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使い込まれた遺産を取り戻す「不当利得返還請求」について解説

使い込まれた遺産を取り戻す「不当利得返還請求」について解説

2024年7月24日 
最終更新日:2024年9月5日

この記事の監修者
税理士法人杉山央税理士事務所
代表社員 杉山央(税理士・行政書士)

親が亡くなり相続になって通帳を調べてみたら、同居する長男が多額の現金を引き出して、自分のために使っていた――。このような場合には、他の相続人には、「不当利得返還請求」という法的な権利が認められています。ただし、実際に親の遺産を取り戻すのには周到な準備が必要なこともあり、時効にも気をつけなくてはなりません。請求の要件や手続き、注意点などを解説します。

不当利得返還請求の概要を説明

不当利得とは

不当利得」とは、ある人が売買契約などの法律上の正当な理由がないにもかかわらず、利益を受けること、または受けた利益そのもののことをいいます。本来利益を受けるはずのない人がそれを受け取る一方で、そのことにより損失を被る人が出ます。

相続で問題になる不当利得の例

相続の際にも、この不当利得=遺産の使い込みが問題になることがあります。例えば、次のような例です。

・被相続人(亡くなった人)の預金を引き出して、自分のために使っていた
・被相続人が加入していた保険を解約して、解約返戻金を受け取っていた
・被相続人所有の不動産を売却して、利益を得ていた
・被相続人所有の不動産から発生した賃料を使い込んでいた
・被相続人の証券口座で株式を売買し、利益を得ていた

預金を引き出していても、被相続人と合意のうえでその生活費や介護費用などに支出していた場合には、「正当な理由」が認められるため、不当利得とはいえません。

不当利得返還請求は、この条文に基づき、不当利得を得た人に対して、それによって損失を被った人が利益の返還を求めることをいいます。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
相続においては、上の例のように、特定の相続人が、他の相続人に無断で被相続人の遺産を使い込んだケースが該当します。こうした場合、他の相続人は使い込んだ本人に対し、その返還を請求できるのです。
税理士法人杉山央税理士事務所 代表社員 杉山央(税理士・行政書士)

不当利得は返還を求めることができる

民法には、「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(略)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」(第703条)という規定があります。

不当利得返還請求は、この条文に基づき、不当利得を得た人に対して、それによって損失を被った人が利益の返還を求めることをいいます。相続においては、上の例のように、特定の相続人が、他の相続人に無断で被相続人の遺産を使い込んだケースが該当します。こうした場合、他の相続人は使い込んだ本人に対し、その返還を請求できるのです。

不当利得返還請求の4要件

とはいえ、法律上の権利は、簡単に認められるものではありません。不当利得返還請求の4つの要件を確認しておきましょう。

請求の相手が利益を受けている

使い込みによって、その人が経済的な利益を得ている、という事実が要件です。例えば、被相続人の預金を引き出して使った結果、自分の財産を減らさずにすんだような場合も、「経済的な利益を得た」と判断できるでしょう。

相手の利益に「法律上の原因」がない

「法律上の原因」とは、売買(購入・代金の支払い)や贈与などを指します。相手の利益がこれらによるものの場合は、不当利得返還請求は認められません。相手がこれらによる利得だと主張した場合には、「そうではない」ことを立証する必要があります。

請求者が損失を被っている

仮に相手方が不当な利益を得ていても、損失がなかったならば、そもそも請求する理由はありません。相続人の1人が遺産を使い込めば、他の相続人は相続すべき財産を受け取れなくなる可能性がありますから、損失が生じることになるでしょう。

利益と損失に「因果関係」がある

相手の利益とは無関係に損失を被った場合には、その相手に対する不当利得返還請求はできません。相続人の1人が遺産を使い込んだ(利益を得た)結果、他の相続人に損失が発生したならば、両者に「因果関係」があるため、請求権が認められます。

不当利得返還請求の方法

では、遺産の使い込みがわかった場合の不当利得返還請求の手順、必要な手続きについてみていきます。ざっくり「使い込みの内容の明確化」→「返還請求と話し合い」→「合意書の作成」ないし「訴訟の提起」という流れになります。

