- 相続に強い税理士を探す >
- 今知りたい!相続お役立ち情報 >
- 2024年から相続税・贈与税が大きく変わりました これからの贈与で考えるべきこととは
2024年から相続税・贈与税が大きく変わりました これからの贈与で考えるべきこととは
2024年4月24日
2024年1月から、相続税・贈与税の課税の仕組みが変わったのをご存知でしょうか。これまで贈与といえば、「毎年少しずつ渡していくもの」というイメージがありました。そうすれば、特に申請の必要などもなく、無税で子どもなどに財産を譲っていくこともできたためですが、その常識は必ずしも通用しなくなっています。どこがどう変わったのか、それを踏まえて検討すべきこと、注意点などについて解説します。
改正の背景にあるもの
最初に今回の改正がなぜ行われたのか、その背景をみておきます。
生前贈与による節税
相続税は、被相続人(亡くなった人)の遺産を受け取った人にかかる税金です。一方、贈与税は、個人の間で無償の財産の受け渡しがあったときに、受け取った人に課税されます。親が子どもに財産を引き継がせる場合、親が亡くなった時点で発生するのが相続税、生きているうちに渡す(生前贈与する)とかかるのが贈与税、ということになります。
相続税は、遺産額が大きくなるほど税率も上がっていく累進課税になっています。このため、相続財産の金額を減額すればするほど、節税効果は高くなります。
その節税の方策の1つが、生前贈与です。贈与税も累進課税で税率も高めに設定されているものの、後で述べる基礎控除の枠を活用することで、無税ないし少ない税負担で親族に財産を移し、同時に相続時の財産額を減らしていくことができるからです。
相続税と贈与税は「一体化」の流れに?
そもそも論をいえば、相続税も贈与税も、社会的な「富の再分配」を主な目的としています。経済格差の固定化、拡大を避けるために、親族などに財産を譲る際には、その価値に応じた負担をしてもらい、社会に還元していこう、という主旨です。
しかし、説明したような生前贈与による節税は、実態的に財産の多い富裕層の相続税の「累進負担回避策」になっている、という批判が以前からありました。同じ資産の移転でありながら、その時期によって支払う税金が異なるということ自体に、疑問の声も上がっています。実際、アメリカ、ドイツ、フランスのように、贈与と相続の税負担にほとんど(アメリカは完全に)差を設けていない国も存在します。
このような状況を踏まえて、日本でも、同様の税制を構築する動きが顕在化し、2021年末に公表された「22年度税制改正大綱」で、「相続税・贈与税の一体化」について、初めて言及されました。その後検討が進み、23年度の税制改正に具体策が盛り込まれ、24年から実行に移された、というのがここまでの経緯です。
今回の改正は、相続税と贈与税を完全に一体化させるものではありませんが、そちらの方向に大きく一歩を踏み出した内容といえます。
贈与には2種類ある
これもそもそも論をいうと、贈与税は「相続税を補完する税」という位置付けです。今回は、この贈与税の課税の仕方を改めることで、両者の一体化を進めるものとなっています。
贈与には次の2つの方法があり、任意で選択できます。税制改正では、それぞれの課税方法が見直されました。
●暦年贈与(暦年課税を使った贈与)
一般に生前贈与といわれてきたのが、これです。贈与税は、毎年1月1日~12月31日までの1年間の贈与額に課税(歴年課税)されますが、「110万円まで」という「基礎控除額」があり、それ以下ならば非課税です。贈与に当たっては、特に税務署などに届け出る必要はなく、申告・納税が必要になった場合に、その手続きを完了させればOKです。
●相続時精算課税
この制度を使えば、2,500万円までの財産を「特別控除額」として、贈与税非課税で贈与することができます。財産を受け取った人は、渡した人が亡くなったときに、相続税の支払いで「清算」します。制度の利用に際しては、事前に税務署への届け出が必要です。
では、どのような改正が行われたのか、具体的にみていきましょう。
暦年贈与は「実質増税」に
少額・長期間の贈与で節税できる
暦年贈与では、年間110万円の基礎控除額を超える贈与に課税されます。例えば、1,000万円を一度に贈与すれば、基礎控除額を差し引いた890万円が課税対象になります。一方、同じ金額を何年かに分けて、贈与額が基礎控除額の範囲内にとどまるように渡した場合には、贈与税は1円も課税されません。
