保険外交員・生保レディの税金と確定申告
ポイントと注意点を解説

保険外交員・生保レディの税金と確定申告  ポイントと注意点を解説
最終更新日:
2024/10/01
この記事の監修者
樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)
 
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保険会社と業務委託契約を結び、保険への加入の勧誘などに従事する保険外交員・生保レディの方は、原則として所得税などの「確定申告」をする必要があります。この確定申告は、やり方によって納税額(節税額)に大きな差が出るばかりでなく、怠ったり間違ったりするとペナルティの対象になることもありますので、注意しなくてはなりません。確定申告のポイントを解説します。

所得税の確定申告とは?

個人事業主は確定申告が必要

保険外交員の働き方には、

  • ①雇用契約を結んだ「正社員」「契約社員」
  • ②業務委託契約を結んだ個人事業主

の2つがあります。
収入は、①は「固定給(給与)+歩合(報酬)」の形態が基本です。一方で②は「完全歩合制」であることが多いですが、固定給+歩合の形態もあります。

①の場合は、所得税、住民税が毎月の給与から源泉徴収(天引き)され、毎年、年末調整で払い過ぎや不足分が調整(還付、徴収)されます。いずれにしても、社員(従業員)に関しては、これらの納税を本人に代わって会社がしてくれますから、原則として確定申告は不要です。
②の場合は、源泉徴収はされますが、年末調整はしてもらえません。個人事業主の場合には、税務署に自分で申告し、納税する必要があるのです。

正社員・契約社員の場合 個人事業主の場合
契約形態 雇用契約 業務委託契約
収入 固定給+歩合給が基本 完全歩合制
または固定給+歩合給
源泉徴収 あり あり
年末調整 あり なし
確定申告 不要 必要
※上記はあくまで一般的な保険会社の場合です。

確定申告では、期限までに所得を申告する

確定申告は、名前の通り毎年(1月1日~12月31日)の所得と、それに応じた所得税と住民税の税額を確定して、税務署に申告する制度です。原則として翌年3月15日が申告期限となっています。

※2022年の確定申告に関しては、新型コロナ(オミクロン株)の感染拡大を考慮して、期限内の申告が困難な場合には、4月15日まで1ヵ月間の期限延長が認められています。延長申請の方法は国税庁のリーフレット をご確認ください。

確定申告をしないとどうなる?

確定申告の必要があるのに行わなかったり、申告した税額が少なかったり、意図的に所得を隠したりしたことが発覚すると、未納付分を支払うだけでは済みません。状況に応じて「無申告加算税」「過少申告加算税」「重加算税」さらには「延滞税」といったペナルティが課せられることになります。
無申告のペナルティについては「脱税とは?節税とどう違う?バレたらどうなる?脱税についてわかりやすく解説 」でより詳しく解説しています。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
反対に税金の払い過ぎが分かった場合には、税務署に対して「更正の請求」という手続きを行うことで、原則として5年間は還付してもらうことができます。
樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)

所得税計算の基本を知ろう

所得税がかかる「所得」は、「収入(売上)」とは異なります。収入から「必要経費(仕事に必要なコスト)」を差し引いたものが所得、要するに利益です。さらにここから各種の「所得控除」を引いたものが「課税所得」で、これに一定の税率を掛けて所得税の税額を計算します。住民税の計算も、これがベースになります。
整理すると、

収入-必要経費=所得
所得-所得控除=課税所得

となります。

所得控除には、例えば年間48万円(所得2,400万円以下の場合)が所得から自動的に差し引ける「基礎控除」があります。上の式から明らかなように、所得が48万円以下ならば、基礎控除によって課税所得がマイナスになるため、所得税はゼロになります。

個人事業主の保険外交員が経費にできるのは?

