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「特別養子縁組」とは 相続で注意すべき点を中心に解説
2023年9月25日
養子縁組に「普通養子縁組」と「特別養子縁組」があるのをご存知でしょうか。共に「養親と養子との間に法律上の親子関係を作り出す制度」(法務省)ですが、縁組の要件や法的効果などに違いがあります。ポイントになるのは、「実の親と養子の関係」で、それにより相続にも影響を与えることになるのです。わかりやすく解説します。
特別養子縁組とは
養子縁組の制度には、次の2つがあります。
- ①縁組後も実親子関係が存続する「普通養子縁組」
- ②縁組により実親子関係が終了する「特別養子縁組」
②の特別養子縁組は、「こどもの福祉の増進を図るために、養子となるこどもと実親との間の法的な親子関係を解消し、養子と養親との間に(実の親子と同様の)親子関係を成立させる制度」(法務省)です。
例えば、実親から虐待や育児放棄などに遭っていたり、様々な事情で実親の育児が困難になっていたりする子どもについて、養親の下での健全な養育を図ることを目的として創設された制度で、普通養子縁組とは趣旨が異なります。原則として、養子縁組後の離縁も禁止されています。
普通養子縁組との制度の違いを解説
両者の違いを詳しくみていきましょう。
普通養子縁組
通常、養子縁組といえば、この普通養子縁組を指します。普通養子縁組をすると、養親と養子の間に法律上の親子関係が生じます。ただし、養子縁組によって実の親との親子関係が消滅するわけではありません。養子には、法的に2組の親(実親と養親)がいることになり、両方の親に対し、相続権や扶養を受ける権利(義務)を持つことになるのです。
- 【要件】
- ・養親は20歳以上(2022年4月1日以降、成人年齢が18歳に引き下げられましたが、養親の年齢については変更ありません)、もしくは婚姻していること
- ・養子が養親にとって年長者でないこと(自分より年下の人を養子にすることはできません)
- ・養親本人と養子本人の合意が必要。養子が15歳未満の場合には、養子の法定代理人(親権者等)が、養子本人に代わって養子縁組の合意を行う
- ・養親または養子に配偶者がいる場合には、原則として、その配偶者の同意が必要
- ・市区町村の役所への届出によって効力を生じる など
- 【主な効果】
- ・養子の氏が養親の氏に変更される
- ・養親が死亡したときは、養子は養親の相続人になる。養子が死亡したときは、その養子に子や孫などがいなければ、養親が養子の相続人となる
- 【戸籍の記載】
- ・「養子」「養女」
- 【離縁】
- ・養親と養子は、協議により離縁することができる
- ・養親または養子は、養子縁組を継続し難い重大な事由などがあれば、家庭裁判所に離縁の訴えを提起することができる など
特別養子縁組
普通養子縁組と異なり、成立すると、実親と養子との法的な親子関係が消滅します。その結果、養子は実親の財産を相続する権利や実親から扶養を受ける権利(義務)を失うことになります。
このように、特別養子縁組は、養子になる子どもに対し大きな影響を及ぼすことから、普通養子縁組に比べ厳しい要件が定められており、成立させるには家庭裁判所の審判が必要となっています。特別養子縁組の成立のためには、養親となる人が養子となる子どもをあらかじめ6ヵ月以上監護しなくてはなりません。家庭裁判所は、その監護の状況なども考慮して、特別養子縁組の成否を決定します。
- 【要件】
- ・実親の同意があること(実親が意思表示できない、あるいは養子となる子どもの利益を著しく害しているといった事情があれば、同意は不要です)
- ・父母による監護が著しく困難または不適当であることなどの特別の事情があり、子どもの利益のために特に必要があること
- ・養親は夫婦であること(独身者は、特別養子縁組の養親になることはできません)
- ・養親となる夫婦の少なくともどちらか一方が25歳以上で、他方が20歳以上であること
- ・原則として養子が15歳未満であること
- ・家庭裁判所の審判により成立する など
- 【主な効果】
- ・養子の氏が養親の氏に変更される
- ・父母による監護が著しく困難または不適当であることなどの特別の事情があり、子どもの利益のために特に必要があること
- ・養親が死亡したときは、養子は養親の相続人になる。養子が死亡したときは、その養子に子や孫などがいなければ、養親が養子の相続人となる。養子は、実親の相続権を失う など
- 【戸籍の記載】
- ・「長男」「長女」など
- 【離縁】
- ・原則として不可
特別養子縁組で相続はどうなる?
