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孫に財産を譲りたい その方法と注意点を徹底解説します
2024年6月26日
- この記事の監修者
- 河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
自分の子どもは、民法に定められた法定相続人です。一方、孫は、原則として相続人ではありません。その孫に自らの財産を譲るには、どうしたらいいのでしょうか? 孫に財産を渡すメリットやその方法、注意点などについて解説します。
孫が相続人になるケース=「代襲相続」
「孫は、原則として相続人ではない」といいましたが、相続人になることもあります。相続人になれば、被相続人(亡くなった人)の遺言書がなかった場合、法定相続分(民法に定められた遺産取得の割合)の遺産を受け取ることができます。最初に、そのケースから説明しておきましょう。
法定相続人とは
法定相続人に該当するのは、原則として被相続人から見て以下のような親族で、1位~3位までの順位が定められています。上位の順位の人がいる場合には、下位の人は相続人ではありません。
●配偶者は常に相続人
●第1順位:子ども
●第2順位:両親
●第3順位:兄弟姉妹
子が先に亡くなっていれば、孫が相続人
では、どんな場合に孫が相続人になるのでしょうか?該当するのは、第1順位の子どもが被相続人よりも先に亡くなっていて、その子どもに子ども(被相続人から見て孫)がいるケースです。この場合、孫が子に代わって相続人になるのです。これを「代襲相続」といいます。
例えば、被相続人に妻と長男A(その子どもb、c)と長女D(子どもe)がいた家族で、相続発生時にすでに長男Aが亡くなっていたとします。この事例では、相続人は妻と長女D、それに代襲相続した孫のbとcの4人ということになります。同じ孫でも、eは相続人ではありません。
代襲相続では、法定相続分もそのまま引き継ぎます。今の事例の法定相続分は、それぞれ次のようになります。
◆第1順位では、法定相続分は配偶者と子どもが1/2ずつ
・妻:1/2
・長女D:子どもの取得割合1/2の半分=1/4
・孫bとc:父親Aが受け継ぐはずだった1/4の半分=1/8ずつ
とはいえ、代襲相続は、意図せずに起こった結果といえます。計画的に孫に財産を渡そうと思ったら、生前にきちんとした対策を講じる必要があります。具体的にみていきましょう。
孫に相続で遺産を渡す2つの方法
述べたように、原則として相続人ではない孫ですが、相続の際に遺産を渡す方法があります。
遺言書で指定する
遺産分割で最優先されるのは、被相続人が残した遺言書です。そこに名前と譲りたい財産を書いておけば、相続人以外の人、もちろん孫にも遺産を分けることができるのです。
正確には遺言書による財産の承継は、相続ではなく「遺贈」といいます。「預金1,000万円」「自宅不動産」のように決まった財産を贈ることも(特定遺贈)、「遺産の1/3」などの形で指定することも(包括遺贈)可能です。
養子縁組をする
法的に孫を「子ども」にすることもできます。孫と養子縁組して、法律的な親子関係を結ぶのです。そうすれば、養親である被相続人が亡くなったとき、孫は実子と同じく法定相続人となります。
孫を相続人にすることは、相続税対策にもなります。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があり、これを超えた遺産額に課税されます。相続人の数が増えれば、この基礎控除額を上げる(=課税対象となる相続財産を減らす)ことができるのです。
孫に相続以外で財産を渡す4つの方法
相続以外にも孫に財産を渡す方法があります。
生前贈与を行う
最もわかりやすいのは、生きているうちに孫に現金を渡す生前贈与です。ただし、闇雲に贈与を行えば、税率の高い贈与税がかかってきます。
贈与税にも年間110万円という基礎控除額があり、この金額までは課税されません。基礎控除を意識しながら、長期間贈与を行っていけば、非課税ないし少額の税負担で孫に財産を渡すことができるでしょう。こうした贈与の仕方を「暦年贈与」といいます。生前贈与することで相続財産が減額されるため、相続税の節税効果も見込めます。
さらに孫への贈与には、子どもなどへの贈与とは異なるメリットもあります。暦年贈与では、相続開始前3年間の贈与(2024年から順次7年間に延長)は、被相続人の相続財産に「持ち戻し」され、相続税の課税対象とされます。相続間際の“駆け込み贈与”による課税逃れを防ぐためです。
