会社員としてスキルを磨いてきたSE・プログラマー・ITエンジニアが、フリーランスとして独立。自分の意思に基づいて仕事ができるのは大きなメリットですが、今までは会社が従業員のためにやってくれていた作業も、自分で処理しなくてはなりません。税金の申告も、その1つ。フリーランスに必要な「確定申告」、特に節税の鍵となる「経費」を中心に解説します。
目 次
個人事業主・フリーランスになったら確定申告をしよう
フリーランスのように、会社員ではなく、また会社を設立せずに独立して事業を行っている人は、「個人事業主」と呼ばれます。
一般的な会社員であれば、税金は原則として「源泉徴収(※1)・年末調整」という形で会社が代わりに納めてくれるのですが、個人事業主は自分で確定申告を行う必要があります。
確定申告とは
「確定申告」とは、毎年1月1日~12月31日の1年間の、事業による儲け(「事業所得」)や納税額を計算して、税務署に提出することを言います。申告期間も決まっていて、今年の確定申告(2024年分の申告)は、翌年2025年2月17日(月)~3月17日(月)です。
確定申告で申告・納税する税金とは?
では、個人事業主が納税すべき税にはどのようなものがあるのか、具体的に見ていきます。
所得税
個人事業主が支払う代表的な税金は、所得税です。所得には、給与所得や不動産所得など10種類あるのですが、SEやプログラマーにかかるのは「事業所得」です。この所得税は、「累進課税」といって、所得が増えるほど税率自体も高くなっていきますので、節税対策がとても重要です。
なお、紛らわしいのですが、「所得」と「売上(収入)」は違います。そのことが節税にとって大きな意味を持つのです(後述)。
住民税
所得税が国に納める「国税」なのに対して、住民税は都道府県や市区町村に納める「地方税」です。税務署に所得税の確定申告を行うと、その内容に基づいて市区町村から納付書が送られてきます(原則として、住民税をあらためて申告する必要はありません)。この住民税には、所得に応じて課される「所得割」と、所得に関係なく全員に課税される「均等割」があり、通常はその合計額を納税することになります。
個人事業税
事業税は、「個人事業主の290万円以上の事業所得」にかかる地方税です。そのため、所得が290万円に満たない場合は、課税はされません。また、課税対象となるのは地方税法などで定められた70の事業(法定業種)となっており、ほとんどの業種がカバーされますが、課税されないものもあります。
IT関連の業務は働き方が多様なため、課税・非課税が“グレー”なケースもあります。SEなどについては、法定業種の「請負業」に該当するかどうかが1つのポイントで、単に開発に携わって報酬を得ているような業務委託の場合には請負業に当たらず非課税、一方具体的な成果物を求められて働く請負契約の場合には事業税が課税される…とされます。ただし、そうした判断は、自治体ごとに異なることもあるため、不安や疑問がある場合には、税務署や税理士などに相談するのがいいでしょう。
課税される場合の税率は業種ごとに決まっていて、多くの場合5%です。したがって、事業税の額は、「(所得-290万円)×5%」ということになります。
消費税
この税金は、全員に納付義務があるわけではありません。課税対象になるのは「前々年の売上高が税込1,000万円超、または前年1月から6月までの売上高か給与支払額が1,000万円超ある事業主」です。加えて、2023年10月から始まった「適格請求書(インボイス)発行事業者」の登録をしている事業主も課税対象です。インボイス制度に登録していない場合は、「年間売上高1,000万円」を超えるかどうかというのが、1つのラインになるわけです。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 個人事業主は、所得税と、上記要件を満たす場合の消費税の2つについて、税務署に確定申告します。住民税と個人事業税については、個人事業主が提出した所得税の確定申告をもとに、市区町村が計算し、計算された納付書が郵送されてきます。
- 白兼公認会計士・税理士事務所 代表 白兼道夫
確定申告の注意点やメリット
もし確定申告をせず、それが発覚した場合には、本来支払うべき税額に加えて、「無申告加算税」や「延滞税」などのペナルティが課せられますので、注意しましょう。ペナルティには他にも、申告税額が少なかった場合の「過少申告加算税」、悪質な税逃れによる「重加算税」などがあります。
一方で、確定申告することでお金が戻ってくることもあります。
フリーランスでも、報酬の支払先で源泉徴収されていることは珍しくありません。その際に所得税を多く取られ過ぎていたら、会社員の年末調整と同じようにその分が返ってくるのです。
確定申告の方法は?
確定申告には、
- e-Tax(イータックス)による電子申告を行う
- 税務署に直接提出する
- 税務署に郵送する
という3つの方法がありますが、簡単便利かつ節税になる青色申告特別控除(後述)などでメリットのある電子申告がおすすめです。
電子申告については関連記事「e-Taxとは?確定申告をe-Taxで行うメリット・デメリット、利用の流れを解説」 もご参照ください。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 個人事業主が利用する会計ソフトの多くには、e-Taxによる電子申告の機能がついています。電子申告が初めての方でも、会計ソフトのガイドに従って簡単に作成・提出ができますので、電子申告の利用をおすすめします。
- 白兼公認会計士・税理士事務所 代表 白兼道夫
確定申告で納める税金を抑えるには、節税対策をしっかり行おう
フリーランスの仕事はどうしても不安定になりがちで、事業のためにも生活のためにも、できるだけ多くの“手持ち資金”を確保しておく必要があります。収益を上げることはもちろんですが、節税に対する意識をしっかり持って実行することが重要です。忙しい・面倒くさいと後回しになりがちですが、次に挙げるポイントを参考にして、取り組むようにしましょう。
フリーのSE・プログラマー・ITエンジニアの節税方法のポイントは?
