消費税が8%から10%に引き上げられるその瞬間は確実に近づいてきています。その際に、事業主や経営者の方が注意すべき点とは何でしょうか。今回は絶対に押さえておかなければならないポイント、「消費税転嫁対策特別措置法」についてご紹介します。
消費税増税はいつ?
平成26年に消費税が5%から8%に引き上げられてから3年半が経ちました。当初は8%から10%への引き上げも平成27年10月に予定されていましたが、経済状況を鑑み、増税時期の延期が2度にわたって行われ、現在に至っています。未だに延期の可能性があるものの、いつ消費税は10%になるのでしょうか。
平成29年8月の安倍首相の読売テレビでの発言によると、平成31年10月に予定されている消費税の10%への引き上げは延期せずに行われるそうです。先に行われた衆議院選挙の結果を踏まえても、この発言通りになる公算は高いと言えるのではないでしょうか。
つまり、消費税10%への増税のタイムリミットは刻々と迫っています。増税前に事業主のみなさんが確認しなくてはいけないこととして、消費税転嫁対策措置法があります。
消費税転嫁対策特別措置法ってなに?
消費税転嫁対策特別措置法とは、消費税の増税にともなって消費税の転嫁がなされることになりますが、その転嫁を阻害する事業者を取り締まる期間限定の法律です。消費税が5%から8%に上がった際に施行され、消費税が10%になった後の平成33年3月31日まで適用される予定です。
消費税の転嫁とは、わかりやすく言えば商品やサービスなどの販売価格への上乗せのことです。従来8%であった消費税が10%に上がることで増える2%分の消費税を上乗せすることを言います。転嫁が正常に行われれば、上乗せされた消費税分の金額は消費者が支払うことになります。しかし様々な理由により転嫁がなされない場合、上乗せするはずだった消費税分の金額を事業者が負担しなくてはならず、その分事業者の利益が減ってしまいます。この法律の目的は、このような事業者の不利益を防止することにあります。
4つの特別措置
消費税転嫁対策特別措置法は、1. 消費税転嫁の拒否の禁止、2. 消費税転嫁の阻害の禁止、3. 価格表示の特例、4. 一部カルテルの容認、という4つの特別措置によって構成されています。以下、具体的な内容について順に確認していきましょう。
1. 消費税転嫁の拒否の禁止
これが同法におけるメインの特別措置となっています。価格交渉において弱い立場にある中小企業が大企業などと取引する際に、消費税の転嫁を拒否されないようにするためのものです。
●規制の対象
規制の対象となるのは、以下の2つの取引関係における買手の側です。
・売手が、大規模事業者と継続的に取引を行っている場合、「買手であるその大規模事業者」が規制対象になります。
・売手が、資本金3億円以下の事業者または個人事業者である場合、「その事業者と継続的に取引を行っている買手である法人事業者」が規制対象になります。
●禁止行為
規制の対象となる買手の事業者には、禁止行為が5つ定められています。
・減額
すでに契約していた金額から増税分を減らした金額を支払うこと。
・買いたたき
原材料価格のカットなどがなく、増税前と状況の変化がないのにもかかわらず、買手が消費税増税の影響を受けないように価格を下げて取引すること。
・商品購入、役務利用、利益提供要請の禁止
消費税の増税分の上乗せを受け入れる代わりに、取引先にチケットなどを購入させること。
・本体価格での交渉の拒否
本体価格、つまり消費税抜きの価格での交渉を拒否すること。
・報復行為
消費税転嫁をめぐり、公正取引委員会などに報告した際、報復として取引の縮小や停止などの売手に不利益な行為を取ること。
もしこれらの禁止行為が行われている場合、売手である事業主は公正取引委員会に報告してください。是正勧告が公正取引委員会より行われることになります。
2. 消費税転嫁の阻害の禁止
これは全ての事業者が対象となる特別措置です。
具体的内容としては、消費税に関連するような形での広告や宣伝が禁止されるというものです。禁止となる表示方法は以下の3つです。
●取引相手に消費税を転嫁していないという内容の表示
例:「消費税は当店が負担します」
●取引相手の負担すべき消費税の全額または一部を減額するという内容を、消費税との関連を明示して表している表示
例:「消費税増税分を値引きします」
●取引相手に消費税に関連した経済的利益をもたらす内容を消費税との関連を明示して表している表示
例:「消費税増税分をポイント還元します」
これらは、競合するその他の店が、消費税の増税分の転嫁をやめようとするなど、消費税の転嫁の阻害を助長するものとして禁止されています。
しかし、消費税との関連が分からないようにすれば、実態はどうであれ認められることになります。たとえば、「感謝セールにつき2%オフ」としたような表示は認められることになります。
3. 価格表示の特例
この措置もまた、全ての事業者が対象になります。
これは、表示価格が税込み価格と誤認されないための措置をとれば、税抜価格の表示を行っても良いという特例です。
たとえば、チラシや広告、店内の価格表示などにおいて、「○○円(税抜価格)」「○○円(本体価格)」のように、税抜価格を表示して良いことになります。また、税抜価格を大きな文字で強調し、その下などに()などをつけて税込価格を小さめに表示するといった、税抜価格の強調表示も認められます。
こうした表示を用いることにより、増税に伴い商品の値上がりが避けられないなかでも、お得感を出すことや、値上げによる買い控えを抑える効果が見込めますので、積極的に利用すると良いでしょう。しかし消費者保護の観点からは税込価格表示が推奨されていますので、消費者が増税の影響を感じなくなってきたと判断できれば、税込価格表示へ戻すに越したことはないでしょう。
4. 一部カルテルの容認
カルテルとは、事業者などが商品の価格などを共同で取り決め、競争を制限する行為のことです。一般にカルテルは独占禁止法によって禁止されていますが、消費税転嫁対策特別措置法の特例により、一部のカルテルが認められることになりました。すなわち、転嫁カルテルと表示カルテルの2つです。
●転嫁カルテル
これは、カルテルに参加する事業者の3分の2以上が中小企業である場合に認められます。
転嫁カルテルとは、消費税の転嫁に関して共同で取り決めをすることを指します。たとえば、各企業が決めた本体価格に対して、消費税の増税分を必ず上乗せして販売することを決めたり、転嫁に際して計算上生じる端数の取り扱いを決定したりすることができます。これは、価格決定において力の弱い中小企業を保護するためにあります。このようなカルテルを結んで業界内の決定事項としておけば、大企業との価格交渉も利益を確保した上でより円滑に行えるでしょう。
しかし、価格についての取り決めは対象外であり、独占禁止法違反となるので注意しましょう。
●表示カルテル
こちらは全ての事業者が対象です。
表示カルテルとは、増税後の価格表示について共同で取り決めをすることを指します。たとえば、税込価格と本体価格を並べて表示するようにするというような内容のカルテルがあります。これによって、表示方法の差異による価格認識のギャップを減じることができます。増税で買手側は商品の価格が高くなったように感じますが、本体価格を表示することにより、価格の変わっていない本体価格をもとに真の価値基準で価格交渉ができるということができるようになります。
まとめ
今回は、消費税転嫁対策特別措置法について解説しました。特に中小企業のみなさんにとっては、この特別措置が増税後の価格交渉における重要な武器となりえます。自社の利益を損なわないためにも、早めにこの特別措置に対する認識を深めておきましょう。