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相続手続に必要な「残高証明書」とは 取得の方法やその際の注意点も解説
2023年12月7日
相続の手続きを進める際には、多くの場合、被相続人(亡くなった人)の預貯金や金融商品の残高証明書が必要になることがあります。
通帳や入出金記録とどう違うのか、具体的にどのように使われるのか、証明書の取得方法や発行を受ける際の注意点などと併せて解説します。
そもそも残高証明書とは
特定の日付の残高が正確にわかる
残高証明書は、特定の日付において、預貯金や有価証券、投資信託などの残高がいくらあるのかを、口座を開いている金融機関が証明してくれる書類です。証明書には、その金融機関のすべての口座(本・支店、普通・定期預金など)の残高が記載されます。ローンの借入残高もわかります。
残高の日付は、証明書の請求者が指定できます。相続で求められるのは、相続発生日(被相続人が亡くなった日)の金額になります。
入出金の履歴はわからない
ただし、残高証明書に記載されるのは、あくまでも特定の日付の金額で、そこまでの入出金の状況までは把握できません。相続においては、被相続人の面倒をみていた相続人が、他の相続人から「お金の出入り」について疑念を持たれるといったことが、けっこうあります。トラブルを招かないために、残高証明書と併せて通帳を用意しておくのがいいケースもあるでしょう。
逆に、履歴も残高もわかる通帳のコピーがあれば十分ではないか、と思われるかもしれません。ただ、それだと、例えば「普通預金の他に、定期預金もあるのでは?」というような疑いを抱かれる可能性があります。
最近は、紙の通帳の発行を制限する金融機関も増えました。通帳を紛失することもあるでしょう。また、ネットバンクにはそもそも通帳は存在せず、相続人がパスワードを知らないためログインできない、という事態も珍しくはありません。こうした場合には、残高証明書の取得が、被相続人の預貯金の状況を知る有効な手立てとなります。
相続で残高証明書が必要なケースとは
あえていえば、残高証明書は、相続の手続きにおいて「必須」の書類ではありません。「間違いのない相続」のために、場合によっては必要になるもの、用意しほうがいい証明書と考えてください。
残高証明書が必要になるのは、主に次のようなケースです。
遺残分割協議
被相続人の遺言書がない場合には、すべての相続人による遺産分割協議で、遺産(相続財産)の分け方を決めます。その際、まず必要になるのは、相続発生時点での被相続人の財産の金額を正確に把握することです。それなしに話し合いは始められませんし、示された財産の内容に疑問が残れば、「争続」の原因にもなります。
説明したように、残高証明書は、金融機関が残高を証明する書類なので、預貯金に関しては疑問の余地がなくなります。特に預貯金の額が大きい、相続人が多数いる、といった場合には、取得して相続人が共有すべきでしょう。
なお、相続財産には、「正の財産」ばかりでなく「負の財産」が含まれることもあります。被相続人が金融機関に対するローンを抱えていた場合にも、残高証明書でその借入残高を明確にすることができます。
相続税の申告
相続財産が相続税の基礎控除額(「3,000万円+600万円×法定相続人の数」)を超えていた場合には、相続税の申告・納税の義務が生じます。申告時には、預貯金などの金融資産の金額を証明するために、残高証明書の添付が求められます(金額が少ない場合には、通帳のコピーを添付することなどでOKの場合もあります)。
預貯金に関して1つ付け加えておけば、税務署には、被相続人と相続人の口座の中身(入出金履歴や残高)を調べることが認められています。残高証明書の提出などがなかったとしても、すでに預貯金などの情報は“筒抜け”になっていると考えてください。わざと隠したりすればもちろん、ミスで申告漏れがあった場合にも、「加算税」「延滞税」というペナルティの対象になりますから、注意が必要です。
遺産に金融商品がある場合
被相続人の遺産に株や債券、投資信託などの金融商品が含まれる場合には、正確な評価額を計算するために、亡くなった日の価格を知る必要があります。証券会社などから残高証明書を発行してもらうようにしましょう。
残高証明書の取得方法
金融機関の窓口で申請する
残高証明書の申請は、被相続人の預貯金口座がある金融機関の窓口で行います。同じ金融機関であれば、口座のある支店でなくても手続きは可能ですが、やや時間のかかる場合があります。複数の支店に口座があるようなケースでも、1ヵ所で手続きを完了できます。
