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遺産に「外貨預金」が含まれていたら 相続の方法、注意点について解説

2024年12月24日

- この記事の監修者
- 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
長引く低金利の環境もあって、資産運用に対する関心が高まりました。その1つとして注目されているものに、海外の通貨に「投資」する「外貨預金」があります。その結果、遺産(相続財産)に外貨預金が含まれるケースも増えているのですが、「外貨建て」の資産をどのように評価し、相続したらいいのか、戸惑うケースもあるでしょう。「外貨預金の相続」について、注意点も併せて解説します。
外貨預金とはどういうもの?
日本円を米ドルやユーロ、NZ(ニュージーランド)ドルといった外国の通貨に換えて預ける預金を「外貨預金」といい、普通は定期で預ける「外貨定期預金」を指します。
なぜ外貨預金が投資になるのかといえば、「為替差益」が狙えるからです。一定期間運用した(外貨で預けた)後、再び円に替える時の為替レートが、預け入れ時より円安になっていれば、「多くの円」が戻ってくる、という仕組みです。
ただし、逆に円高になっていた場合には「為替差損」が生じ、外貨建ての元本は保証されるものの、円建ての金額は預け入れた時より減少します。また、預入時と引出時に、ともに金融機関に対する手数料が発生します。
外貨預金に相続税はかかるのか?
被相続人(亡くなった人)が外貨預金をしていたら、それは相続税課税対象の財産です。ただし、外貨預金があったら、必ず相続税が課税されるというわけではありません。
相続税には、基礎控除額(「3,000万円+600万円×法定相続人の数」)があり、これを超えた分に税金がかかる仕組みになっています。遺産の総額がこの基礎控除額以内であれば、相続税はかかりません。まず、この基本を押さえておきましょう。

- 記事監修者からの一言
- 相続税は、相続開始日(亡くなった時点)で被相続人が所有していたほぼ全ての財産を金額に換算評価して、基礎控除額を超えるかどうか判断します。不動産(特に土地)や非上場株式は評価してみると多額になりやすいため、現預金が少ない方でも相続税がかかる可能性は十分にあることに注意です。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
相続の際には「日本円」に換算する
外貨預金は、ドルやユーロなどの外貨建てです。相続の際には、これを外国為替レート(通貨の交換比率)に基づいて、日本円に換算した評価額を算出し、相続財産に加えなくてはなりません。相続税が発生する場合には、申告も納税も日本円で行います。
外貨預金の評価方法
では、外貨預金の評価額の算出方法について、具体的にみていきましょう。ポイントは3つです。
評価は「TTB」で行う
為替相場には、次の3種類があります。
◆TTM(対顧客電信相場仲値):金融機関が顧客と外国為替取引を行うときの当日受け渡し用の基準相場(実際の市場価格)。
◆TTB(対顧客電信買い相場):金融機関が顧客から外貨を買う=顧客が外貨を「売る」ときに使う相場。TTMから手数料分を差し引いた金額となる。
◆TTS(対顧客電信売り相場):金融機関が顧客に外貨を売る=顧客が外貨を「買う」ときに使う相場。TTMに手数料分を上乗せした金額となる。
外貨預金の評価は、さきほど説明したように、外貨→日本円に換算して行う必要がありますから、このうちTTBを使います。
例えば、米ドルの外貨預金の場合、TTM(実際の価格)が145.50円、金融機関の手数料が1円だったとします。このときのTTBは、145.50円-1円=144.50円になります。
なお、相続ではなく生前贈与で外貨預金を渡す場合にも、贈与税の計算はこのTTBを基に行います。
評価のタイミングは「相続開始日」
ご存知のように、外国為替のレートは、時々刻々変化しています。同じTTBでも、いつの時点で評価するかによって、日本円の金額に大きな差の出ることが珍しくないのです。
この評価時期を、相続人が選択したりすることはできません。相続した外貨預金は、原則として相続開始日(被相続人が死亡した日)の最終のTTBで評価する、と決められているのです。
もし、相続開始日が土日、祝祭日などに当たり、外国為替市場がクローズしていた場合には、それ以前の相場のうち、課税時期に最も近い日の最終TTBが適用されます。例えば、被相続人が、金曜日が祝日の3連休(金曜~日曜)の日曜日に亡くなったとします。この場合、評価の対象になるのは、直近の翌月曜日ではなく、3日前の木曜日の相場になるわけです。
贈与の場合は、「贈与により財産を取得した日」になります。
為替レートは、相続人の取引金融機関のものを使う
実は外国為替のレートは、タイミングだけではなく、金融機関ごとにも多少異なります。特に預金額が多い場合には、評価額に差が出ることになります。
外貨預金を相続する際に用いるのは、被相続人ではなく、相続税を納める相続人の取引金融機関が公表している為替レートです。複数の金融機関と取引している場合には、最もレートの低いところで評価して、問題ありません。
外貨預金を相続する際に注意すべきこととは
TTBをしっかり確認する
相続税の申告には、相続税評価額を算出する基となった為替レートの資料添付が求められます。金融機関で残高証明書を取得する際に、TTBの記載も依頼するようにしましょう。為替レートは、金融機関のホームページで確認することもできます。
日本円での納税が必要
さきほども述べましたが、相続税が発生した場合には、日本円での納税が必要になります。外貨預金の分だけ外貨で納める、といったことはできません。つまり、他の財産も合わせて必要になる納税資金を、円で用意しなくてはならないわけです。
納税のために、被相続人の残した外貨を円に換えることもあるでしょう。その際、気をつけたいのが、やはり為替レートなのです。
外貨預金の評価額は、相続開始日に決まりますが、納税資金にするために実際に外貨を円に交換して引き出すのは、それより後になります。相続開始日から円高が進んだ場合には、受け取れる円は「目減り」しています。あてにしていた資金が作れなくなったなどということがないよう、為替相場には気を配るようにしましょう。