説明したように、養子縁組により法的な親子関係が生まれたり消えたりしますが、その結果、養子を中心に相続が影響を受けることになります。ポイント、注意点をまとめました。
養親との関係は、普通養子縁組も特別養子縁組も変わらない
養子となった子どもは、相続において、養親の実子(嫡出子)と同等に扱われます。
養親が亡くなった場合、養子は相続人です。反対に、養子が先に亡くなった場合には、養親は相続順位2位の相続人となります。養子に子どもや孫(1位の相続人)がいなければ、養子の財産を相続することができます。
この養親と養子の関係は、普通養子縁組でも特別養子縁組でも変わりません。
特別養子縁組だと実親の相続人から外れる
普通養子縁組では、実親との法的な親子関係が継続されます。そのため、相続については、養親の場合と同じ。実親が亡くなった場合にも、養子になった子どもはその相続人となるのです。子どもが亡くなれば、実親は第2位の相続人です。
一方、特別養子縁組だと、実親との親子関係は消滅します。養子縁組が成立後に実親が亡くなった場合は、養子は相続人にはなりません。養子が亡くなっても、実親は相続人ではありません。ここが、普通養子縁組との決定的な違いなのです。
なお、相続では、被相続人(亡くなった人)の孫や甥、姪の立場で相続人になるケースがあります。しかし、実親との法的な関係が消滅した時点で、実親の血族とも無関係となるため、そのような立場で相続人になることもありません。
相続税の計算上、扱いに違いがある
養子縁組は、相続対策(相続人の増員)として利用されることもあります。相続税には、基礎控除があり、被相続人の遺産総額からその分を引いた金額に課税されます(遺産額が基礎控除の範囲ならば、非課税になります)。この基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、相続人の人数が多いほど基礎控除額が増える(=節税になる)わけです。
ただし、普通養子縁組では、相続人にできる養子の人数は、実子がいない場合で2人、実子がいる場合には1人までとされています。
他方、特別養子縁組では、相続人としての扱いは実子と同じ、すなわち「人数制限」はありません。とはいえ、特別養子縁組の要件や手続きの厳格さを考えると、この仕組みを相続対策に使うというのは、現実的ではないでしょう。
特別養子縁組で「子どもを授かる」という選択肢がある
特別養子縁組は、厳しい生活環境に置かれている子どもの健全な育成を図るためのものといいましたが、同時に、子どもに恵まれない夫婦が「実の子」を授かることのできる制度でもあります。
繰り返しになりますが、特別養子縁組では、実親との法的な親子関係が終了し、養親と子どもとの間に新たに法律上の親子関係が結ばれます。戸籍上も実子と同様に扱われることになります。法的な関係が切れない普通養子縁組とはそこに違いがあり、どうしても子どもが欲しいものの、不妊治療を行っても成果の出ない夫婦などにとっては、最後の望みの綱ともいえます。
ただ、2021年の特別養子縁組の成立件数は683件で、欧米諸国などに比べまだまだ少ないのが現状のようです。
事実婚やLGBTカップルは、特別養子縁組で子を持てる?
では、事実婚やLGBTのカップルが、この特別養子縁組を行うことはできるのでしょうか? 答えは、「残念ながらノー」です。さきほどの要件にあるように、特別養子縁組の養親は、夫婦(法律婚)でなくてはならないのです。
事実婚、LGBTカップル、独身者などが子どもを持ちたい場合には、普通養子縁組、あるいは里親制度を利用することになります。里親制度は、養子縁組に似た制度ですが、法的な親子関係は生じないところに違いがあります。
まとめ
養子縁組には、通常の普通養子縁組と特別養子縁組があり、後者の場合、実親との親子関係が解消されます。養子にとっては、養親の下で安心して生活を送れるというメリットがありますが、実親の相続人からは外れることになります。