申請できる人は
相続人は、他の相続人の同意などを得ることなく、単独で残高証明書の発行を請求できます。委任状を書いて代理人に申請を依頼することも可能です。また、弁護士などの士業や遺言執行者(遺言の内容の実現に必要な手続きを行うことを目的に、指定された人)、相続財産管理人(相続人が誰もいないときに家庭裁判所が選任する人)も発行の請求が可能になっています。
発行の申請に必要な書類
残高証明書を取得するためには、以下のような書類を準備する必要があります。
- ①被相続人の戸籍謄本や除籍謄本(死亡の事実がわかる書類)
- ②申請者が相続人であることを確認できる戸籍謄本など
- ③申請者の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- ④申請者の実印と印鑑証明書
- ⑤金融機関が定める残高証明書発行依頼書
法務局が発行した「法定相続情報一覧図」(写し)があれば、①、②は不要です。また、申請を代理人に依頼した場合には、上記の他に、依頼する相続人の実印を押した委任状と、代理人の本人確認書が必要です。
発行までは、通常1~2週間
残高証明書は、申請後1~2週間ほどで、依頼者の住所へ郵送されます。金融機関によっては、提出書類に不備がなければ、窓口で即日発行してくれるところもあります。
手数料は1通1,000円弱
残高証明書を取得する際には1通単位で手数料がかかります。金額は金融機関によって異なり、大手銀行で800円~900円程度、ゆうちょ銀行は1,100円(税込、2023年10月時点)となっています。
取得の手続きは1ヵ所でできても、証明書の発行は「支店ごと」が基本です。被相続人が数多くの口座を開設していた場合、発行枚数がかさみ、手数料が思いのほか高額になる可能性があります。そのようなケースでは、通帳のコピーなどで「代用」できないか、相続人や税理士などと相談してみるのがいいでしょう。
残高証明書取得の際の注意点
被相続人の口座は「凍結」される
まず認識しておきたいのは、相続を理由に残高証明書の発行を請求すると、同時に被相続人の口座の入出金が一切できなくなることです。金融機関は、口座の名義人が亡くなったことを知ると、勝手に預金が引き出したりされることを防ぐために、いったんそれを「凍結」するのです。
凍結を解除するには、原則として被相続人の遺言書や遺産分割協議書が必要になるなど、時間も手間もかかります。その間、被相続人の口座からの公共料金の自動引き落としなどができなくなりますから、被相続人と同居している場合などには、速やかに引き落とし口座の変更をしなくてはなりません。家賃の預け入れ口座になっているようなケースも同様です。
また、被相続人の口座から生活費を下ろしていた家族がいたら、当座の資金を確保する手立てが必要になるでしょう。なお、こうした場合には、遺産分割の終了前でも相続預貯金の払戻しを受けることができる制度があります。
残高証明書の日付は「亡くなった日」
預貯金の相続税評価額(相続税の計算の際に、いくらにカウントするのか)は、被相続人が亡くなった日が基準となります。ですから、残高証明書の日付(基準日)もその当日でなくてはなりません。残高証明書の発行請求日ではありませんから、注意しましょう。
定期預金については「経過利息計算書」も依頼する
残高証明書に記載されているのは、元本の金額です。定期預金の場合、預入した日からの利息が発生しているため、その分も相続財産に加える必要があります。利息については、残高証明書とともに「経過利息計算書」を発行してもらうようにします。
「どこに口座があるのか」を知っておく
残高証明書を取得したくても、被相続人がどこに口座を開いていたのかがわからなければ、請求のしようがありません。弁護士や司法書士、税理士などの専門家に調査を依頼することもできますが、当然コストが発生します。
親がどの金融機関に口座を持っているのかは、できるだけ生前に確認しておくようにしましょう。遺産を譲る側が、口座のリストを用意しておくなど、家族が困らない手段を講じておくことも大切です。
まとめ
相続手続の際に被相続人の口座の残高証明書が必要になるケース、取得の仕方などを解説しました。金融機関に証明書の発行を求めると、該当する口座は凍結されますから、事前の準備が必要な場合には、忘れないようにしましょう。不明な点は、相続に詳しい税理士などに相談することをお勧めします。