自分で節税の工夫ができるけど、ただし「やり過ぎる」とペナルティの対象になりかねない…といった点も、会社任せのサラリーマンとの違いです。では、「正しく節税する」ためには、どうしたらいいのでしょうか?
外せないポイントが、2つあります。
ポイント1 青色申告を行う
第1に、「青色申告」を選択することです。
青色申告という言葉は聞いたことがあると思いますが、確定申告にはこの青色申告と、そうではない白色申告があります。青色申告には、複式簿記による帳簿付けなどが必要など、白色申告に比べるとやや煩雑な作業が必要になるのですが、65万円(e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存の場合/そうでなければ55万円)の特別控除を受けることができます(「控除」については後述)。ちなみに、白色申告の場合の控除額は10万円です。
このほかにも、青色申告にすると、赤字が出た場合に翌年以降3年以内の黒字と相殺できる=翌年以降の所得を減らして節税できるなど、多くのメリットがあるのです。
ポイント2 しっかり「経費」を計上する
ポイントの2点目は、「経費」を確実に計上することです。この場合の経費とは、「収入を得るために使った金額」のことで、正確には「必要経費」と言います。
経費と節税の関係とは
では、経費がなぜ節税に関係するのでしょうか?
個人事業主のメインの税金である所得税は、売上(収入)から、この必要経費を差し引き、さきほどの「青色申告特別控除」を引いた事業所得を計算して、さらに「医療費控除」や「生命保険料控除」などを除いた「課税所得」に、税率を掛けて計算されます。そのため、経費を漏らさず計上して、課税所得を小さくすることが、節税に直結するというわけです。
とはいえ、持っている領収書を、すべて経費にできるとは限りません。落とせるのは、あくまでも「収入を得るために必要な経費」のみ。中には判断が難しいものもあるのです。
経費にすることができる支出は?
経費にすることができる支出には、次のようなものがあります。
- 事務所の家賃や水道光熱費
- レンタルオフィス代
- 自宅兼事務所の家賃や水道光熱費
※事業に使用した分(後述の「家事按分」) - 携帯電話代
※仕事専用なら全額経費に。
※プライベート兼用ならば家事按分 - インターネットプロバイダーの契約料
※プライベート兼用ならば家事按分 - クラウドのサーバー利用料
※プライベート兼用ならば家事按分 - ホームページ作成料
- 文房具
- 30万円未満のパソコンなど機器類の購入代金
※青色申告の場合。白色申告の場合は10万円未満。それぞれこの金額以上になった場合には、一括では経費計上できず、4年間で減価償却(※2)する - 30万円未満の事業用のソフトウエア。
※プライベート兼用ならば家事按分。ただし5年間で減価償却する。 - 技術書などの書籍、研修の受講料
- 事業に関連する宅配料金
- 事業に関連する交通費
- 取引先との飲食費
- 個人事業税
- 消費税(税込経理方式の場合のみ)
これら以外にも、実際の仕事や働き方により、「経費にできる支出」が発生している可能性があります。一方で、仕事と無関係の飲食や書籍などの購入代金、健康診断の費用、国民健康保険の保険料、所得税、住民税などは、経費に計上することはできません。
家事按分に要注意
気を付けたいのが、「家事按分(かじあんぶん)」です。
プライベートと兼用の場合には、経費にできるのはあくまでも仕事で使った部分の費用のみとなります。仮に税務署から説明を求められたときに、合理的な説明のできる数字にしておくことが必要です。
例えば、自宅兼事務所の家賃であれば、総床面積に占める仕事スペースの割合が1つの目安になるでしょう。ただし、出先で仕事をすることが多いような場合には、その按分が認められない可能性もあるわけです。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 経費にできる支出や家事按分は、特に初めて申告する方には判断や計算が難しいことがあります。自分で調べてもよく分からない場合は、税務署や税理士会の無料相談会を利用するか、税理士に依頼することをおすすめします。
- 白兼公認会計士・税理士事務所 代表 白兼道夫
法人化すると節税対策になるって本当?
