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「おしどり贈与」とは?メリット・デメリット、必要な手続きなどを解説

「おしどり贈与」とは?メリット・デメリット、必要な手続きなどを解説

2023年5月11日

婚姻期間が20年以上の夫婦が使える「贈与税の配偶者控除の特例」、通称「おしどり贈与」をご存知でしょうか? 「居住用不動産、またはその購入資金であること」などの要件を満たせば、2,000万円まで非課税で生前贈与できるという非常に有利な制度なのですが、利用には注意点もあります。おしどり贈与の仕組み、メリット・デメリットを中心に解説します。

おしどり贈与の概要

2,000万円まで非課税で贈与できる

「年に110万円までの贈与には、税金がかからない」という話を聞いたことがあると思います。それは、贈与税の基礎控除額のことです。暦年贈与(暦年課税による贈与)を行う場合、この基礎控除額を上回った金額に贈与税が課税されます。

おしどり贈与では、それとは別に2,000万円まで、配偶者に非課税で財産を渡すことができます。つまり、最大で2,110万円までの贈与が非課税になるのです。

ただし、この制度の適用を受けるためには、次のような要件を満たす必要があります。

おしどり贈与の要件

(1)夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
「おしどり」という名称通り、贈与の相手は配偶者であり、「婚姻期間が20年超」という条件が付きます。子どもなどへの贈与には使えません。同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。

(2)配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること
「居住用不動産」とは、「専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利または家屋で国内にあるもの」とされています。要するに、「国内にある自宅」で、別荘などには適用されません。

(3)贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
住む予定のない不動産にも適用されません。

おしどり贈与のメリット・デメリット

おしどり贈与のメリットは?

①相続税対策になる
おしどり贈与を行うと、贈与者(財産を贈る人)の財産を2,000万円減額することができます(フルに使った場合)。贈与者の相続の際には、それだけ相続税の負担が減ることになります。おしどり贈与の結果、贈与者の遺産が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を下回れば、相続税は非課税になります。

暦年贈与には、贈与者が亡くなった日から過去3年の間に贈与した財産に関しては、相続財産に「持ち戻し」て相続税を計算しなければならない、という規定があります。つまり、この間に行われた贈与は、否応なく相続財産に加算されてしまうわけですが、おしどり贈与に関しては、その対象外です。相続財産への持ち戻しは行われません。なお、この持ち戻し期間については、2024年から順次3年から7年まで延長されることになっています。

②自宅の売却時に「節税」できる
自宅として利用していた居住用不動産を売却する際には、発生した譲渡所得が最高3,000万円まで非課税になる譲渡所得控除が受けられます。おしどり贈与で、自宅の持分の一部を贈与し、夫婦の共有名義にしておくと、夫婦それぞれが3,000万円ずつの控除を受けることができます。

③配偶者の住居を確保できる
主な相続財産が自宅の場合などには、配偶者に生前贈与しておくことで、相続時のトラブルで配偶者が住むところを失う、といった事態を防ぐことができます。

デメリットもある

①不動産取得にかかる税金は相続より高い
購入資金ではなく不動産を贈与した場合、「不動産取得税」「登録免許税」の額によっては、将来の相続での相続税より高くなる可能性があります。

不動産を取得したときに課税される「不動産取得税」は、贈与による取得だと「固定資産税評価額×原則税率4%」ですが、相続で取得した場合は非課税です。また「登録免許税」も、贈与は「固定資産税評価額×2%」、相続は「同0.4%」となっており、不動産取得に関わる税負担は、贈与の方が重いのです。

②贈与された配偶者が先に亡くなる可能性がある
受贈者(贈与された人)である配偶者が先に亡くなった場合、不動産は受贈者の相続財産となり、非課税で贈与したものに相続税がかかる可能性があります。子どもなど他の相続人がいない場合には、財産は贈与者に戻ってきます。そうなると、おしどり贈与の利用時に支払った不動産取得税などの費用負担は、無意味だったことになります。

