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死んだら財産を寄付したい。その望みをかなえる「遺贈寄付」とは? 注意点も含めて解説

死んだら財産を寄付したい。その望みをかなえる「遺贈寄付」とは? 注意点も含めて解説

2023年10月27日

自分は“おひとりさま”で、亡くなっても財産を渡す親族がいない。ぜひ遺産を寄付したい団体がある――。そうしたケースでは、「遺贈寄付」を行う、という方法があります。確実に寄付するためには、どんな手続きが必要なのでしょうか。そのメリット、注意点なども併せて解説します。

遺贈寄付とは

遺言書で財産を譲る「遺贈」

被相続人(亡くなった人)の財産は、遺言書がなければ、原則として民法に定められた法定相続分に従って、法定相続人(以下「相続人」)の間で分けられることになっています。逆にいえば、遺言書では、相続人の遺留分(後述します)を侵害しない範囲で、遺産の分け方を自由に決めることが可能です。渡す相手は、相続人以外の人でも、法人や各種の団体でもかまいません。

このように、生前に書く遺言書によって自分の死後に特定の相手に財産を譲ることを「遺贈」といいます。遺贈には、次の2つの方法があります。

  1. ①特定遺贈:特定の財産を指定する(「現預金」「不動産」など)
  2. ②包括遺贈:財産の割合を指定する(「遺産の2分の1」など)

遺贈を利用した寄付が「遺贈寄付」

今述べたように、遺贈の相手としては、「個人」だけでなく団体などを指定することも認められています。それを利用して、特定の自治体やNPO法人などの非営利団体に遺産の寄付を行うのが、「遺贈寄付」なのです。

普通の「寄付」との違いは?

通常の「寄付」は、生前に行われます。例えば「ふるさと納税」は、特定の自治体への寄付行為です。

これに対して、「遺贈寄付」は、寄付の主体が亡くなった後に実行される、という違いがあります。自分の築いた財産を死後に社会貢献に活用してもらえるなどのメリットがありますが、そのためには正しい遺言書の作成など、しっかりした生前の準備が欠かせません。

遺贈寄付のメリット

遺贈寄付のメリットには、次のようなものがあります。

「残りの人生に必要なお金」を気にせず社会貢献が可能

生前、社会貢献のために寄付をしたいと思っても、生活費や老後資金など先行きの出費が気になって、なかなか実行できないこともあります。遺贈寄付ならば、そうした心配はありません。「残った財産」を社会のために役立てることができるでしょう。

“おひとりさま”の遺贈の選択肢になる

核家族化、人口の高齢化などにより、相続人のいない“おひとりさま”が増えています。高齢になってから面倒をみてくれた人、親しい知人など、残した財産を渡したい相手がいれば、そういう人に遺贈することもできますが、いないこともあるでしょう。そのまま遺言書も残さずに亡くなった場合には、財産は原則として国庫に帰属する、要するに「国のもの」になります。

一方、何がしかの社会貢献を考える気持ちがある場合には、それに見合った団体を見つけて遺贈寄付を行う、という選択肢があります。自らの財産の行方を主体的に決めることができるのです。

相続税を節税できる

相続財産が相続税の基礎控除額(「3,000万円+600万円×相続人の数」)を超えると、超えた分に相続税が課税されますが、非営利団体などに遺贈寄付された財産は、相続財産から除外されることになっています。寄付先が一般社団法人、一般財団法人や一般のNPO法人であっても同様です。寄付を行えば、財産を引き継いだ人にかかる相続税を抑えることができるわけです。

亡くなった人の所得税も節税できる

遺贈寄付を行うと、亡くなった人の所得税も節税できる可能性があります。「準確定申告」(※1)の際、「寄附金控除」の対象となるからです。ただし、この控除は、認定NPO法人や公益財団法人といった税制優遇のある団体(※2)への遺贈が要件で、一般のNPO法人や社団法人に財産を譲った場合には、対象にはなりません。

※1:準確定申告…被相続人の死亡後、相続人は、1月1日から死亡した日までに確定した被相続人の所得と税額を計算して、申告と納税をしなければならない。
※2:参照「寄附金を支出したとき」【国税庁】

遺贈寄付の手続き

手続きといっても、基本は「寄付先を決める」→「遺言書を作成する」の2つです。

寄付先を決める

遺贈寄付の寄付先として選ばれるのは、多くの場合、非営利団体や自治体です。決まっていない場合には、自分が支援したい分野などを基準に選択します。ネットで検索すると、活動内容などを説明する寄付先のリストが多数ヒットしますから、1つの参考になるのではないでしょうか。

遺言書を作成する

遺贈寄付の“肝”となるのは、遺言書です。どんなに強い寄付の意思を持っていたとしても、要件を満たすものでなければ、遺言は無効になってしまいますから、注意が必要です。

遺言書の形式にはいくつかありますが、多く使われるのは、自分で書く「自筆証書遺言書」と、公証人に作成、保管してもらう「公正証書遺言書」です。

・自筆証書遺言書

費用をかけずに自分で簡単に作れるというメリットと裏腹に、ミスで無効になったり、紛失したり改ざんされたり、といったリスクもあります。2020年7月にスタートした「自筆証書遺言書保管制度」では、法務局で自筆の遺言書を保管してもらえることになりました。この制度を利用することで、そうした難点はある程度クリアすることができます。

