アパレル業の税金のポイントとは?税金の種類や「在庫」についての注意点を解説

アパレル業の税金のポイントとは?税金の種類や「在庫」についての注意点を解説
最終更新日:
2024/10/30
この記事の監修者
篠昌義税理士事務所 代表 篠 昌義(公認会計士・税理士)
 
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個人事業主にかかる税金とは?

独立開業して個人事業主となれば、事業の全般を担うのと同時に、サラリーマンならば会社任せでよかった税金の申告・納税も全て自分の責任で行わなくてはなりません。
まず最初に、個人事業主が納める必要のある主な税金をみておきましょう。

所得税

個人事業主のメインの税は、毎年1月1日~12月31日の間に稼いだお金に対して課税される所得税です。収入(売上)から家賃などの経費や、医療費控除などの控除を差し引いた「課税所得」に税率を掛けて計算され、所得が増えるほど税率も高くなる「累進課税」という仕組みになっています。

個人住民税

個人住民税は、居住している都道府県、市区町村に支払う税金です。前年の課税所得に応じて課税される「所得割」と、所得に関係なく定額が課税される「均等割」があります。

個人事業税

個人事業税は、290万円以上の所得にかかる税金です。税率は業種ごとに決まっていて、「物品販売業」は5%です。したがって、事業税の額は、「(所得-290万円)×5%」ということになります。所得が290万円に満たなければ、課税はされません。

消費税

原則として、年間の課税売上高が1,000万円を超えると2年後から「消費税課税事業者」として、消費税を納めなくてはなりません。課税売上が1,000万円以下の場合は、納税が免除されます。

個人事業が順調に拡大して利益が大きく伸びてきた場合には、法人化が検討課題になるでしょう。説明したように、個人事業主のメインの税金である所得税は累進課税で、最高税率は45%にもなります。一方、会社にした場合にかかる法人税は、法人事業税などを加えた実効税率(実質的な税負担)でも30%程度ですから、所得が大きくなるほど、大きな節税効果が生まれるのです。

「在庫」を抱えやすいアパレル業

ここから、アパレル業において重要な「在庫」の話です。
販売業に在庫はつきものですが、アパレル業の事業展開には「季節性」が重要なファクターです。毎年、夏物や秋冬物といった季節に見合ったアイテムを一時期に仕入れて、短期間のうちに売り切るというのが“勝利の方程式”と言われています。
しかしながら、いつもうまくいくとは限りません。ある程度の在庫を持っていないと、チャンスロスを生じる可能性がある半面、天候不順に見舞われたり、消費者のニーズをつかみきれなかったりして、大量に売れ残るリスクも常にあります。
アパレル業は、そもそも構造的に在庫を多く抱えやすい業種だということができるでしょう。

在庫を抱えることのデメリットとは?

では、なぜ在庫を抱えると問題なのでしょうか?在庫の“元”である「仕入」から見ていきましょう。

所得税にしろ法人税にしろ、税額は課税所得(≒利益)に税率を掛けて算出されます。課税所得が大きいほど、多くの税金を支払わなくてはなりません。その課税所得を抑えるために重要な役割を果たすのが、経費です。

経費は、ひとことで言えば「事業を行うために必要な費用」のこと。店舗の家賃や光熱費、人件費、消耗品費、仕事のために支払った交通費などがこれに該当し、そのコストを売上高から差し引くことで、所得を減らすことができるのです。
もちろん、事業と無関係の出費を計上することは許されませんが、使った経費は確実にカウントするのが、節税対策としては重要です。

“仕入れ”と“経費”の違いを確認しよう

ところで、仕入も「事業を行うために必要」です。そのため、経費と勘違いもされやすいのですが、実は違います。
家賃や光熱費などの経費は、支出すればその場で「消えて」しまいます。しかし、仕入れたモノは、売れれば利益になります。仕入で使ったお金は、後で換金可能な費用ですから、売上から差し引いたりすることはできません。言い方を変えると、「仕入れたもの」すなわち在庫は「換金資産」で、現金預金と同じ扱いなのです。

問題は、それが期末まで売れ残ってしまった場合です。期末在庫といえども換金資産に変わりはありませんので、現金預金と同じ扱いになります。その分は「利益」とみなされ、課税所得にプラスされる=そのぶん納税額が膨らむことになります。
しかしながら、既に仕入にお金を使っていますから、多くの期末在庫を抱えると、そのままでは資金繰りに問題を生じたりする可能性もあります。

監修者

篠 昌義

記事監修者からのワンポイントアドバイス

よく経費をたくさん使うために年度末にまとめて仕入れをし、利益を下げようと考える人がいます。ですが、仕入れに関しては売れて初めて費用にすることができます。
つまり、仕入れをするだけでは費用がまったく発生せずお金が出ていくだけという状況になります。
したがって、利益を下げるために過剰に仕入れをするといった方法は全く節税になりませんので注意してください。

