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認知症の備えとなる「家族信託」とは 成年後見制度との違いやメリット・デメリットを解説

認知症の備えとなる「家族信託」とは 成年後見制度との違いやメリット・デメリットを解説

2024年6月26日

この記事の監修者
ACCESS税理士・不動産鑑定士事務所
代表 植崎 紳矢(公認会計士・税理士・不動産鑑定士)

高齢化の進行に伴い、認知症を患う人が右肩上がりに増えています。現在、その比率は65歳以上の約16%と推計されており、2030年には「高齢者の5人に1人が認知症」の時代が到来するといわれます。そうなって困ることの1つが財産管理で、実際詐欺被害などの報告も後を絶ちません。自分が認知症になったときに、家族に財産管理を委ねることができる「家族信託」をご存知でしょうか。その仕組みと、メリット・デメリットなどを解説します。

家族信託とは

認知症になると財産の管理、処分が困難に

重い認知症になると、日常生活に支障をきたし、周囲の見守り(介護)なしには暮らしていけなくなりますが、財産の管理がおぼつかなくなるのも重大問題です。通帳や印鑑のありかがわからなくなったり、キャッシュカードの暗証番号を忘れたりすると、生活費を下ろすことができなくなります。金融機関が、口座の名義人は認知症で、判断能力が著しく低下していると判断した場合、口座が凍結される可能性もあります。

判断能力を失ったとはいえ、当人の財産に勝手に手をつけることは許されず、例えば家を売って施設の入居費用や介護費を捻出するようなことはできません。子どもが「親の意思だった」と主張しても、本人に代わって売却することは認められないのです。

このような不都合な事態に備える方法の1つが「家族信託」です。ひとことでいえば、認知症になる前に、子どもなどの親族と信託契約という契約を結ぶことで、判断能力が低下した後でも、その親族に財産の管理や運用、処分などを任せることができる制度です。

【家族信託の仕組み1】契約は3者で行う

この契約には、次の3者が登場します。

①委託者:将来の認知症などに備え財産を預ける人⇒親など
②受託者:財産を預かって管理する人⇒子など
③受益者:財産管理によって利益を得る人⇒契約で定められた人や法人。親の認知症などに備え子が財産を預かる場合には、①委託者の親自身が③受益者となる

【家族信託の仕組み2】「財産権」と「財産の管理などができる権利」を分ける

家族信託では、まずもともと親などが持っていた所有権を(A)「財産権(財産から利益を受ける権利)」と(B)「財産を管理運用処分できる権利」とに分けます。そのうえで、(A)→③受益者、(B)→②受託者に、別々に持たせます。不動産を例にとれば、①の親が所有している不動産の名義は②の子どもに書き換え、財産権そのものは引き続き③の親が持つ――という形になるのです。

この契約を結んでおくことで、例えば親が認知症になった後に、子どもが管理を委ねられていた不動産を売却して得た資金を、親の介護のために使うことができます。認知症対策としてこの家族信託を利用する場合、子どもが財産の管理や処分ができると同時に、受益者はあくまでも親である、という点がポイントです。

家族信託のメリット

認知症への備えとして家族信託を活用する場合のメリットには、次のようなものがあります。

親の財産の管理だけでなく、運用や処分もできる

受託者となった子どもは、親が認知症になり判断能力が衰えても、それに左右されることなく委託された財産を管理するだけでなく、親のために運用したり、処分したりできます。口座の凍結などにより「親の財産が親のために使えなくなる」リスクが大きく軽減されることが、子どもにとって最大のメリットといえるでしょう。

例えば親が賃貸アパートを所有していたら、管理できなくなった親の代わりを務めて収益を上げ、それを親に渡すこともできます。相続を考えれば、親の築いた「収益源」を守ることは、子ども自身のためでもあります。

相続対策になる

家族信託には、相続で遺言書を残すのと同等の効果があります。信託契約の中に、次に財産権を継がせる人をあらかじめ定めておくことができ、その内容は法的な効力を持つからです。さらにいえば、「次の後継者」だけでなく、「その次の後継者以降」を決めておくこともできます。遺言では「次」しか指定することはできず、これは家族信託でのみ可能です。思い通りの財産分割ができるのは、親にとって大きなメリットといえるでしょう。

実は「争続」対策としても有効です。相続では、被相続人(亡くなった人)の遺言書がない場合、相続人の話し合い(遺産分割協議)で相続財産の分け方を決めます。その際に、相続人の間で利害や感情の対立が表面化し、争いになることが珍しくありません。

家族信託契約では、被相続人が元気な段階で、家族で話し合って財産の管理の方法を決めることになります。ですから、後々そうした争いの起こる可能性を減らすことができるはずです。

