パソナグループが淡路島に本社移転 その「節税効果」は? | MONEYIZM
 

パソナグループが淡路島に本社移転
その「節税効果」は?

人材派遣大手のパソナグループが、現在東京・千代田区にある本社を兵庫県の淡路島に移転すると発表して、世間を驚かせました。コロナ過を契機としたリモートワークの定着、脱東京一極集中・地方創生――というトレンドに乗った決断ですが、背景に「さまざまな事業コストの削減」という狙いがあるのは、明らかでしょう。実は、地方に移ることで、オフィス賃料などのコストだけではなく、税金も節約することができます。どういうことなのか、どのくらいの「節税」になるのか、考えてみます。

社員1,200人の移住計画

パソナの発表によれば、2024年までに本社機能を淡路島に移し、現在東京で働いている管理部門の社員の2/3に当たる約1,200名を「移住」させる計画だといいます。同社は、現在、東京駅にほど近い13階建て(地下3階)の『日本ビルヂング』を、グループ関連会社とともに一括で借り受けています。総床面積は、約1万5,000坪(4万9,500㎡)ですが、オフィス内に「酪農・観光分野の人材育成」を目的に、牛、豚、ヤギなどを放牧する「大手町牧場」を設けたのも話題になりました。

 

新型コロナの拡大を機に、「東京本社」の必然性を見直す動きが表面化しているのは、事実です。しかし、これほどの有名大企業が淡路島に拠点を移すというニュースは、南部靖之代表の出身が兵庫だとはいえ、奇抜なものに映りました。同社は、淡路島で漫画をテーマにした体験型テーマパークやレストランなどを運営しており、そうした「土地勘」があればこその判断だったのかもしれません。

 

「東京駅の駅前」という、オフィスとしては超一等地から「島」への本社移転の大きな動機が、コスト削減にあることは疑いがありません。まず確実にカットできるのが、オフィスの賃料。2020年度の公示地価(※)を比べてみると、現本社のある東京都千代田区大手町の平均値が1,895万0000円/㎡に対して、淡路島(南あわじ市)は平均値で3万3,469円/㎡と、後者は約1/556という水準です。賃料が地価にストレートに反映するわけではありませんが、ベースにこれだけ差があれば、かなりのコストカットが見込めるはずです。

 

※地価公示価格 国土交通省が発表する1月1日時点の土地価格。都市計画区域のある標準的な土地について、不動産鑑定士の鑑定、最新の取引事例などを分析して評価し、算出された数値に調整を加えたもの。公共用地の取得や金融機関の担保評価などに活用される。

住民税の税率は、自治体によって違う

さて、では「地方に本社を移転することで節税にもなる」というのは、どういうことなのでしょうか? 企業が支払う主な税金のうち、法人税や消費税といった国税の税率は、全国どこに行っても一律です。違いが出るのは地方税、具体的には「法人住民税」で、事業所のある自治体によって、税率などが違ってくるのです。

 

そもそも、税額がどのように計算されるのか、その仕組みを簡単に説明しておきましょう。住民税は、都道府県民税と市町村民税の総称で、法人に課税されるものを法人住民税と言います。この税は、「法人税割」と「均等割」という2つの要素から成り立っています(「法人住民税=法人税割+均等割」)。

 

法人税割の課税標準は、法人税額です。「課税標準」とは、課税のベースになる金額のこと。これに一定の税率を掛けて税額が計算されるわけですが、この税率が自治体によって異なるのです。つまり、同じ法人税額であっても、事業者のある場所によって、法人住民税の額が高かったり安かったりします。

 

一方、均等割の課税標準は、従業員数と資本金です。こちらも、それぞれの指標に沿って、自治体ごとに税額が決められています。ちなみに、赤字になった場合、法人税の支払いはありませんから、法人税割も課税されません。しかし、この均等割のほうは、儲けがあったか否かに関わらず、課税されることになります。

東京・千代田区→淡路島で、税はどのくらい違うのか?

では、淡路島への移転で、具体的にどのくらいの減税メリットがあるのでしょうか? パソナグループの本社がある東京都千代田区の法人住民税(資本金1億超、従業員50名超、2019年10月1日以後に開始する事業年度の場合)は、法人税割が「法人税×10.4%」、均等割は53万円となっています。

 

他方、淡路市だと、法人税割が「法人税×7.8%」、均等割は54万3,000円です。均等割は13,000円増えるものの、法人税割が2.6%ダウン。連結決算の「法人税等合計」が42億6,000万円規模(2020年5月期)の同社にとって、決して無視できない数字であるのは、確かでしょう。

 

加えて、淡路島全域が、首相官邸の推進する地域活性化総合特区『あわじ環境未来島特区』に指定されていることも、見逃せません。「生命つながる『持続する環境の島』」をスローガンに掲げたこの特区構想では、立地企業に対する補助金や、税制面などでの優遇措置を受けられる、というメリットがあるのです。例えば法人税が軽減されれば、さきほど説明した法人税割も、さらに削減できることになります。

まとめ

リモートワークの拡大、脱東京という流れに乗ったパソナグループの淡路島移転計画ですが、事業コストの削減というリアルな読みもあると考えられます。オフィス賃料の大幅引き下げだけでなく、地方税の軽減も大きなメリットと言えるでしょう。

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