”だけでなく、借金などの“マイナスの財産”があれば、そちらも引き継がなくてはなりません。相続人と同一の権利義務を与えられた遺贈者も、それと同じ状況に置かれます。
仮に財産の3分の1を遺贈される場合には、負債があればその3分の1も負担することになります。万が一、被相続人のマイナス財産がプラス財産を上回っていれば、受遺者になったばかりに経済的な損失を負うということも、可能性としては十分にあり得るわけです。
そうした場合には(そもそも遺贈を受けたくない場合にも)、遺贈を放棄することができます。ただし、これも相続人の相続放棄同様に、相続の開始(遺言者の死亡を知った時)から3ヶ月以内に、家庭裁判所に遺贈を放棄する内容の申述を行わなくてはなりません。
また、包括遺贈では「相続財産の3分の1」のように財産の中身が明示されないため、具体的に何を受け取るのか(例えば現金か不動産か)を決める必要があります。そのためには、相続人にまじって遺産分割協議という話し合いの場に出席することが求められます。親族と顔を合わせて遺産について話し合うことは、大きな精神的負担になる場合もあるはず。包括遺贈を行う場合には、そうしたことも十分考慮すべきでしょう。
特定遺贈とは?
譲る遺産を具体的に特定
これに対して、「遺言社が所有するこの土地をCに譲る」「甲銀行の預金のうち500万円をDに遺贈する」というふうに、財産を具体的に特定するのが「特定遺贈」です。
この特定遺贈では、受遺者が相続人ではない場合、その人は遺言書に書かれた遺産をそのまま受け取ることができます。また、包括遺贈のように遺産分割協議に参加する必要はないですし、仮に被相続人に負債があったとしても、それを引き継ぐ義務は生じません。
特定遺贈も放棄が可能
また、特定遺贈を受けた場合でも、それを放棄することは可能です。
例えば、不動産をもらっても、維持管理や固定資産税の支払いで、かえって受遺者の負担が増えることもあり得るでしょう。そんなときには、受け取らないこともできるわけです。
特定遺贈の放棄は、包括遺贈の場合のような家庭裁判所への届け出は不要で、相続人に対して「遺贈を放棄します」という意志を伝えるだけでOKです。「3ヶ月以内」といった期限もありません。
とはいえ、ある受遺者がいつまでも遺産を受け取るのかどうか意思を明確にしないとしたら、相続人は困ったことになってしまいます。もし、受遺者が遺贈を放棄すれば、相続人はその分も遺産に含めて分割を話し合うことになるわけですが、その判断ができない状態が続くからです。
そこで、相続人などの利害関係人は、受遺者に対して「遺贈を承認するか放棄するのかを決めて欲しい」という催告をすることが認められています。この催告が行われた場合には、受遺者が相当の期間内に意思表示しないと、遺贈を承認したとみなされ、それ以降は放棄ができなくなります。
特定遺贈の注意点
この特定遺贈にも、注意すべき点があります。
「特定」と名が付く通り、遺贈される財産が具体的に分かるよう遺言書に明記されていなくてはなりません。例えば、銀行預金ならば、銀行名はもちろん支店名や預金の種別、口座番号などをきちんと記載しておく必要があります。
また、相続人が不動産を相続したり遺贈されたりしても不動産取得税はかかりませんが、相続人以外の人が遺贈された場合にはこの税金が課税されるということも頭に入れておきましょう。
ちなみに、遺言書を作成した後に、特定遺贈を行おうと考えていた財産が失われる可能性はゼロとはいえません。もし財産が失われた場合には、遺贈自体が無効になります。
遺留分に対する配慮を
遺贈を行えば、遺贈者(被相続人)は、基本的に好きな人に好きな割合で遺産を譲ることができます。ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人には、法に定められた「遺留分(最低限受け取れる遺産の割合)」があることにも要注意です。
この遺留分は、遺言書の中身よりも強い権利で、例えば相続人以外の受遺者が多くの遺産を譲られた結果、相続人の遺留分を侵害した場合には、相続人は受遺者に対して、その分の返還を求めることができるのです。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分の侵害は相続人の間でも起こり得るため、遺言書を書く場合には、トラブルを生まないよう十分留意しなくてはなりません。包括遺贈・特定遺贈の両方に共通する問題ですが、特に後者で相続人以外の人に不動産を渡すようなケースでは、相続人の遺留分を侵さないか、十分な検討が必要でしょう。
包括遺贈・特定遺贈のメリット・デメリット
受遺者視点の、包括遺贈・特定遺贈のメリットとデメリットをまとめると、次のようになります。
包括遺贈のメリット
● 遺産分割協議の場で、自分の欲しい財産に対する希望を述べることができる。
● 遺言書の作成後に遺産の内容に変化が生じても、記載された割合の遺産を受け取ることができる。
包括遺贈のデメリット
● 遺産にマイナス財産があれば、それも受け継がなくてはならない。
● 相続人とともに遺産分割協議に出席しなくてはならない。
● 遺贈の放棄には期限があり、手続きも必要になる。
特定遺贈のメリット
● 遺産分割協議に参加せず、遺言書に記載された財産をもらうことができる。
● 負債を引き継ぐ義務を負わない。
● 遺贈の放棄も簡単にできる。
特定遺贈のデメリット
● 遺贈される遺産が不明確だと、トラブルになる可能性がある。
● 遺言書の作成後に、記載された財産が消失ないし大幅に減少しているリスクがある。
● 包括遺贈に比べると遺留分を侵害する可能性が高めで、相続人に遺留分侵害額請求を起こされる可能性がある。
● 相続人以外が不動産を遺贈された場合は、不動産取得税が課税される。
まとめ
遺贈には、譲る財産の中身を明確にせず、全部ないし一定割合を特定の人に遺贈する「包括遺贈」と、財産を具体的に記載する「特定遺贈」があります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを踏まえて、自らの状況に合う方を選ぶようにしましょう。