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愛人・隠し子・連れ子に相続権はある?複雑な家族関係の相続を考えます
2022年10月12日
父親が死んで相続になったら、同居していた家族の前に、突然隠し子とともに知らない女性が現れた――。決してテレビドラマの世界だけの話ではありません。この場合、愛人や隠し子にも被相続人(亡くなった人)の遺産をもらう権利があるのでしょうか?また、増加傾向にある「事実婚」では、相続はどうなるのでしょう?今回は、複雑な(特別な)家族関係における相続について解説します。
愛人は遺産をもらえるか?
愛人は相続人ではない
社会で認識されるパートナーの関係は多様化していますが、ここでいう愛人とは、「男性が妻(配偶者)以外に特別な関係を持った女性」を指します。
民法の規定で相続人になる可能性があるのは、配偶者、子や孫などの直系卑属(第1順位)、親、祖父母などの直系尊属(第2順位)、兄弟姉妹、甥姪(第3順位)に限られます。被相続人と婚姻関係にない愛人は、原則として相続人ではありません。そのため、被相続人の遺産を普通に相続する権利はないのです。
「遺言書」があれば遺産がもらえる
ただし、「相続人ではない」ことと「遺産がもらえない」ことは、イコールではありません。民法は、被相続人の遺産を相続人同士で分ける割合(法定相続分)について定めていますが、これは被相続人が遺言書を残さなかった場合の話です。「遺言書」があれば、遺産分割は、原則としてそこに書かれている内容で行われます。愛人に遺産を渡したければ、その旨を記載した遺言書を書いておけばいいわけです。
「全ての遺産を愛人に」という遺言書は有効か?
被相続人に遺言書を残してもらい、財産をもらえるのは、愛人にとってはありがたいことですが、一方配偶者や子どもにとっては、「迷惑」にほかなりません。特に、相続になって「知らない人物」が突然現れた場合には、とうてい受け入れ難い気持ちにもなるでしょう。しかし、法的に有効な遺言書にそうした内容が書かれていたら、その遺志に従うしかありません。たとえ「全財産をA子に譲る」といった遺言であっても、それ自体はいったん受け入れざるをえないのです。
とはいえ、例えば長年同居して被相続人の世話をした妻が、遺産を一銭ももらえないというのも理不尽です。そこで、やはり民法には、「遺留分」という相続人が最低限相続できる取り分が規定されています。遺留分は、基本的には法定相続分の1/2で、この分については愛人に「遺留分侵害額の請求」を行い、「取り戻す」ことが可能です。
養子にして相続人にすることもできる
「愛人は相続人ではない」と先ほどいいましたが、「愛人を相続人にして」遺産を譲る方法もあります。被相続人が、生前に愛人と養子縁組を行うのです。
民法上、養子は実子と同等の権利を持つので、相続においても実子と同様に扱われ、子どもとしての法定相続分が認められます。
例えば、被相続人に配偶者と1人の子どもがいたら、法定相続分は、配偶者が1/2、実子と養子(愛人)で1/2ということになり、愛人には1/4の遺産をもらう権利があります。
隠し子は相続人か?
被相続人が認知していれば相続人
相続になって突然現れるのは、愛人だけではありません。被相続人と愛人との間にできた子ども、すなわち被相続人の隠し子が名乗り出てくることもあります。相続になって故人の戸籍を取り寄せてみたら、隠し子がいた…ということも起こりえます。
最初に触れたように、被相続人の「子」は、れっきとした法定相続人です。母親が配偶者か否かは、関係ありません。しかも相続の「第1順位」ですから、隠し子がいたら、基本的にその人は必ず相続人ということになるのです。当たり前ですが、隠し子ではなく、故人の生前から公になっていた愛人の子も同じです。
ただし、「被相続人に認知された子ども(嫡出子)」であることが条件です。嫡出子であれば、相続において、配偶者との間に生まれた子どもと同等の権利があります。遺産の具体的な分け方について決める遺産分割協議から除外したりすることは、許されません。
「死後認知」「遺言認知」もある
逆に言えば、法的にはたとえ被相続人の子どもであっても、認知されていなければ、相続人とはなりえません。
しかし、認知されないまま被相続人が死亡した場合でも、「死後認知」という方法で嫡出子になる=相続人の権利を得る道があります。
具体的には、父親の死後3年以内に、本人(未成年者の場合は母親)が裁判を起こし、DNA鑑定による親子関係の立証を求めます。死後認知が認められた時点ですでに遺産分割協議が終了していた場合には、認知された子どもは他の相続人に法定相続分の支払いを請求することになります。
また、被相続人が、隠し子に遺産はあげたいけれど、配偶者などの手前、生前の認知をためらうようなケースでは、「遺言認知」という方法が取られることもあります。その名の通り、遺言書に、認知する子どもの住所氏名、生年月日、本籍、母親の氏名などを記載しておくのです。認知の手続きは、原則として遺言に定められた遺言執行者(※)が行います。
※遺言執行者:被相続人の残した遺言書の内容を実現するために、必要な手続きなどを行う人。遺言書で指定する、家庭裁判所で選任手続きを行う、などの方法で選ばれる。
結婚相手の連れ子は相続人か?
