まずは相続税がかかるかどうかをチェック
課税対象となる財産と非課税財産の違い
相続税の対象となる財産は、被相続人(亡くなった方)が所有していたすべての財産です。ただし、すべての財産に課税されるわけではありません。まずは、どの財産が課税対象となり、どの財産が非課税となるのかを理解しましょう。
課税対象となる主な財産
相続税の課税対象となる主な財産について見ていきましょう。現金・預貯金には、普通預金、定期預金、外貨預金などが含まれます。不動産では土地、建物、マンション、別荘などが対象です。有価証券については株式、投資信託、国債、社債などが該当します。また、生命保険金は契約者(保険料負担者)が被相続人で受取人が相続人等の場合に課税対象となります。そのほか、貴金属、美術品、ゴルフ会員権、自動車なども課税対象となる財産です。一方、プラスの財産だけでなく、被相続人の借入金などの債務(マイナスの財産)も対象になります。
非課税となる財産
非課税財産について説明します。まず、墓地、仏壇、位牌、祭具などの祭祀財産は非課税です。また、生命保険金と退職金については、法定相続人1人あたり500万円までの金額が非課税となります。香典については、社会通念上妥当な範囲内であれば非課税となります。
基礎控除と相続人の数で決まる"ライン"
相続税は、正味の相続財産(プラスの財産からマイナスの財産を引いた純額)の合計額から「基礎控除額」を差し引いた金額に対してかかります。この基礎控除額が、いわば相続税の課税される"ライン"となります。
基礎控除額の計算方法
基礎控除額は次の計算式で求めることができます。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
たとえば、配偶者と子ども2人の場合、法定相続人は3人となりますので、基礎控除額は3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円となります。
相続人数別の基礎控除額の目安
具体的な基礎控除額を相続人の数ごとに見ていきましょう。配偶者のみの場合は3,600万円、配偶者と子1人の場合は4,200万円、配偶者と子2人の場合は4,800万円となります。このように、相続人が増えるごとに基礎控除額も600万円ずつ増えていくことがわかります。
このように、相続税がかかるかどうかは、まず相続財産が基礎控除額を超えるかどうかで判断することができます。ご自身の資産状況と相続人の数から、おおよその見当をつけることが可能です。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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解説にあるように”正味の相続財産が基礎控除額を超えるかどうか”が”相続税がかかるかどうか”の判定ラインになります。
その際、相続財産に含めるかどうかは相続開始時(通常、被相続人が亡くなった日)を基準に判断しますが、被相続人が亡くなる直前に被相続人の口座から引き出した預貯金でも相続開始時にまだ費消していないものがあれば現金として相続財産に足し戻す必要があります。
また、相続開始前3年ないしは7年間に被相続人が相続人等に贈与した財産(生前贈与財産)や相続人等が『相続時精算課税制度』を選択して被相続人から生前贈与を受けていた財産(相続時精算課税適用財産)があればそれらも相続財産に含めなければなりません。
判定はあくまで目安ですので、相続財産が基礎控除額ギリギリになるような場合は特に慎重に判断しましょう。 - 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
相続税の計算フローを詳しく解説
相続税の計算は一見複雑に見えますが、下記の各ステップに沿って進めることで、全体の流れを把握しやすくなります。以下は基本的な流れとなりますが、実際の計算では各財産の評価方法や控除対象の詳細な条件、例外なども考慮する必要があります。
Step1:プラスの財産をすべて洗い出す
まず、被相続人が所有していたプラスの財産を漏れなくリストアップします。ここでは各財産の評価方法にも注意が必要です。
財産の種類と評価方法
- 預貯金、不動産、有価証券などの財産
それぞれ、適用される評価方法に基づいて評価額を算出します。 - 例:
不動産は土地であれば路線価や倍率方式(固定資産税評価額)で、建物は固定資産税評価額によって評価します。
上場株式は原則として死亡日時点の市場価格を基に評価します。
名義財産の確認
- 名義預金や名義株式など
表面的な名義にかかわらず、実質的な所有関係を確認します。 - 例:
被相続人が実質的な資金提供者であった預金は、たとえ子どもの名義であっても相続財産に含める必要があります。
Step2:マイナスの財産を差し引いて遺産総額を計算
次に、相続時に支払い義務が発生する債務や費用(マイナスの財産)を整理し、プラスの財産から差し引いて遺産総額を求めます。
控除対象となる主な債務・費用
- 借入金やローンの残高
一定の条件下で全額または一部が控除対象となります。 - 被相続人に関する未払いの医療費や介護費用
実際に発生した支出額が控除される場合がありますが、適用には法令上の要件があります。 - 葬儀費用
通常の葬儀に必要な金額のうち、社会通念上妥当な範囲の金額が控除対象となります。
Step3:基礎控除を適用し、課税遺産総額を算出
算出した遺産総額から、法令で定められた前述の基礎控除額を控除します。
この結果得られる金額が、相続税の課税対象となる「課税遺産総額」となります。
もしこの段階で金額がゼロまたはマイナスであれば、原則として相続税は課税されません。
