まず把握しよう!相続税を減らす「特例」と「控除」の全体像
相続税を減らせる主な制度は2種類
相続税を節税する方法として、「特例」と「控除」という2つの重要な制度があります。特例は、土地や事業の承継など、特定の状況に応じて相続財産の評価額を大幅に下げることや納税を猶予・免除できる制度です。一方、控除は基礎控除や配偶者控除など、一定の条件に該当する場合に課税対象となる価額を減らすことや相続税額から一定金額を差し引くことができる制度となります。
代表的な特例・控除の早見表
制度名 | 種類 | 対象となる財産・状況 | 大きな節税メリット | 主な適用条件・注意点 |
---|---|---|---|---|
小規模宅地等の特例 | 特例 | 居住用宅地・事業用宅地 | 評価額を最大80%減 |
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配偶者の税額軽減 | 控除 | 配偶者が相続する財産 | 実質1億6,000万円まで非課税 |
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基礎控除 | 控除 | すべての相続財産 | 3,000万円+(600万円× 法定相続人の数 )が非課税 |
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生命保険金の非課税枠 | 控除 | 死亡保険金(受取人が相続人) | 500万円×法定相続人の数が非課税 |
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農地の納税猶予 | 特例 | 農地 | 納税を猶予(営農継続中は支払い不要) |
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事業承継税制 | 特例 | 中小企業の非上場株式(法人の場合) | 納税猶予・一部免除(最大100%) |
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代表的な特例・控除に絞り込んで掲載しています。表にない制度や細かな要件が存在する場合もありますので、あくまで“最初の目安”としてお使いください。
各制度は適用要件や注意点が細かく定められており、一部でも満たさないと適用できないケースがあります。詳しい条件や必要書類、申告手続きについては後述する詳細解説をあわせてご覧ください。
これだけは押さえたい主要な「特例」3選
相続税の特例制度の中でも、特に活用頻度が高く、節税効果の大きい3つの制度について詳しく解説します。これらの特例は適切に活用することで、相続税額を大幅に抑えられる可能性がある重要な制度です。
1. 小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた自宅の土地や事業用に使用していた土地を相続する際に、その評価額を最大80%まで減額できる制度です。例えば、自宅の敷地200平方メートルを相続する場合、通常の評価額が5,000万円と試算されるケースでは、この特例を適用すると評価額を1,000万円まで下げることができます。その結果、相続税の課税対象となる価額が大幅に減少し、納税額を抑えることができます。
なお、この特例には面積の制限があり、居住用宅地の場合は330平方メートルまでが対象となります。事業用宅地や貸付事業用宅地については、それぞれ異なる限度面積が定められているため、適用前に確認が必要です。
2. 農地の納税猶予(相続税の猶予制度)
農地の納税猶予制度は、農地を相続した際に、継続して農業経営を行うことを条件として、相続税の納税を猶予する制度です。この制度を利用するためには、後継者として一定の要件を満たし、営農を継続する義務があります。また、農業委員会への各種手続きも必要となります。
ただし、この制度には重要な注意点があります。もし営農をやめてしまうと、それまで猶予されていた相続税に加えて、利子税も含めて一括で納付しなければならなくなるリスクがあります。そのため、長期的な農業継続の意思がある場合にのみ、この制度の適用を検討すべきでしょう。
3. 事業承継税制(特定事業用資産の納税猶予等)
事業承継税制は、個人事業主や中小企業の円滑な事業承継を支援するために設けられた制度です。この制度を利用すると、法人の場合は会社の株式等にかかる相続税の納税が猶予され、最終的に納税が免除される仕組みです。ただし、要件を逸脱すると猶予が打ち切られるリスクもあるため、専門家との確認が欠かせません。
適用要件として、後継者は代表取締役に就任し、5年間にわたって従業員の8割以上の雇用を維持することなどが求められます。しかし、これらの要件を満たすことができれば、相続税の負担を大幅に軽減できる場合があり、事業の継続性を確保しやすくなります。
特例の適用には専門的な知識と適切な判断が必要となりますので、税理士への相談をお勧めします。
押さえておきたい代表的な「控除」5選
