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亡くなった人の投資信託は「相続財産」です。相続の流れ、遺産分割の注意点などについて解説
2023年11月30日
「つみたてNISA」の普及などにより、運用商品としての投資信託の知名度も高まりました。ところで、被相続人(亡くなった人)が投資信託を保有していた場合、それが相続税課税対象の財産にカウントされることは、ご存知でしょうか。相続人が複数いれば、遺産分割も必要になります。今回は、「投資信託の相続」の考え方、必要な手続きを中心に、注意点も併せて解説します。
投資信託とは
運用は「プロ」が行う
投資信託とは、投資家から資金を集め、ファンドマネジャーなどの運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する金融商品です。主に証券会社、信託銀行などを通じて販売され、その運用成果は、投資家それぞれの投資額に応じて分配されます。
集めた資金をどのような対象にどれだけ投資するかは、投資信託ごとの運用方針に基づいて専門家が判断します。この点が、普通の株式投資などとの大きな違いといえるでしょう。
投資信託の種類
投資信託には、投資対象地域(例えば主たる投資収益が国内か海外か)、投資対象資産などによっていろいろな分類の仕方がありますが、相続に際して考慮すべきなのは、次の3つの区分のどれに当てはまるのかです。
- (1)上場投資信託:REIT(不動産投信)、ETF(ある指標に連動する運用を行う、証券取引所に上場する投資信託)など
- (2)日々決算型投資信託: MMF、MRF(いずれも公社債投資信託)など
- (3)上記以外の一般的な投資信託
投資信託の相続の基本を確認
故人の投資信託は相続財産
あらためて、「投資信託は、相続の際に相続税計算のベースになる遺産(相続財産)に含まれる」ことを確認しておきましょう。なぜわざわざそんなことをいうのかといえば、投資信託が相続財産として意識されず、相続税の申告から漏れてしまうようなこともあるからです。
相続税評価額(相続税の計算の際に、いくらにカウントするのか)は、原則として「課税時期(被相続人が亡くなった日)に解約または買取請求を行ったとした場合に、証券会社などから支払いを受けることができる価額」で、上の(1)~(3)で計算方法が異なります=後述します)。
相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があります。投資信託の評価額を加えた相続財産の総額からこの基礎控除額を引いた金額に、相続税が課税されます。もし遺産が基礎控除額以下ならば、課税はされません。
遺言書がない場合には、遺産分割の対象に
被相続人が遺言書を残していた場合には、遺産分割は基本的にそこに書かれた内容で実行されます。遺言書がない場合には、相続人の間で「遺産分割協議」を行い、財産の分け方(遺産分割)を決めることになります。
なお、「財産」の中には、この遺産分割を経ずに相続人引き継がれる債権(可分債権)があります。例えば、親がAさんに100万円を貸したまま亡くなった場合、相続人が長男、次男の2人だったら、兄弟はそれぞれ相手の同意を得ることなく、Aさんに50万円を請求することができるのです。
実は、かつては被相続人の預貯金も可分債権で、相続人が法定相続分を独自に引き出す権利が認められていました。しかし、それを許すと、遺産分割全体にさまざまな問題の発生することがあるため、不可分債権(遺産分割が必要な財産)に改められました(2016年最高裁判決)。
株や投資信託についても、それと同じように扱われます。つまり、遺言書がない場合には、遺産分割協議によって投資信託の分割方法を決める必要があるわけです。
投資信託の相続税評価額
さきほど説明したように、投資信託の相続税評価額は、種類によって変わります。
(1)上場投資信託の計算方法
●相続発生時の株価×株式数上場株式は、短期間で乱高下する可能性もあるため、「株価」については、以下のうち「最安値」となるものを選択できます。
- ・相続発生日の終値
- ・相続発生月の終値の平均値
- ・相続発生前月の終値の平均値
- ・相続発生前々月の終値の平均値
過去の終値は、日本証券取引所がネット上で公開している「月間相場表」で調べることができます。証券会社に問い合わせて確認することも可能です。
(2)日々決算型投資信託の計算方法
●1口当たりの基準価額(a)×口数+再投資されていない未収分配金(b)-未収分配金に課税される源泉所得税-信託財産留保額(c)および解約手数料- a基準価額:投資信託の値段。金融機関が決定する。
- b再投資されていない未収分配金:亡くなった日時点でまだ支払われてない分配金
- c信託財産留保額:解約するときに必要となる費用