③相続税にも「配偶者控除」がある
相続税には、被相続人(亡くなった人)の配偶者であれば、「1億6,000万円」または「法定相続分」のどちらか多い方まで非課税で相続できる「配偶者控除」があります。これを使えば、おしどり贈与の2,000万円に比べ、はるかに大きな金額の財産を非課税で受け取ることができるわけです。また、自宅の土地部分の相続については、要件を満たすことで、その評価額を8割減額できる「小規模宅地等の特例」を使うこともできます。

おしどり贈与では、2,110万円を超えると、その分に贈与税が課税されます。また、今述べたように、不動産取得に関わる税金も割高になります。

④二次相続で問題になることがある
両親のどちらかが亡くなって発生するのが一次相続、残った親が亡くなるのが二次相続です。例えば、おしどり贈与で妻が自宅をもらい、さらに夫の相続のときに相続税の配偶者控除を活用して多くの財産を受け取ることにすれば、一次相続の相続税を大きく減額することができるでしょう。ただし、そのようなやり方で、残った親に多額の財産が集中していると、二次相続で子どもが納める相続税も大きく膨らみます。

おしどり贈与はどんな場合に使う?

利用には慎重な検討が必要

こうしたデメリットを考えると、「結婚20年が過ぎたし、せっかく非課税なのだから、とりあえず妻に自宅を渡しておこう」という発想で行動するのは、やめたほうがいいでしょう。相続も含めたメリット・デメリットを慎重に比較検討したうえで、「自分たちにとって有利な場合には使う」という姿勢が大事になります。

有利・不利は個々の状況で違ってきますが、一般的には、次のような場合におしどり贈与を使う意味が高まるといえるでしょう。

おしどり贈与が有効なケース

●将来の自宅売却を考える
メリット②のケースです。例えば、自宅の売却時の所得金額が6,000万円だった場合、どちらかの単独名義であれば、譲渡所得控除は3,000万円ですから、残りの3,000万円に所得税と地方税合わせて約20%の税率で課税されることになります(不動産の所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」の場合)。税額は、約600万円です。

一方、おしどり贈与によって、夫と妻の持分が50%ずつになっていた場合には、それぞれ3,000万円ずつの控除が受けられるため、所得税などは非課税になります。

●自宅をめぐり相続トラブルが予想される
配偶者に確実に自宅を相続させたい場合には、おしどり贈与が有効です。もちろん、遺言書で相続財産を指定することはできますが、生前に渡しておけば、より安心できるはずです。

●明らかに相続税の減額効果がある
例えば、将来自宅の値上がりが確実な場合には、今のうちに贈与しておくことで、相続税の節税につながるでしょう。

●子どもに相続税を払わせたくない
子どもには、配偶者控除のような特例はありません。ただ、さきほども述べたように、おしどり贈与で贈与者の財産を圧縮した結果、相続時の遺産が相続税の基礎控除額に収まれば、子どもも相続税の納税は不要になります。

おしどり贈与の手続き

必要書類は?

おしどり贈与を利用する場合、必要になるのは、次の書類です。

  • ①財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本又は抄本
  • ②財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
  • ③居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの
金銭ではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、上記の書類のほかに、その居住用不動産を評価するための書類(固定資産評価証明書など)が必要となります。

非課税でも贈与税の申告が必要

おしどり贈与を利用するためには、贈与税の申告書国税庁ホームページよりダウンロード可能)に必要事項を記入し、今の書類とともに、受贈者が住む地域を管轄する税務署に申告を行う必要があります。非課税になる場合でも申告が必要ですから、注意してください。

申告には贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までという期限があります。贈与税が発生する場合には、納税もこの期間に行わなくてはなりません。

まとめ

婚姻期間が20年を過ぎた夫婦は、配偶者に住宅やその購入資金を贈与する場合に、2,000万円まで非課税となるおしどり贈与を利用することができます。ただ、この制度にはデメリットもありますから、使う前に十分な検討が必要です。迷うことがあったら、税のプロである税理士に相談することをお勧めします。

この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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