相続税の計算において、課税対象となる価額や相続税額を減らすことができる控除制度は、相続人の状況に応じて複数用意されています。ここでは、相続税の負担を軽減できる主要な5つの控除について、具体的な金額や適用条件を解説していきます。
1. 基礎控除
基礎控除は、すべての相続で適用される最も基本的な控除制度です。控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で算出されます。たとえば、法定相続人が配偶者と子供の計2人の場合、4,200万円までの相続財産が非課税となります。この控除は相続税の計算において最初に適用される重要な控除です。
2. 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者控除は、残された配偶者の生活保障を目的とした制度です。配偶者が相続により取得する財産については、1億6,000万円か法定相続分相当額のいずれか高い金額まで、実質的に非課税となります。ただし、この控除を適用するためには、遺言が無ければ遺産分割協議を正式に行い、分割内容を確定させておくことが必要になります。遺産分割が確定していない場合は、控除を受けられない可能性があるため注意が必要です。
3. 生命保険金の非課税枠
生命保険金には、法定相続人1人につき500万円までの非課税枠が設けられています。例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の計3人の場合、500万円×3人=1,500万円までの死亡保険金が非課税となります。この制度を最大限活用するためには、保険金受取人を相続人に設定しておくことがポイントです。
4. 未成年者控除・障害者控除
未成年者控除は、相続人が18歳(令和4年3月31日以前の相続・遺贈については20歳、以下同様)未満の場合に適用され、「(18歳-相続時の年齢)×10万円」が相続税額から控除されます。例えば17歳の相続人の場合、(18歳-17歳)×10万円=10万円が相続税額から控除されます。
障害者控除は、相続人が障害者の場合に適用され、「(85歳-相続時の年齢)×10万円」が相続税額から控除されます。特に重度の障害がある特別障害者の場合は、更に控除額が上乗せになります。
5. その他の主な控除
相次相続控除は、10年以内に二重で相続が発生した場合に、前回の相続で納付した税額の一部を控除できる制度です。また、生前贈与を受けた財産で相続財産に加算したものについては、すでに支払った贈与税を相続税額から差し引くことができる贈与税額控除も設けられています。
これらの控除制度を適切に組み合わせることで、相続税の負担を大きく軽減することができます。ただし、各控除の適用要件や計算方法は複雑なため、専門家に相談しながら検討を進めることをお勧めします。
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- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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相続税で使われる特例・控除の中で適用できるものなら是非活用したいのは、やはり「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」の2つです。
前者は相続税額を計算する際の基となる相続財産の評価額を大幅に下げることで、後者は算出した相続税額を直接減額することでとても大きな節税効果が得られます。
しかし、それだけに適用する際は十分注意を払わなければなりません。
「小規模宅地等の特例」では、対象となる宅地等の利用区分や取得者毎に細かな要件があり、それらをすべて満たしていなければ適用することができません。
一方、「配偶者控除」に複雑な要件はありませんが、これを適用して一次相続で配偶者があまり多くの財産を取得してしまうと二次相続で子が多額の相続税を負担しなければならなくなる恐れがありますので気を付けましょう。 - 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
特例・控除を使った相続税シミュレーション事例
相続税の特例や控除は、具体的にどのような効果があるのでしょうか。一般的な相続のケースと事業承継のケースについて、特例と控除の活用効果をシミュレーションしてみましょう。
事例1:配偶者+子2人、土地・預金を相続するケース
相続財産の内容
この事例では、被相続人から配偶者と2人の子どもに対して、合計9,000万円の財産が相続されることになりました。内訳として、自宅の土地が5,000万円、預金が4,000万円となっています。
活用できる特例と控除の内容
このケースで活用できる制度として、小規模宅地等の特例を適用すると、土地の評価額を80%減額できるため、たとえば評価額が5,000万円と試算される場合でも、1,000万円程度に圧縮できる場合があります。また、基礎控除4,800万円(3,000万円+600万円×3人)と配偶者の税額軽減を組み合わせることが可能です。