このように、基礎控除額を意識しながら、長期に渡って贈与することで、節税しながら財産を渡していくことができます。すでに述べたように、このようにして財産を減らせば、相続税の節税にもつながるわけです。
「生前贈与加算」とは
ただし、この暦年贈与には、期間の制限があります。贈与者が亡くなった日から遡る一定期間に贈与された財産に関しては、贈与とはならず、相続財産の方に加算しなくてはならないのです。これを「生前贈与加算」=相続財産への「持ち戻し」といいます。
生前贈与加算になった財産には、当然贈与税の基礎控除は認められません。仮にこの期間に贈与税ゼロのつもりで110万円ずつ贈与していたとしても、その金額は被相続人の財産に戻され、相続税の課税対象になる可能性があるということです(※)。
※相続税にも「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があり、遺産総額がこれ以下ならば、課税はされない。
なぜこのような決まりがあるのかというと、相続税負担を軽くするために、亡くなる直前に駆け込み贈与が行われるのを防止するためです。
加算の期間が3年→7年に延長された
暦年贈与に関する今回の変更点は、この生前贈与加算の見直しです。対象となる期間は、従来は贈与者が亡くなった日から過去3年だったものが、7年まで延長されることになりました。なお、延長される4年~7年の間の贈与に関しては、総額100万円までは持ち戻しされません。
暦年贈与の節税メリットは、できるだけ長い期間贈与を行うことで大きくなります。相続財産への生前贈与加算の期間が延長される、すなわち暦年贈与可能な期間が短くなることにより、その効果が薄れることは避けられません。暦年贈与に関しては、実質増税の改正といっていいでしょう。
対象になるのは24年以降の暦年贈与
ただし、この生前贈与加算の期間は、いきなり相続発生前7年間となるわけではありません。対象になるのは、24年1月1日以降に行われた暦年贈与で、23年末までに行われた贈与に適用される持ち戻し期間は、従来通り3年です。つまり、26年末までに発生した相続に関しては、生前贈与加算はそれ以前と変わらず3年間ということです。
実際に今回の改正の影響を受けるのは、3年後の27年1月1日以降に発生する相続で、この日を基点に、生前贈与加算の期間が順次3年から7年まで延びていきます。加算の期間が完全に7年間になるのは、31年1月1日以降の相続です。
相続時精算課税はメリットが拡大
税が後払いできる制度
一方、もう1つの相続時精算課税を選択すれば、2,500万円までの贈与(特別控除額)には、贈与税がかかりません。贈与額が2,500万円を超えた場合には、その超えた金額に一律20%の贈与税が課税されます。
その後、財産を譲った人が亡くなり相続が発生したときに、この制度を使って贈与された総額を相続財産に加算して、相続税が計算されます。このとき、特別控除額を超えたためにすでに支払った贈与税があれば、相続税額から差し引くことができます。
このように、23年までの相続時精算課税制度では、いわば税金の後払いが可能なものの、その減免はなし。基礎控除額が認められる暦年贈与と違い、節税に結びつく税制上のメリットはありませんでした。
年間110万円の基礎控除額が設けられた
しかし、今回の改正では、暦年贈与が実質増税になったのとは逆に、節税に結びつく仕組みが導入されました。暦年贈与と同様の「年間110万円まで」という基礎控除額が創設されたのです。
これは、2,500万円という特別控除額とは別枠です。また、暦年贈与で説明した相続財産への生前贈与加算が行われないのも、特筆すべき点です。相続開始までの間、年間110万円までは、贈与税も相続税も非課税で財産を渡していくことができるわけです。
暦年贈与に比べると、これまでいまひとつなじみの薄い制度でしたが、それを活用するメリットが広がったのは、間違いないでしょう。
制度利用には要件がある
ただし、この相続時精算課税制度を使うためには、事前に税務署への届け出が必要なほかに、次のような要件を満たさなくてはなりません。
・贈与者(贈与する人)は、贈与をした年の1月1日現在で60歳以上であること
・受贈者(贈与を受ける人)は、贈与者の直系卑属(子、孫などで血縁関係のある人)である推定相続人または孫で、贈与を受けた年の1月1日現在で18歳以上の人
