起業しようとしたら、どんな税金がかかるの?個人事業主と法人の税金をわかりやすく解説します。
- 最終更新日:
- 2024/09/20
- この記事の監修者
- 河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
個人事業主に課税される税金
個人事業主に課されるメインの税金は「所得税」です。ちなみにサラリーマンも所得税を払いますが、それは「給与所得」に課税されるもの。個人事業の場合は「事業所得」になります。
法人が「事業年度」(例えば4月~翌年3月=3月決算)を自由に設定できるのに対し、個人事業主の場合は、1月1日~12月31日が会計期間と定められていて、その期間に対応する所得税などを、原則として翌年2月16日~3月15日の間に、税務署に確定申告しなくてはなりません。
個人事業主に課税される税金には、次のようなものがあります。
所得税
事業で得た収入(売上高)から、必要経費(事業のために使ったお金。例えば、事務所の家賃、光熱費など)を差し引いたのが、「事業所得」です。そこから、さらに基礎控除(※)のほか、扶養控除、生命保険控除などの所得控除を差し引いた「課税所得」に、税率を掛けて算出します。税率は、5%から45%まで7段階設定されていて、所得が増えるほど税率が高くなっていく累進課税となっています。
個人住民税
「区市町民税」と「都道府県民税」があり、前年の課税所得に基づいて計算される「所得割」と、所得に関わらず定額の「均等割」があります。いずれも1月1日時点で住所のある市区町村役場に、まとめて納付します。
個人事業税
住んでいる都道府県に収める税金です。事業所得から各種控除を差し引き、業種ごとに決められた税率(3~5%)を掛けて計算されます。必ず差し引ける290万円の事業主控除があるので、事業所得から他の控除を差し引いた金額が290万円以下であれば、課税されません。また、法定業種に含まれないプログラマーやライターなどは、課税対象外です。
源泉所得税(従業員がいる場合)
個人事業主であっても、従業員を雇っている場合には、会社と同様に源泉所得税(従業員に支払う給与から差し引いた所得税など)を税務署に納めなくてはなりません。計算には、国税庁ホームページにある「源泉徴収税額表」が便利です。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 源泉所得税は原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日が納期です。ただし、給与の支給人員が常時10人未満であれば、半年分をまとめて納めることができる「納期の特例」を申請することができます。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛
消費税(課税売上が1,000万円を超える場合)
商品やサービスを提供すると、顧客からはその対価と同時に、消費税も受け取ります。一方、商品や原材料を仕入れた場合などには、取引先に対してその代金とともに、消費税を支払います。前者から後者を差し引いた金額を、税務署に納めることになります。
インボイス制度が始まったことで、課税売上高が1,000万円以下でも課税されるようになりました。つまり、適格請求書発行事業者に登録している者は課税売上高に関わらず納税の義務が発生します。
一方、適格請求書発行事業者に登録していない者は免税事業者になります。免税事業者の場合、課税売上高が1,000万円以下の場合は消費税の納税が必要ありません。
「前々年」が基準になるので、売上が1,000万円を超えても、課税業者になるのは、基本的にその2年後からです。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- インボイス制度が令和5年10月から開始されましたが、令和5年分の個人事業者の消費税申告件数は197万2千件で、インボイス制度がなかった令和4年分の105万5千件に比べて86.9%も増加しました。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛
法人に課税される税金
独立の際に初めから法人を設立することもあれば、個人事業主から「法人成り」することもあるでしょう。いずれの場合にも、法人に課されるメインの税金は「法人税」です。
法人に課税される税金には、次のようなものがあります。
法人税
株式会社などが、事業によって得た収益(法人税法上の所得=「法人所得」)に課税されます。資本金や収益によって税率が異なりますが、原則として23.2%となっており、所得税のような細かな所得区分(累進性)はありません。ざっくり言えば、「所得が一定水準を超えたら、個人事業よりも法人のほうが、支払う税金が少なくてすむ」ことになります。
法人住民税
「法人税割」(法人税額に住民税の税率を掛けて計算)と、赤字でも最低7万円が課税される「均等割」(資本金の金額と従業員数によって決まる)があります。
地方法人税
法人税に対して10.3%が課税されます。
法人事業税
法人所得に、法人事業税率を掛けて算出する地方税です。税率は、都道府県によって異なります。
源泉所得税
法人は、従業員を雇うのが普通ですから、源泉徴収を行う必要があります。従業員の給与から社会保険料を差し引いて、課税対象額を算出します。なお、法人は、社会保険への加入が義務となっていることに注意しましょう。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 法人の場合も、給与の支給人員が常時10人未満であれば、半年分をまとめて納めることができる「納期の特例」を申請することができます。7月と翌年1月の年2回の納付で済むため、実務上も効率的で納付漏れを防ぐことができます。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛
消費税
個人事業と同様、「顧客から預かった消費税-仕入れなどで支払った消費税」を納付します。納税の義務が生じるのは、基本的に課税売上高が1,000万円を超えた2年(2期)後からですが、資本金を1,000万円以上に設定すると、その期から課税業者になりますから、その点にも注意してください。さらに、インボイス制度の開始に伴い、課税事業者を選択する場合も消費税が発生します。
個人事業主よりも法人の方が節税できる?
