順調に業績が向上している個人事業主の中には、節税する目的で法人にすることを検討している方もいるのではないでしょうか? しかし、同時にデメリットも気になるところでしょう。視点を変えることで、デメリットは克服できます。そこで、法人にするメリット・デメリットの克服法を徹底解説します。
そもそも法人に適用される税金とは?
同じ事業活動でも法人と個人事業主とでは、適用される税金の種類が異なってきます。それによって、納税額に影響が及びます。たとえば、収入金額から経費を差し引いた所得金額が同額でも、税金の計算方法は違います。法人に適用される税金を紹介します。
法人に適用される主な税金の種類
基本的には事業活動に対して課税されます。販売活動やサービスの提供によって稼いだ金額、つまり利益(≒所得金額)に対しては主に次の税金が適用されます。
・法人税
・住民税
・事業税
また、所得金額とは関係なく、消費税が適用されます。
一方、会社の利益のうち、代表者個人やその家族などに支給する役員報酬・給料・賞与・退職金に対しては、所得税・住民税が適用されます。
法人税と所得税の違いとは?
同じ所得金額でも、法人には法人税、個人事業主には所得税が適用されます。両者の違いを知ることが法人ならではの節税方法を知る第一歩です。違いは主に2つ挙げられます。
(1)税率
所得金額に対する税率が法人と個人事業主では違います。
個人事業主の事業所得や不動産所得と代表者個人など給与所得の所得税率が7段階に分かれ、所得金額に比例して高くなる累進課税方式を採用しています。一方、住民税率は一律10%です。具体的に所得税率は次の表の通りです。カッコ書きは住民税10%を合わせた税率です。
所得金額 | 税率 |
---|---|
195万円以下 | 5%(15%) |
195万円超~330万円以下 | 10%-9万7500円(20%) |
330万円超~695万円以下 | 20%-42万7500円(30%) |
695万円超~900万円以下 | 23%-63万6000円(33%) |
900万円超~1,800万円以下 | 33%-153万6000円(43%) |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40%-279万6000円(50%) |
4,000万円 | 45%-479万6000円(55%) |
一方、法人は法人税・住民税・事業税を合わせて約30%です。さらに中小企業の場合は軽減税率が適用されるため、所得金額800万円以下の部分は税率が若干低くなります。反対に800万円を超える部分は税率が若干高くなります。
このように法人の税率は、個人事業主などの所得税率と違って、所得金額にあまり左右されません。
給料・退職金を用いた節税方法
節税の基本は所得金額を法人と個人に分散すること
所得金額を法人と個人に分散する目的は、適用される税率を抑えることに尽きます。たとえば、事業活動で利益(≒所得金額)1,000万円を獲得したと仮定します。個人事業主の場合は青色申告特別控除額65万円を差し引いた935万円が代表者個人の所得金額になるため、適用される税率は43%です。
それに対して法人の場合、所得金額1,000万円を代表者個人に給料(=役員報酬)として分散できます。たとえば、社長に役員報酬500万円を支給すると、個人の所得金額は「500万円-給与所得控除154万円(詳細は後ほど説明します)=346万円」です。一方、会社名義の所得金額は残りの500万円です。そうすると用いられる税率は次の通りです。
・法人:約30%
・代表者:30%
同じ所得金額1,000万円でも、法人のほうが個人事業主の税率43%よりも低く抑えられます。
このように法人は、事業活動による所得金額を給料として代表者個人に分配することで、適用される税率をコントロールしやすいのが特長です。
お金を負担しなくても所得控除できる給与所得控除とは?