使い込みの中身や金額を調査して、明確にする

不当に使い込まれた遺産を返してもらおうにも、その金額が明らかになっていなければ、話になりません。前提として、「売買や贈与などではなく、本当に使い込まれたものなのか」をはっきりさせておくことも必要です。これらの立証責任は、請求を行う側にあることを、まずは理解しておきましょう。

立証のためには、客観的な証拠を揃えることが必要です。遺産の使い込みで多いのが、被相続人の預金通帳から勝手にお金を引き出していた、というパターン。相続人であれば、金融機関に対して、単独で被相続人名義の預貯金口座の取引履歴の開示を請求することができますから、不信な出金をチェックすることができます。

ただし、預貯金口座以外の財産も含めて、使い込みの全容を明らかにすることは、相続人個人では難しいかもしれません。そのような場合には、弁護士に依頼して証拠集めをサポートしてもらうことができます。

弁護士には、「弁護士会照会」という制度を通じて、企業などに必要な資料の開示を求める権限が与えられています。例えば、銀行や証券会社に対して預金残高や保有株式などの照会を行ったり、病院に対して医療記録の開示を求めたりすることも可能なのです。また、使い込みが疑われる相手に対して、その手元にある資料を開示するよう、弁護士を通じて求めるのも有効な手立てといえるでしょう。

この段階で明らかになった不当利得の金額を基に話し合いを持ち、損失を被った相続人が納得できる返還が行われれば、それに越したことはありません。不当利得の金額が大きい場合や、相手の誠実な対応が期待できないときなどに、不当利得返還請求が選択肢になります。

不当利得返還請求を行い、話し合いを持つ

不当利得返還請求は、使い込みの証拠、金額を明確にしたうえで、相手側への内容証明郵便の送達で行うのが一般的です。請求者の意志を明示するとともに、相手の反応から「最後の手段」である訴訟に踏み切るべきかどうかの判断もしやすくなるでしょう。

相手が協議に応じるようであれば、損失の返還に向けた話し合いを行います。内容証明の送付や話し合いを弁護士に依頼すれば、相手側により強いプレッシャーをかけて、速やかに問題解決が図れるかもしれません。

合意書の作成

不当利得の返還について相手と合意に至ったら、口約束ではなく、その内容をまとめた合意書を作成するようにしましょう。合意書には、金額だけでなく、返還の方法(一括か分割か)や、その日時も明記します。

相続に際して不当利得が問題になった場合には、それが解決した後、あらためて相続人全員による遺産分割協議を行うことになります。

不当利得返還請求訴訟を提起する

話し合いで合意できなかった場合、残された方法は「裁判で争う」ことです。不当利得返還請求訴訟を起こし、勝訴すれば、相手側に不当利得の返還命令が出されます。相手がそれでも返還に応じなければ、資産の差押えで損失を回収するようなことも可能になります。

不当利得返還請求で注意すべきこと

請求権には時効がある

この不当利得返還請求には、他の債権と同じく時効があります。以下のいずれかの期間が経過した場合には、たとえ不当利得があったとしても、返還を請求することはできなくなってしまいますから、注意が必要です。

・権利行使できると知った(遺産の使い込みを知った)ときから5年
・権利の発生した(遺産が使い込まれた)ときから10年

なお、さきほどの内容証明郵便による請求を行った場合には、時効を6ヵ月間延長することができます。訴訟を起こせば、時効はストップします。

不当利得が全額戻ってくるとは限らない

実は不当利得返還請求権の及ぶ範囲は、基本的には「現存利益」すなわち「現状で相手方の手元に残っている金額」に限られます。例えば、被相続人の通帳から引き出したお金をギャンブルで使い切っていたような場合には、取り戻せない可能性があるのです。ただし、前にも述べたように、それを生活費などに使った結果、自分の財産を減らさずにすんでいたら、「現存利益あり」とされます。