特例・控除を活用した効果
特例と控除を適切に組み合わせることで、課税対象価額が数百万円程度に抑えられるケースもあり、特例・控除を利用しない場合と比較すると、場合によっては100万円以上の税負担が減るケースもあります。
事例2:法人経営者が事業用資産を子に承継するケース
相続財産の内容
中小企業を営む経営者(被相続人)が亡くなり、その個人名義で所有していた以下の財産を子どもが相続することになりました。
- 非上場株式(自社株)…8,000万円相当
- 工場用宅地(工場の敷地として自己が営む法人に貸している土地)…2,000万円相当
- 自宅宅地…3,000万円相当
活用する特例の内容
事業承継税制(非上場株式に対する納税猶予・免除)
相続された自社株(非上場株式)に対して相続税の納税猶予が認められる制度。後継者が代表取締役に就任する、雇用を一定水準以上維持するなど、要件を満たして継続すれば、最終的に相続税が免除される場合もあります。ただし、要件を満たさなくなると猶予が取り消され、利子税も含めた納税が必要となるリスクがあります。
小規模宅地等の特例(特定同族会社事業用宅地等・特定居住用宅地等)
個人が所有する宅地については、小規模宅地等の特例により評価額を大幅に減額できる場合があります。今回の事例では、工場用宅地(事業用宅地)と自宅宅地(居住用宅地)が該当します。
- 事業用宅地の場合は、400㎡まで評価額を80%減額できる可能性がありますが、法人が行っている事業を被相続人の親族が承継し、その者が相続税の申告期限においてその法人の役員であるなど厳密な要件が定められています。
- 居住用宅地の場合は、330㎡まで評価額を80%減額でき、同居や生計を共にしていたかなどの細かな要件を満たす必要があります。
事業用宅地と居住用宅地はそれぞれ別の枠・要件があるため、両方まとめて80%減額できるわけではありません。面積や要件を超える場合は適用範囲が変わってきます。
特例活用で得られる効果
事業承継税制を利用すると、非上場株式8,000万円相当の相続税が猶予され、一定要件を満たすことで最終的に免除される可能性があります。これにより、事業継続に必要な運転資金を確保しやすくなります。
小規模宅地等の特例によって、
- 工場用宅地(事業用宅地)が最大80%減額される → 課税対象額の大幅圧縮が期待できる
- 自宅宅地(居住用宅地)についても最大80%減額が認められる可能性がある
これらの措置を同時に適用できれば、相続人の総合的な税負担はかなり軽減されるでしょう。
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- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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相続税額をシミュレーションするのは相続税をできるだけ抑えるために行うのですが、目先の節税額にばかり気を取られていると思いもよらない結果になってしまうことがあります。
「配偶者控除」を適用した結果、二次相続で子が思いの外多額の相続税を負担することになる場合があるというのはその代表的なもので、配偶者控除は一次相続だけでなく二次相続まで含めて“相続税がトータルでいくらかかるか”を考えることが重要です。
「小規模宅地等の特例」では、特例を適用した結果を考える前にそもそも“相続財産である宅地に本当に特例が適用できるのか”、つまり特例を適用するために必要な要件をすべて満たしているのかを事前にしっかり確認することが大事です。
いずれも税額に大きな影響を及ぼしますので、より正確に知りたい場合には税理士に相談することをお勧めします。 - 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
実践的なポイント
これらの事例から学べる重要な点として、特例と控除の組み合わせによる大幅な節税効果があります。また、資産の種類や相続人の状況によって最適な特例・控除の組み合わせが変わってくるため、早い段階での計画的な対策が重要となります。
このように、相続税の特例と控除を適切に活用することで、相続税額を合法的に抑制し、円滑な資産承継を実現することができます。ただし、実際の相続では個々の状況に応じて最適な組み合わせが異なるため、計画段階から税理士などの専門家への相談を検討することをお勧めします。
特例・控除を活かすための手続き&注意点
相続税の特例や控除を適切に活用するためには、正しい手続きと期限内の申告が必要不可欠です。ここでは、申告の流れから必要書類、そして見落としがちな注意点までを詳しく解説します。
相続税申告までの流れ
申告手続きの6つのステップ
相続税の申告は、以下の順序で進めていきます。
- 1. 被相続人の死亡を起点として手続きを開始します