手続きは比較的容易

家族信託契約の手続きは、専門家の手を借りれば、比較的短期間で終わらせることができ、利用のハードルが高いものではありません。かかる費用も、利用のメリットを考えると、リーズナブルといえるのではないでしょうか。詳しくは後述します。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
信託契約を締結すると、認知症になった場合に財産の管理や処分などを信頼できる方(子など)に託すことが可能になります。また、財産を継がせる人を定めることが可能で、遺言的な効果もあります。
ACCESS税理士・不動産鑑定士事務所 代表 植崎 紳矢(公認会計士・税理士・不動産鑑定士)

家族信託の注意点、デメリット

ただし、家族信託の利用には、注意すべきこともあります。

判断能力を失ってからでは利用できない

「認知症になったときの備えになるのが家族信託」という話をしてきましたが、裏を返すと、重度の認知症になってからでは、家族信託を利用して家族が財産管理を行うことはできません。家族信託は、委託者と受託者の合意によって成立する契約で、両当事者に契約能力・判断能力のあることが前提になるからです。

もし、何もせずに認知症が悪化した場合、財産管理をしようと思ったら、後で説明する「成年後見制度」の「法定後見制度」に託すしか選択肢がなくなります。

「軽度の認知症」の場合は?

ただし、認知症にも症状のレベルがあります。例えば、親族の顔や名前、財産状況などは把握できているものの、明らかな記憶障害がみられる、といった程度の軽度の認知症でも、家族信託契約を結ぶことはできないのでしょうか?

答えは、「本人の判断能力による」です。つまり、「認知症の診断書が出ているから、家族信託は不可能」ではない、ということです。本人が自分の属性(生年月日や住所、氏名)、受託者を誰にするか、将来どの財産を誰に渡したいのか、などに明確に答えられる場合には、契約を結べる可能性があります。

ただし、契約能力の有無は、客観的に判断されなくてはなりません。ちなみに家族信託契約は、公正証書(※)で行われるのが普通ですが、その際、判断能力の有無を決めるのは、公証人です。軽度の認知症の状態で家族信託を検討したい場合には、速やかにこの分野に詳しい弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に相談するようにしましょう。

※公正証書 私人(個人または会社その他の法人)からの嘱託により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書。文書には公正の効力が生じ、反証のない限り、完全な証拠力を有する。

契約などの権限までは委託できない

家族信託は、あくまでも財産管理のための制度であることにも、注意が必要です。例えば、認知症になった親が入居した施設の費用を、信託された財産の中から支払うことはできますが、親の代理人として入居契約をする権限は与えられていないのです。

そうした身上監護(※)のことまでフォローしたい場合には、「成年後見制度」の「任意後見契約」(後述)を結ぶのがいいかもしれません。

※身上監護 本人の生活を維持するための療養看護に関する契約などのこと。

受託者の負担が大きい場合もある

親が認知症になった場合のことを考えると、とても助かる制度ではありますが、場合によっては受託者である子どもの負担が大きくなります。例えば不動産(建物)を委託されたら、受託者はそれを十分な注意を払って管理する義務があります。極端な例を挙げれば、建物の破損が原因で通行人などにけがをさせたら、受託者が損害賠償責任を負わなくてはなりません。

また、複数いる子どものうちの1人が財産の受託者になった場合には、預かった財産の処遇に関して、他の兄弟から疑いの目を向けられる可能性もあります。財産の扱いについて事前に家族間でよく話し合っておくとともに、できるだけ収支などをオープンにするなどの工夫が必要になるかもしれません。

親の同意が前提になる

そもそもどれだけ子どもの側が必要性を感じても、親が信託契約に同意してくれなければ、制度を使うことはできません。まだポピュラーな制度ではないだけに、親の世代には、初めから「拒絶反応」を示す人も少なくないようです。説得に骨が折れるケースもあるでしょう。

一方、親からすると、自らの財産についての権限を大きく子どもに委ねることになります。当然のことながら、「信頼できる子ども」であることが、受託者の要件といえます。

相続税対策にはならない

家族信託は、相続対策にはなりますが、「相続税対策」にはなりません。不動産を信託しても財産権は引き続き親が持ちますから、相続発生時にはその財産を受け継ぐ人に相続税が課税されます(納税が必要な場合)。信託により財産の評価が下げられるような効果もありません。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
信託契約を締結しても、その財産の実質的な権利は移転しませんので、信託により贈与税の負担は発生しません。
ACCESS税理士・不動産鑑定士事務所 代表 植崎 紳矢(公認会計士・税理士・不動産鑑定士)

