建設業の会計処理には、他の業種、業界とは異なる「建設業会計」という特有の方法が必要になります。しかも、「工事完成基準」と「工事進行基準」という2つの考え方が存在します。一般企業の会計と、どこがどう違うのでしょうか? そもそも特有の処理を行うのは、なぜ? わかりやすく解説します。
建設業の会計処理が普通の企業と違うのはなぜ?
法人にしろ、個人事業主にしろ、税金の申告・納税は、基本的に決められた1年間(法人は事業年度、個人は1月~12月)の収益をベースに行います。法人の場合は、株主への業績の開示も、毎年行わなくてはなりません。言い方を変えると、年度ごとに収益などを確定させる必要があるのですが、そこに建設業ならではの難しさがあります。
普通の製造業であれば、モノを作って売るまでに、1年を超えるような時間は必要としないでしょう。ところが、建設業の場合には、案件を請け負って着工し、完成させるまでに数年かかることも珍しくありません。そういう長いスパンで発生するお金の動きを、毎年の決算にどう反映させるのかというのは、簡単な話ではないのです。
例えば、当期に工事にかかわる仕入れや人件費などのコストが発生したものの、入金は来期以降になる場合、売上が立てられずに、決算が大赤字になるかもしれません。収益は約束されているのに、株主や金融機関からネガティブな評価を受ける可能性もあるでしょう。
そうした問題を解消するために採用されているのが「建設業会計」で、後ほどで説明するように、他の業種とは異なる勘定科目が使われるのです。
「工事完成基準」と「工事進行基準」はどう違う?
そうした意味を持つ建設業会計ですが、会計処理の仕方には「工事完成基準」と「工事進行基準」という異なる2つの様式があります。
なお、2009年4月からは、一定の要件を満たす長期請負工事では、後者の「工事進行基準」による処理が義務付けられました。
工事完成基準
『工事完成基準』では、当期に先行して発生した費用を「未成工事支出金」としていったん資産に計上し、売上が計上された期に経費に振り替えます。そのため、このやり方だと、工事が完成した時点で利益が確定することになります。
このやり方は、後述する工事進行基準に比べ“分かりやすい”ため、契約準備などに時間がかからずスムーズに工事を始められるというメリットがあります。しかし、裏を返せば、クライアントの依頼が曖昧な状態のまま、工事がスタートすることも考えられます。途中で工事の修正が増えても応じざるをえず、想定外にコストが膨らんでしまった、といったリスクが排除できません。
工事進行基準
「最後にまとめる」のではなく、工事の進捗状況に合わせて期ごとに会計処理していくのが、この『工事進行基準』です。長期に渡る工事の進行状況をその都度確認し、売上や経費を分散して計上するわけです。
計算の仕方をごく簡単に説明すると
- 工事の進捗度は、「その期に発生した原価(コスト)/見積工事原価総額」で計算
当期末までの工事進捗度=当期末までに発生した実際の工事原価/見積工事総原価
- 工事収益総額(契約価額)×進捗度を計算し、そこから前期末までに計上した収益の金額を差し引いたものを、今期の収益とする
当期の収益=工事収益総額×当期末までの工事進捗度-前期末までに計上した収益
工事完了までに複数回の計上を行うので、「工事が終わってみたら赤字になっていた」というリスクは回避できるでしょう。仮にクライアントから追加注文があれば、その都度追加で費用請求できるのは、請負側にとってのメリットと言えます。
一方、この基準にもデメリットはあります。契約時には、複雑な建設工事の全体像などについてクライアントに説明し、理解を得なくてはなりません。合意獲得に時間がかかり、それが原因で契約自体が頓挫するようなことも起こりえます。
さらには、契約時にカウントされる費用関係を操作することで、不正を行う余地がある(世間はそう見ている)ことも、認識しておくべきでしょう。
2015年に発覚した東芝の会計不正事件でも、この手法が使われました。さきほどの②見積工事原価を過少に見積もり、工事の進捗度を嵩上げすることにより収益の前倒しを測ったり、工事で損失が生じたのにその計上を先送りしたり…といった操作で決算を粉飾したのです。
建設業界特有の勘定科目とは?
では、他の業種とは異なる勘定科目とは、具体的にどんなものでしょうか?以下に挙げました。
資産関係
- 完成工事未収入金〔売掛金〕
工事は完成しており、翌期に入金予定のもの - 未成工事支出金〔仕掛品〕
完成前の工事で発生した費用
負債
- 未成工事受入金〔前受金〕
完成引き渡し前にクライアントから受領した場合に発生する - 工事未払金〔買掛金〕
未払いの工事費
収益
- 完成工事高〔売上高〕
工事完了時に得られる収益 - 完成工事総利益〔売上総利益〕
完成工事高から完成工事原価を引いた金額
費用
- 完成工事原価〔原価〕
材料費、労務費、外注費、経費の4つで構成される
まとめ
建設業の会計処理は、一般の商業・工業簿記とは異なる方法で行われます。なぜそうなるのかを理解したうえで、適切な処理を心がけましょう。