そもそも何のために税理士に頼むのか?
何ごとも、安く済むに越したことはありません。相続税の税務申告についても、例えば他人に頼まずに自分でやれば、コストはかかりません。
では、なぜわざわざ税理士に依頼するのかといえば、
- 煩雑な作業を代行してもらい、申告期限(相続が発生してから10ヵ月)までに、問題のない申告を確実に済ませるため。所得税の確定申告などと違い、複数の納税者(相続人)がいて、相続する財産の評価なども素人には難しい
- そのうえで、できるだけ相続税を低く抑えるため
という理由があります。加えて、
- 争いを生みやすい相続を、第3者のアドバイスを基に進めることで、円満に完了させる
というのも、重要なファクターです。
税理士に対する報酬は、こうした相続人のニーズに対する対価であることを、最初に確認しておきましょう。何が言いたいのかというと、とにかく「安さ」ファーストで税理士を選んだりすると、そうしたニーズが十分満たされない危険性がある、ということなのです。
税理士報酬の目安は相続財産の1%
以上を踏まえたうえで、まず報酬の「目安」について述べておきたいと思います。
かつては、税理士法に報酬基準が定められていたのですが、2002年3月に撤廃され、現在はそれぞれの事務所が、自由に価格を決めています。「自由競争」の結果、現在は報酬基準に比べやや低めの価格設定になっており、「相続税申告の際の税理士報酬の目安は、相続財産の1%」と言われています。2,000万円の預金と5,000万円の不動産が残されたら、遺産は7,000万円、報酬の目安は70万円ということになります。
相続を扱う税理士事務所のホームページには大抵、報酬が明示されているはずです。1%を大きく超えているような場合は、相場より高いと言えるでしょう(勿論、その「相場より高い」報酬が、サービスの質と比例しているかしないかは、税理士事務所によりけりです)。
また、報酬が「基本料金」だけで済まない場合があることにも注意が必要です。相続は多様で、相続人の数が多かったり、不動産が何ヵ所にもあったりすると、それだけ申告に向けた作業量も多くなります。そうした場合に追加報酬を求められることが少なくありません。料金設定がどのようになっているのか、事前に詳しく調べておく必要があります。
追加報酬が発生するケース(報酬が高くなるケース)とは?
追加報酬が発生する可能性のあるケースについて、具体的にみておきましょう。
不動産が複数あるようなケース
相続財産に不動産(土地)が含まれている場合には、注意が必要です。土地は、同じ面積であっても、その形状(例えば四角形か、いびつか)や道路との接し方、あるいは自宅か賃貸アパートか…といったさまざまな条件によって、評価額がまるで変わってくるのです。
つまり、現金などと違い、やり方によって大きく評価額を下げられる=相続税を節税できる可能性があるのですが、その評価は申告する側で行う必要があります。
しかし、形状が複雑な土地など、評価が非常に難しいことも少なくありません。また、被相続人の残した土地が何ヵ所にもわたる場合にも、全ての評価額を算出するのには多くの手間や時間がかかるでしょう。そうしたケースでは、報酬が上乗せされる可能性があります。
非上場株式がある場合
遺産に上場会社の株式があった場合には、「相続があった日の終値」など、株式市場での取引価格を基にしたいくつかの指標から選んで、評価額を決めることができます。しかし、非上場会社の株式は市場で取引されていないため、「値決め」は簡単ではありません。
一般的には、
- 純資産価格方式(会社の純資産を基に算出)
- 類似業種比準方式(業種や規模などが似かよった株式公開会社の株価などとの比較で算出)
- 配当還元方式(会社の配当金額を基準として算出)
のいずれか、ないし複数を併用する形で評価額を決定します。いずれにしても、専門知識と煩雑な作業が必要になるため、報酬が加算される可能性があります。
申告期限まで時間がない場合
相続税の申告期限は、「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内」となっています。しかし、被相続人が亡くなった直後から、葬儀やさまざまな書類の提出などに忙殺され、時間はあっという間に過ぎていきます。遺産の洗い出しや、相続人同士の遺産分割協議に思いのほか手間取ったりしているうちに、期限が近づいてくるかもしれません。その結果、相続人だけで相続税の申告を行うのが困難になり、申告期限ギリギリになって税理士事務所に駆け込むケースもあります。