税率が変わらない「法人税」
事業が順調に拡大し、所得が一定金額を超えた場合は、法人化(会社設立)することが節税につながります。逆に言えば、所得が増えているのに個人事業のままでいると、支払う税金がどんどん膨らんでしまうため、法人化を検討すべきタイミングがあります。それは、個人事業にかかるメインの税である「所得税」と、法人が支払う「法人税」の課税の仕組みに違いがあるからです。
先述の通り、所得税は、所得が増えるほど税率も上がっていく「累進課税」という制度を採用しています。具体的には、先ほどの課税所得が「195万円未満」であれば税率5%、「195万円以上330万円未満」であれば税率10%、「330万円以上695万円未満」であれば税率20%……というふうに税率が段階的に上がっていき、最高税率は「4,000万円以上」の45%となります(それぞれ税額から差し引かれる「控除額」があります)。
一方の法人税は、資本金1億円以下の普通法人の場合、原則として年間所得「800万円以下の部分」は税率15%、「年800万円超の部分」は税率23.2%で、これ以上上がることはありません。
単純比較すれば、個人の課税所得が330万円以上になったら税率20%で、法人税のほうが安くなる(法人税であれば税率15%)という計算です。
法人化の注意点
ただ、実際にはそう簡単な話ではありません。
法人になると、たとえ「社長1人」の会社であっても社会保険への加入が義務づけられ、保険料の支払いが発生します。決算や税務申告に関わる作業量が格段に増加するため、そのための人材採用や外注のコストもみておくべきでしょう。さらに、先ほどの比較はあくまでも“事業に関する税についてのものである点”にも、注意が必要です。法人化すると、社長は法人から役員報酬を受け取ることになり、そこには「所得税」や「住民税」が課税されるのです。
法人化の検討に当たっては、それらも含めた総合的なシミュレーションが必要になると考えましょう。
法人化については関連記事「個人事業主から法人化・会社設立する方法とメリット・デメリット、節税対策などを徹底解説 」 もご参照ください。
税理士に依頼すれば節税対策はできる?
説明してきたさまざまな税務に関することは、税のプロである「税理士」に依頼することが可能です。
記帳(帳簿付け)だけ頼みたい/申告は全て“丸投げ”したい/節税や事業の進め方についての相談に乗って欲しい…などのニーズに沿って利用することもできます。
税理士に頼めること
確定申告の代行
確定申告の作業は、どうしても一時期に集中せざるを得ません。また、申告書の記載にミスがあれば、税務署に申告漏れを指摘される可能性もあります。税理士には「税務代理」「税務書類の作成」が独占業務(税理士にしか代行できない業務)として認められており、間違いのない確定申告を依頼することができます。
記帳代行
「節税のポイント」のところで挙げた「青色申告」を行うためには、複式簿記による記帳が必要ですが、専門知識を持たなければ中々難しいでしょう。その点も、税理士に依頼すれば、青色申告も問題なく対応してもらえます。
税務相談
税務相談も税理士の独占業務です。フリーランスが税金に詳しくなくても仕方がないですが、知らずに何年も申告を行った結果、納める必要のない多額の税金を取られていた…といったことも起こり得ます。節税について税理士に相談すれば、的確なアドバイスがもらえるはずです。
税理士に依頼するメリットとは?
以上を踏まえて、税理士に依頼するメリットをまとめれば、次のようになります。
- 煩雑な税務に関する業務を専門家に任せて、自分は本業に専念し、勉強などに時間を割くことができる。
- 税のプロに依頼することで、節税対策ができる。
- 申告のミスがなくなり、税務署の指摘を受けたりするリスクを減らすことができる。
- 万が一税務調査(※3)になった場合にも、調査の立ち合いなどフォローが頼める。
- 法人化など、事業についてのアドバイスがもらえる。
税理士に依頼するデメリット
一方、デメリットもあります。
- コスト(顧問料などの料金)がかかる。
- コスト優先で依頼したりすると、期待したフォローを受けられないこともある。
節税対策が期待できる税理士の選び方
フリーランスのSE・プログラマー・ITエンジニアが税理士を選ぶ場合には、フリーランスという働き方、自分が身を置く業界に詳しいプロを探すのがベストといえるでしょう。ITに疎い税理士では、高いコストパフォーマンスは期待できないかもしれません。
税理士は、ホームページなどを参考に探すことができます。また、実績のある税理士紹介会社を使えば、ニーズに合った専門家を効率よく選ぶことができるでしょう。
IT業に詳しい税理士をお探しの方へ
フリーランスの場合は、期限までに忘れず確定申告を行いましょう。ITスキルがあれば、会計ソフト(これも経費になります)などを活用して自ら電子申告するハードルも、他の業種の人に比べて低いのではないでしょうか。ただ、それでも経費の判断などに迷うことはあります。そんなときには、税理士などの専門家のアドバイスを受けるのも、1つの方法として検討してみてください。
記事監修者 白兼税理士からのワンポイントアドバイス
SEやプログラマーは、税務調査で申告漏れを指摘される金額が上位に入る業種の1つです。フリーランスとして働く場合、売上が1,000万円以下でも税務調査の対象になる可能性は十分にあります。これは、多忙な仕事の中で、収入や経費の管理に十分な時間をかけられなかったり、税務の知識が不足していたりするため、自分一人では正確な記帳や申告が難しく、結果的に誤った申告をすることがあるからです。また、この業種は、経費として認められる支出が少ないことも多く、節税が難しいのも特徴です。税務署や税理士会の無料相談を活用するか、税理士へ依頼することで、適切な節税対策と正確な確定申告を行うことをおすすめします。