バブル崩壊後に長く続いた不況や政府による推奨により、労働者の副業を認める企業が増えてきています。中小企業にとっても、新型コロナウイルス感染症の影響により事業縮小の検討を余儀なくされていることが、副業解禁を考える機会となりつつあります。中小企業が副業解禁を実施するための手続きや注意点をご紹介します。
副業解禁とは?推進が図られる理由と動向
政府は働き方改革の一環として副業を推奨
従来まで多くの日本企業は自社での仕事に専念させるため、労働者の副業を認めてきませんでした。企業に雇用されている労働者が副業を始めるようになったのは、リーマンショックを発端とするバブル経済の崩壊がきっかけです。当初は不況で減少した給与所得を補うため、見つからないように隠れて副業をするのが一般的でした。
副業解禁へと世の中が動きはじめたのは政府が目指す未来を「一億総活躍社会」とし、政策として「働き方改革」を打ち出したことがきっかけです。働き方改革は少子高齢化による生産年齢人口の減少や働き方ニーズの多様化といった問題に対し、就業機会の拡大や、労働意欲・能力を十分に発揮できる環境づくりで対応しようというものです。自由な働き方ができる社会を目指し、長時間労働の是正や同一労働同一賃金を具体的な課題としています。
日本では自分で事業を起こす人が諸外国と比較して少なく、政府は起業しやすい土壌づくりを推進しています。副業が働き方改革の一環として推奨されているのはそのためで、2018年には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が出されました。
副業解禁は大企業から始まっている
働き方改革推進のため、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が2018年に制定されました。労働基準法をはじめとする関係法律の整備が行われ、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化が行われています。これらの制度化は企業には負担増となるため、規模が小さく、余裕の少ない企業に迅速な対応は困難です。とくに中小企業にとって時間外労働上限規制はかなりの負担となることから猶予期間が設けられ、まだ適用になっていません。副業解禁も中小企業より、大企業の方が積極的に進められています。
一方ベンチャー企業の多くは、規模は小さいものの労働者の副業を認め、なかには積極的に推進しているところもあります。ベンチャー企業は若い創業者による経営であること、会社としての歴史が浅いことから、時代を先取るような新しい考えをいち早く取り入れる傾向にあるためです。
中小企業が副業を解禁するメリットとデメリット
副業解禁で得られるメリット
副業解禁によって得られるメリットとして、信頼関係の構築が挙げられます。使用者と労働者は雇用では上下の立場にあっても、それ以外の立場は対等です。労働者が使用者の支配下にあるのは労働時間だけに限られ、労働者には労働時間以外の時間を自由に使う権利があります。副業禁止は労働時間以外の過ごし方について使用者から制約を受けることになり、労働者の労働意欲減退を招きます。副業業解禁により使用者と労働者の間に根強くある上下関係を取り除き、信頼関係の構築へと繋げることができます。
また本業以外の仕事をすることで、労働者はさまざまな能力を得ることが可能になります。幅広い知識や経験のほか、研修では習得が難しい自己管理能力や交渉術なども副業によって自然に身につけることができます。労働者の能力は本業でも活かされ、生産性向上のメリットへと結びつきます。
副業解禁で被るデメリット
副業解禁のデメリットとして第一に挙げられるのが、企業秘密や技術の漏洩(ろうえい)の危険性です。副業をしている労働者を介して経営を左右するような重大な内容、独自に開発した技術などが他の企業に知られるようなことが起こる場合が考えられます。また副業解禁には労働者が副業を本業・専業としてしまうことによる、人材流出の恐れのデメリットもあります。
労働者の働き過ぎによる悪影響も、考慮・対策が必要です。副業を行う労働者は所定労働時間を超えて労働することになり、体力の消耗や疲労の蓄積といった問題を抱えやすくなります。健康を損なったり注意散漫による事故を起こしたりする恐れが生じ、使用者としては十分に留意しなければなりません。
副業を解禁する2つの方法
許可制で副業を解禁する
副業の認め方には許可制と届出制の、2つの方法があります。許可を与えて認める許可制では、明確な基準を設けることが必要です。認める副業と認めない副業、きちんとした基準が設けられていないと、労働者から不平や不満が出る恐れがあります。
一方、許可制には情報や技術、秘密の漏洩を防げるというメリットがあります。同業種や関連業種の副業を認めないと規定することで、労働者がライバル社と関係をもつことの防止が可能です。
届出制で副業を解禁する
届出制は労働者が行う副業について届出を受け付け、副業を行う労働者を把握しておくだけに留めた認め方です。許可制との一番の違いは、原則的に全ての副業を認める点です。届出に対して細かく一つひとつの内容を把握して、認める・認めないの決定は行いません。そのため同業種や関連業種への関与を禁止する規定を設けていても、情報や技術の漏洩が起こる可能性があります。
しかし労働者には労働時間以外は自由に過ごす権利があることから、副業も許可制ではなく届出制とする方が合理的だと考えられます。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも一律の許可制に対して、労働者に希望に応じて副業を認める方向での検討を求めています。
副業解禁で必要となる手続きと配慮
就業規則の副業禁止規定の変更
副業解禁の際は副業を認める内容へと就業規則を変更します。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を受けて厚生労働省のモデル就業規則からも副業禁止規定が削除され、代わりに副業・兼業を容認する規定が設けられました。変更前のモデル就業規則のように副業を禁止する規定を設けている場合は、同様の変更を行います。
また申請や届出の方法、同業種や関連業種への関与禁止などの禁止事項、規定違反に対する罰則などの定めがないと、トラブルが生じる恐れがあります。副業解禁の際には、別に副業規定を作成するための検討も必要です。
健康状態や労働時間への配慮が必要
副業解禁すると副業を行う労働者について、副業を行わない労働者には不必要な配慮が求められるので注意が必要です。休養が不十分になることから疲労の蓄積が起こりやすく、健康を損なわないように管理する必要が生じます。また労働者が他社に雇用される形態での副業を行う場合は、労働時間の把握や社会保険手続きも求められます。
労働基準法は労働時間を1日8時間、1週40時間までと定め、使用者には労働者それぞれの労働時間を把握する義務があります。2つ以上の事業所で働く場合、労働時間は通算されます。副業で他社にも雇用される労働者については、労働基準法で定められている労働時間を超える可能性に注意しなければなりません。時間外手当が発生しない法定労働時間内の労働に対しても、時間外手当の支払義務が生じるケースもあります。
また他社で社会保険の被保険者となる条件を満たす労働者については、異なる社会保険手続きも必要になります。該当する労働者の社会保険料額は、それぞれの事業所から支払われる給与に基づく報酬月額を合算した標準報酬月額による金額です。各事業所にはこの計算で算出された社会保険料額を按分して自社の負担分を求め、労働者が選択した社会保険事務所への納付が求められます。
まとめ
労働者のダブルワークを認める副業解禁は、働き方改革の一環として政府が推進している施策の1つです。大企業から進んでいるだけでなくベンチャー企業でも積極的に推奨しているところがあり、今後も広まっていくのが自然な流れだと考えられます。メリットやデメリット、許可制と届出制の2つの方法、注意点などをよく知り、使用者・労働者双方にとって良い形での副業解禁を目指しましょう。