「税理士が作成した電子データ」は依頼者と税理士どちらのもの?

「税理士が作成した電子データ」は依頼者と税理士どちらのもの?
最終更新日:
2024/12/10
この記事の監修者
河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
 
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記帳代行を頼んでいた税理士を交代する際などに、その税理士の作成した会計データをもらうことができれば、新しい税理士への引き継ぎもスムーズでしょう。しかし、会計データをもらうのは依頼者の“当然の権利”なのでしょうか? 実はそこには、微妙な問題があるようです。今回は、税理士に作成依頼したデータの扱いや、トラブルを防ぐ手立てについて解説します。

「データの所有権」は税理士にある?依頼者にある?

顧問契約の解除で発生する問題とは

顧問税理士に税務申告だけでなく、記帳も依頼しているケースは少なくないでしょう。依頼された税理士は、依頼者の提出した資料などに基づき、自らの会計ソフトを利用して会計帳簿を作成し、データを出力して紙ベースの帳簿を納品する、というパターンが一般的です。
通常はそれで問題は起きないのですが、何かの理由で契約中の税理士と解約したいという話になったとき、ふと気づくのが、「先生が持っているわが社の会計データ(電子データ)は、きちんと返してもらえるのだろうか?」ということです。
基本的に、電子データを渡したからといって、(いいかげんな仕事がバレるといった場合を除いては)顧問税理士に損失が生じるわけではないでしょう。ただ、解約などをめぐって感情的なしこりが生じたりすると、「そんな義務はない」と突っぱねられる可能性はあります。
 

記事監修者からのワンポイントアドバイス
よく顧問契約の面談に来られるお客様で、前の税理士事務所の解約理由の1つに「税理士が一方的・高圧的で相性が悪い」というお声があります。解約時には感情論となって議論が進まないことも多いようです。
河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛

実際の裁判では、依頼者が敗訴

実際、「渡せ」「渡さない」をめぐって裁判で争われたことがありました。
会計データの引き渡しを行わないのは債務不履行に当たるとして、依頼者が税理士を訴えたのです。しかし、結果は「依頼者の請求を棄却」。裁判所は、会計データの所有権は税理士自身にある、と判断しました(東京地裁平成25年9月6日判決)。

判断の理由として、裁判所は

  • 顧問税理士が自らの保有する会計ソフトを利用してデータ作成を行っていたこと。
  • 税務顧問契約に、会計データの引き渡しやその所有権の帰属に関する定めがないこと。
  • 後任の税理士が、税理士が一般的に顧客に対する会計データの引き渡し義務を負うと認めているわけではないこと。

などを挙げました。

ただし、この判決には、専門家から「所有権は物(有体物)について生じる権利であり、無体物である電子データは、その対象にならない」という批判もあります。要するに「そもそも所有権うんぬんの話ではない」ということです。
いずれにしても、依頼者が所有権を盾に会計データの引き渡しを求めるのは、この判例のようなケースでは難しいことになります。デメリットのあるなしに関わらず、税理士は引き渡しを拒むことができる=依頼者はもらえなかった…としても文句は言えないのです。

データを確実に返してもらうには

ポイントは「顧問契約書」

とはいえ、会計データをもらえなかったとすると、依頼者側の被るデメリットは小さくありません。依頼者側は泣き寝入りするしかないのでしょうか?
そこでヒントになるのが、先述の判決理由です。「顧問契約に定めがなかった」という指摘に注目しましょう。逆に言えば、契約書に「解約時には、すべての会計データを渡すこと」といった一文があれば、税理士にはそうする義務が生じるのです。
顧問契約の時点で解約時のことまで想定するのは難しいかもしれませんが、先々何が起こるかわかりません。これから記帳代行を頼む場合はもちろん、すでに依頼している場合にも、契約書を見直してみてはいかがでしょうか。

「電子帳簿」なら問題は起こらない

ちなみに、ここまでお話ししたのは、「税理士から紙ベースの帳簿を受け取っている場合」です。会計帳簿を電子データで保存する場合には、基本的にこうした問題は発生しません。
電子データによる会計帳簿の記帳代行を依頼する場合には、以下の事項をクリアしなければなりません。