個人事業主は青色申告で確定申告をすることにより、最高65万円の青色申告特別控除を受けることができます。それと同じように、法人の場合は代表者個人に給料を支給すると、給与所得控除が適用できます。その目安となる金額は年収に応じて異なりますが、次の表のとおりです。
年収 | 給料所得控除 |
---|---|
162.5万円以下 | 65万円 |
162.5万円超180万円以下 | 収入金額(年収)×40% |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円超1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 |
1,000万円超 | 一律220万円 |
以上のように、給与所得控除の最低額65万円は青色申告特別控除65万円と同額であり、最高額は220万円です。したがって、お金を負担しなくても所得控除できる金額は個人事業主よりも法人に軍配が上がります。
配偶者など家族に対する給料と所得控除が併用できる
配偶者の場合は、代表者個人(夫)の扶養の範囲内に給料(年収)を抑えたいと考えることは十分に想定できます。たとえば、個人事業主が配偶者に給料103万円を支給した場合、配偶者控除38万円の所得控除は適用できません。つまり、所得金額から差し引ける金額は給料103万円だけです。
それに対して法人の場合、配偶者の給料103万円を会社の所得金額から差し引けるうえ、代表者個人(夫)の所得金額から配偶者控除38万円が控除できます。
要するに家族の給料を代表者の扶養の範囲内に抑えたいときは、法人にしたほうが節税効果は高くなります。
生命保険を活用し、経費に落としながら退職金を積み立てる節税方法
法人が代表者に給料として支給する節税方法を用いても、所得税の課税は避けられません。しかし、所得税の課税を避けつつ会社の経費として落とす方法があります。それが生命保険を活用することです。具体的には3つの段階を経ます。
1.生命保険の契約者と受取人を法人にする
2.保険料の支払いの段階で経費に落としながら、退職金を積み立てる
3.保険金の受取金額を代表者の退職金として支給する
節税効果は次のとおりです。
・保険金の受取金額は支給した退職金が相殺されるため、会社の所得金額が圧縮される
・代表者が受け取った退職金は退職所得となり、優遇税制が受けられる
退職所得に適用される退職所得控除は、給料として受け取る給与所得よりも所得控除される金額は大きくなるケースが多くなります。その金額は会社の勤続年数に応じて次の表の通りに計算します。
勤続年数 | 退職所得控除 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低額80万円) |
20年超 | 70万円×(勤続年数-20年)+800万円 |
そのため、勤続年数が6年以上になると、確実に給与所得より退職所得のほうが有利になります。退職所得控除は「40万円×6年=240万円」であり、給与所得控除の最高額220万円を上回るからです。
このように、引退後を見据えて、生命保険料で節税しながら代表者の退職金を積み立てられるのが法人のメリットです。
法人の税金面でのメリットはまだまだある
事業活動による所得金額を法人と個人に分散して、適用される税率を抑えるほかにもメリットはあります。主な節税方法を解説します。
社宅家賃の法人負担分が経費として落とせる
法人の場合、従業員の社宅家賃だけでなく、代表者の法人負担分も経費に落とせます。具体的には、賃貸物件の契約者を法人にして、代表者や従業員に貸すことで、社宅家賃の法人負担分を経費として計上できます。
一方、社宅家賃を法人から補助してもらった個人にとっては、収入を得たのと同じ経済効果があり、給料の現物支給と同様になります。しかし、法人の福利厚生として、補助してもらった金額が税法の基準額より低ければ、個人の所得税は非課税です。つまり、代表者には所得税が課税されないにもかかわらず、社宅家賃の法人負担分だけ会社の経費に落とせるのです。したがって、代表者に給料として支給する代わりに社宅家賃を負担することで、より節税効果が高くなります。
出張手当を用いた節税方法
国内や海外など遠隔地へ出張した場合、出張手当を支給すれば法人の経費として落とせます。一方、支給された個人は給料と違い、所得税は課税されません。
法人のメリットは、代表者の出張手当を節税に活用できる点に尽きます。あくまでも法人から代表者へ支給する取引形態が成り立つからです。そのため、会社と個人が一体となっている個人事業主には、代表者への出張手当を用いた節税方法を採用できません。
この節税方法は旅費規定を作成していることが条件です。
節税対策に有利である
個人事業主は決算月が12月末と決められているのに対して、法人は代表者などの意思で自由に設定できます。そのため、「売上=利益(≒所得金額)」が多い月を期首にすることで、節税対策がしやすくなります。
たとえば、居酒屋の場合は忘年会シーズンの12月が繁忙期です。当然、通常の月よりも「売上=利益(≒所得金額)」が多くなります。そのため個人事業主の場合、決算月(12月末)までに所得金額を予測することが難しくなります。決算月を過ぎてから節税対策を検討するため、選択肢が限られてしまいます。消耗品の大量購入など決算月までに行動に移さないと経費に落ちない節税方法があるからです。
一方、法人は居酒屋の繁忙期である12月や1月を期首にできます。そうすることで、事前に所得金額が予測できるため、広告宣伝費への投資など余裕を持って節税対策を施すことができます。
赤字を繰り越せる年数が個人事業主より長い
所得金額がプラスの場合、前年度以前から繰り越された赤字分と相殺できます。それによって、所得金額は圧縮され、節税効果が得られます。しかし、赤字を繰り越せる年数は法人9年間(平成30年4月1日以降に開始する年度は10年間)繰り越せるのに対して、個人事業主は3年間です。
特に、事業を開始したばかりで、軌道に乗る前は赤字が多額になることはあり得ます。個人事業主は、3年間で相殺しきれない赤字分は切り捨てられて、4年目以降は所得金額を圧縮できません。しかし、法人は4年目以降も赤字分が相殺でき、節税効果が得られます。
資本金1,000万円未満なら最長2年間は消費税が免除される
前々年の課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は消費税を納めなければなりません。しかし、資本金1,000万円未満の法人を設立すると、最長2年間は消費税が免除されます。前々年の課税売上高がないからです。
法人のデメリットとは?
