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増える不動産の相続放棄 でも、問題が3つある!

増える不動産の相続放棄 でも、問題が3つある!

2020年5月20日

相続は、「放棄」もできることをご存知だと思います。被相続人(亡くなった人)の「遺産」には、「正の財産」ばかりでなく、借金などの「負の財産」も含まれるため、後者が大きい場合などには、相続放棄をすれば、それを引き継がずに済むわけです。ところで、かつては相続放棄といえば、被相続人が多額の負債を抱えていたから、というのが“定番”でした。しかし、最近増えているのが、もらっても困る「負動産」の放棄。ただし、不動産の場合には、「いざとなったら相続放棄すればいい」とのんびり構えてはいられない現実がありました。

相続放棄は、10年前の1・5倍に

以前、『朝日新聞デジタル』で、次のような、ちょっと気になる記事が配信されました。以下概要です。

亡くなった親族の遺産を受け継がない「相続放棄」が増えている。2018年は約21万件で、10年前の1・5倍に増えた。相続放棄を死者1,000人当たりでみると、08年は127件、18年は154件だった。

こうした相続放棄の「新たな要因」として記事が指摘したのは、「売るに売れない土地」「住む予定のない実家」といった不動産でした。これらをもらってもメリットがないばかりでなく、住んでもいないのに固定資産税を取られたり、管理責任を負わされたりと、やはり相続人に負担ばかりが被さってくることになります。それを見越して、「お荷物」の相続を「拒否」するケースが増えている、というわけです。

しかし、不動産の相続法域には、それ特有のデメリットも含めて、3つの問題があることに、注意が必要です。

注意点1:「自分が放棄したらそれで終わり」とはいかない

民法に定められた相続権のある人=法定相続人には、「順位」が定められています。「第1順位」は、被相続人の配偶者(存命していれば)と子ども。「第2順位」は、同じく配偶者(同)と親や祖父母。「第3順位」が配偶者(同)と兄弟姉妹です。前の順位の相続人がいれば、後の順位の人は、相続人にはなれません。

注意すべきは、この「順位」は、相続放棄の際にも生きている、ということです。相続放棄は、「相続人でなくなる」ことを意味します。第1順位の子どもが放棄すれば、相続の権利は、第2順位の親や祖父母に、さらには兄弟姉妹に、と順繰りに移っていくことになるのです。たとえ「負の遺産」であっても、同じように受け渡されていくのは、言うまでもありません。

ちなみに子どもと兄弟姉妹は、本人がすでに死亡していた場合には、本人の子どもが相続人になります(「代襲相続」と言います)。つまり、被相続人からみて孫や甥、姪にも累が及ぶ可能性があるわけです。自分だけ「やれやれ、あの家を相続しないで済んだ」と安心していると、後々親族間のトラブルに発展する可能性があります。なお、相続放棄には「相続の開始があると知った時から3ヵ月以内」という期限が設けられていますから、その点にも注意が必要です。

注意点2:「正の財産」も受け継げない

相続放棄というのは、さきほども説明したように、「相続人でなくなる」ことを意味します。価値のあるものだけもらって「負債」は放棄する、といったわがままは許されません。被相続人がそれなりの財産を残していた場合には、それと「負動産」を背負い込むデメリットを天秤にかけて判断することになるでしょう。

付け加えれば、いったん認められた相続放棄を取り消すことは、原則としてできません。例えばですが、相続を放棄したあとに、父の引き出しの奥から、家が建つくらいの価値のある株券の束が見つかったとしても、「やり直し」はきかないのです。

以上述べてきたことは、相続放棄一般に当てはまるもの。ただ、不動産の場合には、これらに加えて、「放棄すれば、すべて終わり」とはいかない事情があります。

注意点3:相続放棄しても「管理責任」は残る

相続人全員が、不要な不動産を相続放棄すると、法律的には「所有権のない不動産は、国庫に帰属する」(民法第239条)という状態になります。所有権がないのだから、固定資産税を支払う必要もなくなります。しかし、残念ながら、それだけで「負動産」とおさらばできるかというと、そうではないのです。やはり民法には、次のような条文があります。

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」(第940条)

つまり、「税金は払わなくてもいいけれど、管理責任は残ります」ということ。万が一、その不動産が原因で、近隣に被害が生じたような場合には、損害賠償責任が生じたり、へたをすると刑事罰が科せられたりする可能性もあるのです。そこから逃れられなければ、負の資産を手放したことにはならないでしょう。

では、どうすればいいのか? 管理責任から解放されるのは、「放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」です。相続人全員が相続放棄していたら、相続人に代わる誰かを見つけなくてはなりません。その「誰か」の役割を果たす存在が、「相続財産管理人」です。利害関係者や検察官が家庭裁判所に請求することで選任される新たな「管理人」に管理を引き継ぐことによって、晴れてその不動産に関わるすべてのものから自由になれる、というわけです。

しかし、この相続財産管理人の選任はタダではできず、数十万円単位の費用を覚悟しなくてはなりません。そこまでやって手放すのかというのは、検討課題になるかもしれません。

まとめ

相続したくない不動産には、相続放棄という手段があります。ただし、放棄すれば他の財産も引き継げないばかりでなく、そのままでは管理責任が残ってしまうことをお忘れなく。財産に「候補」が含まれる場合には、相続が始まる前から、親族間で対策を話し合っておく必要があります。その際、必要に応じて、相続に詳しい税理士などの専門家のサポートを検討すべきでしょう。

この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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