一方、ギャンブルのために使い込んだケースでも、使い込んだ相手が「悪意」だった場合には、不当利得の全額に返還請求権が及びます。法律上の「悪意」は、日常の語意とは違い、ある事情を「知っていた」(「善意」は「知らなかった」)ことを意味します。「自分には、勝手に被相続人のお金を引き出す権利はない」とわかってやっていたような場合には、全額の返還請求が可能になるわけです。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
しかし、このような使い込みが発覚した場合、相手が「問題だとは思わなかった」などと、善意を主張することは珍しくありません。全額を返してもらうためには、悪意の裏付け=使い込みの調査が重要な意味を持ちます。
税理士法人杉山央税理士事務所 代表社員 杉山央(税理士・行政書士)

相続税の申告にも期限がある

相続財産の額が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を上回る場合には、相続税が課税されますから、申告・納税が必要です。申告期限は、相続発生から10ヵ月で、これを過ぎると「無申告」のペナルティが課せられます。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
仮にこの期限までに不当利得の問題が解決していない場合には、いったん法定相続分に基づいて申告・納税を行い、協議を続けなくてはなりません。この点は、相続に詳しい税理士にサポートを依頼するのがいいでしょう。
税理士法人杉山央税理士事務所 代表社員 杉山央(税理士・行政書士)

冷静に「費用対効果」を考える

弁護士などの専門家に依頼すれば、報酬が発生します。裁判ともなれば、さらにコストや時間、精神的な負担なども大きくなるはずです。取り戻せる損失分が、そうした「出費」に見合うものなのかは、冷静に判断すべきでしょう。

現存利益の話をしましたが、実際相手が支払い能力を欠くこともあります。そのような場合には、「落としどころ」で妥協することも、早期解決の道といえます。

遺産の使い込みは「損害賠償請求」でも取り戻すことができる

特定の相続人による遺産の使い込みが発覚した場合には、不当利得返還請求の他に、次に説明する不法行為に基づく損害賠償請求でも損失を取り戻すことが可能です。

損害賠償請求とは

故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為を「不法行為」といい、それにより経済的な損失を受けた人は、加害者に対して損害賠償を請求する権利が認められています。遺産の使い込みもこれに該当し、相手に対して損失額の賠償(補填)を求めることができるのです。

損害賠償請求の場合も、まず交渉で和解を目指し、最終的には裁判で決着をつける、というのが一般的な流れになります。

損害賠償の時効は「知ってから3年」

この損害賠償請求にも、

・損害および加害者を知った(遺産の使い込みを知った)ときから3年

という時効があります。

すでに述べたように、不当利得返還請求の時効は、

・権利行使できると知った(遺産の使い込みを知った)ときから5年
・権利の発生した(遺産が使い込まれた)ときから10年

のいずれかでした。

一見すると、損害賠償請求の時効は短期間に思えますが、メリットもあります。例えば使い込みのあった時点から10年経過すると、不当利得返還請求権は時効で消滅してしまいます。しかし、それ以降に不法行為が発覚した場合でも、そこから3年以内ならば、損害賠償請求が可能なのです。

どちらの権利を行使するのかは、使い込みの時期などによって判断すればいいでしょう。ただし、いずれの場合にも、時効を考慮しつつ早めの行動が必要になります。

記事監修者 杉山税理士からのワンポイントアドバイス

相続の際に特定の相続人による遺産の使い込みが発覚した場合には、不当利得返還請求を行う、という方法があります。ただし、確実に返してもらうためには、一般の人にはハードルの高い作業が求められることもあります。必要に応じて、相続に詳しい弁護士や税理士のサポートを受けるようにしましょう。

この記事の監修者
税理士法人杉山央税理士事務所 代表社員 杉山央(税理士・行政書士)
医療・相続・不動産・ITに強い、名古屋の税理士事務所。地域のクリニックや介護施設など医療系をはじめ、地主や製造業、飲食業等の、中村区や中川区を中心とした数多くの法人・個人事業主をサポートする。経営者と二人三脚で歩み、共に発展していく、共存共栄の関係を目指す。
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この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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