しかし、このルールが適用されるのは相続人への贈与で、相続人ではない孫は対象外。亡くなる直前まで、基礎控除額を活用しながら贈与できるのです。「持ち戻し期間の延長により、暦年贈与のメリットが薄れた」といわれますが、孫への贈与に関しては、影響しません。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 持ち戻し期間が延長されても、孫への贈与には引き続き「暦年贈与」が有用であると言えます。ただし、毎年贈与を行う際には連年贈与と認定されないように贈与を行う毎に贈与契約書を作成するようにしましょう。連年贈与と認定されると贈与した金額すべてが一括で贈与税の課税対象になってしまいます。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
「教育資金の一括贈与の特例」を活用する⇒2026年3月31日まで
これも生前贈与の1つですが、30歳未満の子どもや孫に教育資金を贈与する場合、最大1,500万円までの贈与が非課税になる特例措置があります。用途は、学校の授業料などに限られますが、非課税枠のうち500万円は、塾や習い事の費用にも使えます。
ただし、2026年3月末までの特例です。
「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」を活用する⇒2025年3月31日まで
18歳以上・50歳未満の孫や子どもに結婚や子育て用の資金を贈与する場合、最大1,000万円までが非課税になる特例制度もあります。結婚資金については、最大300万円までとなっています。
こちらは、2025年3月末までの特例です。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 「教育資金の一括贈与の特例」、「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」に共通しますが、いずれも受贈者は金融機関で専用の口座を開設する必要があります。既存の金融機関口座で贈与を受けても特例の対象にはならないことに注意しましょう。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
生命保険(死亡保険)の受取人にする
被相続人の死亡によって保険会社から支払われる生命保険金は、民法上相続財産ではなく、受取人固有の財産とされています。孫を受取人に指定しておけば、遺産分割などとは関係なくお金を渡すことができるのです。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 孫養子や代襲相続の場合を除いて孫は法定相続人ではないため、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数)の適用がないことには注意が必要です。これを見落とすと相続税の計算も誤ったものになってしまい、追徴課税の対象になってしまいます。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
孫に財産を渡すときの注意点
説明してきたような方法で孫に財産を譲ることができますが、その際に注意すべきことがあります。以下にまとめました。
「正しい」遺言書を残す
遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言書」、公証役場で公証人に作成、保管してもらう「公正証書遺言書」、自分で作成し公証役場に持っていく「秘密証書遺言書」があります。自筆の遺言書は、手軽でコストもかからず、法務局で保管してもらえる制度も始まりました。ただし、形式的な不備があったりすると無効になるリスクもありますから、注意してください。
また、第3順位の兄弟姉妹以外の相続人には、民法で遺留分(最低限もらえる遺産の割合)が認められています。孫への遺贈が相続人の遺留分を侵害すると、孫がその分を請求される(遺留分侵害額請求)可能性があり、トラブルの種にもなりかねません。遺言書は、これに配慮して作成するようにしましょう。
遺贈の場合、相続税は「2割加算」になる
孫に財産を渡すことで、渡した財産に関しては、「子から孫へ」の相続をスルーでき、相続税の節税につながる可能性があります。一方で、法定相続人以外の人が遺言書による遺贈で財産をもらった場合には、相続人に比べて相続税が2割増しになることに、注意が必要です。