今まで法人のメリットを説明してきましたが、もちろん個人事業主と比べてデメリットもあります。それでも、事業を拡大するために、個人事業主が法人にしているケースも多くあります。そこで、デメリットとその克服法について解説します。
赤字でも最低年7万円が課税される
個人事業主は所得金額がなければ、消費税のほかは課税されません。一方、法人は赤字でも事業規模(従業員数・資本金)に応じて、均等割という名目の住民税が課税されます。その最低額が年7万円です。
しかし、法人のほうが個人事業主よりも対外的に信用される傾向にあります。たとえば、旅行代理店は社員旅行など企業から仕事を受注するためには、法人にしたほうが有利です。企業の担当者は旅行の素人であり、旅行代理店のサービスの質を客観的に比較できるとは限らないからです。そのため、「○○株式会社」など法人でしか名乗れない社名にすることが重要なのです。
要するに、均等割りは法人にして対外的に信用を得るための必要コストと捉えることができます。
法人設立にコストがかかる
法人を設立するためには、一般的に登録免許税や手続き代行の手数料など20万円~30万円かかります。もちろん、均等割と同じように対外的な信用を得るためのコストと捉えることができます。また、費用の負担は最初の1回だけであり、長い目で考えると、決して高いコストでないといえます。
社会保険料の負担が強いられる
法人の場合は社会保険の加入が義務付けられています。任意である個人事業主との違いです。法人が負担する社会保険料は給料の約15%です。たとえば、年収400万円の社員なら、「400万円×15%=60万円」の社会保険料を負担します。
しかし、社会保険の加入義務は雇用契約をした社員や役員などに限定されます。そのため、経理事務の代行会社などアウトソーシング(請負契約)を活用することで負担を回避できます。
また、社会保険への加入の有無は、求人募集に影響を及ぼします。たとえば、規模や業績など似たような会社2社で、「社会保険に加入している会社」と「加入していない会社」があると仮定します。通常、求職者は前者のほうに魅力を感じます。つまり、社会保険料は人材を確保するための採用コストと捉えることができます。
事務負担が大変になる
法人にすると、個人事業主よりも事務負担が大変です。そのひとつが確定申告です。個人事業主の場合、所得税・消費税の申告書、決算書を作成し、税務署へ提出するだけで済みます。住民税や事業税は自動的に計算する仕組みになっているため、申告書を作成し、都道府県や市区町村への提出が省略されます。
それに対して法人の場合、法人税・消費税の申告書、決算書に加えて、法人事業概況書や勘定科目内訳書(得意先別の売掛金=売上代金の未回収分の明細など)を作成し、税務署へ提出しなければなりません。しかも、住民税や事業税の申告書を作成し、都道府県や市区町村へ提出します。要するに個人事業主よりも提出する書類の種類は多く、細かいデータの作成が求められます。
しかし、勘定科目内訳書など細かいデータを作成するプロセスで経営管理に役立つ資料が作成できます。たとえば、得意先別の売掛金を把握することで、売上代金の回収漏れを防止しやすくなります。
このように、「事務負担が大変→経営管理ができる」と視点を変えることができます。
まとめ
以上、法人のメリット・デメリットを取り上げました。メリットは節税対策のバリエーションが個人事業主より増えることに尽きます。一方、デメリットはコストと事務負担の増加です。しかし、視点を変えることでデメリットは克服できます。特に視点を変えることでマイナス面の中からプラス材料を見つけるスキルは、規模や業種を問わず事業活動では大切な要素です。