つまり、60歳以上の父母、祖父母から、18歳以上の子や孫などに対して行う贈与に使える制度です。暦年贈与には、このような縛りはありません。
これからの生前贈与の判断ポイント、注意点とは
24年からの相続税・贈与税の改正が、インパクトの大きなものであることが理解いただけたと思います。では、今後贈与を行う場合には、こうした変更も踏まえて、どのように行動すべきなのでしょうか。
相続時精算課税を積極的に活用する
暦年贈与の基礎控除額の生前贈与加算が7年に延長されたのは、やはり大きな痛手です。特に贈与者が相続までの時間があまり残されていないと考えられる高齢者などの場合には、基礎控除額の持ち戻しがない相続時精算課税のほうが「安全」でしょう。
贈与したい財産額がそれほど高額ではなく、年間110万円近辺で十分という場合にも、単純に生前贈与加算のない相続時精算課税が有利といえます。暦年課税で贈与を行っている場合には、切り替えを検討する価値があります。
相続時精算課税にはデメリットもある
ただし、この制度には次のようなデメリットもありますから、必ず検討項目に加えるようにしてください。
◆「小規模宅地等の特例」が受けられない
相続税には、自宅などを相続する場合に、被相続人と同居していたなどの一定の要件を満たせば、土地の評価額を最大8割減額できる「小規模宅地等の特例」が設けられています。相続税節税の切り札ともいわれる制度なのですが、相続時精算課税制度を使って贈与を受けた不動産は、この特例の適用が受けられなくなりますから、注意が必要です。
◆「居住用の3,000万円特別控除」も使えない
贈与後に子どもが実家を売却した場合に、譲渡益から最大3,000万円を控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」も使うことができません。
将来値上がりする資産は、相続時精算課税が有利
今回の改正点ではありませんが、相続時精算課税を利用して現金以外の資産を贈与するときには、贈与時の評価額に基づいて税額が計算されます。例えば不動産を贈与した場合、精算を行う相続発生時にその価格が値上がりしていても、相続財産に加算されるのは贈与時の評価額ですから、結果的に節税になります。
ただし、逆に相続時に資産価格が値下がりしていたら、「先走って損をした」ということになります。相続時精算課税で価格変動のある資産を贈与する場合には、将来的に値下がりする可能性はないか、しっかり調べておくべきでしょう。
相続時精算課税を選択すると、変更できない
暦年贈与から相続時精算課税に切り換えることは可能ですが、逆は不可です。一度相続時精算課税を選択すると、変更はできません。ですから、税務署に申請する前に、この制度のデメリットをしっかり確認しておく必要があるわけです。
60歳未満の人は暦年贈与しかできない
相続時精算課税には「贈与者は60歳以上」という要件がありますから、60歳未満の人が贈与をしたいと思ったら、暦年贈与するしかありません。60歳になって以降、切り替えを考えるのもいいでしょう。
「相続発生前7年」以前に贈与を終えていると考えられるなど、特にその必要性を感じない場合には、無理して「変更不可」になる相続時精算課税を選ぶ必要はないかもしれません。暦年贈与には、申請不要、基礎控除額の範囲内なら申告も不要、という使い勝手のよさがあります。
孫には生前贈与加算されずに暦年贈与できる
暦年贈与の生前贈与加算の期間が延長されるというのが、今回の大きな変更点でした。ただし、以前から、この生前贈与加算は法定相続人を対象としたものとされていて、その立場にない孫には適用されません。孫に対してなら、今回の改正に関係なく、相続発生時まで基礎控除額を使った暦年贈与が可能です。
ただ、ここでも注意が必要です。被相続人が遺言で孫に財産を渡した場合には、相続人と同様に、受け取っていた贈与が生前贈与加算の対象になるのです。ちなみに孫が相続で財産を受け取った場合には、相続税は「2割加算」されます。
まとめ
2024年からの相続税・贈与税の改正により、相続時精算課税を利用するメリットが拡大しました。ただし、説明したようなデメリット、注意点にも気をつける必要があります。
実際には、財産の額や贈与者の年齢など、個々のケースによって適した贈与の方法は変わります。不安やわからないことがある場合には、専門の税理士に相談するのがいいでしょう。