そのような場合には、税理士は“特急”で申告を行うことになりますから、やはり通常料金に加算した報酬が必要になる公算大といえるでしょう。
相続人が多い場合
相続人の人数が多くなるほど、単純に必要書類の量が増えます。相続税の計算、申告書の記入や申告・納税にかかわる手続きなども、人数に比例して煩雑になるわけです。そのため、相続人が一定人数以上になる場合には、報酬の加算を定めている事務所が珍しくありません。
「値段」だけではない、これだけの理由
くり返しになりますが、税理士報酬の安さだけに目を奪われるのは危険です。
実は、相続税の申告は、税理士なら誰でもできるというわけではありません。高い専門性が必要で、わかりやすく言えば「どの先生に頼むかによって、税金の支払い額に雲泥の差が出る」世界なのです。
問題は、節税だけではありません。もし、申告に誤り(過少申告)が見つかれば、追徴課税(※1)というペナルティを科せられることになります。相続税については、申告の10件に1件は税務署による税務調査(※2)が入り、そのうちの8割超が追徴課税となっています。決して他人ごととは言えないでしょう。
税理士報酬を「節約」した結果、相続税を多く支払うことになったり、ましてペナルティまで科されたりしたのでは本末転倒です。報酬は、以下のような点も考慮したうえで、総合的に判断すべきです。
遺産の分け方などについて、親身になって相談に乗ってくれるか
遺産は、分け方によって相続税が大きく違ってきます。ですから、節税をベースに置きながら、争いの起こらない分割の仕方を提案してくれる税理士かどうか…この点は重要です。「財産の分け方は親族で話し合ってください」というスタンスでは、相続を担当する税理士としては落第と言わざるをえません。
相続税に対する知識、申告の実績があるか
相続税には、要件を満たせば納税額を大きくカットできる「特例」なども設けられています。そうしたことについての知識や、多くの案件を受け持った実績のある税理士を選ぶべきでしょう。
相続財産についての調査をきちんと行ってくれるか
相続財産に不動産が含まれている場合には、その評価額によってやはり相続税の金額が大きく変わります。正確な評価のためには、現地調査が欠かせないのですが、それを省略する事務所も少なくないようです。
被相続人(亡くなった人)の預金通帳など、手元にある資料についても精査して、問題がないかどうか確認してもらう必要があります。ちなみに、税務署が調査に入る際には、あらかじめ金融機関から過去10年間の入出金記録を取り寄せてチェックしています。
税務署としっかり対応してくれるか
相続税に限りませんが、税務調査を避けるために、あえて積極的な節税策を避ける税理士も中にはいます。それでは納税者の不利益は避けられません。万が一税務調査になった場合に、納税者の側に立って毅然と対応してくれる先生なのかもポイントです。
※2税務調査:国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
相続に最適な税理士、どう探す?
現実には、ホームページなどで「相続に強い事務所」を探し、実際に面談のうえ、述べたような仕事をしてくれるのかどうかを見極める必要があります。ホームページで検索する場合には、キャッチコピーだけでなく、実際の「相続税申告件数」や「税務調査率」に着目しましょう。さきほども説明したように、平均の税務調査率は約10%ですから、それを指標にすれば、「どのくらい税務調査を受けにくい申告をしてもらえるのか」が、測れるはずです。
ただ、ネット情報からだけでは、「見えない現実」もあります。実績のある税理士紹介会社を使えば、ニーズに合った税理士を効率的に探すことができます。マッチしなければ、すぐに他の事務所を紹介してもらえるのも、メリットと言えるでしょう。
相続で税理士への依頼を検討中の方へ
相続税申告の税理士報酬の目安は、相続財産の1%となっています。ただし、税理士選びに際しては、初めからその金額にとらわれるのではなく、「どれだけの実績を持つ先生なのか」といった総合的な観点から判断するようにしましょう。
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