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亡くなった親族の預貯金を引き出すことは可能?遺産分割前に払戻しが受けられる制度があります
2023年10月19日
ある人が亡くなった場合、その人の預貯金は、原則として遺産分割が終わるまで、特定の相続人が単独で引き出すことはできません。 無理に引き出そうとしても、金融機関がその人の死亡を確認した時点で、口座は凍結されてしまいます。しかし、そうなると、後で説明するような不都合が生じることもあります。そこで設けられたのが、「遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度」です。どのような制度なのか、必要な手続きや利用の注意点などと併せて解説します。
制度ができた背景
人が亡くなって相続になると、被相続人(亡くなった人)の財産は、遺言書や遺産分割協議(相続人同士の話し合い)によって分け方が決められます。この遺産分割が終わるまで、特定の相続人が他の相続人の承諾のないまま、一部でもその財産を取得したり、処分したりすることはできません。勝手に遺産を動かすようなことをすれば、相続トラブルの原因となるからです。
被相続人が残した預貯金(相続預貯金)も例外ではありません。2016年の最高裁の決定では、①相続預貯金は遺産分割の対象財産に含まれる、②共同相続人による単独の払戻しができない――ことが明示されました。実は、この決定が出される前は、遺産のうち預貯金に関しては、各相続人がその相続割合に応じて払戻しを請求することができたのですが、それはNGとされたのです。
ただし、そうなると、現実には困ったことも起こります。例えば、家族が被相続人の収入で生活していた場合などには、急にその口座からお金が引き出せなくなっては、一時的にせよ、暮らしに支障をきたしかねません。被相続人が借金を背負っていた場合、すぐに返済しようと考えても、相続預貯金からは支出できないことになります。また、相続預貯金から故人の葬儀費用を支払おうと思っても、難しくなるでしょう。
こうした不都合を解消するために、国は民法を改正し、19年7月からは、各相続人が遺産分割終了前でも相続預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。ただし、払戻し可能額には、上限が設けられています。
制度には2つある。それぞれについて解説
この払戻し制度には、家庭裁判所の判断に基づくものと、そうでないものの2種類があります。それぞれについて、制度の概要、必要書類などを説明しましょう。後者から述べることにします。
家庭裁判所の判断を経ずに払戻し可能な制度
それぞれの相続人は、相続預貯金のうち、口座ごと(定期預金の場合は明細ごと)に、次の計算式で求められる額について、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
●計算式:相続開始時の被相続人の預貯金の額×1/3×払戻しを求める相続人の法定相続分
法定相続分とは、民法が定めた相続人それぞれの遺産の取得割合のことです。例えば、相続人が、配偶者と子ども2人だったら、配偶者と子どもは1/2ずつ(子ども1人は1/4)になります。
ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)からの払戻しは、150万円が上限です。
- 【必要書類】
- ・被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
- ・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- ・預金の払戻しを求める人の印鑑証明書
なお、必要書類に関しては、次の家庭裁判所の判断に基づく払戻しも含めて、金融機関で異なる場合があります。利用する際には、各金融機関に確認するようにしましょう
家庭裁判所の判断に基づいて払戻し可能な制度
一方、家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合には、各相続人は、家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相続預金の全部または一部を仮取得して、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。
遺産分割の調停とは、相続人同士の遺産分割協議では話がまとまらない場合に、家庭裁判所で第3者の調停委員を交えて行われる手続きのことです。それでもまとまらない場合には、裁判官による審判の手続きに進みます。
払戻し可能額には、計算式のような機械的な上限はなく、「裁判所が認めた金額」となります。ですから、1つの金融機関から150万円を超える払戻しが受けられることもあります。ただし、払戻しは、生活費の支払いといった事情により、相続預貯金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害しない場合に限られる、とされています。
- 【必要書類】
- ・家庭裁判所の審判書謄本(審判書に確定表示がない場合は、さらに審判確定証明書も必要)
- ・預金の払戻しを求める人の印鑑証明書
制度利用の際の注意点は
相続預貯金をどうしても引き出して使いたい場合には、ありがたい制度ですが、次のような注意点もあります。
「必要な金額」が必ず確保できるとは限らない
説明したように、家庭裁判所の判断に基づく場合には「裁判所の判断」、そうでない場合には「計算式などによる上限」で、払戻し可能額が決まります。
後者の場合、例えば、相続人が長男、長女の2人(法定相続分は1/2ずつ)で、亡くなった親がA銀行に600万円、B銀行に1,200万円の預金を持っていたとします。長男が単独で払戻しを受けられる金額は、
・A銀行:600万円×1/3×1/2=100万円
・B銀行:1,200万円×1/3×1/2=200万円 ただし、同一金融機関の払戻し上限は150万円なので、150万円
の計250万円までということになります。
仮にこれを上回るお金が必要だったとしても、長男が単独で払い戻すことはできないのです。
書類の準備、金融機関の審査には時間が必要
被相続人の戸籍謄本、全相続人の戸籍謄本を揃えるのには、一定の時間が必要です。さらに、揃えた書類を金融機関の窓口に持っていけば、その場で払戻しを受けられるわけではありません。提出された書類のチェックをはじめとする、金融機関の審査を経なくてはならないのです。金融機関の側には、払い戻しに間違いがあった場合には、他の相続人から責任を追及されるリスクがある、という事情があります。
通常の相続手続きでは、戸籍謄本など必要書類の取得に1週間程度、被相続人の預貯金の払い出しのための金融機関の審査には、1週間~1ヵ月程度かかるとされています。金融機関によって対応は異なりますが、この制度を利用する場合にも、同程度の時間が必要になると考えるべきでしょう。
遺産分割では「払戻しを受けた金額は、相続人が取得した」ことになる
この制度によって払戻しを受けたお金は、いわば、「相続分の先払い」です。ですから、後の、遺産分割においては、その金額は「払戻しを受けた相続人が取得した」とみなしたうえで、分割が検討されることになります。
まとめ
遺産分割の前でも、単独の相続人による被相続人の預貯金の払戻しは可能です。ただし、払戻し可能額には上限があり、必要書類の提出も求められます。利用する際には、そうした点を確認したうえで、早めに手続きするようにしましょう。