・公正証書遺言書

公証役場に出向いて、公証人に作成してもらいます。費用や手間はかかりますが、遺言書としての「安全性」は確保され、信頼性も高まります。遺贈寄付を行う際には、この方式で作成するのがベターといえるでしょう。

遺贈寄付の注意点は

寄付の意思を実現し、トラブルを招かないために、以下の点には特に注意してください。

遺言執行者を選ぶ

「遺言執行者」とは、遺言書の開示や財産目録の作成、財産の引き渡しや結果報告などを通じて、遺言書の内容を実現させる人をいいます。一般的には「必須」ではないのですが、確実に遺贈寄付を行うためには、選任しておくべきでしょう。

遺言執行者がいない場合、基本的に相続人全員で遺贈寄付を行うことになり、手続きも煩雑になります。結果的に、スムーズな寄付の足かせになる可能性もあるわけです。

遺言執行者には、相続人や受贈者(遺贈を受ける人)もなれますが、遺言による利害関係が生じない人が望ましいといえます。相続に詳しい弁護士や税理士などの専門家に依頼するのがいいでしょう。

相続人の遺留分に気をつける

遺留分とは、配偶者や子どもなど一定の相続人に対して、最低限保証された遺産の取り分です。例えば、配偶者の遺留分は、法定相続分1/2の半分の1/4となっていて、書式面で有効な遺言書であっても、この権利を侵害することはできません。

仮に受け取った遺産がこれより少なければ、多く受け取った相続人や受贈者に「差額」分を請求することができます。遺留分に配慮せずに遺贈寄付すると、寄付した団体と相続人の間でトラブルになる可能性がありますから、注意が必要です。

包括遺贈は避け、特定遺贈にする

遺贈には、特定遺贈と包括遺贈があるといいました。遺贈寄付については、基本的に譲る財産を具体的に明示する特定遺贈を考えてください。

包括遺贈の場合、遺贈を受けた者(包括受贈者)は、相続人と同等の権利義務を負うことになります。万が一、借金などの「負の遺産」が含まれていた場合、寄付先はそれも引き継ぐことになってしまいます。そうしたリスクを回避するため、そもそも寄付を受け付けない場合もあるのです。

不動産の寄付は「みなし譲渡課税」に要注意

「所有する不動産を寄付したい」と考えることもあるでしょう。しかし、現物をそのまま遺贈すると、不動産は時価で譲渡されたとみなされ、含み益(取得価格との差額)に譲渡所得税が課税されることがあります(「みなし譲渡課税」といいます)。

問題は誰が納税義務を負うのか、です。この税金は、さきほど説明した準確定申告の際に納めます。申告、納税を行うのは相続人ですから、相続人はその不動産を相続していないにもかかわらず、税負担が生じることになるのです。このことが、やはりトラブルの芽になるかもしれません。

この問題を未然に防ぐのが「清算型遺贈」です。不動産の現物ではなく、相続発生後にさきほどの遺言執行者が現金化したうえで渡す方法です。ただ、売却などに関して遺言執行者の責任が生じます。そうして点について、事前にしっかり話し合っておく必要があるでしょう。

必要に応じて寄付先への確認を行う

今の不動産も含め、寄付先によっては「受け取れない財産」もあるはずです。特に現金以外のものを寄付しようと思うときには、寄付先に受け取ってもらえるのかどうかを確認しておけば、確実でしょう。

遺贈以外に財産を寄付する方法

実は、説明してきた遺贈以外にも、財産を寄付する方法はあります。自らに適したものがあれば、検討してみてはいかがでしょうか。

相続人に託す「相続財産の寄付」

エンディングノートなどに「遺産の一部を寄付してほしい」と書き残して、相続人に寄付をしてもらうことができます。ただし、相続財産はあくまでも「相続人のもの」ですから、実際に寄付するかどうかは、相続人次第ということになります。

この相続財産の寄付では、相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月以内)内に、認定NPO法人などの税制優遇団体に寄付を行った場合に限り、相続財産からの控除が認められます。また、所得税においても、やはり税制優遇団体への寄付により、相続人が寄附金控除を受けることができます。

生命保険を利用する

生命保険の受取人に任意の団体を指定することで、財産を寄付することができます。ただし、一般に、死亡保険金の受取人は、契約者の配偶者もしくは二親等以内の親族のみとされており、すべての保険会社が保険金を寄付することのできる商品を提供しているわけではありません。事前にチェックするようにしましょう。

死因贈与契約を行う

「死因贈与」とは、生前の合意(契約)に基づいて、贈与者(財産を渡す側)が死亡したときに、「この財産を渡す」という効力が生じる法律行為です。遺贈が遺贈者の一方的な意思なのに対して、死因贈与では生前に「もらう・あげる」という契約を交わすため、財産の受け渡しが確実に行える、というメリットがあります。

まとめ

死後に財産を寄付するには、遺贈寄付をはじめいくつかの方法があります。ただ、確実に寄付を実行するためには、決められた要件を満たさなければなりません。やり方を間違えると、相続人がトラブルに巻き込まれるようなことも起こりえます。寄付を考える場合には、早めに相続に詳しい専門家に相談してみることをお勧めします。

この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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