そもそも相続税申告が必要な人はどんな人?
被相続人から相続などによって財産を取得した人の相続財産等の合計額が「遺産に係る基礎控除額」を超える場合に、その財産を取得した人は相続税の申告をする必要があります。
「基礎控除」が下がり、申告の必要な人が大幅に増えた
「相続税を支払うのは、大金持ちが死んだとき」。かつては、そう言われていました。しかし、そうとは言えない時代になりました。直近では、2015年の相続税の基礎控除額の4割引き下げの結果、例えば首都圏など地価の高いところに持ち家があると、かなりの確率で相続税がかかってくる状況になっています。
相続税の「基礎控除」とは?
相続税の「基礎控除」とは、平たく言えば、「そこまでは相続税が課税されないボーダーライン」のこと。
「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。
仮に夫が亡くなり、法定相続人が妻と子ども2人だったとすると、3000万円+600万円×3=4800万円となり、遺産の総額がこれを超えたら相続税が課税されることになるわけです。逆にこれを超えなければ、納税はもとより申告の必要もありません。
計算式を見て明らかなように、法定相続人が多いほどボーダーラインは上がり、少ないほど下がります。法定相続人が1人しかいない場合は、基礎控除額は3600万円までしか認められません。
ちなみに、改訂前の基礎控除額は「5000万円+(1000万円×法定相続人の数)」でした。
上と同じく相続人が3人だとすると、8000万円。いかに影響の大きな改訂だったのか、お分かりいただけると思います。
相続税申告の手順・流れ
はじめに、相続の流れをざっと見ておきましょう。
- 死亡届の提出(7日以内)
- 相続人の確定
- 遺言書の有無の確認
- 相続財産の調査
- 相続の放棄または限定承認(3ヶ月以内)
- 被相続人の所得税の申告と納付(「準確定申告」、4ヶ月以内)
- 遺産分割の協議(9ヶ月以内)
- 相続税の申告・納付(10ヶ月以内)
- 相続財産の名義変更手続き
1. 死亡届の提出(7日以内)
人が亡くなった時には、役所(死亡した人の本籍地・死亡地の市区町村役場、もしくは死亡届出人の住所地・所在地の市区町村役場)に死亡届を提出する必要があります。死亡届は、死亡の事実を知ったときから7日以内に届け出なければなりません。火葬(埋葬)の許可申請はもとより、後で述べる相続財産の名義変更などにも、死亡届の提出が不可欠です。役所は届の提出により、死亡の事実を戸籍及び住民票に反映させるからです(名義変更には、それらの書類が必要になる)。
2. 相続人の確定
相続は、「法定相続人」を確定させるところからスタートします。そのためには、被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの連続した戸籍、相続人全員の現在戸籍を揃えることが必要になります。
3. 遺言書の有無の確認
被相続人が遺言書を残していないかどうかを確認します。遺言書があれば、原則としてその内容に沿って遺産分割が行われます(相続人には、遺言の内容にかかわらず相続できる「遺留分」が認められています)。
遺言書がない場合には、原則として相続人が、法定相続分に従って財産を相続します。
4. 相続財産の調査
被相続人の預貯金、不動産、有価証券などの財産を調査し、把握します。借金などの債務は、財産額から差し引くことになります。この相続財産の金額が、「相続税が課税されるか、されないか」の判断のベースになります。
5. 相続の放棄または限定承認(3ヶ月以内)
相続人は、被相続人のプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継がなくてはなりません。もし、負債が上回るような場合には、「相続放棄」をすれば負担を免れることができます。ただし、相続放棄をした人は相続人ではなくなりますので、プラスの財産も貰うことはできません。
被相続人の債務がどのくらいあるのか不明な場合に、相続人が相続したプラスの財産の範囲でマイナスの財産の負担を引き継ぐ「限定承認」という方法もあります。
いずれも相続開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
6. 被相続人の所得税の申告と納付(「準確定申告」、4ヶ月以内)
被相続人が事業を営んでいた場合、あるいは不動産所得があった場合などには、相続開始を知った日から4ヶ月以内に税務署に確定申告を行わなくてはなりません。
7. 遺産分割の協議(9ヶ月以内)
被相続人の遺言書がない場合には、相続人全員で、遺産を具体的にどう分けるのか(例えば自宅は誰が受け継ぐかなど)について話し合って決定します。この話し合いを「遺産分割協議」と言います。
決定された内容は、相続人全員が署名・押印した「遺産分割協議書」という書面にします。不動産の相続登記(名義変更)や相続税の申告の際には、必ずこれが必要になります(遺言書がない場合)。
8. 相続税の申告・納付(10ヶ月以内)
相続税申告の対象になった場合には、相続開始を知った日から10ヶ月以内に税務署に申告・納付を行います。仮にこの期限までに遺産分割協議がまとまらない場合には、いったん法定相続分に従って相続税の納付を行ったうえで、協議を続けることになります。
9. 相続財産の名義変更手続き