- 記事監修者からの一言
- 通常、相続税が発生する場合は被相続人の現預金を相続してその中から納税することができます。しかし、外貨預金は上記のような為替レートの問題があるため、いざ日本円で引き出すと思ったより手元に残らなかった…ということも十分あり得ます。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
海外の金融機関にある預金も相続税の対象
被相続人が「海外の金融機関に外貨預金をしていた」場合も、それは相続財産に含まれます。日本で相続税の申告・納税が必要ですから、注意しなくてはなりません。
海外の預金や不動産などの海外資産に関しては、「所得隠し」の手段にもなったことなどから、国税当局による監視の目が年々厳しくなっています。各国間の情報交換ネットワークも強化されていて、いまや海外の資産は税務署に“筒抜け”といっていいでしょう。
たとえ隠す意図がなかったとしても、結果的に申告漏れになれば、「加算税」「延滞税」というペナルティの対象になってしまいます。被相続人が家族に黙って預金していることもありますから、その可能性がある場合などには、しっかり調査すべきでしょう。
国税庁の海外資産への対応については「「海外に移せば、財産を隠せる」は本当なのか?」をご覧ください。
一方、預金を積んでいた国によっては、被相続人の死亡時に、その国で相続税に類する税金を課税されることがあります。その場合には、日本の相続税からその納税分を差し引ける「外国税額控除」という仕組みがあるのですが、相続手続きを正しく行わないと、二重課税(双方から全額を徴税されること)で損をする可能性があります。

- 記事監修者からの一言
- 現行制度では「相続人と被相続人がともに10年以上日本国内に住所なし」というケースを除いて、海外にある財産も日本の相続税の課税対象となります。相続税申告が必要にも関わらず、海外にある財産を見逃してしまい無申告のまま期限を過ぎてしまうと、本来の相続税の他に加算税や延滞税も重くのしかかってきます。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
まとめ
外貨預金を相続した場合には、相続開始日の為替レートを基に、日本円で評価額を算出します。納税が必要なケースでは、やはり日本円で行わなくてはなりません。不明な点がある場合には、相続に詳しい税理士などの専門家に相談するのがいいでしょう。
記事監修者 河鍋税理士からのワンポイントアドバイス
外貨預金は為替レートの問題はありますが、相続税評価自体は難しくはありません。むしろ、外貨預金の存在自体を相続人が把握することや、納税資金として日本円に引き出す際に為替レートの観点で注意が必要になることの方が大きいです。
相続という、被相続人の財産を本人がもういない中で相続人が調べ上げるのは困難を極めますし、外貨預金や海外にある財産となれば難易度は格段に上がります。
相続税の申告漏れをしないためには、被相続人の生前の郵便物や記録を手がかりにすることや生前に確定申告をされていれば「財産債務調書」「国外財産調書」を確定申告書に添付しますので、それらを確認することで把握することができます。
外貨預金も含めて相続税申告は限られた申告期限の中で行うにはハードルが高い業務です。少しでも不安に感じられた場合は是非税理士にご相談されることをお勧めいたします。