節税の鍵を握る必要経費

所得税は、所得が増えるほど税率自体も上がっていく「累進課税」制度になっています。その意味でも、節税のためには、課税所得をできるだけ抑える必要があります。

これもさきほどの数式を見ていただければ分かるように、キーになるのは「必要経費」で、申告の際に“支払った金額を確実に計上すること”が大事になります。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
何を経費にできるのかは判断が難しいことも多く、「とりあえず経費にしておこう」という姿勢で申告すると、税務署に「過少申告」を指摘される可能性もあります。
樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)

飲食代

顧客との商談や打ち合わせの飲食代は、経費になります。ただ、喫茶店に入って1人で仕事をしたといった場合には、原則として経費計上はできません。

交通費

外回りをしているので、交通費の出費も多いはずです。タクシー代も電車賃、バス代も仕事で使った費用は経費にできます。
車で移動する場合には、ガソリン代も経費で落ちます。ただし、プライベートと兼用の場合には、”仕事で使った分”のみが経費として認められることに注意してください。使用した日時などの証拠を残したうえで、割合を計算します。
このように、ある費用のうち事業に関連する部分だけを経費計上することを「家事按分」といいます。

贈答品代

自己負担で顧客に贈答品を渡した場合にも、経費になります。誰に渡したのかなど、仕事上の贈答であることを証明できるようにしておきましょう。

家賃、水光熱費

自宅を事務所として使用する場合の家賃については、家事按分して経費計上することができます。按分の基準は、事務所スペースの割合や使用時間などがベースになります。水光熱費も同様に考えます。

通信費

保険外交員の方は、他の職種に比べ顧客との連絡などに電話代がかさみます。これらも、当然経費にできます。インターネットの通信費やプロバイダ料金なども、プライベートと共用の場合には、やはり按分して計上します。

仕事用のパソコン購入費

顧客管理用などにパソコンを購入した場合にも、経費にすることができます。ただし、購入費用が10万円を超えた場合は一括で経費にすることはできず、4年間に分けて計上していきます(減価償却と呼びます)。

セミナー参加費、書籍代

保険外交員としてのスキルアップのために参加したセミナーの費用や、購入した書籍の代金も、「収入を得るために必要なもの」として、経費にすることができます。

スーツ、衣装代

一般的には、スーツなどを経費で落とすことは困難です。作業着や制服と違い、仕事以外でも着ることがあると考えられるからです。しかし、保険外交員や住宅営業マン、弁護士など業務上スーツの着用が不可欠な人の場合は、「仕事着」として購入したものは、経費にすることが認められる可能性があります。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
ただし、「業務に使用している」と明確に主張できることが条件で、例えば「仕事に似つかわしくない」と判断されれば、経費にはできませんので、慎重な判断が必要です。
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代表 樽澤岳一郎(税理士)

最大55万円までは経費として控除される

なお、個人事業主の事業所得には、最大55万円までは経費にできる「家内労働者等の必要経費の特例」があります。例えば、計算した必要経費が合計40万円だったとしても、55万円を経費計上することができるのです。

インボイス制度への対策はどうする?

2023年10月より開始された適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)により、それまで年1,000万円を超える売上の事業者のみが対象だった消費税課税が、制度に登録した事業者に対しては売上が年1,000万円以下でも課せられるようになっています。

保険外交員にインボイス登録は必要?

これまでは、年間の課税売上高(消費税を上乗せして得た売上)が1,000万円以下であれば免税事業者となり、上乗せして得た消費税の納付は免除されていました。
しかし、インボイス制度の導入により、制度に登録してインボイス登録事業者となった事業者は、売上がいくらであっても消費税を納めなければならなくなりました。
もちろん登録する、しないは事業者の自由なのですが、取引先が課税事業者の場合、免税事業者(領収書にインボイス登録番号がない事業者)との取引だと仕入税額控除の適用を受けられないため、「消費税分を差し引いて支払う」あるいは「登録しなければ取引を控える」と言われる恐れがあり、登録せざるを得ないのでは、と特にフリーランスの間で問題になっていました。

それでは、売上1,000万円以下の保険外交員はインボイスに登録すべきでしょうか。
まず、保険会社の収入源である「保険料収入」が消費税非課税であることを知っておく必要があります。
また、給与所得は消費税の課税対象外であるため、外交員であっても固定給のみを受け取っている場合、インボイス制度は無関係となります。登録の必要はありません。
しかし、固定給+歩合給、あるいは保険代理店と業務委託契約関係にある完全歩合給の場合、歩合給の部分が「報酬」すなわち事業所得となるため、消費税の課税対象となります。したがって、代理店側から制度登録を求められる可能性はあるでしょう。

インボイス登録を求められたらどうする?

