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相続税との「一体化」が迫る贈与税 「駆け込み贈与」は有効? それとも損になる?

相続税との「一体化」が迫る贈与税 「駆け込み贈与」は有効? それとも損になる?

2022年12月20日

毎年年末が近づくと、「駆け込み贈与」が増えるといわれます。「年間110万円まで」という非課税枠を使って確実に贈与しておこう、という意識が働くためですが、今年は特にその傾向が強まりそうです。現在、相続税・贈与税の「一体化」に向けた税制改正が議論されていて、そうなれば暦年贈与自体が大きく見直される(非課税枠が使えない)ことになるからです。早ければ来年にも改正が実行される可能性があるといわれる中で、思い切って贈与しておくという方針は、「あり」なのでしょうか? 簡単なシミュレーションと併せて解説します。

税制改正でどう変わる?

はじめに、議論されている税制改正の中身について概観しておきます

「暦年贈与」とは?

贈与税には、一般的な「暦年贈与(歴年課税)」と、「相続時精算課税」(非課税で贈与を受け、相続時に清算する)があり、今回見直しの対象として取り上げられているのは、前者です。

暦年贈与では、贈与税は、毎年1月1日~12月31日までに譲り受けた財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残りの金額(課税価額)に、税率を掛けて算出します。つまり、贈与額が年間に110万円以内であれば、贈与税はかかりません。そのため、まとまった贈与をしたい場合には、この「非課税枠」を使って何年にもわたって財産を渡していくという方法が、節税策の定番として用いられているのです。

これを実行すれば、親の財産を減らすことができますから、将来発生する相続税の減額につながります。特に相続財産が高額なケースでは、一度に相続税を支払うよりも、トータルで大幅な節税が可能になるというわけです。

相続税・贈与税「一体化」の意味

今回の改正論議の目的は、このような「基礎控除を活用した贈与によって財産を減らし、将来の相続税を減額する」という形の節税(税負担回避)にブレーキをかけることです。そのために、暦年贈与の制度そのものを見直して、相続税に「一本化」しようというわけです。

20年末に発表された21年度税制改正大綱には、「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、(略)格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」ことが明記されました。

その「諸外国」の制度がどうなっているかというと、アメリカでは、「遺産課税方式」といって、相続が発生すると、その時点での財産に過去の贈与分をすべて合算し、遺産税(相続税)が計算されます(一生累積課税)。また、ドイツやフランスは「遺産取得課税方式」で、相続財産に相続発生前の一定期間内(ドイツ10年、フランス15年)の贈与額を加算して、相続税を計算します。

日本の制度が具体的にどうなるのかはまだ明らかにされていませんが、現在「相続前3年間」となっている「持ち戻し」(贈与された分を相続財産に加算)の期間を、ドイツ、フランス並みに延長する、という案が有力視されています。延長期間にもよりますが、実質的に暦年贈与を使った節税スキームを使うのは、困難になる公算大といえるでしょう。

資産によっては「駆け込み」にメリット

贈与税vs.相続税のシミュレーション

20年から本格的な検討が行われているこの改正は、最速で23年から実行に移される見通しだとされます。すなわち、今年が暦年贈与を利用できるラストチャンスになるかもしれません。こうした状況を受け、雑誌やネット上などでは、「制度がなくなる今のうちにできるだけ贈与を」「焦って贈与すると損になる」と、様々な見解が飛び交っています。

特に気になるのは、もう時間がないからと、110万円の基礎控除額を超えて贈与を行った場合に、相続税の支払い額と比べて得か損かということ。実際はどうなのでしょうか?

以下の計算サイト(「keisan」)を使って、シミュレーションしてみました。 ・相続税 相続税 - 高精度計算サイト (casio.jp)
・贈与税(暦年課税) 贈与税(暦年課税) - 高精度計算サイト (casio.jp)

贈与が得か損かは、次の両者の比較で検討します。
・贈与を行った:贈与税額+贈与を行った(贈与分の資産が減少した)場合の相続税額=A
・贈与を行わなかった:贈与を行わなかった場合の相続税額=B
A<Bならば、贈与が得。B-Aが贈与を行ったことによる「節税額」ということになります。

なお、贈与税は、父母や祖父母などの直系尊属から贈与により財産を取得した場合の「特例贈与財産」として計算します。

仮に「親の資産2億円/配偶者なし」で、子どもに1,000万円を贈与するケースについてみてみましょう。

【例①】子1人に贈与
B 4,860万円(遺産額2億円の相続税)
A 177万円(1,000万円を贈与した場合の贈与税)+4,460万円(贈与額抜きの遺産額1億9,000万円の場合の相続税)=4,637万円
B-A=223万円

このケースでは、贈与したほうが223万円の節税になります。

【例②】子2人に計2,000万円を贈与
B 3,340万円(遺産額2億円の相続税)
A 354万円(1,000万円を贈与した場合の贈与税177万円×2名分)+2,740万円(贈与額抜きの遺産額1億8000万円の場合の相続税)=3,094万円
B-A=246万円

このケースでは、贈与したほうが246万円の節税になります。

同様の計算で、「親の資産3億円/配偶者なし」で、子どもに贈与を行う場合には、贈与額や子どもの人数によって、次のような節税が可能になります。

〈1人当たりの贈与金額〉 〈1人に贈与〉 〈2人に贈与〉
500万円 176万5,000円 303万円
1,000万円 273万円 446万円
1,500万円 309万円 468万円
2,000万円 314万5,000円 429万円
3,000万円 314万5,000円 309万円

ちなみに、同様の条件で基礎控除ギリギリの110万円の贈与を行った場合、節税額は子ども2人への贈与で88万円にとどまりました。暦年贈与が“風前の灯”となった今、基礎控除にとらわれず「駆け込み贈与」したほうが、相続税の納税よりも得になる傾向がある、という結果になりました。

「駆け込み贈与」の注意点

ただし、贈与したほうが必ず得になるというわけではありません。例えば、上の条件で子ども2人に4,000万円ずつ贈与した場合、計算結果は以下のようになります。

B 6,920万円(遺産額3億円の相続税)
A 3,060万円(4,000万円を贈与した場合の贈与税1,530万円×2名分)+3,940万円(贈与額抜きの遺産額2億2000万円の場合の相続税)=7,000万円
B-A=-80万円

このケースでは、贈与を行うと80万円損することになるのです。説明してきたのは、あくまできりのいい数字を当てはめたシミュレーションですから、実際に多額の贈与を行う際には、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

また、例えば贈与は、贈る方はもちろん、もらう方にも「確かに贈与を受けました」という意思のあることが条件です。「節税」にとらわれるあまり、形だけの贈与を行っても、税務署に認められない可能性があります。税務当局も、このような形での駆け込み贈与が行われることは十分認識していますから、そうした点にも注意が必要です。

まとめ

相続税・贈与税「一体化」に向けた税制改正が議論されており、早ければ来年にも暦年贈与が使えなくなる可能性があります。金額や子どもの人数にもよりますが、基礎控除を気にせず贈与したほうが、有利になる傾向もみられます。ただし、「駆け込み贈与」を行えば、必ず得をするとは限らない上、贈与自体が認められない可能性もあります。不安がある場合には、専門家に相談するようにしましょう。

この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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