被相続人の財産を相続したら、預金や有価証券の口座、不動産などの名義変更を行います。相続税の申告・納税前でも可能ですが、特に1つの不動産を複数人で相続するような場合には、遺産分割の前に節税対策に万全を期す必要があります。
預貯金や証券口座などは、相続人が自ら次に説明する必要書類を揃えて、金融機関、証券会社の窓口で手続きを行うことができます。
土地や建物などの不動産の名義変更(相続登記)には、法務局での手続きが必要になります。手続きは煩雑で専門知識も必要なため、司法書士に代行を依頼するのが普通です。なお、2024年4月1日から、不動産を相続してから3年以内の相続登記が義務化され、正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがありますから、注意しましょう。
相続税申告に必要な書類
相続税の申告の際には、申告書に必要事項を記入して税務署に提出します。相続税申告書は、税務署窓口のほか国税庁のホームページから入手することができます。
また、申告に当たっては、次のような添付書類が必要になります(印鑑証明書以外はコピーで可)。
必ず必要な書類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺言書または遺産分割協議書
預貯金を相続する場合に必要な書類
- 預貯金・借入金などの残高証明書 など
不動産を相続する場合に必要な書類
- 不動産の登記簿謄抄本(登記事項証明書)
- 固定資産税評価証明書 など
上場株式・投資信託などを相続する場合に必要な書類
- 証券会社の残高証明書
- 配当金の支払通知書
生命保険金、退職金を受け取る場合に必要な書類
- 生命保険金支払通知書
- 生命保険証書
- 退職金の支払通知書か源泉徴収票 など
相続税ゼロの場合、申告は不要?
注意すべきなのは、申告の必要がないのは、あくまでも「遺産総額が基礎控除額の範囲にある場合」だということです。
相続税には、配偶者控除(※1)や小規模宅地等の特例(※2)といった税の軽減措置が設けられています。もともとの遺産は基礎控除額を上回っていたけれど、特例措置などを使った結果、ボーダーラインを下回った、という場合には、やはり申告が必要なのです。言い方を変えると、相続税の申告をしなければ、こうした軽減措置を使うことはできません。
※2 小規模宅地等の特例:親と同居しているといった一定の要件を満たす相続人は、相続の際の自宅の土地の評価額を80%減額できることなどを定めた特例。
他にはどのような控除が利用できる?
なお、相続でよく使われる特例(控除)は先述の2つですが、これら以外にも次のようなものがあります。
相次相続控除
前回の相続から今回の相続までの間(例えば、祖父が亡くなり、父親がその財産を相続したが、今度はその父親が亡くなり、自分が財産を相続することになった など)が「10年以内」の場合には、短期間に同じ財産に課税されるのを避ける目的で、今回の相続税から一定額が控除されます。控除額は、前の相続から1年経過するごとに10%ずつ減額されます。つまり、前の相続からの期間が短いほど、控除額が大きくなる仕組みです。
未成年者控除
相続開始日に、法定相続人である未成年者(注:2022年4月に成年年齢が20歳から18歳以上に引き下げられたため、「未成年」は18歳未満を指します)が相続で財産を取得した場合には、本来支払うべき相続税から控除がされます。
障害者控除
相続開始日に障害者である人が相続で財産を取得した場合には、支払うべき相続税の金額から一定額を控除することができます。さらに、当人の控除額が余る場合には、他の相続人でかつ扶養義務者である人の相続税からも控除できます。控除額の計算式は、次の通りです。
特別障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
相続税申告は、相続発生から10ヵ月以内にする必要がある
その他、相続税の申告に関連する注意点をまとめました。
「見えにくい遺産」もある
遺産、つまり相続財産は、被相続人(亡くなった人)が持っていた現金や不動産ばかりとは限りません。生命保険金や死亡退職金などがあれば、それも相続財産に加える必要があるのです(ともに一定の非課税枠があります)。
反対に、被相続人の借金やその葬儀費用などは、相続財産から差し引くことができます。
相続税にも申告期限がある
相続税の申告期限は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内」と決められています。よほど遠縁でもない限り、「亡くなった日から10ヵ月」ということになるでしょう。49日法要を済ませ、遺産の分け方を決め、とやることは少なくないですから、あまり悠長に構えている暇はないかもしれません。
もし、期限内に申告しなかったら?その場合には、無申告加算税というペナルティが課せられることになります。悪質な「税逃れ」が発覚した場合には、「1年以内の懲役または50万円以内の罰金」という罰則規定もありますから、申告は正確に行いましょう。
申告が必要なのは、相続人だけではない
相続税の申告が必要なのは、被相続人の財産を受け取った相続人や受遺者です。「受遺者」とは、法定相続人ではないけれど、被相続人の遺言書によって財産を受け取った人のことです。
さらに、被相続人が加入していた生命保険の受取人も、申告しなくてはなりません。
要するに、被相続人の死亡を原因として何らかの財産を受け取った人には、全員に申告義務が発生する、ということです。
相続税申告の期限までに遺産分割協議がまとまらなかった場合は?