インボイスに登録すると、これまで納めずに済んだ消費税を納税するため、同じ売上額でも実質収入が減ることになります。また、確定申告に加え消費税申告もしなければならず、会計処理に時間がとられたり、そのための費用が新たに嵩んだりというデメリットが考えられます。
それでも、制度登録を保険代理店から求められればすぐに対応しなければならないのでしょうか。
実は、課税事業者は、免税事業者と取引する際の負担軽減のための経過措置を最長6年間受けることができます。つまり、保険外交員が慌てて対応せずとも、保険代理店がまるまる消費税分を負担することにはなりません。慎重に検討したいと答えてもよいのです。

また、登録業者になることを選んだ場合でも、「簡易課税制度」を利用すればある程度事務処理の煩雑さを抑えることが可能です。
簡易課税制度は、「経費にかかる消費税額」の部分を、「収入にかかる消費税額」に「みなし仕入れ率」という一定の割合を掛けた金額で代替できるという制度です。保険外交員の場合は、みなし仕入れ率が50%と決められています。
そのため、

収入にかかる消費税額―(収入にかかる消費税額×50%)=消費税の税額

という計算になります。

簡易課税制度は経費にかかる消費税額をいちいち計算しなくて済むというメリットがありますが、原則課税のほうが有利なケースもありますので、インボイス登録をする場合はそのあたりも含め、一度制度に詳しい税理士に相談してみるのもよいでしょう。

保険外交員は所得の区分に注意が必要

給与所得か事業所得か

さて、個人事業主として働く保険外交員の受け取る報酬は、先述のとおり「固定給+歩合給」(保険会社からの支払いが、そのように明確に区分されている場合など)または「完全歩合給」の場合があります。そういう方は、所得区分に注意する必要があります。
というのも税法上では、

  • 固定給の部分→「給与所得」
  • 歩合の部分→「事業所得」

になるためです。確定申告のときには、それぞれを分けて申告しなくてはなりません。

さきほど説明した必要経費は、事業所得に認められますが、給与所得には認められません。一方で給与所得には、必要経費に代わるものとして、所得により一定額を控除できる「給与所得控除」があります。

また、消費税は事業所得が対象で、給与所得については非課税です。
そのため例えば、給与所得が200万円・事業所得が900万円だった場合、年収は1,000万円を超えますが、事業所得単体では1,000万円を超えていないので、免税事業者となるのです。

確定申告をするなら青色申告がおすすめ

青色申告・白色申告とは?

確定申告には、帳簿付けを複式簿記で行うなどの条件で認められる「青色申告」と、それ以外の「白色申告」があります。青色申告のほうが作業は大変ですが、最大65万円の所得控除(青色申告特別控除)が受けられるなどの大きなメリットがあります。

確定申告の流れ

最後に、確定申告までの流れを簡単にまとめておきましょう。

  • 確定申告書の準備(国税局のホームページからダウンロードできます)
  • 所得の計算(保険会社から「支払調書」を受け取ります)
  • 経費の集計(領収書の金額を集計します)
  • 控除の集計(さきほどの「基礎控除」のほか、一定額を超えた医療費などの「医療費控除」「生命保険料控除」などがあります)
  • 確定申告書への記入
  • 申告期限までに税務署に提出

確定申告は、パソコンやスマートフォンを使った電子申告(e-Tax)が可能です。

記事監修者 樽澤税理士からのワンポイントアドバイス

個人事業主として働く保険外交員の方は、原則として確定申告が必要です。経費の扱いや所得区分の問題など、判断に迷う場合には、税理士などの専門家に相談しましょう。税理士には申告書の作成や税務署への提出などを依頼することもできますので、本業に専念したいときなどには、依頼を検討してみてください。

この記事の監修者
樽澤岳一郎税理士事務所
代表 樽澤岳一郎(税理士)
TKC自計化システムの活用と、経営改善計画策定により、中小企業の黒字決算を支援する税理士事務所。税務・会計だけではなく、創業支援、書面添付、贈与・相続の事前対策、事業承継対策、税務調査の立会い、保険指導、経営相談等、経営者のお悩みに応じて幅広いサービスを提供。

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この記事の執筆者
税理士紹介センタービスカス編集部
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