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亡くなった人が借金の連帯保証人になっていた 相続人にその立場は引き継がれるのか
2024年2月7日
親が亡くなったので相続手続きを進めていたら、知人の借金の連帯保証人になっていたことが判明した――。十分ありえる話です。この場合、子どもはその連帯保証も相続することになるのでしょうか? ここでは、被相続人(亡くなった人)が行っていた連帯保証と相続について、わかりやすく解説します。
連帯保証人の立場は相続される
そもそも連帯保証人とは
借金をした人が返済できなくなった場合、「保証人」を立てていれば、その人が代わりに返済する義務を負います。「連帯保証人」になっていると、債務の返済に関して、さらに重い責任を負うことになります。
例えば、債権者から請求を受けた場合、普通の保証人ならば、「まず借金した人に請求してください」と主張することができます(催告の抗弁)。債務者に返済できる資力があるにもかかわらず返済しなかった場合、債権者に対して債務者の財産から取り立てるように主張することもできます(検索の抗弁)。しかし、連帯保証人には、このような主張をすることは認められません。たとえ借金した人に返済能力があっても、債権者の求めがあれば、それに応じて返済しなくてはならないのです。
債権者からすれば、融資の安全性が高まることから、実際には保証人のほとんどが連帯保証の形になっています。
「負の財産」も相続の対象となる→連帯保証も相続される
では、被相続人が生前にこの連帯保証人になっていた場合、相続人は、その立場も相続することになるのでしょうか? 答えは“YES”です。
相続においては、被相続人の預貯金や不動産など財産的な価値のあるものだけでなく、借金などの「負の財産」がある場合には、原則としてそれも引き継がなくてはなりません。連帯保証人としての義務も例外ではないのです。
このため、被相続人が連帯保証人になっていた相続人は、相続発生時の主債務者(借金をした人)の状況によって、次のようなデメリット、リスクを負うことを、しっかり認識しておく必要があるでしょう。
- ・主債務者がすでに債務不履行になっていて、被相続人が生前から代わって返済していた:相続人が残りの債務を引き継ぎ、返済を継続する
- ・主債務者が平常に返済を行っている:その人が債務不履行に陥った場合には、その時点から連帯保証人として返済の義務が生じる
相続人が複数いる場合はどうなるのか
連帯保証人を引き継ぐ相続人とは
説明したように、相続人は被相続人が連帯保証人になっていた場合、その立場を引き継ぐことになります。相続人(正確には民法で定められた「法定相続人」)とは、具体的には次のような人が該当し、第1順位~第3順位という相続の順番が決められています。なお、被相続人の配偶者は、順位に関係なく常に相続人です。
- 第1順位:子(孫)
- 第2順位:父母(祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(甥姪)
例えば被相続人の子どもが先に亡くなっていても、その子ども(被相続人の孫)がいれば、代わって相続人になります。この仕組みを「代襲相続」といいます。各順位の( )の人が、これに該当します。
代襲相続も含め、順位が上の相続人がいる場合には、下位の人は相続人にはなれません。被相続人に孫がいれば、父母や兄弟姉妹は、相続人ではないのです。
連帯保証人の義務は、どう分ける?
相続人が複数いる場合、相続の際のそれぞれの連帯保証の負担割合はどうなるのか、という疑問を抱かれるかもしれません。
民法は、相続で相続人が受け取れる財産の割合(法定相続分)を定めており、被相続人の遺言書がない場合には、それを目安に遺産分割が行われます。この法定相続分は、原則として借金などの「負の財産」にも適用されることになっています。例えば、相続人が配偶者と子どもだったら、法定相続分はそれぞれ1/2ずつです。子どもが2人いれば、1人の負担割合は1/4ということになるわけです。
一方、相続人全員が遺産分割協議(遺産の分け方についての話し合い)で合意すれば、法定相続分とは違う割合で財産を分けることもできます。負債についても、例えば相続人の誰かが一手に引き受ける、といったことも可能ではあります。
ただし、これはあくまで相続人の間の取り決めで、法的効力は消えないことに注意が必要です。返済するはずの人が滞納したりして、債権者の請求があった場合には、それぞれの相続人は、法定相続分に基づく返済を行わなくてはなりません。
法定相続人、法定相続分については「甥や姪に相続の権利が?知っておきたい「法定相続人」のこと」をご覧ください。
相続放棄すれば、連帯保証を引き継がないですむ
相続放棄という選択
前述したようなデメリットやリスクのある連帯保証人の立場を引き継ぎたくないときには、相続放棄を行う、という選択があります。相続放棄は、被相続人が多額の借金などを抱えていた場合に行われますが、連帯保証に対しても有効なのです。
ただし、相続放棄には、次のような注意点があります。
(1)「相続を知った日から3ヵ月」という期間がある
相続放棄をするためには、家庭裁判所に申し立てて認めてもらう必要があります。この申し立て(申述)には、「相続を知った日から3ヵ月」という期限が設けられていて、これを過ぎると原則として認めてもらえません。
ただし、この期間は場合によっては延長が認められることがあります。それについては後述します。
(2)プラスの財産も相続できない
相続放棄をすると、連帯保証人の立場を引き継がないだけでなく、被相続人が残したすべての遺産を相続できなくなります。
(3)自分が放棄したことで、別の人が連帯保証人になるかもしれない
相続放棄をするかしないかは、相続人それぞれの判断に任せられます。相続人のうちの誰かが、プラスの財産も含めてすべて相続する、といったことも可能なのです。
注意すべきは、自分が相続放棄を選択した結果、他の親族が新たに相続人となり、被相続人の連帯保証人の立場もその人に移動する可能性があることです。さきほど、相続人の順位について説明しましたが、仮に第1順位の子や配偶者が全員相続放棄すると、第2順位の被相続人の父母が相続人となるのです。父母も相続を放棄したり、すでに他界していたりすると、第3順位の兄弟姉妹が相続人です。
可能性としては、第3順位の代襲相続で、被相続人の甥や姪がその連帯保証人の立場を引き継ぐこともありえるわけです。ですから、相続放棄することを決めた場合には、法定相続人の範囲の親族に気を配り、きちんとした状況説明などを行うべきでしょう。
(4)相続放棄は撤回できない
家裁に相続放棄が認められると、それを取り下げることは原則としてできません。判断には慎重を期す必要があります。
相続放棄については「被相続人の負債は「相続放棄」でチャラに でもそこには、大きなリスクも」をご覧ください。
相続放棄の判断基準は?