いずれも、詳細は該当する証券会社に問い合わせるのがいいでしょう。
(3)一般的な投資信託の計算方法
●課税時期の1口当たりの基準単価×口数-課税時期に売却したときの譲渡益に課税される源泉所得税-信託財産留保額および解約手数料「譲渡益」は、相続発生日に売却したと仮定した価額から取得時の価額を差し引いた金額になります。このケースについても、詳しくは証券会社に問い合わせてください。
投資信託の相続の流れ
以上を踏まえたうえで、投資信託の相続手続きについて、みていくことにします。
被相続人の投資信託を確認する
そもそも被相続人が投資信託を行っていた事実を家族が知らない場合もあります。投資の事実は知っていても、運用実績などの詳細は不明のことが多いでしょう。被相続人の預金口座や関連書類(運用報告書など)を調べ、まずは投資信託の利用に関する事実の把握に努める必要があります。
証券会社などに連絡する
被相続人が投資信託を購入した証券会社や信託銀行が確認できたら、口座名義人が死亡した旨を連絡します。それにより口座は凍結され、故人の投資信託は保全されます。
相続税評価額を計算するためには、相続発生時の残高を知る必要がありますから、残高証明書の発行を請求し、入手しましょう。
必要書類を揃え、口座のある金融機関に提出する
■遺言書がある場合以下の書類を揃えて、証券会社などに提出します。
- ・証券会社などが指定する相続手続申請書
- ・遺言書
- ・検認済証明書(※)
- ・被相続人の死亡がわかる戸籍謄本
- ・投資信託を相続する人の印鑑証明書(※※)
※遺言を自分で書く「自筆証書遺言書」の場合(法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用した遺言書を除く)には、家庭裁判所で遺言書の「検認」が必要。「公正証書遺言書」の場合は不要。
※※「遺言執行者」(遺言の内容の実現に必要な手続きを行うことを目的に、指定された人)がいる場合には、その人の印鑑証明書。
協議が終わって遺産分割の仕方が決まったら、「遺産分割協議書」を作成します。証券会社などに提出が必要になるのは、以下の書類です。
- ・証券会社などが指定する相続手続申請書
- ・遺産分割協議書
- ・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・相続人全員の印鑑証明書
相続人の口座に移管
投資信託の相続は、株式などと同様、残高を被相続人の口座から相続人の口座に移す(移管する)という方法で行います。現金化したい場合でも、いったん口座の移管、すなわち投資信託の名義変更が必要になるのです。
移管のためには、当然、相続人の証券口座が要ります。ない場合には、事前に開設しておきましょう。なお、被相続人と同じ金融機関で口座を作ったほうが、手続きはスムーズです。
投資信託の相続で注意すべきこと
申告を忘れると
さきほども述べたように、「投資信託が相続財産になるとは思わなかった」というケースもあるようです。しかし、相続税が課税されるのに申告しないでいれば、立派な「申告漏れ」です。本来支払うべき税金に加えて、「加算税」「延滞税」の支払いというペナルティの対象になりますから、注意しましょう。
遺産分割をしないでいると
投資信託が遺産分割の必要な債権であることも、すでに述べました。もし相続の際に分割を行わずに放置すると、法的にはすべての相続人が「準共有」のまま、という状態になります。
この状態では、売却しようと思っても、すべての準共有者の同意が必要です。日本では、複数名義の証券口座の開設は認められていないため、準共有状態での口座開設はNG。従って被相続人の口座からの移管もできませんから、そもそも現金化は不可能ということになってしまいます。
相続の間に価格変動がありうる
他の金融商品同様、投資信託の価格も変動します。相続発生から遺産分割協議・口座の移管・売却といったそれぞれのタイミングで「価値」が変わり、結果的に相続の「不平等」を生む可能性があるわけです。
トラブルを防ぐためには、そうした投資信託の性格を相続人全員が理解しておくことが大切です。そのうえで、「いつ相続するのか」を遺産分割協議書に明記する、代表者が投資信託の名義変更を行って売却し、現金化してから分割する、といった方法を検討するのがいいでしょう。
投資信託を売却すると所得税が発生する
相続した投資信託をすぐに売って、相続税の支払いに充てたい、というようなケースもあります。ただし、売却額が投資信託の取得額よりも多い場合には、その利益(売却益)に譲渡所得税、住民税など計20.315%の税金がかかることを頭に入れておいてください。
まとめ
説明してきたように、被相続人が所有していた投資信託には、他の相続財産にはない「難しさ」があります。不明な点は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談しましょう。