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遺族厚生年金の受給資格をご存知ですか?男女格差是正に向けた「夫の55歳ルール」見直しとは
2023年11月20日
家計を支えていた人が亡くなったとき、残された家族に支給されるのが「遺族年金」です。このうち、亡くなった人がサラリーマンや公務員などの場合に支給される「遺族厚生年金」の受給資格の見直しが議論に上っています。そもそもどんな制度なのか、見直しの背景や検討の中身はどうなっているのか、解説します。
遺族年金とは
国民年金や厚生年金保険に加入中、もしくは加入していた被保険者が亡くなったとき、残された遺族は、受給要件を満たせば「遺族年金」を受け取ることができます。生計を支えていた家族を失った家族の生活を支援する意味合いを持っています。この遺族年金には、「遺族基礎年金」(被保険者が国民年金に加入)と、「遺族厚生年金」(同じく厚生年金保険に加入)の2つがあります。被保険者が自営業者などの場合は前者を、サラリーマンや公務員だった場合には、条件を満たせば両方を受け取ることが可能です。
今回は、このうち受給ルールの改正がテーマに上がっている遺族厚生年金について、説明します。
遺族厚生年金の仕組み
遺族厚生年金は、厚生年金保険に加入している被保険者(第2号被保険者)や、すでに老齢厚生年金の受給資格を満たした人が亡くなったとき、その人に生計を依存していた遺族が受け取れる年金です。制度の中身について、具体的にみていきましょう。
亡くなった人の条件(受給要件)
遺族厚生年金は、次のいずれかの条件を満たす人が亡くなった場合に、受け取ることができます。
- ・厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- ・厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡したとき
- ・1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている人が死亡したとき
- ・老齢厚生年金の受給権者であった人、または老齢厚生年金の受給資格を満たした人が死亡したとき
受け取れる人は?(受給対象者)
亡くなった人が上の受給要件を満たしていても、すべての遺族が年金を受け取れるわけではありません。前提として、「死亡した人によって生計を維持されていた」ことが必要です。具体的には、次のようなケースが対象となります。
- ・亡くなった人と同居していた
- ・亡くなった人から仕送りを受けていた
- ・前年の収入が850万円未満の親族である
そのうえで、受給には次のような優先順位があります。自分よりも優先順位の高い遺族がいる場合には、年金を受け取ることはできません。
- ① 子のある配偶者
- ② 子(18歳になった年度の3月31日までにある人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人)(※1)
- ③ 子のない配偶者(※2)
- ④ 父母(※3)
- ⑤ 孫(18歳になった年度の3月31日までにある人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人)
- ⑥ 祖父母(※3)
- ※1「子のある妻」または「子のある55歳以上の夫」が遺族厚生年金を受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されない。⇒優先順位は、「子のある配偶者」>「子」。
- ※2「子のない30歳未満の妻」は、5年間のみ受給できる。また、「子のない夫」は、55歳以上である人に限り受給できるが、受給開始は60歳からとなる(ただし、遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できる)。
- ※3「父母」または「祖父母」は、55歳以上である人に限り受給できるが、受給開始は60歳からとなる。
注意すべきは、優先順位とともに「年齢制限」です。遺族が夫、父母、祖父母の場合は、「55歳以上」でないと受給資格がないのです。
また、受給対象者の条件によって、一生涯もらえる場合と、支給期間が設けられている場合があります。支給期間が決められているのは、次のようなケースです。
- ・子のいない30歳未満の妻:5年間のみ
- ・子、孫:18歳(障害等級1級または2級の状態にある人は20歳)の年度末まで
- ・夫、父母、祖父母:60歳から
受け取れる年金額は?