- 2. 相続財産の内容と評価額を把握します
- 3. 相続人間で遺産分割の協議を行います
- 4. 適用可能な特例・控除の要件を確認します
- 5. 必要書類を揃えて申告書を作成します
- 6. 管轄の税務署へ提出し、納税を行います
このような重要なステップを一つずつ確実に進めることで、適切な申告が可能となります。
申告期限のルール
相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、特例や控除が受けられなくなる可能性があるため、十分な余裕を持って準備を進めることが重要です。
必要書類・提出先
基本的な必要書類
相続税の申告には、戸籍謄本やマイナンバーの本人確認書類といった基本書類に加え、遺言書又は遺産分割協議書の写しなども必要になります。これらの書類は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出します。
特例申請に必要な書類
小規模宅地等の特例を申請する場合は、被相続人の最後の住所地を証明する住民票の除票や、適用を受ける人が対象となる宅地に居住していたことを証明する住民票の写し(マイナンバーを有する場合には提出不要)などが必要になります。また、農地の納税猶予を申請する場合は、農業委員会が発行する証明書などの提出が求められます。
注意点と落とし穴
遺産分割に関する注意事項
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減(配偶者控除)を受けるためには、遺産分割協議が確定していることが必要です。分割協議が未了の状態では、原則、これらを適用することができません。
期限管理の重要性
申告期限である10か月を過ぎてしまうと、たとえ要件を満たしていても特例や控除を適用することができなくなります。そのため、早めの準備と計画的な手続きの実行が大切です。
制度改正への対応
相続税の特例や控除の制度は、毎年のように要件が変更される可能性があります。特に農地の納税猶予や事業承継税制については、適用要件が変更されることが多いため、常に最新の情報を確認する必要があります。
なお、相続税に関する特例や控除の要件は、法改正や通達改正によって変更される可能性があります。そのため、最新情報は国税庁や財務省のサイトで確認するとともに、専門家に相談しながら進めるとより安心です。
また、相続税の特例・控除を確実に活用するためには、手続きの流れを理解し、期限を意識しながら計画的に準備を進めることが重要です。特に複雑な案件の場合は、早めに専門家に相談し、手続きに漏れがないよう注意を払いましょう。
まとめ
相続税の特例と控除を活用することで、大きな節税効果が得られる可能性が高いことがお分かりいただけたかと思います。ここでは最後に、相続税対策を成功させるための実践的なポイントをまとめていきます。
まずは特例・控除のチェックから!
活用可能性のチェック
相続税対策の第一歩として、どのような特例や控除が使えるかを確認することが重要です。保有している不動産が小規模宅地等の特例の対象となるか、また配偶者控除や基礎控除、生命保険の非課税枠などを組み合わせることで、具体的にどの程度の節税が可能なのかを検討していきましょう。
具体的な節税効果の試算
それぞれの特例や控除による節税効果を具体的な金額で把握することで、より効果的な対策を立てることができます。財産の評価方法や控除額の計算方法を確認し、概算でも結構ですので、節税効果を数字で見える化することをお勧めします。
専門家に依頼するメリット
リスク回避とスムーズな手続き
税理士などの専門家に相談することで、申告における適用漏れや書類の不備を防ぐことができます。これにより、本来受けられるはずの特例や控除を見逃すことなく、不必要な税負担を避けることが可能となります。また、複雑な要件や頻繁な法改正についても、専門家のサポートを受けることで適切に対応できます。
早めの準備でスムーズな相続を!
事前対策の重要性
相続が開始する前から、財産の把握や整理を行っておくことが重要です。特に生命保険金の活用や計画的な生前贈与などは、早めに準備することでより大きな節税効果が期待できる場合があります。また、相続に関連する制度は毎年のように改正が行われるため、常に最新の情報をチェックし、その時々で最適な対策を選択することが大切です。
相続税の特例・控除制度は、適切に活用することで相続人の税負担を大きく軽減することができます。しかし、その反面で要件や手続きが複雑なため、相続財産センターでは、ご状況に応じた最適な相続税対策のご相談を承っています。お気軽にご相談ください。
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- この記事の監修者
- 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
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