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法務局で遺言書を保管できる新制度がスタート
2020年6月23日
2018年7月に、相続法が約40年ぶりに大幅に改正されましたが、そこに盛り込まれた「法務局での遺言書の保管制度」が、いよいよ7月10日からスタートします。その名の通り、作成した遺言書を法務局で預かってくれるわけですが、そのことにどのような意味があるのでしょうか? 注意すべき点も含めて、わかりやすく解説します。
対象になるのは「自筆」の遺言書
遺言書には、本人が手書きする「自筆証書遺言書」、公証役場に出向いて公証人に作成・保管してもらう「公正証書遺言書」、本人が作成し公証役場に持っていく「秘密証書遺言書」の3種類があります。法務局で保管してもらえるようになるのは、このうち「自筆証書遺言書」です。
「自筆証書遺言書」は、自分で手軽に作れて(※1)、公証人に支払う手数料なども必要ありません。半面、自宅に保管されることが多いため、紛失や偽造、さらには相続人が発見できなかった、といったリスクも伴います。
新たな制度は、公の機関で遺言書を保管してそれらのリスクを回避することにより、「自筆」の利便性に安全性を付与しました。そうした仕組みを整えることで、遺言書自体の作成を促し、「争続」の防止を図ろうという狙いがあります。
遺言者本人が申請。相続人等はその死後に証明書交付などが可能に
では、制度の概要について見ていきましょう。〈1〉生前、遺言者(遺言書を書いた人)が法務局に遺言書の保管を申請し、〈2〉死亡後は、相続人、受遺者(遺言によって遺言者の財産を譲り受ける相続人以外の人)などが、その中身を記した「遺言書情報証明書」の交付などを請求できる――というのが、基本的な仕組みです。なお、次に説明する手続きに関しては、すべて予約が必要になります。
〈1〉について
- 遺言書の保管に関する事務は、法務局(「遺言書保管所」)において、「遺言書保管官」として指定された法務事務官が担当します。
- 申請手続には、必ず遺言者本人が、管轄の遺言書保管所に出向きます。 →代理人による手続きなどは一切認められません。
- 遺言書の方式(署名、押印、日付の記入など)について間違いがないか、「外形的な確認」が行われます。 →遺言の内容についての相談には乗ってもらえません。
- 遺言者は、預けた遺言書を閲覧することができます →遺言者が存命中は、他の人は閲覧することはできません。
- 遺言者は、預けた遺言書の保管の申請を撤回することができます。 →その場合、遺言書は返還され、関連する情報は消去されます。
- 自筆証書遺言書(確認を受けるために封はしない)
- 申請書
- 添付書類(本籍の記載のある住民票など)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 手数料(1通につき3,900円)
〈2〉について
- 遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者(※2)などは、遺言者の死亡後、遺言書の画像情報などを用いた「遺言書情報証明書」の交付請求や、遺言書原本の閲覧請求をすることができます。 →遺言者が亡くなると自動的に通知が来る、というわけではありません。
- 上記の証明書の交付や閲覧が行われたときには、遺言書保管官は、遺言書を保管している事実を他の相続人などに速やかに通知します。 →遺言書の存在を他の相続人などに隠すことはできません。
相続人にとってもメリットが大きい
新たな制度で自筆証書遺言書を保管すれば、さきほども述べたように、遺言書を失くしたり、あるいは他人に捨てられてしまったり、改ざんされたりといった危険性がなくなり、遺言者が希望する通りの相続を確実に行うことができるでしょう。
公正証書遺言書も、「安全性」に問題はありませんが、作成に当たっては、場合によっては数万円程度の手数料を覚悟しなくてはなりません(手数料は遺産が高額になるほど上がります)。コストの面では、この制度を利用するほうが有利だと言えます。
同時に、相続人や受遺者にとってもメリットがあります。自筆証書遺言書は、書くほうは「手軽」なのですが、実は相続人などにとっては、けっこう骨の折れる手続きが必要になるのをご存知でしょうか? 自筆証書遺言書は、たとえ相続人全員が揃っていたとしても、勝手に開封することは許されず、家庭裁判所で「検印」を受ける必要があるのです。
遺言書の検印とは、相続人などの立会いの下で遺言書を開封し、遺言書の内容を確認する手続きのことで、遺言書の存在を明確にし、その後の偽造を防ぐための手続きです。この検印を受けるには、検印申立書のほかに、遺言者の出生から死亡までの戸籍や相続人全員の戸籍などを集めて、裁判所に提出しなくてはなりません。ただでさえ慌ただしい相続のさ中にこれを行うのは、大きな負担です。
しかし、法務局で保管されている遺言書に関しては、この検認が要りません。そのぶんの時間やエネルギーを省いて、遺産分割の話し合いを進めることができるわけです。
「法務局に保管」の事実を相続人に伝えておく
一方、制度を活用するうえで、気をつけるべき点もあります。
さきほども説明したように、遺言書保管所には、代理人ではなく遺言者自らが足を運ばなくてはなりません。公正証書遺言書を作成する場合には、例えば病院や介護施設などに、公証人に「出張」してもらうこともできますが、この制度ではそれも無理です。ですから、例えば寝たきり状態の人は、物理的に使えないことになります。
また、これもお話したように、相続人などが遺言書の保管の有無を照会しなければ、「自宅の机の奥にしまわれたまま」と同じ状態になる可能性があります。すなわち、遺言書の存在を知られぬまま、遺言者の意に反する相続が完了してしまうこともあり得るのです。そんな事態を避けるために、この制度を使って遺言書を預けていることを、相続人などに伝えておく必要があるでしょう。
なお、法務省ホームページでは、新制度の予約は7月1日から開始の予定になっています。「詳細はおってお知らせします。」(6月19日現在)ということですので、最新情報は以下で確認するようにしてください。
まとめ
自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえる新たな制度がスタートします。手軽さと安全性を兼ね備えた制度ができるのを機に、遺言書の作成を考えてみてはいかがでしょうか。詳しく知りたい方は、相続に詳しい税理士など専門家に話を聞いてみるのもいいでしょう。