Step4:課税遺産総額を法定相続分で按分し税率を掛けて、相続税の総額を算出
課税遺産総額を相続人等が法定相続分で取得したものと仮定して各取得金額を計算します。その各取得金額に速算表に基づいた税率および控除額を適用し、各人の税額を計算したものを合計して「相続税の総額」を算出します。
相続税の速算表
取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | 0円 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※税額は、相続人等の取得金額に対して以下の計算式で求めます。
税額 = (取得金額 × 税率) − 控除額
例:取得金額が4,000万円の場合
4,000万円 × 20% − 200万円 = 600万円
Step5:相続税の総額から各相続人毎の相続税額を計算
最後に、相続税の総額を各相続人等が実際に取得した財産の割合に応じて按分し、各人毎の相続税額を計算します。
このように、相続税額を課税遺産総額に対して直接税率を掛けて計算しないのは、相続人の構成や遺産分割がどのような方法になっても、相続人等全員で納付する相続税の合計額に差が生じないようにするためです。
計算例:具体的な数字を用いたシミュレーション
実際の計算例を見てみましょう。ここでは、以下の前提条件でシミュレーションを行います。
基本情報の整理
- 遺産総額:6,000万円(マイナスの財産は0円とする)
- 相続人:配偶者1人と子1人の計2人
- 財産取得割合:配偶者が4,000万円(2/3)、子が2,000万円(1/3)
計算手順
- 基礎控除額の計算
3,000万円 + (600万円 × 2人) = 4,200万円 - 課税遺産総額の算出
遺産総額6,000万円 − 基礎控除額4,200万円 = 1,800万円 - 相続税の総額の算出
配偶者・子の法定相続分に応じる取得金額:1,800万円 × 1/2 = 各900万円
配偶者・子の算出税額:900万円 × 10% = 各90万円
相続税の総額:90万円 + 90万円 = 180万円 - 各相続人毎の相続税額の計算
配偶者:180万円 × 2/3 = 120万円(配偶者控除により納付税額は0円)
子:180万円 × 1/3 = 60万円
このように、シミュレーション例では各ステップを整理することで計算の流れを分かり易くしていますが、実際には各事案に応じて細かな判断が必要になることもあるため、相続税額をより正確に知りたい場合は専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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“相続税がいくらかかるか”を知るには「課税遺産総額」に直接税率を掛けるのではなく、まず「相続税の総額」を算出することが大事です。総額が分かれば、その額を上限として各人が最終的にいくら負担しなければならないかはほとんど自動的に決まります。
各人の納付税額は、相続税の総額を財産の取得割合で按分した税額から各人の状況に応じて配偶者控除(配偶者の税額軽減)などの各種控除を差し引いて最終的に決まりますが、取得者によっては算出した税額に2割加算される場合がありますので注意が必要です。
相続税額は相続財産に何を含めるか、またその財産をどのように評価するかによって大きく変わりますので、相続財産の中に評価が煩雑な不動産(土地)や名義財産(預金・株式等)がある場合は税理士に相談することをお勧めします。 - 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
まとめ:まずは自分のケースを試算し、早めに行動を
相続税の計算方法について、基本的な仕組みから具体的な計算例まで見てきました。相続税対策は「我が家には関係ない」と思われがちですが、不動産価格の上昇や金融資産の増加により、予想以上に課税対象となるケースが増えています。
ざっくりした試算で把握することが第一歩
相続税対策の第一歩は、まず現状を把握することです。ここまでご説明した計算方法を参考に、ご自身の財産の概算額を出してみましょう。資産の価値は時間とともに変動するため、定期的に見直すことをお勧めします。また、相続税の課税対象となる可能性が見えてきた場合は、生前贈与の活用や資産の組み換えなど、様々な対策を検討することができます。
必要に応じて専門家に相談して安心を確保
相続税の計算は、基本的な流れは理解できても、実際の適用となると様々な特例や控除が関係してきます。また、不動産の評価方法や事業承継に関する特例など、専門的な知識が必要な場面も多くあります。
特に以下のようなケースでは、専門家への相談をお勧めします。
- 不動産や事業用資産など、評価額の算定が複雑な資産がある場合
- 相続人が多く、遺産分割方法について検討が必要な場合
- 事業承継を考える必要がある場合
- 相続税の節税対策について専門的なアドバイスが必要な場合
私たち税理士紹介センタービスカスでは、お客様の状況に合わせて最適な税理士をご紹介しています。相続税について気になることがある方は、まずはお気軽にご相談ください。経験豊富な税理士が、具体的な対策やアドバイスをご提案させていただきます。
相続税対策は、早めに始めることで選択肢が広がります。「まだ先のこと」と先送りにせず、この機会に一度、ご自身の資産状況を見直してみてはいかがでしょうか。
- この記事の監修者
- 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
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