保存義務者(注:依頼者)は、定期的にその電磁的記録の還元を受けることにより、備付期間においても、保存場所(注:会社など)に備え付けているディスプレイの画面及び書面に出力することができるようにしておかなければならない

「記録の還元」とは、すなわち「データの引き渡し」のことです。

なお、2021年度の税制改正で「電子帳簿保存法」が改正され、22年1月から施行されます。電子化の要件が大幅に緩和されますので、電子データでの保存を検討する会社が増えるかもしれません。ただし、システムの変更には、コストもかかります。

預けた書類は「依頼者の所有物」である

書類は速やかに返してもらえる

付け加えれば、このように税理士が自分の会計ソフトを使って作成したデータには争いの余地があるのですが、記帳の業務のために依頼者が預けた総勘定元帳・決算書・会社の定款・登記簿謄本といった書類は、紛れもなく「依頼者のもの」です。契約解除などの際には、顧問契約への記載の有無に関わらず、税理士は速やかに返却しなくてはなりません。

 

記事監修者からのワンポイントアドバイス
税理士に預けている書類はどれも依頼者の機密情報に関するものばかりです。
預かった資料は厳密に保管し、解約時には速やかに返却することは税理士の義務として至極当然のことです。ただし、依頼者が顧問料を滞納しているようなケースでは、入金があってから返却するということが実務ではよくあるようです。
河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛

電子申告のIDも「返還」を受ける

忘れやすいのが、e-Tax(国税電子申告・納税システム)とeLTAX(地方税ポータルシステム)のIDです。実は、これも「利用者のもの」です。仮に税理士が代理で取得した場合でも、やはり返還する必要があるのです。
税理士の側にも、書類の返却の必要性は認識していても、IDはついうっかり、といったことも考えられます。これが引き継がれずに、後任の税理士が新たなIDを取得した結果、以前の電子申告の履歴が消去されてしまったという事例も報告されていますので、注意が必要です。

 

記事監修者からのワンポイントアドバイス
電子申告のIDとパスワードは税理士引き継ぎの際にも度々問題となりますし、実際に私も前任の税理士事務所にIDとパスワードを教えてもらうよう、よく依頼者にお話をしております。後任の税理士側から依頼者にこの話題を出すのも大切かもしれません。
記事監修者 河鍋税理士からのワンポイントアドバイス

記事監修者 河鍋税理士からのワンポイントアドバイス

税理士と解約する際には、預けていた書類などとともに、作成した会計データ(電子データ)を渡してもらう必要があります。確実にもらえるよう、顧問契約書に明記しておくのが良いでしょう。

まとめ

現在は電子帳簿保存法が施行されているため、電子帳簿を作成している税理士も多いです。電子帳簿の場合は今回の記事のような問題は生じないと考えられますが、顧問契約解約時には、お互い相性が悪いと感じて解約に至るわけですので感情的になりやすく、注意が必要になります。顧問契約書の見直しも大切ですが、まずは解約を行うにしてもいざこざが生じないように出来るだけ円満に契約を終了したいものです。
その上で、e-TaxとeLTAXのIDとパスワードも忘れずに引き継ぎを受けたいものです。これらのIDとパスワードは税理士が代理取得するケースが多いため、控えも税理士が所有しています。後任の税理士も新規で取得し直すこともできますが、依頼者の過年度の申告や届出データなどの履歴が消去されてしまい、その後の手続きが煩雑になったり、申告内容に不備が出たりする可能性もあるため、必ず確認するようにしましょう。

この記事の監修者
河鍋公認会計士・税理士事務所
代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)
大手監査法人、税理士法人で会計監査、相続税申告を数多く担当し、独立。物腰が柔らかく、真面目な30代の若手代表が運営しており、"気軽に"そして"気楽に"相談できる事務所を目指す。個人・法人の税務顧問はもちろん、資産税や株式上場支援まで幅広くサービス提供しており、顧客のベストパートナーとしてあり続ける会計事務所。

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この記事の執筆者
税理士紹介センタービスカス編集部
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