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相続した「いらない土地」を国が引き取ってくれる 2023年4月27日施行の「相続土地国庫帰属法」を解説
2023年5月29日
被相続人(亡くなった人)の残した相続財産は、好ましいものばかりとは限りません。固定資産税や管理費用が嵩む「いらない土地」は、その最たるものといえるでしょう。そのような「不良債権」を国に引き取ってもらい、管理責任からも解放される「相続土地国庫帰属法」が、4月27日から施行されました。該当の不動産を所有する相続人にとっては朗報ですが、適用には条件があります。必要な手続き、制度のメリット・デメリットなどを含めて解説します。
「相続土地国庫帰属法」とは?
「所有者不明土地」の抑制を目指す“国策”
最初に、不要な土地を引き取ってくれる相手=国が、どんな「気持ち」でこの新たな制度をつくったのかをみておきましょう。
相続土地国庫帰属法は、第1条で「所有者不明土地の発生の抑制を図ること」と、その目的をうたっています。「所有者不明土地」とは、「相当な努力を払ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地」と定義されます。
少子化の進行、いわゆる「おひとりさま」の増加などを背景に、相続を一つのきっかけに全国的にそのような土地が激増し、防犯や周辺環境への影響といった観点から社会問題化しました。新法の制定は、相続人にとって不要な土地を一定の条件の下で国が引き取ったうえで再利用を促す、というスキームでその問題に対処しようという“国策”なのです。
「空き家」対策、「相続登記」の厳格化も
この間、同様の目的でいくつかの対策が打ち出されています。2015年には、「空き家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。「空き家」の所有者に対する管理責任を厳格化し、問題のある「特定空き家」に認定されると、経過措置を経て固定資産税が6倍に引き上げられ、最終的には「行政代執行」の対象とされます。
なお「空き家」は、そのままでは、今回の「国庫帰属」の対象にはなりません。これについては、後述します。
また、24年4月からは、罰則規定のなかった「相続登記」(相続した不動産の名義変更)が義務化されます。相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科されます。
制度が使えるのはどんな人・土地か?
では、今回の制度について、具体的に説明していきましょう。
申請の対象になる人
まず、申請が可能な人についてですが、法律名にあるように、「相続または相続人に対する遺贈(遺言書による財産の譲渡)によりその土地の所有権を取得した人」が対象です。売買などで積極的に取得した土地については、この制度は使えません。
複数の人による共有の土地については、次のようなルールがあります。
- ・共有者の全員が共同して申請を行うことによって、制度を活用することができる。
- ・土地の共有持分を相続以外の原因により取得した人(売買により共有持分を取得した人など)がいる場合でも、相続で取得した共有者がいるときは、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、制度を活用できる。
なお、この制度の開始前に相続によって土地を取得した人も、適用の申請をすることが可能です。
「国家帰属」が可能な土地
とはいえ、「相続したけれど、不要な土地」というだけでは、国に引き取ってもらうことはできません。それが可能な土地を一言でいえば、「申請者の所有権以外に権利設定がなく、引き取った後、管理・処分のしやすい更地」ということになるでしょう。
政府(法務省)は、「引き取ることができない土地の要件の概要」を、次のように明示しています。つまり、これらの要件に一切該当しない土地が制度の対象になるということです。
- ×申請の段階で却下となる土地
- A 建物がある土地
- B 担保権や使用収益権が設定されている土地
- C 他人の利用が予定されている土地
- D 土壌汚染されている土地
- E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
- ×該当すると判断された場合に不承認となる土地
- A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
例えば、住む予定のない実家を相続した場合、そのままでは申請自体が不可。国に引き取ってもらおうと思ったら、少なくとも家を解体・撤去して更地にしておく必要があるわけです。
申請の方法
制度の申請先
申請先は、国家帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)となります。法務局・地方法務局の支局・出張所では、承認申請の受付はできません。
上記の窓口に直接提出するほか(家族でも可)、土地の所在する法務局の本局に必要書類を郵送することでも申請できます。
また、全国の法務局・地方法務局において、制度の利用に関する相談を受け付けています。土地が遠方にある場合など、承認申請先の法務局・地方法務局(本局)への相談が難しい場合には、最寄りの法務局・地方法務局(本局)でも可能です。
制度に対する相談について、詳しくは法務省のサイトをご参照ください。
必要書類
申請書には、
・承認申請者の氏名又は名称、住所
・承認申請に係る土地の所在・地番・地目及び地積(すべて登記簿謄本で確認が可能です)
を記載します。
添付書類は、以下の通りです。
◆すべての申請者が添付必須
① 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
② 承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
③ 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
④ 申請者の印鑑証明書(市区町村作成)
◆遺贈によって土地を取得した相続人が添付必須
⑤ 相続人が遺贈を受けたことを証する書面(具体例)
・遺言書
・亡くなった人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除籍謄本又は改製原戸籍謄本
・亡くなった人の除かれた住民票又は戸籍の附票
・相続人の戸籍一部事項証明書
・相続人の住民票又は戸籍の附票
・相続人全員の印鑑証明書
◆承認申請者と所有権登記名義人が異なる場合に添付必須
⑥ 土地の所有権登記名義人(ないし表題部所有者)から相続又は一般承継があったことを証する書面(具体例)
・亡くなった人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除籍謄本又は改製原戸籍謄本
・亡くなった人の除かれた住民票又は戸籍の附票
・相続人の戸籍一部事項証明書
・相続人の住民票又は戸籍の附票
・遺産分割協議書
◆任意で添付する書面
・固定資産税評価額証明書
・承認申請土地の境界等に関する資料
手数料
審査には、手数料が必要です。具体的な金額は、今後成立する政令で定められる予定です。手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果却下・不承認となった場合でも、返還されません。
国庫帰属までの流れ
手続きのフロー
承認申請→土地を国に引き渡すまでの流れは、以下の通りです。
① 法務局に申請
説明した要件を満たすことを確認したうえで、法務局に申請します。
② 法務局担当者による審査
法務局で申請に必要な書類が受理されると、法務局の担当官が書類審査をしたうえで、必要に応じて実地調査が行われます。調査を拒んだりすれば、申請は受理されないと考えてください。審査の結果、申請が却下または不承認となった場合には、その旨が申請者に通知されます。
③ 負担金の納付
審査の結果、申請が承認されると、その旨の通知が申請者に届きます。国庫帰属のためには、後述する負担金の納付が必要になり、国に引き渡す前に支払う必要があります。納付期限は、法務局の通知から30日以内です。この期限を過ぎてしまうと、承認は無効となりますから注意してください。
④ 土地が国庫帰属
申請した土地の所有権は、負担金の支払いと同時に国へ移ります。
負担金とは?
