もし終活をしなかったら?
「終活」を直訳すれば、「人生の終わりに行う活動」ということになるでしょう。実はそこから先の「定義」は、語る人によってまちまちなのが現実です。
終活の意味や内容は、「それをしなかったとき」を想像してみれば、わかりやすいかもしれません。
例えば、身辺整理などをまったくせず、相続財産がどれだけあるのか、預金通帳の保管場所さえも家族に知らせないまま、死ぬ。自分がどう生きてきたのか、子どもに話す機会もなく、息を引き取った――。
「それでは親族に迷惑をかけてしまう」「何十年もの人生の最後としては、あまりにも悲しい」ということにならないよう、最低限の準備を行う。そのように考えれば、「何をしたらいいのか」が、ある程度明確になるのではないでしょうか。
終活でやるべきことは人それぞれ
ここで明確にしておく必要があるのは、終活の目的・対象は大きく言って2つあるということです。「残される家族のため」と「最期を迎える自分のため」です。
例えば「家族のため」には、残す遺産をきちんと“棚卸”して、間違っても争いにならないよう、「このように分けてもらいたい」という意思を示しておくべきでしょう。
また、自分のために、じっくり人生を振り返る時間を設けて、文章などに残すというのは、いかがでしょうか。それによって、「最後にやりたいこと」が見つかるかもしれません。
この「2つの目的」は、表裏一体のものでもあります。人生を振り返る中で、あらためて家族の歴史も蘇るはず。それは、「家族のために何をなすべきか」という意識に、直結するものだからです。
こう整理してみると、実際の課題は、それを行おうとする人や、その家族の置かれた状況などによってそれぞれ違ってくることもわかると思います。例えば、あちこちに不動産を持つ人ならば、それをどのように相続させるのかが重要テーマにならざるをえません。
終活は、「人生の最後にやるべきことをオーダーメイドで考え、実行していく作業」と言っていいでしょう。
終活のポイント・使えるツール
とはいえ、ただ「我流」で進めても、目的は果たせないかもしれません。終活には、押さえるべきポイントがあります。役に立つツールも増えました。それらを頭に入れたうえで、あなたに最適なカスタマイズを実行していきましょう。
エンディングノートを活用する
終活といえばエンディングノート…と言ってもいいほど、ポピュラーになりました。項目に従って記載していけば、人生の振り返りにもなり、親族に伝えるべきことも残せる優れものです。書式も自由ですが、親族に対して次のようなことは書いておくべきでしょう。
- 将来認知能力が衰えた場合の介護について。どのような介護を望むか(在宅か施設か)。
- 終末期医療について。延命治療を望むか否かを明確に書く。本人の意思が不明瞭になった場合は、家族がその可否を判断することになるため特に重要。
- 葬儀のやり方、お墓について。葬儀に呼んで欲しい人の連絡先や、宗派、菩提寺など必要な情報を書いておく。あるいは「家族葬にしてほしい」「どこそこへの散骨を望む」といった希望。
- 自分の財産。預貯金、現金、不動産、有価証券、保険、貴金属、価値あるコレクションなどをすべて書いておく。光熱費などの自動引き落とし口座や、年金が振り込まれる口座についても正確に記しておく
- 相続についての考え方。死後、誰にどれだけの財産を渡したいのか、なぜそうしたいのかの考え方。
- 家族などへのメッセージ。感謝の気持ち、「これからも仲良く」といったメッセージ。
ただ、エンディングノートに書かれたこと、例えば財産分与の方法などについて、法的拘束力が生じないことは、認識しておいてください。
また、エンディングノートを書かない場合にも、上記のうち必要だと思われる事柄については、確実に家族に伝える方策を取るべきでしょう。
身辺の整理=断捨離をする
有象無象の遺品を残されると、家族の心理的、経済的な負担が大きくなってしまいます。「自分にとって必要のないもの」は、少しずつ廃棄するなり人に譲るなりして、整理を進めましょう。
相続・相続税対策を万全に
終活のメインは、やはり相続(税)対策です。これを怠って、遺族の間に諍いが発生したり、支払いが困難なほどの相続税が課されたりしたら、残念ながらその終活は失敗だったということになってしまいます。
①財産を把握し、管理する
自分がどれだけの財産を持っているのか、実は正確に把握されていないケースが珍しくありません。次のようなものの金額や価値について、まずはしっかり掴んでおきましょう。
- 預貯金
- 自宅や所有する不動産
- 株式などの有価証券
- 生命保険
- 借入金やローン
- 保証債務
②遺産の分け方を考える
「私の遺産は、残された家族が自由に分け方を決めればいい」という姿勢が、「争続」の原因になりかねないことを認識すべきです。
言い方を変えれば、遺産相続についての故人の明確な遺志があれば、相続人は争いを起こしにくくなるのです。
ただし、明らかに誰かに有利だったり、逆に不利だったりすれば、諍いのタネになる危険もあります。遺留分(※)などにも留意しながら、みんなが納得できる分け方を考えましょう。
③遺言書を残す
遺産分割の方針が決まったら、その中身を中心とした遺言書の作成をお勧めします。エンディングノートと違って法的拘束力を持ちますから、原則としてあなたの意に沿った遺産分割が行われます。法定相続人以外の誰か、例えば世話になった人に遺産を分けることもできます。
遺言書には、すべてを自分で書く「自筆証書遺言書」や、公証人に作成・保管してもらう「公正証書遺言書」などの種類があります。2020年7月10日からは、自筆証書遺言書を法務局で預かってもらえる制度がスタートし、自筆でも偽造や紛失などのリスクがなくなりました。
相続などについて、家族と話し合う場を持つ
自分の死や遺産について家族に語るのは、実際には大変なことだと思います。しかし、それこそが円満な相続の秘訣だと、相続のプロは声を揃えるのです。自分がなぜそのように財産を分けたいのかを説明し納得を得ていれば、亡くなった後に争いの起こる余地はありません。
腹を割って話し合うことで、見えなかったことに気づく可能性もあるでしょう。
相続で税理士への依頼を検討中の方へ
終活はオーダーメード。ただし、外せないのは、残された家族が困らないようにしっかり相続対策を進めることです。必要に応じて相続に実績のある税理士などの専門家のアドバイスを受けるのもお勧めです。