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2020年スタートの「配偶者居住権」どんな権利?何が変わるの?
2020年3月13日
2018年7月に、およそ40年ぶりに「相続法」が大きく改正されました。その改正の“目玉”とも言われるのが、「配偶者居住権」の新設。その制度が、いよいよ20年4月からスタートします。いったいどんなもので、相続はどのように変わるのでしょうか? ポイントを解説します。
相続後、高齢の親が安心して自宅に住み続けられる
民法には、相続人は誰で、相続財産は何で、被相続人(亡くなった人)の権利義務がどのように相続人に受け継がれるのか、といった相続の基本ルールが定められています。このように、相続のトラブルを防ぐために民法の規定した部分が「相続法」です。相続法は、1980年の改正以来、大きく手を付けられることがなかったのですが、高齢化の進展など、社会環境の変化への対応を図るために、約40年ぶりに見直しが行われました。
なかでも、実際の相続に大きな影響を与えるとみられるのが、この改正で新設された「配偶者居住権」です。噛み砕いて言うと、夫を失った妻=「配偶者」(もちろん逆でも構いません)が、相続ののちも夫と住んでいた家に、引き続き「居住」できる「権利」を言います。
この「権利」がわざわざ新設されたということは、それ以前は「配偶者が、相続によって引き続き自宅に住むことができなくなる」可能性があった(20年4月までは、ある)、ということにほかなりません。それはどういう場合なのでしょうか?
わかりやすい例で説明しましょう。夫が亡くなり、相続になりました。相続人は妻と息子1人だったとします。相続財産は、評価額3000万円の自宅と、1000万円の現金の計4000万円。この状態で、妻は「住み慣れた家に住み続けたい」、一方息子のほうは「法定相続分の遺産は貰いたい」と考えていたとします。法定相続分は、それぞれ1/2ずつの2000万円ですから、子どもに1000万円の現金をすべて渡したとしても、彼の取り分は1000万円不足することになってしまいます。
母親にそれだけの手持ちがあれば、「代償分割」(※)で家を相続するという方法もありますが、残念ながら、それは無理。法定相続分は相続人の権利ですから、息子が主張する限り、母親がその行使を妨げることはできません。結局、自宅は売却して現金化、年老いた妻は家から出て、別に住処を探さなくてはならなくなる――。これはシビアな例ですが、なんとか自宅は相続できても、現金を受け取れないために、老後の生活に窮するといった状況は、そんなに珍しいことではないようです。
財産を特定の相続人が取得し、それが他の相続人より多かった場合、その代償として金銭や物を他の相続人に支払う、という遺産分割の方法。
自宅を「住む権利」と「条件付きで持つ権利」に分けて相続する
では、法改正によって、状況はどう変わるのでしょうか? ポイントは、自宅を、「そこに住む(使う)権利」と、「負担付きの所有権」に分けたうえで、それぞれを別の相続人が相続する、というところにあります。ピンとこないかもしれませんが、さきほどの例で言えば、「住む権利」、すなわち「配偶者居住権」を妻が相続し、息子は「配偶者居住権が設定された所有権」を相続することになるのです。
配偶者居住権を設定すると、配偶者は、終身その家に住み続けることができます。期間を区切って居住権を決めることも可能。息子は、母親に対して「家から出ていってほしい」とは言えません。
でも、権利を設定するのはいいけれど、実際の遺産分割は、どのように行うのでしょうか? これについても、今の例に従って簡便に説明すると、妻は「配偶者居住権の価値」を、息子は「負担付き所有権の価値」を、それぞれ相続します。
例えば、配偶者居住権の価値が1500万円だったとすると、3000万円の評価の自宅のうち、1500万円ずつを妻と息子が相続することになります。それぞれの法定相続分は2000万円でしたから、この場合は、妻も現金のうちの500万円をもらえることになるのです。自宅を売却しなければならないような状況とは、大違い。これが、「配偶者居住権」の狙いです。
配偶者居住権の価値は、建物の残存耐用年数や平均余命などを考慮して、算出します。概要は、法務省の「配偶者居住権について」を参照してください。
配偶者居住権は、遺言などで設定。権利の売却はできない
この配偶者居住権は、被相続人の遺言、遺産分割協議での合意、それがなければ家庭裁判所の審判によって設定することができます。2020年4月以降に発生した相続、それ以降に書かれた遺言書に基づく相続に適用されます。相続になったばかりに、自宅を追い出されたり、経済的に困窮したりするリスクが減るのは、特に高齢の配偶者にとって朗報ですが、注意点もあります。
配偶者ならば、どんな場合にも認められるというわけではなく、相続発生時に自宅に住んでいる必要があります。つまり、別居していたらNG。自宅が被相続人との共有であっても問題ありませんが、被相続人と子どもの共有だったような場合には、設定できません。
また、配偶者居住権の相続が決まっていても、不動産登記を行わないと、効力を発揮しません。それを怠っていると、所有権を相続した人(さきほどの例では息子)が売却し、新たな所有者に、立ち退きを求められたりする危険もあるのです。
配偶者居住権は、該当する配偶者だけに認められた、特別な権利です。ですから、その不動産を勝手に売ったり、人に貸したりすることはできません。その配偶者が亡くなれば権利も消滅し、負担付き所有権を持っていた人が、自宅すべての所有権を得ることになります。
まとめ
2020年4月の相続から、「夫を亡くした妻」が、問題なく自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」がスタートします。該当する方には朗報ですが、自宅の不動産登記が必要、といった注意点もあります。わからないことがあれば、相続に詳しい税理士に相談するのがいいでしょう。