個人事業主と法人では税金がかわります。では法人と個人ではどちらが節税できるのでしょうか。ここでは法人と個人事業主の経費の違いと、個人事業主か法人かで選ぶ基準について解説します。
法人の方が経費にできる範囲が広い
法人は個人事業主に比べて節税の選択肢が多いと言われています。これは、法人の方が経費として計上できる項目が多いからです。経費とは、事業を運営するために必要な費用のことを指します。例えば、生命保険料や出張費、自分や従業員の給与などが経費に該当します。
個人事業主の場合、給与という概念がないため、売上から経費を引いた金額(事業所得)が収入になります。一方、法人の場合、自身の給与に正社員と同じように給与所得控除が適用されます。これにより、大きな節税効果が期待できます。
売上(利益)次第で個人か法人かを決める
売上(利益)次第で、個人事業主か法人かを選ぶことが重要です。節税の観点から見ると、売上や利益の規模によって個人事業主と法人では税金の扱いが異なります。
例えば、売上や利益があまり大きくない場合、個人事業主の方が税金の負担が軽くなります。しかし、売上や利益が一定の規模を超えると、法人の方が税金の負担が軽くなることがあります。
所得税は累進課税のため、所得が増えると税率が上がりますが、法人税はほぼ20%で定率だからです。
要するに、売上や利益の規模によって個人事業主か法人かを選ぶことが重要です。税金の負担を軽くしたい場合は、売上や利益が少ないときは個人事業主を、一定の規模を超えるときは法人を選ぶと良いでしょう。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 売上規模で選ぶことは重要なセオリーですが、集客や従業員の確保を考えると法人の方が有利な場合があったり、業種によっては法人でなければ許認可が下りなかったりすることがあります。その場合は初めから法人でスタートしましょう。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛
必要なのは税のプロのサポート
個人であれ法人であれ、事業を営むうえでは、このようにさまざまな税金の支払いを避けて通れません。利益を上げていくためには、適切な節税も必要になるでしょう。起業に際しては、税のプロである税理士のサポートも考えましょう。
よくある質問
個人事業主と法人のどちらが税制上有利ですか?
個人事業主と法人のどちらが有利かは、事業の規模や利益によります。個人事業主は所得が少ない場合に有利ですが、利益が大きくなると法人の方が税率が一定であるため有利になることが多いです。
法人設立時にかかる税金は何ですか?
法人設立時には、登録免許税や印紙税がかかります。また、設立後は法人税、法人住民税、地方法人税、法人事業税などの各種税金が課されます。
個人事業主が支払う主要な税金は何ですか?
個人事業主は所得税、個人住民税、個人事業税、消費税(課税売上が1,000万円を超える場合)を支払います。従業員を雇う場合は源泉所得税も必要です。
法人化するメリットは何ですか?
法人化するメリットには、税制上の優遇措置や社会的信用の向上、節税の選択肢が広がることなどがあります。特に、利益が大きくなると法人税率の方が有利になることがあります。
法人住民税と法人事業税の違いは何ですか?
法人住民税は地方自治体に納める税金で、法人税額に応じて計算される「法人税割」と定額の「均等割」があります。一方、法人事業税は事業活動に対して課される地方税で、所得に応じて計算されます。
まとめ
私自身も安定したサラリーマンから独立し、税理士事務所を開業するのは非常に大きな決断でした。
夢の実現に向かって「独立」という大きな決断をされる方は、誰もが事業を成功させたいと考えるでしょう。
個人か法人か、法人にするなら株式会社か合同会社か。届出はどうしようか、役員報酬はいくらにしようか…など決断しないといけないことはたくさんあり、その選択肢によって税金の金額や納付スケジュールなども大きく変わります。
せっかく起業したにも関わらず、資金繰りが厳しくて税金が払えないから廃業しよう…となってしまっては本末転倒です。
起業は人生に何度もあることではありませんので、不明点や気になる事項がある場合は、税理士に相談されることをお勧めいたします。
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