相続財産がさきほど説明した基礎控除額を超える相続では、遺産を受け取った孫にも相続税の納税義務が生まれます。その時の孫の年齢や経済状態にもよりますが、不動産などの現金以外のものを譲った場合には、納税資金に困るかもしれません。そうしたことも想定した準備が必要でしょう。
ちなみに、相続人以外の人が遺贈で不動産を取得した場合には、相続するのに比べ、不動産の名義変更に必要な登録免許税と不動産取得税も割高になります。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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代襲相続の場合は2割加算されませんが、孫養子の場合は2割加算の対象です。
また、孫が死亡保険金を受け取ると相続財産を受け取ったことになる(みなし相続財産)ので、相続開始3年(7年に順次延長)以内に贈与を受けた財産についても相続税の対象(持ち戻し)となってしまう点に注意です。 - 河鍋公認会計士・税理士事務所 代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
養子縁組は慎重に
孫を養子にしておけば、より確実に財産を渡すことができますが、「養親と養子は、お互いに相手を扶養する義務を負う」などの法的関係が生じます。精神的にもデリケートな問題を含みますから、家族でよく話し合って決めるようにしましょう。
なお、養子が15歳未満の場合には、養子の法定代理人(親権者など)が、養子本人に代わって養子縁組の合意を行います。
贈与には「もらった」という意思が必要
生前贈与(暦年贈与)で気をつけたいのが、贈与は「あげた・もらった」という双方の意思に基づく契約でなければならない、ということです。よくあるのが、本人に内緒で子どもや孫名義の口座に預金しているケース。この場合、贈与契約は成立しておらず、預金は預金した被相続人の財産と判断されます。これを「名義預金」といいます。
名義預金は、相続の際には、全額が被相続人の相続財産に持ち戻されます。つまり、孫名義の口座にあるお金は孫には渡らず、相続人で分けることになるわけです。当然、相続税の課税対象にもなります(遺産総額が基礎控除額を超えた場合)。
「孫の預金だからいいだろう」と勘違いして、名義預金を遺産に含めずに相続税の申告を行った場合、税務署に申告漏れを指摘され、「加算税」「延滞税」などのペナルティを課される可能性があります。
「争続」を生まないよう親族の関係に配慮する
孫に財産を渡すのには、「かわいいから」「相続税対策で財産を減らすため」など、さまざまな理由があるでしょう。ただ、そのことが親族の揉め事を生んだりしないよう、細心の注意を払う必要があります。
相続で孫に財産が渡れば、相続人の取り分は目減りします。そのことに不満を募らせる人がいるかもしれません。また、例えば長男の子どもばかりに偏った生前贈与や遺贈を行うと、自分にも子どもがいる長女は快く思わないはずです。
相続では、些細なことから相続人同士の関係が悪化し、骨肉の争いになってしまう事例が珍しくありません。そんなことにならないよう、孫への財産分与は、周囲とよく話し合って、その理解を得ながら進めるべきでしょう。
まとめ
原則として法定相続人ではない孫にも、遺言書を残す、養子縁組する、生前贈与を行う、といった方法で、財産を渡すことができます。ただし、やり方に不備があったために思い通りにいかなかったり、相続で争いを招いたりしないよう、しっかり準備する必要があります。不明な点は、相続に詳しい税理士などに相談してみるのがいいでしょう。
記事監修者 河鍋税理士からのワンポイントアドバイス
今回は孫に財産を譲る方法とその注意点について解説しました。
生活を豊かにすることや相続税を節税することを目的に、孫へ財産を移転させたいと考えている方は多いですが、何も考えずに財産移転してしまうと孫に多額の税金が課税されてしまうことになりかねません。
特に上記で解説したように、生命保険金の受取人に孫を指定されている方は多いと思われます。生命保険金は受取人固有の権利ですので孫は確実にお金を受け取れますが、①生命保険金の非課税枠の適用がない点、②相続税の2割加算の対象になる点、③生命保険金を受け取った孫に対する相続開始前3年(7年に順次延長)以内の生前贈与は持ち戻しの対象になる点は特に注意が必要です。
孫への財産移転は複雑な制度の中で生前の対策がメインですので、相続税や贈与税に詳しい税理士にご相談されることをお勧めします。