被相続人の遺言書はなく、遺産分割協議もまとまらずに、それぞれの相続人が支払うべき相続税が決まらない、というケースもありえます。それでも、期限までに、いったん申告・納税を済ませなくてはなりません。その場合には、各相続人などの法定相続分や包括遺贈(遺言書により、財産内容を指定せずに行う相続)の割合に従って財産を取得したものとして、相続税の計算を行います。 その後、相続財産の分割が行われ、その分割に基づいて計算した税額と、すでに申告した税額とが異なるときは、前者の額に基づいて、「更正の請求」または「修正申告」を行います。
- ・ 初めに申告した税額が、実際の分割に基づく税額より多かった場合⇒「更正の請求」で払い過ぎを返してもらう(分割から4ヶ月以内)
- ・ 初めに申告した税額より、実際の分割に基づく税額が多かった場合⇒「修正申告」で不足分を納税する
相続税申告は自分でもできる?税理士に依頼すべき?
相続税の申告を自分で行うことは可能です。ただし、相続人や相続財産の確定、財産目録の作成、必要書類の収集、申告書の作成――といった一連の作業を、10ヵ月で完了させなくてはなりません。
間違いがあれば、税務署に指摘され、やはり追徴課税(※3)のペナルティを受けることになるかもしれません。反対に、「払い過ぎ」があったとしても、税務署はそれを教えてはくれないのです。申告は、専門知識を持つ「相続に強い税理士」に依頼すべきでしょう。
相続税申告を税理士に依頼した場合の料金はどれくらい?
税理士費用は、以前は税理士会が定めた税理士報酬規程に基づいて一定に設定されていましたが、税理士法改正によって規程は廃止され、2002年4月以降は、各事務所が自由に設定できるようになりました。従って、報酬には多少のばらつきがあります。
多くの事務所の料金体系は、「基本報酬+加算報酬」というパターンになっています。相続税申告の場合、一般に「基本報酬」は、遺産総額に応じた報酬額(遺産額が大きいほど、報酬も高くなる)で、「加算報酬」は、相続人の数(人数が多いほど高額になる)、遺産の内容(例えば、評価に手間のかかる不動産や自社株などが含まれていると高額になる)、申告期限までの期間(時間的な余裕が少ないと「特急料金」になる)――といった条件によって加算される部分です。
事務所によって、基本報酬のウエートが高いところもあれば、逆にその部分を割安にして、「オプション料金」を高く設定するところもあります。多くはありませんが、一律料金だったり、節税の成功報酬の形だったりする場合もあります。
具体的には、相続税申告の税理士報酬の相場(目安)は、遺産総額の0.5%~1%といわれています。
相続税申告の報酬の相場(0.5%~1%) (基本報酬+加算報酬) | |
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遺産総額 | 税理士報酬 |
5000万 | 25~50万円 |
6000万 | 30~60万円 |
7000万 | 35~70万円 |
8000万 | 40~80万円 |
9000万 | 45~90万円 |
1.0億 | 50~100万円 |
1.5億 | 75~150万円 |
2.0億 | 100~280万円 |
2.5億 | 125~250万円 |
3.0億 | 150~300万円 |
3.0億超 | 別途見積り |
まとめ
被相続人の遺産が基礎控除額を超えた場合には、相続税の申告が必要になります。その場合は、相続人ばかりでなく、被相続人の死亡によって財産を譲り受けたすべての人に申告の義務が生じることに、注意しましょう。
- 相続の経験が豊富な税理士を探している
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