「税理士が作成した電子データ」は依頼者と税理士どちらのもの?

「税理士が作成した電子データ」は依頼者と税理士どちらのもの?
最終更新日:
2022/05/26
 
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記帳代行を頼んでいた税理士を交代する際などに、その税理士の作成した会計データをもらうことができれば、新しい税理士への引き継ぎもスムーズでしょう。しかし、会計データをもらうのは依頼者の“当然の権利”なのでしょうか? 実はそこには、微妙な問題があるようです。今回は、税理士に作成依頼したデータの扱いや、トラブルを防ぐ手立てについて解説します。

「データの所有権」は税理士にある?依頼者にある?

顧問契約の解除で発生する問題とは

顧問税理士に税務申告だけでなく、記帳も依頼しているケースは少なくないでしょう。依頼された税理士は、依頼者の提出した資料などに基づき、自らの会計ソフトを利用して会計帳簿を作成し、データを出力して紙ベースの帳簿を納品する、というパターンが一般的です。
通常はそれで問題は起きないのですが、何かの理由で契約中の税理士と解約したいという話になったとき、ふと気づくのが、「先生が持っているわが社の会計データ(電子データ)は、きちんと返してもらえるのだろうか?」ということです。
基本的に、電子データを渡したからといって、(いいかげんな仕事がバレるといった場合を除いては)顧問税理士に損失が生じるわけではないでしょう。ただ、解約などをめぐって感情的なしこりが生じたりすると、「そんな義務はない」と突っぱねられる可能性はあります。

実際の裁判では、依頼者が敗訴

実際、「渡せ」「渡さない」をめぐって裁判で争われたことがありました。
会計データの引き渡しを行わないのは債務不履行に当たるとして、依頼者が税理士を訴えたのです。しかし、結果は「依頼者の請求を棄却」。裁判所は、会計データの所有権は税理士自身にある、と判断しました(東京地裁平成25年9月6日判決)。

判断の理由として、裁判所は

  • 顧問税理士が自らの保有する会計ソフトを利用してデータ作成を行っていたこと。
  • 税務顧問契約に、会計データの引き渡しやその所有権の帰属に関する定めがないこと。
  • 後任の税理士が、税理士が一般的に顧客に対する会計データの引き渡し義務を負うと認めているわけではないこと。

などを挙げました。

ただし、この判決には、専門家から「所有権は物(有体物)について生じる権利であり、無体物である電子データは、その対象にならない」という批判もあります。要するに「そもそも所有権うんぬんの話ではない」ということです。
いずれにしても、依頼者が所有権を盾に会計データの引き渡しを求めるのは、この判例のようなケースでは難しいことになります。デメリットのあるなしに関わらず、税理士は引き渡しを拒むことができる=依頼者はもらえなかった…としても文句は言えないのです。

データを確実に返してもらうには

ポイントは「顧問契約書」

とはいえ、会計データをもらえなかったとすると、依頼者側の被るデメリットは小さくありません。依頼者側は泣き寝入りするしかないのでしょうか?
そこでヒントになるのが、先述の判決理由です。「顧問契約に定めがなかった」という指摘に注目しましょう。逆に言えば、契約書に「解約時には、すべての会計データを渡すこと」といった一文があれば、税理士にはそうする義務が生じるのです。
顧問契約の時点で解約時のことまで想定するのは難しいかもしれませんが、先々何が起こるかわかりません。これから記帳代行を頼む場合はもちろん、すでに依頼している場合にも、契約書を見直してみてはいかがでしょうか。

「電子帳簿」なら問題は起こらない

ちなみに、ここまでお話ししたのは、「税理士から紙ベースの帳簿を受け取っている場合」です。会計帳簿を電子データで保存する場合には、基本的にこうした問題は発生しません。
電子データによる会計帳簿の記帳代行を依頼する場合には、以下の事項をクリアしなければなりません。

保存義務者(注:依頼者)は、定期的にその電磁的記録の還元を受けることにより、備付期間においても、保存場所(注:会社など)に備え付けているディスプレイの画面及び書面に出力することができるようにしておかなければならない

「記録の還元」とは、すなわち「データの引き渡し」のことです。

なお、2021年度の税制改正で「電子帳簿保存法」が改正され、22年1月から施行されます。電子化の要件が大幅に緩和されますので、電子データでの保存を検討する会社が増えるかもしれません。ただし、システムの変更には、コストもかかります。

預けた書類は「依頼者の所有物」である

書類は速やかに返してもらえる

付け加えれば、このように税理士が自分の会計ソフトを使って作成したデータには争いの余地があるのですが、記帳の業務のために依頼者が預けた総勘定元帳・決算書・会社の定款・登記簿謄本といった書類は、紛れもなく「依頼者のもの」です。契約解除などの際には、顧問契約への記載の有無に関わらず、税理士は速やかに返却しなくてはなりません。

電子申告のIDも「返還」を受ける

忘れやすいのが、e-Tax(国税電子申告・納税システム)とeLTAX(地方税ポータルシステム)のIDです。実は、これも「利用者のもの」です。仮に税理士が代理で取得した場合でも、やはり返還する必要があるのです。
税理士の側にも、書類の返却の必要性は認識していても、IDはついうっかり、といったことも考えられます。これが引き継がれずに、後任の税理士が新たなIDを取得した結果、以前の電子申告の履歴が消去されてしまったという事例も報告されていますので、注意が必要です。

まとめ

税理士と解約する際には、預けていた書類などとともに、作成した会計データ(電子データ)を渡してもらう必要があります。確実にもらえるよう、顧問契約書に明記しておくのが良いでしょう。

この記事の執筆者
税理士紹介センタービスカス編集部
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