在庫を沢山抱えた場合には「損切り」も考える

では、上記のような場合にはどうすべきでしょうか?
このような場合には、「できるだけ傷を浅くする」ことを考えるのも選択肢になるでしょう。
在庫については、含み損を経費に計上できる可能性があります。
税法上、在庫の含み損について経費で落とせる範囲は以下のように例示されています。

経費で落とせる含み損

  • 売れ残った季節商品のうち、明らかに通常価格で売れないもの
  • 在庫の商品のうち、型式、性能、品質等が著しく異なる新商品が開発されたことに伴い、明らかに通常価格で売れないもの

経費で落とせない含み損

価格変動・過剰生産・建値の変更により通常価格で売れない場合には、在庫の含み損を経費で落とすことはできません。

ただし、セールなどを行い、仕入値よりも安値で販売すれば、これらの条件に関係なく差額分を含み損として計上したうえで、手元資金を確保することができます。

また、在庫を破棄すれば、購入価格と同額の廃棄損を計上できます。この場合には、税務調査に対応できるよう、廃棄した事実を証明できるもの(廃棄品目などが記載された業者の請求書など)を用意しておきましょう。

監修者

篠 昌義

記事監修者からのワンポイントアドバイス

まだセールすれば売れるかもしれない在庫、セールしても売れないと思われる在庫など様々な在庫があるかと思います。期末までは売れる可能性が低いものも在庫として抱えつつ、セールなどで売り切りを考え、期末までに売れなかった在庫は期末に一斉処分(廃棄)して利益を下げるといった節税策をとる人が一般的には多いです。

アパレル業に詳しい税理士をお探しの方へ

納める必要のある税金の種類と、在庫の“怖さ”が理解いただけたでしょうか。しかしながら、在庫がなければ、事業は成り立ちません。毎月の在庫管理をきちんと行い、季節ごとの有効な対策(セールの実施など)を実行するのが重要です。
事業に集中したい場合などには、節税対策について、アパレル業界やネットショップ業界に詳しい税理士の手を借りるのもいいでしょう。

よくある質問

アパレル業で個人事業主が納める税金は何ですか?

個人事業主が納める税金には、所得税、個人住民税、個人事業税、消費税があります。所得税は累進課税で、住民税は所得割と均等割があります。事業税は所得が290万円以上の場合に課税され、消費税は年間売上が1,000万円を超えると課税対象になります。

アパレル業で在庫を抱えることのデメリットは何ですか?

在庫は現金預金と同じ扱いとなり、売れ残ると課税所得が増えるため、納税額が増加します。また、資金繰りに問題が生じる可能性があります。

在庫が多い場合の対策は何ですか?

売れ残った在庫をセールで販売するか、破棄して廃棄損を計上することで経費にできます。税務調査に対応できる証拠を保管しておくことが重要です。

アパレル業で経費として認められるものは何ですか?

店舗の家賃、光熱費、人件費、消耗品費、交通費などが経費として認められます。事業に関連する費用を確実に計上することが節税対策となります。

アパレル業で法人化を検討するタイミングは?

個人事業の所得が増えた場合、法人化を検討することで、税率が一定に保たれ、節税効果が期待できます。法人化により事業の信用度も向上します。

監修者

篠 昌義

記事監修者からのワンポイントアドバイス

個人事業主の場合、累進課税により所得が大きければ大きいほど、税率が高くなります。例えば、所得が9百万円を超えた分に関しては税率が33%、所得が18百万円を超えた分に関しては税率が40%以上かかることになっています。
しかし、法人化した場合利益に対して一律で税率25%~30%程度の法人税がかかるだけですみます。
この税率差は非常に大きい差になりますので、一般的には、所得が9百万円を超えるようになってきたら法人化を検討すべきタイミングと言えるでしょう。

記事監修者 篠税理士からのワンポイントアドバイス

アパレル業を個人事業主としてこれから開業するという方は、基本的に節税という概念は考えずに、まずは、節約を考えて事業を進めていくべきでしょう。
例えば、在庫を多くかかえないように仕入れはこまめに行うや内装や家賃にはあまりお金をかけないといった方法があります。
税理士目線でアドバイスするとなるとついつい利益を下げるために経費をしっかりと使いましょうと指導しがちです。ですが、アパレル業は非常に競合も多く、流行り廃りで売上が変動しやすい業種です。実際にアパレルをはじめてすぐに廃業してしまう個人事業主もたくさんいらっしゃいます。
そのため、そもそもアパレル業で長年成功していくためには、節税よりも事業を安定的に進めていくために経費をできるだけ使わずに節約して進めていくことの方が重要と言えるでしょう。

この記事の監修者
篠昌義税理士事務所 代表 篠 昌義(公認会計士・税理士)
有限責任監査法人トーマツで監査やコンサル、税理士法人平成会計社(現令和会計社)で税務実務や記帳・決算代行など様々な専門業務を経験した後、シェアリングテクノロジー株式会社のCFO、代表取締役を歴任。現在は、税理士事務所所長、専門家の相談室を運営するマーケットハック株式会社の代表取締役。

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この記事の執筆者
税理士紹介センタービスカス編集部
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