遺族厚生年金の年金額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額となります。報酬比例部分は、老齢厚生年金などの年金額の計算の基礎となるもので、年金の加入期間や過去の報酬などに応じて決まります。
なお、40歳~65歳の妻で、18歳年度末までの子どもがいない場合などに加算される「中高齢寡婦加算」や、65歳以上の妻で要件に該当すると加算される「経過的寡婦加算」などの制度があり、家族構成や年齢などによって年金額は異なります。また、一定の条件を満たしていて、子どものいる配偶者や子どもの場合は、遺族基礎年金と遺族厚生年金が併せて支給されます。
このように、実際の支給額は、世帯によるばらつきが大きくなります。正確に知りたい場合には、年金事務所、年金相談センターなどに問い合わせてみてください。
遺族厚生年金の受給で注意すべきこと
以上も踏まえて、制度の利用に際して注意すべき点をまとめました。
受給対象から外れることがある
説明したような受給資格があっても、次のような場合には、受給の対象外となります。
- ・受給権者が死亡した場合
- ・受給権者が直系尊属(父母・祖父母)および直系姻族(婚姻によって親戚関係になった人)以外の人の養子になった場合
- ・受給権者が婚姻した場合
- ・受給権者が離縁して、死亡した被保険者との親族関係がなくなった場合
65歳になると、原則「自分の年金」のみになる
遺族厚生年金の受給者が65歳に達すると、原則として自分の老齢年金のみの受給になります。遺族厚生年金の年金額が老齢厚生年金より高い場合には、その差額を受け取ることができます。
受給には「時効」がある
遺族厚生年金の受給には、「年金請求書」の提出が必要です。請求期限は5年となっており、これを過ぎると時効によって年金の受給権が消滅しますから、注意しましょう。
確定申告は必要ない
老齢厚生年金以外の厚生年金は、所得税・住民税ともに非課税です。遺族厚生年金についても、基本的に上限なく非課税で、確定申告の必要もありません。他に所得があって確定申告が必要な場合でも、遺族厚生年金の受給に関しては申告不要なのです。
なお、老齢年金は雑所得になるので、控除額を超えるときなどには、申告が必要です。
2025年にも予想される制度改正とは
受給ルール見直しの背景
さて、説明してきた遺族厚生年金制度に関して、その受給ルールの見直しに向けた議論が本格化しそうです。ここからは、その内容などについて解説します。
検討項目に上がっているのは、受給資格のある配偶者のうち、夫(男性)のみに定められている「55歳以上」という年齢制限の見直しです。現行制度では、夫が亡くなると、妻は子どもがいる場合と、子どもがいなくても30歳以上であれば、年金を生涯受け取ることができます。一方、妻が亡くなった場合には、夫は55歳以上でなければ受給できません。さらに、妻にはさきほど述べた「中高齢寡婦加算」なども認められています。
こうした仕組みは、夫が「一家の大黒柱」となって働いて妻や子を養う、という家族のあり方を前提に設計されたものです。しかし、時代は移り、夫婦共働きは普通のことになりました。妻が家計を担い、夫が「主夫」の役目を果たす家庭も増えています。
男女格差は是正されるか
2023年7月に開かれた厚生労働省の社会保障審議会・年金部会では、このような実態を踏まえて、遺族厚生年金の男女格差を見直すべきだ、という意見が相次ぎ、今後議論を深めていくことが確認されました。そこでの結論は、25年に予定される公的年金制度の改正に反映される可能性があります。
ちなみに、最初に説明した遺族基礎年金に関しては、14年4月に、支給対象者が「子どものある妻または子ども」から「子どものある妻・夫または子ども」に変更され、男女の格差がなくなっています。
ただ、現状では、見直しの必要性が確認された段階で、具体的な改正(例えば夫の年齢制限の撤廃)については、これから詰められていくことになります。抜本的な改正が実行されれば、子どもが成人後に妻が亡くなった場合、夫は55歳未満でも遺族厚生年金を受給できるようになるでしょう。
まとめ
家計を担っていた人が亡くなった後にもらえる遺族厚生年金について説明しました。今後、受給資格に関する男女格差の是正に向けた議論が本格化しそうです。その行方に注目しましょう。