家族信託の手続き、費用

家族信託は、次のような手続きで進めます。

信託契約の締結

委託者と受託者で信託契約の内容を決め、契約書を作成します。契約では、主に以下のようなことについて明確にします。

・信託財産の範囲(例えば自宅、収益不動産、現金など)

・財産の管理方法や処分権限の範囲

・受託者・受益者(認知症対策の場合は、子や孫が受託者・親が受益者となる)

最終的な財産の帰属者(任意だが、決めておけば遺言書の代わりになる)

信託口座の開設

受託者は信託財産管理用の銀行口座を開設し、自分の財産と分けて管理します。そうすることで、財産処理に関する疑念を生じにくくすることができるでしょう。

信託登記を行う

信託財産が不動産の場合には、法務局で名義人を委託者から受託者に変更する登記を行います。これにより、その不動産が信託財産であることが公示され、管理の権限、義務が生じます。

家族信託にかかる費用

家族信託のコストには、次のようなものがあります。

・信託契約書の公正証書作成費用:1万円〜5万円
・不動産の名義変更をする場合の登録免許税:固定資産税評価額の4/1,000。
 土地信託の場合は固定資産税評価額の3/1,000

また、司法書士などの専門家に家族信託の組成や、契約後のフォローを依頼する場合には、別途報酬が発生します。依頼の中身にもよりますが、信託財産の1%以上がめどとされます。

「成年後見制度」との違いを理解する

認知症になった人の財産や権利を守る方法に「成年後見制度」があります。家族信託との違いはどこにあるのか、最後にみておきましょう。

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な人の保護、支援を目的としたもので、大きく分けると、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。

法定後見制度

本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度です。成年後見人は、本人に代わって必要な契約を結んだりすることもできます。

ただし、制度を利用するための手続きは煩雑で、時間やお金もかかります。また、家族が成年後見人になれるとは限らないうえに、財産の処分などについての縛りが厳しく、柔軟に運用したりすることが制限されます。悪質商法から守るなど、本人の保護が優先される制度設計になっているためで、家族からすると、使い勝手の悪さがデメリットになります。

任意後見制度

任意後見制度では、家族信託同様、本人が十分な判断能力を有するうちに契約を結びます。あらかじめ任意後見人となる人や、将来その人に委任する事務(本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらを本人に代わって行うのです。任意後見人は本人が選び、家族を指定することも可能です。

この任意後見と家族信託との違いは、主に次の4点です。

(1)家族信託では、契約時、つまり判断能力が不十分になる前から財産管理を始めることができるのに対して、任意後見では、判断能力が不十分になった後から財産管理が始まります。

(2)さきほども触れたように、任意後見では任意後見人に身上監護を任せることができますが、家族信託では受託者が身上監護を行うことはできません。

(3)任意後見では、本人の財産は「現状維持」が原則で、不動産投資や株式投資、財産の組み替えなどを行うことは、基本的に「不可」です。これに対して、家族信託では、積極的な財産の運用が可能となる仕組みを構築することが可能です。

(4)任意後見では、任意後見人は、家庭裁判所から選任された任意後見監督人(※)や家庭裁判所による監督を受けることになります。家族信託には、そうした仕組みはありません。

※任意後見監督人 任意後見人が、契約の内容どおり適正に仕事をしているかを、監督する人。

どちらを選ぶかという際に、1つのポイントになるのは、(2)の身上監護の問題ではないでしょうか。財産管理を委ねる人に身上監護も任せたい、といった場合には、任意後見がいいでしょう。一方、財産の運用を考えたければ、家族信託がお勧めです。

また、(4)の任意後見監督人には、弁護士などの専門家が選任されることが多く、管理する財産額によって、月に数万円の報酬が発生します。任意後見は、基本的に支援を受ける人が亡くなるまで続きますから、継続して報酬がかかり続けることになります。そうした「ランニングコスト」も考慮に入れる必要があるでしょう。

記事監修者 植崎税理士からのワンポイントアドバイス

認知症で判断能力が衰えた場合に備える家族信託ですが、将来が心配な場合には、利用を検討してみてはいかがでしょうか?家族にとってのメリットが最大にできるよう、まずは税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

この記事の監修者
ACCESS税理士・不動産鑑定士事務所 代表 植崎 紳矢(公認会計士・税理士・不動産鑑定士)
相続×税金×資産運用に特化した税理士事務所。相続の生前対策から相続発生後の資産運用まで、一貫して経営者をサポートする。不動産に関する税務に力を入れており、『相続不動産のことがよくわかる本』(2021年、幻冬舎)など本の出版も行う。米国、シンガポールの公認会計士資格も有し、国際相続税務も対応多数。
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この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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