薬剤師には、1つの薬局に勤務したり、派遣薬剤師として複数の薬局に勤務したりと、さまざまな働き方があります。そんな薬剤師にとって気になるのが、確定申告のことです。働き方によって確定申告が必要なのか必要でないのかなど、気になることも多いでしょう。
そこで、ここでは薬剤師と税金、確定申告の関係について解説します。
薬剤師にかかる税金とは
まず、薬剤師にかかる税金について見ていきましょう。1つの薬局に勤務している、派遣薬剤師として複数の薬局に勤務しているなど、どのような働き方をしているのかに関わらず、薬剤師に共通してかかる税金が所得税と個人住民税です。
①所得税
所得税は、国に対して支払う税金です。1年間に得た利益(所得)に対して、所得税が課されます。日本では、所得が高ければ高いほど税率も高くなる、累進課税制度を採用しているため、薬剤師の給与などの所得が多ければ多いほど、高い所得税を納付することになります。
②個人住民税
個人住民税は、各自治体に対して支払う税金です。個人住民税は、道府県民税と市町村民税の2つの総称です。個人住民税も原則、所得税と同じように、1年間に得た利益(所得)に対して、所得税が課されます。
ただし、個人住民税は所得金額の多さに関わらず、税率はおおむね道府県民税と市町村民税合わせて、一律10%(自治体により異なることがある)です。
薬剤師で確定申告が不要な場合
薬剤師は、所得税と個人住民税を納める義務があります。では、所得税と個人住民税はどのように納めるのでしょうか。
実は、確定申告が必要かどうかで、所得税と個人住民税の納め方が異なります。ここでは、薬剤師で確定申告が不要な場合はどのような場合か、その場合の所得税と個人住民税の納め方について見ていきます。
そもそも薬剤師の収入は何所得?
所得税法では、事業所得や給与所得など、収入により、所得の種類を区分しています。確定申告が必要かどうかは、所得が何に該当するのかにより、おおむね決まります。では、そもそも薬剤師の収入は何所得になるのでしょうか。
1つの薬局に勤務している、または、派遣薬剤師として複数の薬局に勤務している薬剤師は、勤め先から毎月、給料を受け取っています。この給料は「給与所得」になります。
では、1年間に受け取った給料のすべてが給与所得となり、所得税が課されるのかというと、そうではありません。給与所得では「給与所得控除」が適用されます。給与所得控除とは、給料金額に応じた一定金額を、給料金額から控除するというものです。所得税は、1年間の給料から給与所得控除を差し引いた額に対して、課されます。
給与所得の場合は原則、確定申告不要
薬剤師の給与は給与所得になります。給与所得の場合は原則、確定申告は不要です。確定申告が必要な場合は、確定申告で自分の1年間の所得金額や納める税金の金額を計算し、所得税などを納めます。
では、確定申告が不要な場合は、どのようにして所得税などを納めるのでしょうか。給与所得の場合は、所得の金額や納める税金の金額の計算や税金の納付は、勤めている会社が、薬剤師に代わって行います。これは、給与所得者が自分で、所得金額や納める税金の金額を計算する手間や煩雑さを省くためです。では、所得税と個人住民税それぞれの納付について見ていきましょう。
①所得税
所得税の計算と納付は、毎月、そして年末の2つの時期に会社で行います。まず、会社は毎月の給料を支払う際に、1か月分の税金の金額を計算します。計算した税金は、給料から天引きし、国に納めます。
つぎに、毎年12月になると、1年間の給料額が決定します。そこで、年末調整を行い、1年分の所得税の金額を計算し直します。天引きした税金と計算しなおした税金に差異があれば、薬剤師に還付したり、逆に薬剤師から徴収したりします。会社は、年末調整で生じた差額について、翌月以降の源泉税の納付分と精算して納めます。
②個人住民税
年末調整が終わったら、会社は1年間の給料の金額などを、薬剤師が住んでいる自治体に提出します。各自治体は、提出された所得金額などを基に個人住民税の金額を計算し、その金額を毎月の納付書と共に会社に通知します。会社は、通知された個人住民税の金額を、毎月の給料から天引きし、各自治体に納めます。
このように、給与所得の場合は、勤めている会社が税金の計算や納付をしてくれるため、確定申告は不要です。
薬剤師で確定申告が必要な場合
ここまでは、薬剤師で確定申告が不要な場合について見てきました。しかし、確定申告が必要な場合もあります。そこで、ここからは薬剤師で確定申告が必要な場合について見ていきましょう。
個人事業主の場合は確定申告が必要
確定申告が必要となるケースとして、代表的なものが個人事業主である場合です。個人事業主とは、自ら事業を行っている個人のことです。薬剤師で個人事業主の場合とは、自分で調剤薬局を経営している薬剤師を指します。
個人事業主である薬剤師が、自分で経営している調剤薬局から得る利益(所得)は給与所得ではなく、事業所得になります。事業所得では、事業で得た収入から事業にかかった仕入や必要経費を差し引いた金額が所得金額になり、その所得金額に対して税金が課されます。
個人事業主の薬剤師は、勤務薬剤師とは異なり、会社で所得金額や税額を計算してくれるということはありません。そこで、自分で1年間の収入や経費の金額を計算し、確定申告で所得金額や納める税金の金額を計算します。では、所得税と個人住民税それぞれの納付について見ていきましょう。
①所得税
確定申告の申告期間と所得税の納付期間は、原則、毎年2月16日~3月15日までです。この期間のうちに確定申告を行い、所得税を納付します。
②個人住民税
税務署に確定申告書を提出した場合は、確定申告書のデータが各自治体に送られるため、個人住民税の申告は不要です。自治体は、税務署から送られてきたデータを基に個人住民税の金額を計算し、その金額を納付書と共に、個人事業主である薬剤師に送付します。個人事業主である薬剤師は、納付期限までに領収書に記載された個人住民税の金額を、自治体に納めます。
個人住民税は、年4回に分けて納付します。納付期限は、おおむね6月、8月、10月、翌1月(自治体によって異なる場合があります)です。
給与所得でも確定申告が必要なことがある
給与所得の場合は原則、確定申告は不要です。しかし、一定のケースでは、給与所得でも確定申告が必要なことがあります。給与所得でも確定申告が必要な代表的なケースとして、次のようなものがあります。
①給与の収入金額が2,000万円を超える場合
1年間の給与の収入金額が2,000万円を超える場合は、年末調整ができません。そこで、確定申告が必要となります。
②給与以外の所得が20万円を超える場合(1つの薬局に勤務している場合)
副業をしている場合など、給与以外の所得が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。
③給与を2か所以上から受けていて、年末調整をされなかった給与の収入金額と給与以外の所得金額の合計額が20万円を超える場合
2つ以上の薬局で勤務している場合、1つの薬局では年末調整しますが、もう1つの薬局では年末調整を行いません。
例えば、年末調整を行わなかった薬局の1年間の給与が50万円の場合は、20万円を超えているため、確定申告が必要です。
④医療費控除を適用する場合や住宅ローン控除を適用する場合
医療費控除を適用する場合や住宅ローン控除を適用する初年度の場合は、そもそも年末調整で控除を受けることができないため、確定申告をする必要があります。
まとめ
薬剤師には、さまざまな働き方がありますが、働き方によって税金の申告方法や納付方法が異なります。給与所得の場合も、医療費控除を適用する場合など確定申告が必要になることがあります。
自身に確定申告が必要かどうか不明な場合は、この記事を参考にしたり、税理士などの専門家に相談したりするようにしましょう。
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