では、その判断基準となるのは、どんなことなのでしょうか? 検討すべきポイントには、次のような点があります。
(1)「正の財産」と負債(連帯保証)の比較
被相続人に「負の財産」があっても、もらえる預貯金や不動産などの財産額がそれを上回っていれば、わざわざ相続放棄などをする必要はないでしょう。被相続人が連帯保証人としてすでに返済を始めていた場合には、「正の財産」が負債の残額を上回るかどうかが、指標になるはずです。
なお、生命保険の死亡保険金は、相続財産ではなく受取人固有の財産です。そのため、相続放棄をした場合にも満額受け取れることは、覚えておきましょう。
(2)主債務者の支払い能力
被相続人が連帯保証していたものの、主債務者が問題なく返済している場合には、負債の残額とともに、今後も支払いを続ける能力、意思があるかどうかが検討課題になります。主債務者の年収や財産などを調べ、特に問題がない場合には、仮に連帯保証の金額が「正の財産」を上回っていても、そのまま相続するという選択もありえるでしょう。
ただし、最初に述べたように、主債務者に十分な資力などがあったとしても、返済が滞れば、連帯保証人として返済義務が生まれます。
相続放棄の期限は延長が認められることもある
「相続を知った日から3ヵ月」という相続放棄の申述の期限は、次のようなケースでは延長が認められることがあります。必ず認められるわけではありませんが、諦めずに相続に詳しい弁護士や税理士などの専門家に相談してみましょう。
- ・被相続人が連帯保証人になっていた事実を知らなかった:知った日から3ヵ月以内に申述すれば、相続放棄が可能
- ・被相続人の財産状況を把握するのに時間がかかる
- ・消息不明の相続人がいて、遺産分割協議などが始められない
連帯保証人の立場を相続したらどうする?
相続放棄の手続きが間に合わなかったりして、意に反して連帯保証人の立場を相続することも、ないとはいえません。そのような場合には、置かれた状況に応じて、次のような対応を検討しましょう。
全額返済したうえで主債務者に支払いを求める
負債の残額が支払い可能な金額ならば、すぐに一括返済するというのが、選択肢の1つになります。そうすることで、利息や遅延損害金の支払いをしなくて済みます。
また、全額返済した後は、主債務者や他の連帯保証人(法定相続人)に、負担額の支払いを求めることが可能です。これを「求償請求」といいます。ただし、後で主債務者や他の連帯保証人に求償する際のトラブルとならないよう、返済の前に、証拠が残る内容証明郵便などを使って通知しておくことが大事です。
債務の減額を交渉し、支払いを行う
被相続人が残した債務を全額支払うことが困難な場合には、金融機関などの債権者に対して、残債の減額交渉を行うことが有効なこともあります。債権者にとっては、債務者が経済的に破綻して1円も回収できなくなるのが最悪ですから、状況によっては交渉の余地があるでしょう。
ただし、これは本当に返済が厳しい場合の手段だと考えてください。“ダメもと”でやろうとしたりすると、金融機関に資産状況を精査され、逆に差し押さえなどを行われるリスクもあるのです。事前に弁護士などに相談することをお勧めします。
「任意整理」を行う
「任意整理」も債権者と直接交渉して、返済の負担を軽減する手法です。具体的には、利息の減額や返済期間の調整などを行います。借入金自体の減額は困難ですが、分割払いなどを認めてもらえる可能性があります。
「個人再生」を行う
住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円以下の場合に利用でき、借金を圧縮させたうえで、債務を分割返済できるのが「個人再生」の制度です。利用するためには、裁判所での手続が必要になります。
「自己破産」を行う
以上の手段を検討しても、返済のメドがまったく立たないようなケースでは、裁判所に申し立てをおこない、自己破産の決定を受ける、という方法を検討することになります。自己破産が認められれば、債務の返済義務はなくなります。一方、不動産をはじめ財産の多くを手放すことになるうえ、一定期間、借金やクレジットカードの作製ができなくなるなど、経済的なダメージは小さくありません。
まとめ
被相続人が誰かの連帯保証人になっていた場合、その立場は相続人に引き継がれることになります。「正の財産」とのプラス・マイナスなどを検討したうえで、必要であれば相続放棄を考えましょう。迷う場合には、早めに専門家に相談することをお勧めします。