M&Aで会社や事業を売却した場合に得られる譲渡益は課税されます。そこで、税金面でペナルティを受けないためにも必要に応じて税理士に相談することが大切です。また、税理士には買い手の選定や各種サポートを依頼できる場合もあります。ここでは、M&Aにおける税理士の役割や業務内容、依頼するメリットなどについて詳しくご紹介します。
M&A時の税理士の役割
税理士には、税務や会計でサポートを受けることが可能です。M&Aで売却益を得た場合は、所得税、復興特別所得税、個人住民税を納める必要があります。税金の計算を任せることで、正しい金額を納められます。また、買い手は譲受した資産や負債などの処理方法についてアドバイスを得ることが可能です。会計処理の方法を誤った場合、結果的に納税額に問題が生じ、税務署からペナルティを受ける可能性があります。
そのほか、税理士はアドバイザリー業務も行えます。買い手の選定やスケジュールの策定、交渉のサポートなど、M&Aアドバイザーと同様のサポートが可能です。さらに、デューデリジェンスによって、売り手企業の税務や財務のチェックができます。このように、税理士はM&Aにおける税務面や会計面などのリスクを抑えることが主な役割です。
また、M&Aの実績が豊富な税理士であれば、売り手企業の価値を算定するバリュエーションも行えます。
税理士が担う実際の業務内容とメリット
税理士は、M&Aでどのような業務を遂行するのか、そのメリットとあわせて詳しくご紹介します。
節税対策
M&Aでは、高額な譲渡益を得られる可能性があります。それだけ税金も高くなりやすいため、十分な節税対策が必要です。税理士に相談すれば、納税額を抑えるための節税対策をアドバイスしてくれるでしょう。節税対策によって数千万円もの節税効果を得られる場合もあります。
税務署からのペナルティを未然に防ぐ
M&Aを実行した年度の確定申告の方法は複雑です。普段以上に注意しなければ、過少申告や申告漏れが起こり、税務署からペナルティを受ける可能性があります。M&Aでは、税金が多額になるケースが多いため、脱税とみなされるとニュースになりかねません。そうなれば、会社の信用が地に落ちて、非常に大きな打撃を受けるでしょう。
納税額をできるだけ減らしたいと思い、自分で確定申告をした結果、ペナルティを受けることになる恐れがあります。そのため、税理士に相談して、適切な形で確定申告をすることが大切です。また、M&Aを検討している段階で税理士に相談すれば、どの程度の納税が必要になるか、わかる範囲で答えてくれるでしょう。
相手企業の財務状況を正確に把握できる
税理士にデューデリジェンスを依頼することで、売り手企業の簿外債務を含めた税務面のリスクを調査できます。本来、財務アドバイスが税理士の主な業務のため、財務に不審な点がないか調べることが可能です。相手企業の財務状況を正確に把握できることで、M&Aのリスクを抑えられるでしょう。
税理士に支払う報酬費用
税理士に支払う報酬は、「税務サポート費用」、「アドバイザリー費用」、「デューデリジェンス費用」、「バリュエーション費用」の4つです。それぞれの費用について詳しくみていきましょう。
税務サポート費用
税務に関する費用は、確定申告の代行が10~20万円程度、顧問契約が月2~5万円が相場です。ただし、税理士報酬は税理士が自由に決められるため、相場から大きく外れる場合もあります。また、企業の売上が高いほどに報酬を高く設定する税理士事務所が少なくありません。
アドバイザリー費用
アドバイザリー費用は、売却益によって異なることが一般的です。また、着手金や中間金、成功報酬など、さまざまなタイミングで費用がかかります。完全成功報酬制は、成功報酬以外の費用が一切かかりませんが、一般的な報酬額よりも高く設定している傾向があります。
また、レーマン式といって、金額ごとに設定された料率を踏まえて、費用を算出する方法を採用している税理士事務所が多いでしょう。レーマン式の一例をご紹介します。
- 5億円未満の部分・・6%
- 5億円〜10億円までの部分・・5%
- 10億円〜50億円までの部分・・4%
- 50億円〜100億円までの部分・・3%
- 100億円を超える部分・・2%
例えば、譲渡価額が8億円の場合は、下記のように計算します。
=3,000万円+1,500万円
=4,500万円
レーマン式の料率も税理士事務所によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
デューデリジェンス費用
デューデリジェンスの費用は、50~300万円前後が相場です。ただし、企業規模によって変動するため、相談時に確認しておきましょう。公認会計士にも依頼することを想定して、予算を組むことが大切です。
バリュエーション費用
バリュエーションにかかる費用は、50~100万円程度が相場です。これも会社の規模で報酬額が変動するため注意しましょう。また、バリュエーションを実施する人物によって結果が異なるため、税理士以外に依頼することも検討することが大切です。
税理士以外でM&Aの際に依頼すべき士業
M&Aでは、税理士の他にもさまざまな専門家のサポートを受けることが大切です。各専門家の役割を詳しくみていきましょう。
弁護士
弁護士は、M&Aの契約書作成や法務デューデリジェンスの実施などが主な役割です。M&Aスキームの立案や契約書の内容チェック、所管官庁への必要書類の提出など、さまざまな業務を行えます。また、税理士と同じくアドバイザリー業務を行える弁護士もいるため、確認しておきましょう。
公認会計士
公認会計士は、財務デューデリジェンスの実行が主な役割です。シナジー効果(相乗効果)を得られるか、買収にメリットがあると言えるかなど、さまざまな観点から売り手企業の財務状況を調べます。
税理士選定の際に意識したいポイント
税理士によってM&Aの経験が異なるため、慎重に選定が必要です。税理士を選ぶときに意識したいポイントを詳しくみていきましょう。
実績
M&A業務を全く引き受けたことがない税理士も多いです。アドバイザリーやデューデリジェンスを依頼する場合は、実績を確認しましょう。M&A関連業務の実績が豊富な税理士に依頼すれば、トラブルのリスクを抑えられます。また、より充実した節税のアドバイスも期待できます。
ネットワークの大きさ
アドバイザリーを依頼する場合は、ネットワークの大きさが非常に重要です。ネットワークが大きいほどに、自社と相性がよい企業とめぐり合えやすいと言えます。顧客が多い税理士事務所を選ぶことが大切です。
親身に対応してくれるか
税理士事務所によっては、流れ作業のように業務を遂行します。M&Aでは、経営者の気持ちに寄り添ったサポートが求められるため、親身に対応してくれるか確認しましょう。初回相談時に人柄をチェックしてください。
まとめ
M&Aにおいて税理士は、税務や財務面でサポートしてくれます。税理士のサポートを受けずにM&Aを実行した場合、納税ミスによるペナルティを受けたり、売り手企業のリスクを把握できなかったりする可能性があります。信頼できる税理士にサポートを依頼して、M&Aの成功を目指しましょう。