そのままでは相続できない
他方、結婚相手に自分とは別の男性との間にできた子ども(連れ子)がいた場合、その子に相続権はあるのでしょうか? 答えは「NO」です。実子ではないため、連れ子は自分の相続人ではありません。生物学的なつながりがない以上、認知することも不可です。
「遺言書」「養子縁組」で財産を渡すことはできる
しかし、連れ子にも愛人同様、遺言書に記載することで、遺産を渡すことができます。また、養子にすれば、実子と同じ扱いになります。
事実婚の場合、相続はどうなる?
相手が亡くなっても相続人ではない
夫婦同然に暮らしながら、籍を入れない(役所に婚姻届けを出さない)状態でいるのが「事実婚」です。内縁関係ともいわれます。この状態でパートナーが亡くなった場合、相手は相続人になれるのでしょうか?
もう一度、最初に説明した法定相続人の範囲を思い出してください。相続人になる可能性があるのは、配偶者、直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹・甥姪でした。「配偶者」は、婚姻届けの提出により法律上の地位が与えられるもので、事実婚のパートナーは該当しません。つまり、相続人ではないということです。
「特別縁故者」とは?
遺産を受け取りたい場合には、家庭裁判所に「特別縁故者」の申し立てを行う、という方法があります。これは、さきほどの愛人関係などについても当てはまります。
特別縁故者とは、
● 被相続人と生計を同じくしていた者
● 被相続人の療養看護に努めていた者
● その他被相続人と特別の縁故のあった者
のいずれかに該当する人をいいます。
内縁関係であればほぼ該当するようにも感じますが、この制度はそもそも“法定相続人がいない場合”を想定していることに注意が必要です。子どもはもちろん、兄弟姉妹など他に相続人が1人でもいたら、特別縁故者にはなれません。受理のハードルも決して低くはないようです。
やはり遺言書が有効
事実婚の場合でも、やはり遺言書が有効です。内縁の妻や夫に確実に財産を渡したいときには、生前に準備しておきましょう。
相続税には注意が必要
ただし、財産を譲り受けた場合には「相続税」がかかることがあり、その扱いについて配偶者に比べて不利な点があることは、頭に入れておきましょう。
まず、相続税法には、遺産を受け取る人が「被相続人の一親等の血族(子ども・孫や親)及び配偶者以外」である場合には相続税額が2割加算される、という規定があり、内縁関係の妻や夫もこれに該当します。ちなみに、愛人などに遺言書で財産を譲る場合も同じです。
また、戸籍上の配偶者であれば、「1億6,000万円」もしくは「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い方の金額まで、相続した財産から差し引ける「配偶者控除」が認められていますが、事実婚の場合は、この控除を受けることができません。事実婚だと、特別縁故者の制度や遺言書により遺産を受け取ることができたとしても、多額の相続税が発生する可能性があるわけです。
なお、相続税には基礎控除額(「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します)があります。遺産がこの金額以下ならば、相続税は課税されません。
まとめ
愛人やその連れ子、内縁の妻や夫は、相続人ではありません。財産を譲りたいときには、遺言書や養子縁組などの方法を考える必要があります。不明な点は、相続に詳しい専門家に相談を。