この制度では、国庫帰属により国が管理をすることになった土地に関して、申請者が国に生ずる管理費用の一部を負担することになっています。負担金は、「国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額」とされています。
負担金の概要は、土地の種目や区域などによって、以下のようになっています。
■宅地
面積にかかわらず20万円。ただし、都市計画法の市街化区域と用途地域にある宅地は、面積によって負担金額が変わる。
■田、畑
面積にかかわらず20万円。ただし、市街化区域、用途地域、農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域、土地改良事業等の施行区域に当てはまる地域の田、畑を申請した場合には、面積によって負担金額が変わる。
■森林
面積に応じて算定。
■その他(雑種地、原野など)
面積にかかわらず20万円。
負担金について、詳しくは法務省の「相続土地国庫帰属制度の負担金」をご参照ください。
制度を使うメリット・デメリット
この制度を利用した場合のメリット・デメリットを整理すると、以下のようになるでしょう。
メリット
(1)「いらない土地」にかかるお金や管理の負担から解放される
有効活用できる土地は利益をもたらしますが、放置するだけならば、一転して負の財産になるしかありません。国に引き取ってもらえば、固定資産税や管理にかかるコストの心配はなくなります。
(2)苦労して引き取り先を探す必要がない
自分にとって不要な土地は、他人から見ても魅力に乏しいことが多いでしょう。売却しようと思っても、なかなか買い手が見つからず、結果的に長く“塩漬け”になることが珍しくありません。この制度を利用することで、要件を満たせば、確実に引き取ってもらうことができます。
今も述べたように、国庫帰属には要件があります。逆に、要件さえ満たせば、国は引き取りを拒否することができないことになっています。
(3)相続放棄する必要がなくなる
「いらない土地」を相続したくなかったら、「相続放棄」を申請するという方法もあります。ただし、その場合は、他の財産も相続することができなくなります。この制度を利用することで、他の財産を引き継いだうえで、不要な土地だけを引き取ってもらえます。
(4)「国に渡す」という安心感がある
先祖代々の土地を手放すような場合、知らない人の手に渡るのは、やはり抵抗感があるかもしれません。その点、相手が国であれば、安心です。土地が悪用されたり、管理が行き届かずに近隣地域に迷惑をかけたり、といったこともないでしょう。
(5)農地や山林も引き取りの対象である
農地は農地法という法律で取引が厳しく制限されているため、引き取り手を探すのが困難です。山林についても、管理が大変、災害リスクがあるなどの理由で、容易に売却できる状況にはありません。しかし、この制度には、農地や山林だから引き取りができないというルールはなく、宅地などと同じように申請を受け付けてもらえます。
デメリット
(1)引き取りには要件がある
どんな場合でも引き取ってもらえるわけではなく、説明したような申請者、申請する土地についての要件をすべて満たす必要があります。
(2)負担金などのコストが発生する
土地は、買い手が付けば、まとまったお金を手にすることができます。しかし、国に引き取ってもらう場合には、反対に手数料や負担金の支払いが必要になります。場合によっては、売却できた土地をお金を払って国に渡してしまった、という結果を招くかもしれません。
引き取ってもらいたい土地に建物や有体物がある場合、その解体や除去のためのコストも発生します。
(3)時間や労力が必要
申請書類の作成や添付書類の準備などには手間がかかり、専門知識も必要になります。また、申請後の審査で要件を満たしていることを確認するため、実際に土地の引き渡しが完了するまでには、それなりの時間を要するものと考えられます。国が審査する際に現地調査を行う際は立会を求められる可能性もあるでしょう。
まとめ
相続土地国庫帰属法の施行により、要件を満たせば、相続した不要な土地を国に引き取ってもらえることになりました。一定のコストは覚悟しなくてはなりませんが、処分に困る土地を抱える場合には、利用を検討してみてはいかがでしょうか。